公務員の欠格条項と成年後見制度 |
公務失職 大阪の裁判、大詰めに | |||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
成年後見欠格条項により公務失職をやむなくされた大阪府吹田(すいた)市の塩田さんの裁判が、提訴から3年、大詰めを迎えています。ぜひご注目とご支援を。下記に、経過と争点について、そして今後にむけて、弁護団の東(あずま)奈(な)央(お)弁護士にご寄稿をいただき、掲載します。 【塩田さんの裁判に至るまで】 2015年7月24日、大阪府吹田市に居住する塩田和人(しおたかずひと)さん(以下「塩田さん」)は、地方公務員法の欠格条項の違憲性と、吹田市役所への復職を求めて大阪地方裁判所に提訴しました。2018年7月2日、7月19日と、大阪地方裁判所大法廷で、2日間にわたり、証人尋問が実施されました(計6人の証人と、原告本人の尋問)。 塩田さんは、1970年生まれで、吹田市で長年生活してきた知的障害のある男性です。小学校、中学校、高校と、地域の普通学校に通いました。通信制大学を卒業した後、民間企業にてパソコンを使い事務仕事に従事してきました。12年間、同社で働きましたが、所属していた事業所が閉鎖すること等をきっかけに、退職することになりました。 そして、2006年6月から、吹田市役所に任用され、「職員厚生会」という福利厚生事業を担当する部門で働いてきました。塩田さん任用時の書面には、任用理由として、「今後の知的障害者の採用を目的とした場合に、事前に雇用に向けての適職の見極めや受容れ側のサポート体制を確立する必要があるため」と明記されていました。吹田市役所では、知的障害者の任用は公園清掃員等の現場作業員に限られていたので、塩田さんが、初めての事務職員としての任用ケースだったのです。なお、その後は吹田市役所において知的障害のある事務職員採用の実績はありません。 ところで、塩田さんの家族構成は父母と塩田さんという3人ですが、お母さんは塩田さんが若い時に他界されており、父一人子一人という環境で長年暮らしてきました。塩田さんは、2002年からは実家を出て、吹田市内のグループホームで暮らしてきましたが、週末には実家に帰宅して過ごしていました。 2010年12月、塩田さんのお父さんが急に大病を患い、余命宣告を受けました。そのため、金銭管理のサポートなどが必要な事態ということで、吹田市役所障害福祉課所属のケースワーカー(N職員)の勧めにより、塩田さんは、成年後見制度のうちの、「保佐」の申し立てを行うことになりました。2011年3月に大阪家庭裁判所へ行き、家庭裁判所での面談を受けました。保佐開始の審判が出て、同審判は2011年5月中旬に確定しました。 そして、塩田さんは、2011年5月30日をもって吹田市役所を退職することになりました。地方公務員法の欠格条項に抵触する状態になったため、公務員として任用を継続できないことが理由であると告げられました。 地方公務員法の16条には、公務員になることができない人として、「成年被後見人及び被保佐人」という規定があります。塩田さんは「被保佐人」にあたるから、以後は任用継続できない、というのです。 その後、支援者のアドバイスを受けて、塩田さんの保佐審判は、成年後見制度のうちの一番軽い「補助審判」に変更されました。吹田市役所は、そこまでした塩田さんについて、半年間に限って再任用しましたが、それ以降は任用しませんでした。 2014年12月に、私は塩田さんと初めてお会いし、復職の意思が強いことを伺いました。そして、約10名で構成される弁護団が結成され、2015年7月の提訴に至りました。 【証人尋問までの長い道のり】 弁護団の主張は、裁判の公務員法の欠格条項は、障害のある人を差別し、就労の機会を奪うものであり憲法違反である、したがって、塩田さんの任用拒絶は無効であり、復職を認めるべき、というものでした。 しかし、この裁判にはほかに大きな争点がありました。それは、「塩田さんは非正規公務員の臨時職員であり、期間限定の任用であるため、地位は保障されない」という被告側の主張に関するものです。吹田市側は、塩田さんの任用を拒絶したのは「欠格条項が理由ではなく、塩田さんの任用期間が満了したことによる」と主張しました。 地方公務員は、通常、地方公務員法にその地位が定められています。一般の公務員には、民間と違って、手厚い地位が保障されているイメージがありますが、それは、「正規職員」の公務員(地方公務員法17条)に限定されるものです。市役所や公的機関には、正規公務員だけではなく、「非正規職にある公務員(以下「非正規公務員」)」が数多く存在します。非正規公務員の中でも、「非常勤職員」や「臨時的任用職員」といういくつかの任用枠組みがあります。 非正規雇用は、ワーキングプアを生み出し、今や社会問題です。そして、その闇は実は公務員業界の方が根深いものがあります。公務員業界では、全国平均でも30%近くが非正規で、しかも、非正規公務員の労働事件はこれまでいくつかの裁判例がありますが、悉く、労働者側敗訴です。 他方、民間では、労働者側勝訴の判例が相次ぎ、労働契約法も改正されました。労働契約法により、非正規労働者も、期間継続によって無期雇用に転換され、正規職員と同じ扱いになるのです。しかし、公務員業界には「正規公務員」でなければ保護されないという判例ばかりで、非常に由々しき事態です。 塩田さんも、書類上は「臨時雇用員」という名称で、「6か月」「1年」に区切って任用が重ねられました。しかし、何度も更新されましたし、そもそも、知的障害者の公務員としての採用は、期間限定のものではなく、継続して取り組むべき課題です。 塩田さんが、期間限定任用であったのか、また、期間限定の場合に地位が保障される事情があったのか、が大きな問題となり、そうした事情のため、複雑な争点整理が必要で時間がかかりました。2018年6月これまでの争点整理の結果を報告する期日が行われ、7月の証人尋問となりました。 【証人尋問では】 7月に2度実施された証人尋問では、全国の障害当事者が集まり、大法廷が満席となり、熱気のある期日となりました。 7月2日の証人尋問では、 ・塩田さんの支援者でグループホーム運営責任者(Aさん) ・塩田さんが職員厚生会で勤務していた当時の上司(B職員) ・塩田さんの所属していたユニオンの執行委員長(Yさん) ・吹田市役所人事課の当時の人事室長(M職員) の尋問が行われました。吹田市側は、塩田さんが、吹田市役所の庁舎内の別の部署に尋ねて行ったこと、その部署で挨拶を繰り返したこと等を「問題行動」としてアピールしていました。あれだけ、被告側は「欠格条項が理由ではなく、臨時職員だから期間を理由に任用が終了した」と主張していたのに、B職員も、M職員も、「欠格条項が理由と説明した」と認めていました。 また、7月19日の証人尋問では、 ・知的障害のある人の就労支援について、就労・支援センターの専門家(Iさん) ・塩田さんに、成年後見制度の利用を勧めたケースワーカー(N職員) ・塩田さんご本人 の尋問が行われました。Iさんの尋問によって、吹田市役所において、塩田さんに必要な配慮が一切実施されなかったこと、塩田さんの行動を「問題」ととらえること自体の問題性が明らかになりました。 また、塩田さんは、どの期日を通しても、冷静沈着に裁判に挑んでおられました。そうした真摯な塩田さんの態度が「問題行動」と言われる筋合いはないこと、仮に問題行動ととらえるならば、それは被告が配慮を欠いたからである、という強い印象を感じました。弁護団は、塩田さんには職場で何らの合理的配慮がなされていなかったと考えています。 【さいごに】 既に3年が経過した塩田さんの裁判もいよいよ大詰めです。2018年11月15日に結審となり、2019年春頃に判決となる見込みです。成年後見制度の欠格条項の問題性と、また、非正規公務員の問題、働く障害者に対する合理的配慮の問題等、非常に重要な問題が山積みの裁判です。引き続きご支援をどうぞよろしくお願いいたします。 (資料)これまでの裁判の経過 |
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今後の見通しについて
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------- 初出:「障害者欠格条項をなくす会ニュースレター」73号(2018年7月下旬) 本文は「週刊法律新聞(法律新聞社)」2018年8月24日号にも転載されました。 |
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