「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対するパブリックコメント


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「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対するパブリックコメント
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2011年8月20日
「道路交通法施行規則の一部を改正する内閣府令案」に対するパブリックコメント
障害者欠格条項をなくす会(共同代表 福島智 大熊由紀子)
東京都千代田区神田錦町3-11-8武蔵野ビル5F
Email: info_restrict@dpi-japan.org
■聴覚障害者と車種等について
特定後写鏡免許で貨物積載できる車は不可としていた車種制限を撤廃し、原付・自動二輪(普通・大型)・小型特殊の聴力の合格基準を廃止した点では、ようや く、諸外国と並びました。これらは日本がとりわけ遅れている点であり、今回の施行規則改正案は前進と言えます。施行と変更の周知を望みます。

■聴覚障害者と運転に関連して
しかし、現在のように、聴覚障害者に特別の免許(補聴器免許、特定後写鏡免許)を設けることは、制度を無用に複雑にしていると言わざるをえません。警察庁 の委託による10か国の調査によれば、特定後写鏡を免許の条件にする国は、韓国だけであり、9か国は自家用車の運転については聴力を問題にしていません。(註1)。

視認が不十分であれば危険を伴うことは、聴力とは無関係であるにもかかわらず、なぜ日本ではいまだに聴力を理由として特別の条件を課すのか、納得できる説 明はこれまでなされていません。

1970年代から、さまざまな聴覚障害者がすでに長年、運転してきています。この間に重ねて警察庁委託で行なわれた調査や実験でも聴力との関連で特別の問題が あるという報告は出ていません。耳の聞こえない・聞こえにくいベテランドライバーたちの経験からも、運転するうえで聴力がなくても問題がなく、ミラーもマークも補聴器も任意で十分です。 道路環境を改善すること、信号や道路標識類を視認しやすくすることや、自動車のハードとソフトをさらに誰でも確実に操作しやすいものに改善することが、先決の問題です。

なお、緊急車両については「緊急走行中なのかどうか紛らわしいケースがある。 ライトの回転数などで、誰でも簡単に確実に識別できるような走行をしてほしい」という要望が出ています(註2)。

今後については、聴力の有無や程度は不問にして、その人と運転する乗物に適した方法で視認を確実に快適にできるようにするという、合理的かつ道路交通の現 場の必要を満たすものに、制度のありかたを変更するよう求めます。

それと同時に、教習のありかたの改善が極めて重要です。2010年11月時点で群馬・埼玉・東京の指定自動車教習所計121か所のうち62か所が「10メートル離れて9 0デシベルの警音が聞こえること」「会話が聞き取れること」など、明らかに現行法をも逸脱した入所条件を設けていました。(註3)。また、入所は受け入れ ていても音声だけで教習が進められていることがあります。法制度の転換のなかで、どの教習所でも平等に受け入れることはもちろんのこと、聞こえない人・聞 こえにくい人は、手話や文字や図形を見ながら教習を受けることができるよう、情報アクセスをきちんと保障することが求められています。また、教習の場面に かぎらず、免許の窓口や路上など、必要なときにいつでもどこでも手話通訳や筆記通訳を得られる制度にしていくことが、今後ますます欠かせないことです。

■視力基準について
日本で矯正視力0.7を絶対的な基準にしなければならない理由がどこにあるか、具体的に説明されたことがありません。検査数値が0.7未満というだけで免許交 付更新できずに失職した人もいます。国際的な視力基準は0.5前後で、かつ、障害や病気のある人が健康状態をどのように管理するか、運転車両等について、主 治医の助言と道路交通当局の考慮とを併せて判断するなど、どうしたらその人が安全に運転できるかを重視しています(註4)。日本のありかたは基本から見直しが必要です。

■免許制度の基本的なありかたについて
日本の運転免許制度は免許の交付更新について二者択一的な仕組みで、しかも、障害や病気と関連づけて予防的に判定する法制度になっているために、障害や病 気のある人は、大きな不安を余儀なくされています。つまり、「もし運転免許を失うことになれば、仕事も失いかねない」「買物や通院など最低必要な移動もで きない」「自分で運転できない場合に利用しやすい移送サービスや公共交通網もない」という、社会生活上、死活問題と言ってよい不安です。

進んで自他の命を危険にさらしたい人は、まず、いませんが、差別があるために障害や病気を隠さざるをえないような社会環境と、二者択一的な免許制度に追い 詰められている人は、少なくありません。持病を知られて仕事や人間関係にさしつかえることを恐れて本来必要な通院も服薬も十分できていないことがあります 。そのような絶え間ないプレッシャーは、本人にとって大きな重荷であり、安全な運転のためにも取り払われなければならないものです。

現在の二者択一的な制度から、「運転にさしつかえる病状の重い時期には運転行為を禁止する」というように、「本人も納得する理由のもとで、運転行為をどう しても制限・禁止しなければならない場合はある」という考えかたと仕組みの制度へと転換するならば、無用のプレッシャーも軽減し、誰もが安心できる環境に 変えていくうえで役立つでしょう。

根本的に必要なことは、適切な医療や必要な支援を提供すること、障害や病気を隠さなくても社会的不利をこうむらない社会環境に変えていくこと、もしも不利 をこうむったときは権利回復できるようにすること、その人が安全に運転できる状態のとき堂々と運転できるようにすることです。

以上

(註1)各国の制度について警察庁委託の「平成21年度聴覚障害者の安全運転の ための実車による実験等調査研究報告書」に10か国の資料があるが、9か国は自家用車を運転するうえでは聴力を問題にしていず、条件がある場合も車両の両サ イドにミラーをつければよい。日本の特定後写鏡免許は韓国の制度を参考にしたものと見られる。なお、日本の二種免許(韓国の一種免許)は、現在も、補聴器 を使用しないで10メートル離れて90dbの警音が聞こえなければ交付されないが、韓国は、2010年の法改正によって、補聴器を使用して40dbの音が聞こえる人はタ クシー営業免許等の取得が可能となり、「知識試験」を手話ビデオで受験できる。

(註2)緊急車両が、サイレンは鳴らしていないのに赤色灯をつけて走行してい ることがある。道交法施行令14条等にあるように、サイレンを鳴らしていなければ原則として緊急走行中ではないことになるが、聴覚障害のあるドライバーから 見ると、その車両が緊急走行中なのかどうか判別しにくい。そのような経験をもとに、「赤色灯の回転数を変えるなどして一見して走行状態を判別できるように 」という意見が出されている。

道路交通法施行令第14条(緊急自動車)等「緊急の用務のため運転するときは、 300メートル離れても発光が確認出来る赤色の警光灯を点滅させ、前方20mの位置において90デシベル以上120デシベル以下のサイレンにより設けられるサイレン を鳴らし、かつ、赤色の警光灯をつけなければならない。ただし、警察用自動車が最高速度の規定に違反する車両を取り締まる場合において、特に必要があると 認めるときは、サイレンを鳴らすことを要しない」(抄)

(註3)「自動車教習所の入所条件と教習に関する申入れ書」 2011年2月8日
http://www.dpi-japan.org/friend/restrict/shiryo/menkyo/moushiire110208.html

(註4)「平成21年度聴覚障害者の安全運転のための実車による実験等調査研究 報告書」に掲載があるものでは、p165オーストラリア「健康と運転規則」など。


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