働く権利を奪う公務員法の欠格条項−成年後見制度 |
弁護士 東(あずま)奈央 |
吹田市の職員として約6年間勤務していた塩田和人さん(現在49歳)が、成年後見制度を利用し、保佐の審判を受けたことで、吹田市から雇い止めになり、仕事を失いました。
塩田さんには先天性の知的障害と自閉症があります。塩田さんは、2006年6月に吹田市の職員に任用され、更新をくり返しながら、パソコン入力や事務の仕事を続けてきました。遅刻や欠勤は一度もなく、公務員として一生懸命吹田市に尽くしてきました。 |
一方、塩田さんの唯一人の家族である父親が重病を患い、2010年には余命宣告をうけるほどになりました。「親亡き後」の財産管理の援助として、吹田市からのアドバイスも受け、塩田さんは成年後見制度の利用として、大阪家庭裁判所へ保佐を申立てました。しかし、保佐の審判が出された途端、吹田市は、「地方公務員法の欠格条項に抵触するので次期の更新をしない」と通告してきました。
地方公務員法第16条(欠格条項)には、「成年被後見人又は被保佐人」は、「職員となり又は競争試験もしくは選考を受けることができない」と規定されています。つまり、「成年後見」「保佐」の審判を受けた人は公務員になれず、また公務員として働いている人が「成年後見」「保佐」の審判を受けると、公務員として働くことができなくなります(同法28条4項)。
そもそも、成年後見制度とは、「精神上の障がい」のために判断能力の不十分な人は、難しい法律行為を1人で判断することが難しいことがあるので、その人を支援するための制度です。障害のため判断が難しいことによって、間違って自分に不利益な契約を結んでしまったり、悪徳商法の被害に遭う恐れもあります。欺されて不当な契約を結ばされても、後で契約の無効・取消を主張するための立証が難しいことがありますが、成年後見制度を利用していれば、そうした立証もせずに契約を取消すことができます。こうした事態に備えられるメリットがあるため、この制度は、「権利擁護」として活用されています。
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成年後見制度は、障害者の支援や活動可能性の拡大を目的としているにもかかわらず、逆に社会参加を妨げるような結果となることが大きな問題です。その一つが、地方自治体で働く人たちの身分や待遇などを定める地方公務員法の欠格条項です。塩田さんの場合も、権利擁護のための成年後見制度によって、かけがえのない仕事を失いました。吹田市からは、地方公務員法の欠格条項の存在さえ事前に知らせてもらえず、また、失職を防ぐための回避策も示されませんでした。 |
障害者の就労について規定する障害者雇用促進法は、国及び地方自治体に、民間よりも高い数値で障害者を雇用するよう義務づけています。また、障害者権利条約は障害を理由とする雇用差別の制度を禁止し、国に対してそうした差別条項の改正・廃止を求めています。時代の流れは、明らかに障害者雇用の拡大に向かっているのに、成年後見制度を利用する障害者を一律に排除して働く権利を奪う公務員法の欠格規定は、これに逆行しています。
塩田さんは、仕事を失いとても傷つき、今でも吹田市に復職できることを強く願っています。働く権利を侵害する地方公務員法の違憲性を問い、塩田さんの復職を目指して、このたび大阪地方裁判所に提訴しました。塩田さんは「辞めさせられて悔しかった」「元の職場に戻りたい」と訴えています。今後の戦いにぜひご注目頂けますよう、お願いいたします。 |
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初出 障害者欠格条項をなくす会ニュースレター64号(2015年7月下旬発行)
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