「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対する意見


2008年5月1日
                          障害者欠格条項をなくす会
                              (共同代表 福島智・大熊由紀子)
                          事務局:〒101-0054
                          千代田区神田錦町3-11-8 武蔵野ビル5F
                          メール:info_restrict@dpi-japan.org
                          TEL:03-5282-3137

「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対する意見

 改正案を読ませていただいたはじめの感想は、複雑でわかりにくい!ということでした。果たして、このまま法律改定が行われたとして、どこまで、改定された内容について、聴覚障害がある当事者が理解できるだろうかと疑問に思わずにはいられませんでした。
 当会は、これまでも繰り返し、現行の聴力基準による選別は合理的根拠を見いだせないもので、実態にも見合っていないことから、すくなくとも一種普通免許については、聴力の適性検査をなくすべきではないか、さらに二種免許についても、一律に聴力の有無で免許取得の機会を与えないという考えはなくし、運転履歴等との兼ね合いで、個別の判断をすべきではないかと提言してきました。
 繰り返しになりますが、当会は、昨年、日本政府も署名した国連・障害者権利条約の観点からも、合理的理由が明示されないまま、特定の障害がある人が免許取得の機会、および、そこから波及する職業選択の権利を侵されている状況は問題があるものと考えています。
 その上で、いくつか、案に沿って意見を述べます。

1.新設されるワイドミラー条件の免許について、「専ら人を運搬する構造の普通自動車」に限定することには、実態と照らしても疑問があります。

 4月5日付パブリックコメント(※補注)に述べたとおり、私たちは、今回の案において、あらたに運転免許の取得が可能になる人たち、つまり、現行の聴力適性検査で補聴器をつけても聞こえない人たちの免許が、普通自動車免許に限定され、原付や二輪の免許については門戸が開かれないままになっていることに、大きな疑問を持っています。
 そこに加えて、今回出された案は、普通自動車のなかでも「専ら人を運搬する構造の普通自動車」に限定し、物の運搬等に使われるタイプの車は運転できないとする案とのこと。この案は、国会審議も含むこれまでの本件に関するやりとりのなかで、はじめてでてきたものだと思われますが、私たちは、この案は、とても大きな問題を含んだものだと考えています。
 その理由は、ひとつに、「専ら人を運搬する構造の普通自動車」だけが、ワイドミラーの有効活用ができる車とは必ずしもいえず、「ものを運搬する構造の自動車」であっても、ワイドミラーの活用は可能であると考えられることによります。ワイドミラーの活用をあくまでも必要な条件とする場合においても、この「専ら人を運搬する構造の普通自動車」という車種の限定は、整合性をもたないものではないでしょうか。
 こうした車種の限定は、そのまま、聴覚障害者の職業選択権を含む社会参加の権利の大幅な制約につながります。
 上記のことから、ワイドミラーをあくまでも必要条件とするとしても、ワイドミラーの活用という条件を最低限クリアしていれば運転できるものとすべきではないでしょうか。
 当会は、ワイドミラー条件は、それ自体が下記のように問題の多い条件であり、合理的理由がないものと考えますが、仮にワイドミラーを条件とした場合でも、「専ら人を運搬する構造の普通自動車」という限定は整合性がなく、こうした表現による制限は大きな問題があるため、再検討すべきものだと考えます。

2.ワイドミラーを「条件」に設定をすることに疑問があります。

 私たちも、これまでの国際的な調査等で、聴覚障害があるドライバーについてミラー使用を求める国があることは把握しています(※補注)。しかし、それらの国が求めているミラーは、おおむね、サイドミラーです。日本では、自動車一般にサイドミラーが装着されているため、サイドミラーという条件は、あらかじめクリアしています。
 さらにいえば、今回、免許証の「条件」に新設されようとしているワイドミラー(特定後写鏡)の見えかたは、人によっては大きな違和感があるため、「かえって安全な運転に支障をきたす」「ふつうのミラーのほうが見やすい」といった声も聞いています。
 そうしたことからも、ワイドミラー装着を運転の「条件」とすることには強い疑問があります。ワイドミラー装着は「任意」に変えるべきものではないでしょうか。

3.教習、講習その他必要な場面での情報保障の整備を進めてください。

 運転免許取得のための教習、運転免許試験場での試験、更新時講習など、それぞれの段階で、必要な情報アクセス・コミュニケーションの保障が得られるようにすることが、まず必要な条件です。手話を第一言語とする人、手話が第一言語ではなく文字通訳等が不可欠な人等、それぞれの人のニーズにあう情報保障が必要です。情報保障は、個別の教習所の努力で確保するのは困難があり、現在のところ個人に派遣する公的な制度も十分な整備がない状況です。そうした現状を踏まえ、公的機関や民間のサービス提供団体等とも連携の上、今回の法律改定が実質を伴うものとなるように、制度面を含む情報コミュニケーション環境整備を推進してください。

4.年限を切った見直しを求めます。

 今回の法律改定は、これまで免許取得の機会がえられなかった聴覚障害がある人にもその機会を広げたという意味で大きな意味をもった法律改定だと考えています。ただ、その上で、すでに述べてきたように、課題が多数積み残されたうえに上積みされているものと考えます。
 たとえば新設の聴覚障害者マークも、デザイン面を含め「つけたくない」と感じている聴覚障害者の声が多くみられます。
 今後、法律の施行後の状況を検討していく際には、制度の全般および、今回の見直しの対象とはされなかった原付免許、二輪、二種免許についても、聴覚障害がある人の職業選択の自由といった権利の側面から、年限を切った見直しをおこなうことを求めます。
以上
※補注
 当会から提出した施行令に関するパブリックコメント(4月5日付)
 http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/menkyo/public080405.html
 普通免許での運転を、聴覚障害を理由に制限することはない国が大多数。その中で、外部ミラー(車外サイドミラー)を片側または両側につけることを求める国や地域はいくつかある。オーストラリア、フランス、アメリカのテキサス州はそれにあたる。例外的な国−聴覚障害を理由とした制限を設けている国−に、イタリア、スペインがあり、スペインは室内ミラーも求めているようである。韓国は日本に先立ち13年前にまったく聴こえない人にも免許を交付することとした。それと同時にマークとミラーを求めた。
 しかし、これから新しくつくろうとする制度で、室内ミラー(ワイドミラー)と聴覚障害者マークとを罰則つきの義務に、しかも乗用車に限定しようとしている点で、日本は世界の中でも特異な国といえる。
 詳しくは下記、2002-2003年度警察庁委託「安全運転と聴覚との関係に関する調査研究」および韓国DPI情報による。
聴力による運転免許交付・更新の制限 国際比較
非商業用免許の場合 (原付、オートバイ、普通自動車、軽トラックなど)
http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/menkyo/hisyougyou.html


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