「旅館業法改正法案」に関するDPI日本会議声明
10月7日(金)に閣議決定された旅館業法の改正法案に、障害者差別を容認するような問題があることがわかりました。これを受けDPIでは声明を本日付けで出しました。
2022年10月11日
旅館業法改正法案に関するDPI日本会議声明
―障害者への差別を容認しないために、差別禁止規定が必要―
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり
DPI(障害者インターナショナル)日本会議は全国92の障害当事者団体から構成され、障害の種別を越えて障害のある人もない人も共に生きるインクルーシブな社会(共生社会)の実現に向けて運動を行っている。
政府は10月7日に旅館業法改正法案を閣議決定し、国会に上程した。この改正法案は、新型コロナなど感染症の流行時に、発熱で感染が疑われる場合に感染防止策を正当な理由なく拒んだ客の宿泊を、旅館やホテル側が拒否できるようにするものだが、障害者への差別的取扱いを容認してしまうのではないかと危惧している。具体的には、以下の2点である。
1. 第五条 四
「宿泊しようとする者が、営業者に対し、その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求を繰り返したとき。」
【懸念する理由】
「その実施に伴う負担が過重であつて他の宿泊者に対する宿泊に関するサービスの提供を著しく阻害するおそれのある要求」というのを誰が判断するのか。事業者の一方的な判断により、障害者の宿泊拒否といった差別的取り扱いをすることができるのではないか。
検討の過程で開催された団体ヒアリングでは、ある宿泊業者団体の資料では、「車椅子客が一人で宿泊する場合に避難経路が確保できない場合」などを拒否できることを「発展的な改正の要望」としてあげており、その理由に障害者差別解消法など「他の法律の整備が進んでいる」ことがあげられていた。あたかも、障害者差別解消法の効果を弱めることを求めるかのような論点構成であった。
障害者差別解消法を推進してきた立場からは見過ごすことができないものであり、第5条4が障害や難病のある者の利用拒否など差別的取り扱いにつながることを大いに懸念する。補助犬法、障害者差別解消法の施行後も補助犬使用者への宿泊拒否の事例は未だ後を絶たない状況であり、決して杞憂ではない。
2. 第三条の五 2
「営業者は、旅館業の施設において特定感染症のまん延の防止に必要な対策を適切に講じ、及び高齢者、障害者その他の特に配慮する宿泊者に対してその特性に応じた適切な宿泊に関するサービスを提供するため、その従業者に対して必要な研修の機会を与えるよう努めなければならない。」
【懸念する理由】
従業員に対して「高齢者、障害者その他の特に配慮する宿泊者」に対する研修の努力義務規定は設けられてはいるものの、障害や疾病を理由にした宿泊拒否などの差別禁止の規定が設けられておらず、前述した障害者の宿泊拒否といった差別的取り扱いを防止し得るものではない。
以上のように、障害者の宿泊拒否といった差別的取り扱いを容認する懸念があり、障害や難病を理由にした差別禁止規定のない本法案には賛成できない。
かつて、らい予防法や優生保護法といった国策の下で「無らい県運動」や「不幸な子どもの生まれない県民運動」などが全国で展開され、官民一体となって障害者を排除してきた歴史がある。このことの反省・教訓に立って、今一度立ち止まるべきである。障害者への差別が起こることがないよう、慎重にも慎重な取り扱いを求める。