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70cm以上という基準は適切なのか
宿泊施設の客室内経路幅と浴室等入口幅を検証しました

2019年01月09日 バリアフリー

検証後、今後について検討する様子

東京都は宿泊施設のバリアフリー化に関する新たな取り組みとして、東京都建築物バリアフリー条例の中に一般客室の整備基準を規定すると発表しました。
これは都内で新増築するホテルや旅館の全客室の段差をなくすことなどを義務付ける画期的なものです。

バリアフリールームの設置数を増やすということではないのですが、一般客室のバリアフリー化が条例で義務付けられるというもので、今年2月の都議会に提案され、同9月の施行を目指すそうです。

現在の「建築物バリアフリー条例」は車いす利用者用の客室を設けるよう求めた基準のみで、都によると一般客室も対象に含むのは全国初だそうで、都の推計では、2020年大会期間中、都内で必要なバリアフリー対応の客室は1日最大850室。

現状では300室足らず、一般客室もバリアフリー化することで対応客室を増やしたい考えのようです。
2020年の東京オリパラに、どれだけ間に合うのかは疑問ですが、実現されたらレガシーとしては大変有意義なものになるでしょう。

がしかし、現段階では手放しで喜べない状況でもあります。
小池都知事の会見によると、その基準は客室内の経路幅及び便所浴室の出入口幅共に70cm以上と発表されました。
確かに70cmであればギリギリ通れるかと思いますが、客室の多くは、出入口から手前に便所浴室があり、その奥にベッドというレイアウトになっています。
すると出入口やベッド方向から便所浴室へ行く場合、90度回転する必要が出てきます。

仮にどちらの幅も最低基準の70cmとした場合、ほとんどの車椅子は曲がることができず便所浴室に入れなくなってしまう可能性が高いのです。

実際に検証してみました

これを確認するためDPI日本会議バリアフリー部会と東京都自立生活センター協議会、そして学識者も交え、具体的な数値を再現し、多く使用されていると思われる車椅子4タイプ(手動車椅子、簡易電動車椅子、4輪電動車椅子、6輪電動車椅子)で検証を行いました。

その結果、一番小回りの利く手動車椅子のみ70cmでギリギリ通ることができ、それ以外の車椅子では不可となりました。

70cm、80cm、90cm、100cmで仕切りを作ります(この後、75cmなども検証しました)
写真1:壁から70cm、80cm、90cm、100cmでテープの仕切りを作ります(この後、75cmなども追加しました)

 

その線に沿って、ダンボールを並べます。これは幅70cmのを検証しています。70cmは手動車椅子でギリギリ通れる幅でした。
写真2:その線に沿って、ダンボールを並べます。これは客室内経路の幅70cmを検証しています。70cmは手動車椅子でギリギリ通れる幅でした。

 

手動車椅子で幅80cmをスムーズに通れるか検証。
写真3:手動車椅子で幅80cmをスムーズに通れるか検証しています。

 

簡易電動車いすで幅80cmを通れるか検証。70cmは通れませんでした。
写真4:簡易電動車いすで幅80cmを通れるか検証。70cmは通れませんでした。

 

簡易電動車いすで、トイレに入ったときの検証。幅75cm。
写真5:簡易電動車いすで、浴室に入るときの検証。幅75cm。

 

4輪電動車椅子、幅100cm。
写真6:4輪電動車椅子、幅100cm。

 

6輪電動車椅子、幅80cm
写真7:6輪電動車椅子、通路幅80cm

 

6輪電動車椅子、幅90cm
写真8:6輪電動車椅子、通路幅90cm

 

検証後、今後について検討。
写真9:検証後、今後について検討しました。

今回の改正で、車椅子が一般客室に出入り可能な寸法として規定することとなりましたが、70cmになってしまうと、多くの車椅子使用者が利用できないことになってしまいます。
せっかく規定されたにもかかわらず、意味のないものになりかねません。

大阪府も大阪万博開催決定を受けて、同様の条例を検討し始めているそうです。
一般客室の整備基準を規定することはこれまでなかったことであり、日本の二大都市である東京都と大阪府が一般客室のバリアフリー化を義務化すれば、全国に波及する可能性も高まると思うので、これ自体はとてもいいことだとは思います。
しかしその基準次第では良くも悪くもなってしまいます。

少しでも良い方向へ進めるため、今回実施した検証結果をもって、都へ要望し働きかけていきます。

土屋 峰和(DPIバリアフリー部会、STEPえどがわ事務局長)

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