厚生省医療関係者審議会(厚生大臣の諮問機関)の
「欠格条項検討小委員会」が開かれました。


 同日、「健康政策局医事課」名で「障害者に係る欠格条項の見直しについて」という文書が出されました(注1)

 厚生省は、これまで、栄養士、製菓衛生師、調理師を除いて、「見直しの方向」未定としてきました(注2)

 今回、医事課の管轄する医師・歯科医師・看護婦・保健婦などの資格免許について、見直しの方向が出されたことになります。今後、審議会を経て最終報告をまとめ、法改正作業へというプロセスが予定されています。

 なお、薬剤師等は「医薬安全局」の管轄になり、こちらも審議会が続行中です。

 内容については、すでに新聞などでも報道されていますが、現行の「目が見えない者、耳が聞こえない者、口がきけない者には免許を与えない」「精神 病者には免許を与えないことがある」といった、「障害を特定した欠格条項」を、廃止した上で、改めて「障害を特定しない相対的欠格」を設けるという方向を出しています。

 「障害を特定した欠格条項」の廃止は、明治時代から「障害者は無理・危険」と固く閉ざしてきた門を開いていくものです(注3)。医療関係職で力を発揮していきたいと夢を持っている子どもや若者はもちろん、今すっかり髪が白くなっている人々の青年の時からの悲願でもあります。

 見直し作業は、たとえば、「目が見えない者、耳が聞こえない者には、免許を与えない(絶対的欠格)」→「目が見えない者、耳が聞こえない者には、免許を与えないことがある(相対的欠格)」のように、障害を特定したまま絶対的欠格を相対的欠格に書きかえて、現行の絶対的欠格を一部見直すにとどまることも予想されていました。「精神病者には免許を与えないことがある」というのも、「障害を特定した欠格条項」です。

 その点からすると、今回、絶対的欠格・相対的欠格にかかわらず「障害を特定した欠格条項」を廃止する方向を出したことで、厚生省は大きな一歩を踏み出したものと評価できます。今後の議論においても、ここから後退することなく、智恵を集めて、新しい時代を開いていくことが課題です。

  もし「障害を特定しない相対的欠格」(注4)を改めて設けるとすれば、これはなお、法律によって排除する可能性を残します。恣意的な解釈運用の余地があり、「いつでも閉めることのできる門」になりえます。「資格制限等による制度的な障壁の除去」や、すでに政府の方針として定められている「ノーマライゼーション」「社会参加の促進」とも矛盾します(注5)中途半端に欠格条項を残さずに、「どうしたらできるか」へと180度、舵を切り換える時ではないでしょうか!


注記−−−−−−−−−−−−−

(注1)
厚生省医事課
2000年10月30日「障害者に係る欠格条項の見直しについて」文書より、2項「2.見直しの方向」を引用
2.見直しの方向
○一般的に、心身に障害のある者については、業務の一部を適正に行うことが可能である場合があることから、現行の障害者を特定した欠格事由である、「目が見えない者」「耳が聞こえない者」「口がきけない者」及び「精神病者」の条項は廃止して、障害者を特定しない相対的欠格事由に改めることとする。
○併せて、保健婦助産婦看護婦法に規定する相対的欠格事由である「素行が著しく不良である者」及び「伝染性の疾病にかかっている者」については廃止する。

(注2)
栄養士法などについて
製菓衛生師と調理師は、2000年度後半に削除の方向です。栄養士は1999年度に、すでに削除が決定しており、これによって、栄養士法からは、障害者にかかわる欠格条項が全廃となりました。つまり、資格免許取得後の欠格条項や、「障害を特定しない相対的欠格」や、「成年被後見人欠格」「被保佐人欠格」を含めて、栄養士法には、存在しません。

(注3)
明治時代からの欠格条項
  火薬取締規則(1884(明治17)年太政官布告)には、「十六歳若しくは白痴瘋癲の者には之を売渡すことを許さず」と、知的・精神障害者に対する欠格条項を定めています。わかっている範囲で最も古い欠格条項の一つです。
  1906(明治39)年「医師法」は、「未成年者、禁治産者、準禁治産者、聾者、唖者及盲者」に免許を与えないと決めました。1933年(昭和8)年には、ここに「精神病者」を追加しました。この法律はいったん廃止のうえ「国民医療法(1943年)」に欠格条項が引き継がれ、戦後改めて、1948(昭和23)年、「医師法」として制定され、現在に至っています。このとき、法文は「つんぼ、おし又は盲の者」「精神病者」という表現でした。のちに「目が見えない者、耳が聞こえない者又は口がきけない者」と言葉だけを書きかえたのです。
  欠格条項の歴史については、雑誌「リハビリテーション研究」102号(2000年3月、財団法人日本障害者リハビリテーション協会発行)の、「障害者に係わる欠格条項の歴史的経緯と見直しに際しての課題」岩崎晋也氏の論文があります。

(注4)
.「障害を特定しない相対的欠格」と、その問題性 〜既存の法律から〜
既存の法律では「心身の故障」「心身の欠陥」などの表現が多く使われ、障害や病気は欠陥(故障)ととらえられています。しかし、障害者は壊れた機械でも欠陥人間でもなく、障害や病気を含めてその人自身です。
何よりも必要なのは、困難はあっても、どのようにしたらできるか、補助者や補助的手段の活用など、本人とまわりの人が現場で工夫していくこと、それを支援する法制度です。「障害を特定しない相対的欠格条項」は、結局、障害者排除に使われかねず、排除ではなく支援へ、という方向を進む上で様々な弊害をもたらすのではないかという強い危惧があります。
・例1
「次の各号のいずれかに該当する者は、免許を受けることができない。
1.身体又は精神の欠陥により免許に係る業務につくことが不適当であると認められる者(労働安全衛生法72条の2)」
※「労働安全衛生法」は2001年度後半を見直し終了目途として、見直し対象制度に入っていますが、6月1日、総理府発表では、「見直しの方向」は「その他」とはっきりしません。フォークリフトやクレーンの運転、溶接作業、労働安全コンサルタントなど、幅広い職種免許にかかわっています。
この法律は、「免許を受けることができない」と言い切っているので、絶対的欠格のようにみえますが、「不適当であると認められる者」には巾があるということで「相対的欠格」と解釈されています。
・例2
「次の各号の一該当する者は、社会保険労務士の登録を受けることができない。
2.心身の故障により社会保険労務士の業務を行うことができない者(社会保険労務士法14条の7)
・例3
「ただし、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることができず、又は受けることが困難であると認められる者を除く。(公営住宅法施行令第6条)」
※これは2000年7月に改正された施行令です。これまで各地の公営住宅で、重度の障害、介護が必要というだけで門前払いが多くあったため、重度の障害があっても介護を受けて自立生活できる人という条件で単身用住宅に入居を認める意味を明記したものです。
 しかし、入居申込の際に障害の有無や介護の必要度を問う欠格条項は残っています。
なお、この法律は「身体上又は精神上の著しい障害」という表現で、これが「障害を特定しない相対的欠格」といえるのかどうかは大きな疑問がありますが、建設省は「相対的欠格」であるとしています。
 そして、身体障害者には「単身入居枠」がありますが、知的・精神障害者には「単身入居枠」がないため申込むことができない、という大きな問題が残っています。

(注5)
「資格制限等による制度的な障壁の除去」は、1993年「障害者対策に関する新長期計画」で課題とされたが進んでいませんでした。「ノーマライゼーション」は、「障害者プラン〜ノーマライゼーション七カ年戦略〜」(1995年〜)と、政策の名前にもなっています。1999年8月「障害者に係る欠格条項の見直しについて」として初めて定められた政府の方針には「障害者が社会活動に参加することを不当に阻む要因とならないよう」見直しを行なうとしています。


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