障害者基本法改正へ3つの提言


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2010年11月13日
障がい者制度改革推進会議 構成員のみなさまへ

現在ある障害者欠格条項を撤廃するとともに、新たな欠格条項を生まない法律を


障害者欠格条項をなくす会(共同代表 福島智・大熊由紀子)

 プールやキャンプ場や図書館の利用、議会や委員会の傍聴、公営住宅への入居、自動車運転免許、薬剤師や医師などのさまざまな仕事に必要な資格免許の交付・・たとえば上記について、国の法律、地方公共団体の条例が、障害を理由に「認めない」とする絶対的欠格条項が、つい10年前、2001年まで数多くありました。現在も、この当時から欠格条項がある法律の大半に、「認めないことがある」などの表現で、相対的欠格条項として、多数が残されています。
 障害者欠格条項の見直しは、政府としても1999年から本腰をいれてきたわけですが、もともと「規制や制限の緩和」といった範疇で片づくものではありません。国の法律が障害を理由に法制度の障壁をつくり、大きなマイナスの影響を個人と社会に与えてきているという、長い歴史と広がりをもつ問題です。
 そのことへの反省に立脚しつつ、障害者権利条約の批准と完全履行のためにも、現在残されている欠格条項や類似の制度は撤廃していく時代に入っている問題として、あらためて強く認識される必要があります。しかし、「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)」からはそのような認識を読み取ることができませんでした。
 そこで、現在、障害者基本法について検討が進められ、差別禁止部会の作業も開始されるタイミングを迎えたことを機会に、第二次意見や障害者基本法の抜本的改正に次のことが盛り込まれるよう、三点を提案します。


提案
1.総則の「4.差別の禁止」の、「障害を理由とする差別」を、「障害を[直接・間接の]理由とする差別」とする。
 [条文の案]
 4.差別の禁止
 (1)何人も、障害を[直接・間接の]理由とする差別(障害者が、障害者でない者と実質的に平等に活動することを可能とするため、個々の場合に必要となる合理的な変更又は調整が実施されないことを含む。以下同じ)その他の権利利益を侵害する行為をしてはならないこと。(現行法第3条3項関係)
 [提案理由] 欠格条項には、「目が見えないものには○○を認めないことがある」のように、障害が理由であることがはっきりしているもののほかにも、「介助や援助を得られる人でなければならない(公営住宅の単身入居)」のように、ある状態の障害者をあらかじめ除外するものがあるため。

2.総則の「障害を理由とする差別に該当するおそれのある事例の収集・・・」は、「四つの障壁」の全面にわたるものとして、「法制度」などを明記し、防止策を含めた提供を行うものとする。
 [条文の案]
 (2)国は、障害を理由とする差別の防止に関する普及啓発を図るため、[法制度面、物理面、情報面、意識面(社会の態度)のあらゆる面で]、障害を理由とする差別に該当するおそれのある事例の収集、整理、[及びその防止策も含めた提供]を行うものとすること
 [提案理由]法制度・物理・情報・意識という「四つの障壁」は、1993年に障害者基本法、新長期計画のなかで、除去していくことが課題とされたが、現在も解決されずに続いている問題であり、今後にわたって問題がどこまで解決しているかの指標にもなるため、入れる必要がある。
 「法制度」について例をみると、都道府県などの障害者職員採用試験の大半の受験資格にはいまだに「音声での面接試験に対応できる人、活字印刷文を読める人でなければならない/介助なしに通勤し職務を遂行できる人でなければならない」があり、聴覚言語障害者、視覚障害者、全身性障害者などは実際上排除されていて、各地で問題化してきた。このような排除につながる基準を設けず、そして、「その人が業務の本質的な部分を合理的配慮も得て遂行できるかどうか」を指標に、試験・採用の制度を転換することが求められている。

3.総則の「7.国及び地方公共団体の責務」に対応する細目の条文を設けて、法制度上の差別に該当するおそれのある欠格条項を拡大しないための措置をとることも、この責務のなかに含まれることを明記する。(7.国及び地方公共団体の責務  国及び地方公共団体は、障害者の権利の擁護及び障害者に対する差別の防止を図りつつ障害者の自立及び社会参加を支援する責務を有すること。(現行法第4条))
 [条文の案]
 (7.の責務の細目として)法制度上の差別に該当するおそれのあるものを把握し、存続、拡大させないための措置をとること
 [提案理由] 地方条例や、地方公共団体の定める規定にも、さまざまな障害者欠格条項があった。たとえば公営住宅では、「介護が必要な人は応募できない」としていたり、「介護なしに日常生活ができることを明記し、介護が必要になったときには退去するという文書を、提出しなければ、入居を認めない」など、国の法律も上回る制限を設ける地方公共団体も各地に存在した。 現在、国が最低限の指標や基準を取り払い、すべてを地方公共団体に委任していく動きがあり、各地で再び除外規定が定められる懸念もある。そうした動向も視野にいれて、細目で、国・地方公共団体ともに欠格条項を存続させない根拠になる規定が必要である。
以上
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補足資料
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政府が1999年に見直し対象とした63制度に限っても、53制度が相対的欠格として残されています。相対的欠格とは、「免許を与えないことがある」等として、行為や仕事ができるかを障害との関係で審査するものです。
囲み記事:欠格条項が残る53制度
あん摩マッサージ指圧師、はり師又はきゆう師,医師,医薬品等の一般販売業等,医薬品等の製造業等,一般労働者の就業,衛生管理者・作業主任者・クレーン等の運転,家畜人工授精師,火薬類取扱い,改良住宅への単身入居,海技試験(自衛艦),海技従事者国家試験(一般船),外国人の上陸制限,義肢装具士,救急救命士,警備員の制限,警備員指導教育責任者・機械警備業務管理者,警備員等,警備業,けしの栽培,建設機械施工,言語聴覚士,公営住宅への単身入居,航空機乗り組,国家公務員の就業,指定射撃場の設置者及び管理者,視能訓練士,歯科医師,歯科衛生士,歯科技工士,自動車等の運転,狩猟,柔道整復師,獣医師,診療放射線技師,水先人,船舶乗務のための身体検査基準,通訳案内業,鉄砲又は刀剣類所持,動力車操縦者運転,特定毒物研究者,毒物劇物取扱責任者,美容師,保健師、助産師、看護師又は准看護師,放射性同位元素等の使用、販売等,放射性同位元素又はこれに汚染された物の取扱い並びに放射線発生装置の使用,麻薬の輸入等,無線従事者,薬局開設許可,薬剤師,理学療法士・作業療法士,理容師,臨床検査技師・衛生検査技師,臨床工学技士
グラフ1
見直し以後(2009年)※数は制度数
廃止,10,16%
相対的欠格条項,53,84%
グラフ2
見直し以前(2000年)
絶対的欠格条項,13,21%
相対的欠格条項,29,46%
絶対的・相対的が混在,21,33%
欠格条項を廃止した制度は?
上のグラフ1のとおり、「63制度」の中では10制度については廃止となりました。
法律名でいうと、「栄養士法」「製菓衛生師法」「調理師法」「検察審査会法」などは障害者にかかわる欠格条項を全廃しました。しかし上の囲みにもある53制度が相対的欠格条項として残されています。
多数残されている相対的欠格とは?
見直しの結果、それまでの絶対的欠格条項の大半が、撤廃はされず「免許を与えないことがある」といった相対的欠格条項として残されました。見直しを経ての変化は、ある行為や仕事の本質的部分を、必要な受療や補助者や補助手段なども得てその人が遂行できるかどうかを審査するようになった点です。
絶対的欠格条項のために可能性がほぼ閉ざされていた医療などの分野で、障害のある人が学ぶことが増えてきました。現在は全盲の医師もいます。
しかし、「障害」と関連づけた相対的欠格条項を継続していること、そして、その下で欠格条項に該当するとみなした人を審査対象にすることは、大きな問題を含んでいます。
「障害者欠格条項をなくす会」には、取得したい資格や免許を規定する法律に障害を理由とする欠格条項があるかどうか。そして、欠格条項の有無にかかわらず各種の試験について、個人から質問が多数寄せられています。
ほかの国と比べると?
たとえば自動車の運転は、多くの国で、病状が重くて運転できない状態の人の運転行為は禁じています。ただし、「その人がどんな環境条件下でどんな車でどうしたら安全に運転できそうか」個人の可能性を重視し、障害者について平等と差別禁止を明確にした法制度をもっています。普通免許は、スウェーデン、アメリカ、イギリス、韓国など多数の国が聴力不問で、視力についても0.5が目安の国がほとんどです(日本は0.7が絶対基準)。イギリスは、ナンバープレート読み取りテストなどの工夫をしていて、カナダは過去の裁判をもとに、視力基準を満たさない場合もどのようにして適切に運転できるかを評価しています。対照的に、日本にはまだ差別禁止法もなく、障害がある人は危険の恐れがあるという見方から免許の交付更新が制限されてきています。
今後にむけては、障害を理由とした直接・間接の制限をなくすと同時に、制限や排除をせずに支援を積極的に進める方向性が必要です。合理的配慮が、誰でもいつでも全国のどこの地域でも、本人のニーズをベースとした検討をもとに提供されるような仕組みをつくることが求められています。それは欠格条項への取り組みからも課題になってきたことであり、現在検討が進められている新障害者基本法、差別禁止法、総合福祉法においても非常に重要な課題といえるでしょう。
略年表
1993年 障害者基本法制定、「障害者対策に関する新長期計画」スタート。
四つの障壁の除去を掲げたが、法制度の障壁除去は遅れていた。
1998年 耳が聞こえない女性が薬剤師試験に合格し、欠格条項のために免許交付されず。聴覚障害者団体が差別法撤廃署名をよびかけ、地方議会請願採択などが進む。
1999年 「障害者欠格条項をなくす会」発足。初の政府方針「障害者に係る欠格条項の見直しについて」を障害者施策推進本部(当時)が決定。このもとで63制度を見直し対象に選定し、2002年度末を目標に各省庁で見直しが始まる。
2001年 27法律を一括して改正施行する「障害者等に係る欠格事由の適正化を図るための医師法等の一部を改正する法律案」が成立。
医師法など、絶対的欠格条項だったものが相対的欠格条項となる。教育・就業環境の整備も課題化される。
2005年 受験時に実際に必要な配慮が得られない状況が問題になったことを受けて、障害者施策推進課長会議が「資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について」を決定。同年、公営住宅は、知的・精神障害者も単身入居が可能な制度になった。
2008年 運転免許試験に合格して聴力適性検査基準に達しない人には、マークとミラーの義務と車種制限つきで免許交付する法令に変更。
(参考)
「障害者欠格条項撤廃の課題と各種試験のありかた等に関する意見書」2010年2月
http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/katsudo/katsudo2010/ikensyo100224.html


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