南アフリカ共和国
自立生活センターが変える障害者の生活 (プロジェクト紹介)
DPI日本会議では独立行政法人 国際協力機構(JICA)の草の根技術協力事業を通じて、2016年より3年間、南アフリカ共和国ハウテン州にある2ヵ所の自立生活センターの能力強化(キャパシティビルディング)プロジェクトを行っています。
1.南アフリカ共和国における障害者を取り巻く現状
2.これまでの支援と経緯
3.新たな課題とDPI日本会議による支援
4.プロジェクトメンバーの紹介
5.プロジェクト出身のピア・カウンセラー モニカ・レセテディさん
6.最近の活動、関連ニュース
1.南アフリカ共和国における障害者を取り巻く現状
南アフリカの国勢調査(2011)は、全人口の7.5%に何らかの障害があると推計しています。障害者手当が月約1万3,000円支給されますが、生活するには十分とは言えません。労働者に占める障害者の割合は0.9%と、多くの障害者が職に就けず経済的に苦しい状態にあることが分かります。
また「障害に基づく差別」は憲法第9条で禁止されています。しかし、障害者の雇用率にもある通り障害者の社会参加は不十分です。介助者派遣のような障害者の地域生活を支えるサービスも制度化されていません。交通機関だけでなく、自宅さえもバリアフリーとは言い難く、通院や買い物など、あらゆる生活の場面で活動を妨げられています。実際、病院に通えず亡くなる方もいます。
2. これまでの支援と経緯
DPI日本会議では、2002年にJICA課題別研修「南部アフリカ地域障害者の地位向上」を受託して以来、今日までアフリカ全域から障害当事者や障害者施策に関わる行政官等140名以上を受け入れてきました。障害当事者を講師に迎え、障害者の自立生活運動や交通バリアフリー等について日本の経験を伝えてきました。
そして、南アフリカの元研修員と協働し、JICA課題別研修の協力団体であるヒューマンケア協会(東京都八王子市)が「障害者地域自立生活センター設立に向けた人材育成プロジェクト」(JICA草の根技術協力事業/2013-2016)を始めました。その結果、同国ハウテン州ヨハネスブルグ市ソウェト地区とエクルレニ市に2ヵ所の自立生活センターが設立されました。
写真:自立生活センターソウェト
写真:レメロス自立生活センター
自立生活センターは、障害者が地域で暮らしていくために必要なサービス提供とそのような生活環境を求める活動を行います。このプロジェクトでは障害者のエンパワメントを行うピア・カウンセラー、地域での介助者派遣を計画する介助コーディネーター、介助者を育成しました。2016年にプロジェクトが終了した際、ハウテン州政府が州のモデル事業として自立生活センターの運営費を予算化しました。
写真:活動の様子
3. 新たな課題とDPI日本会議による支援
上記3年間のプロジェクトを通して、障害者がエンパワーされ、必要な人に介助者が派遣されたことで社会参加をはじめる障害者が増えてきました。その一方、自宅内や交通機関のバリアが障害者の社会参加に大きな悪影響を与えていることも浮き彫りになりました。
そこで2016年よりDPI日本会議が事業を引き継ぎ、新たに「アクセシブルなまちづくりを通した障害者自立生活センターの能力構築プロジェクト」(2016-2019)を開始しました。以下の4つの活動を柱に自立生活支援センターの能力強化(キャパシティビルディング)を行っています。
①障害者のための移送サービスのモデルづくり
ヨハネスブルグ市のBRT(バス高速輸送システム)は、車いすで乗ることのできる数少ない交通機関です。対象地域の障害者が自立生活センターに連絡すると、リフト車両を自宅まで手配し、最寄りのBRT駅まで送迎するモデルづくりを行っています。
②住宅改善に関する研修会の開催
住宅に段差等があるため、自宅から出ることすらままならない障害者がたくさんいます。自立生活センターが住宅改善に関する研修を開催し、障害者自らが大工など住宅を建設する側に改築の提案ができるよう支援します。
③障害者のエンパワメントに関する能力強化
障害者一人ひとりが地域で自立した生活を営むためには、障害者が心理的にエンパワーされていくことが重要です。自立生活センターの第一の業務は、エンパワメントのプロセスをピア・カウンセラー(障害当事者)が対等な関係の中で支えていくことにあります。前プロジェクト期間中、プロジェクトに参加した現地の障害当事者は、障害者同士による分かち合いの場である「サポート・グループ」や「ピア・カウンセリング」といった手法を学んできました。現在は、更に問題解決に向けたアプローチとして「自立生活プログラム」に取り組んでいます。
④アクセシビリティに対する意識向上
アクセシビリティの改善には、行政や地域社会全般の意識向上が欠かせません。そのため本プロジェクトの広報や行政機関に向けた活動報告・協議の他、地域に向けたイベント等にも積極的に参加しています。
南アフリカ共和国でプロジェクトの運営に日々奔走しています!
●宮本泰輔(プロジェクトマネージャー/現地駐在員)
事業全体の進捗管理、行政機関等との協議、2ヶ所の自立生活センター同士の調整スタッフ研修等
現地駐在員(プロジェクトマネージャー)からの活動報告はこちら
●スリポーン・ユパ・ミヤモト(プロジェクトマネージャー補佐/現地駐在員)
プロジェクトマネージャーの補助、PC指導、ピア・カウンセラーへの助言等
●ムジ・ンコシ(ILCソウェト/現地カウンターパート)
ILCソウェトで自立生活センターの運営管理、行政機関との協議、地域での啓発活動を担当。2013年度JICA課題別研修に参加し日本とタイの自立生活運動・自立生活センター等を学ぶ。
●ピート・デ・ヴィット(レメロス自立生活センター/現地カウンターパート)
ILCレメロスで自立生活センターの運営管理、行政機関との協議、地域での啓発活動を担当。2013年度JICA課題別研修に参加し、日本とタイの自立生活運動・自立生活センター等を学ぶ。
●プロジェクトから生まれたピア・カウンセラー モニカ・レセテディさん
モニカ・レセテディさんは、高校時代に交通事故に遭い、首から下に麻痺が残りました。顎で動かす電動車いすと24時間体制の介助サービスを使って、アパートを借りて1人で生活しています。
彼女は現在、ハウテン州ジャーミストンにあるレメロス自立生活センターでピア・カウンセラーとして、地域の障害者の人たちが集まるサポート・グループを運営しています。また、介助コーディネーターを監督する立場として、介助派遣に関するトラブルなどの対応にも当たっています。
レメロス自立生活センターの母体は、8名ほどの重度障害者が自主運営するグループホームです。2013年にヒューマンケア協会がプロジェクトを始めた時、モニカさんはこのグループホームで暮らす、物静かなかたでした。一番初めに行った自立生活ワークショップでは、他の参加者に押されて、ほとんど発言がありませんでした。
2014年に彼女を日本に招聘して研修を行い、帰国後、サポート・グループを実践しはじめたあたりから、彼女は人前で発言する自信を付け、積極性が出てきました。発言する機会が増えれば、それだけ勉強もしなくてはなりません。グループホームの一室で、日々ぼんやりと過ごしていた彼女の生活が一変しました。
事業に関わりだしてから、2年余りが過ぎたときのことです。
「グループホームを出て一人暮らしをしたい」
自由が欲しい、自分の意思 で生活を作っていきたい、と彼女から打ち明けられました。きっかけは、サポート・グループの参加者からこう言われたことでした。
「モニカさん、あなたは自己決定や自立と人には言うけれど、なぜグループホームに住んでいるのですか」
モニカさんが、もし、「先生」としてのスタンスで他の障害者と関わっていたら、何か言い訳をして終わったかも知れません。しかし、彼女にとっては、彼らの言葉が、ピアのそれとして響いたようです。その時から、自立生活というものが、彼女自身にとって現実的な目標になってきました。
数カ月の準備の後、モニカさんはレメロス自立生活センターからほど近く、自力で通勤できるところで一人暮らしをはじめました。介助体制の確保など大変なことがありましたが、今では24時間体制の介助派遣を受けながら、自立生活センターで仕事に励んでいます。
彼女を見て、グループホームから出て地域で暮らす方が出てきました。今では良きロールモデルとなり、他の障害者をエンパワメントする力強い存在になっています。
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