障害者の各種国家資格に係る免許申請時等における合理的配慮の申請手続きのあり方、 ならびに診断書様式の改善、および、国試受験や免許付与の件数等の公表等に関する要望書


要望書・別添文書を含む(PDF 503K
2016年9月5日
障害者の各種国家資格に係る免許申請時等における合理的配慮の申請手続きのあり方、
ならびに診断書様式の改善、および、国試受験や免許付与の件数等の公表等に関する要望書
障害者欠格条項をなくす会
(1)基本的な考え方
 本年度から、障害者差別解消法と、改正障害者雇用促進法が施行されました。差別解消法の対応要領・対応指針、雇用促進法の各指針に示されているとおり、障害者に対する差別的取扱いの禁止と合理的配慮の提供を行政機関等と事業者に課しています。この「合理的配慮」が適切に提供されるよう実効性を持たせる上では、いくつかの課題が指摘されています。主なものとして、次のような点が挙げられます。
 第一に、合理的配慮について本人が容易に申請できるシステムにすること、第2に、国・地方自治体や事業者と本人との双方向の協議を通じて、合理的配慮の提供とその適宜見直しができる体制にすることの二つが挙げられます。これらのことは、障害や病の種別・程度、障害者手帳等の交付の有無にかかわらず、すべての人に当てはまることです。
 次に、「合理的配慮」と「障害に係る欠格条項」を巡って、これらの課題に関する問題点を述べます。まず、上述のことは、ある免許申請者が「障害に係る欠格条項」に該当すると見なされるかどうかにかかわらず、重要なポイントです。その人が「合理的配慮の提供」が必要であると見なされる場合には、それが免許交付審査に直結するだけに、更に重要なポイントとなります。
 例えば、免許申請書は診断書を併せて提出することとされていますが、「補助的・代替的手段について医師に説明したが、医師は診断書の当該欄に何も記入していなかった」という事例(現在は医師として働いている人の体験)が報告されています。この事例では、厚生労働省から「空欄になっているが、補助手段が何もないということですか?」と本人に連絡があり、その後の免許交付審査会(本人面接)でも改めて本人から説明をすることになったという経緯があります。このような事例の存在からも明らかなように、「補助的・代替的手段を含む合理的配慮」を本人が申請できるようにすることが必要だと考えられます。
 一方、2014年に診断書様式が変更されたことによって生じた課題もあります。2001年の障害者欠格条項の見直しから既に15年、この間の社会状況の変化と、新たに施行された障害者差別解消法等をふまえて、現時点での欠格条項をめぐる課題を整理すべき時期に来ているのではないでしょうか。

(2)要望事項
 上記および、後述の解説をふまえて、免許申請に関連して、次の各項目を要望いたします。

1 免許申請にあたって、障害や病のある本人が、合理的配慮に関する情報として、自身の現況、補助的・代替的手段(現に用いていることや今後実施可能なこと)などについて、書面で申請できるようにする。
2 専門医については障害や病と診療科目が一致していることは前提として、かかりつけ医(主治医)が望ましいことを明示する。また、専門医の診断書についても様式を設けて、「業務への支障の程度」にかかわる記述や項目は削除する。さらに、「補助的・代替的手段」も診断書に記入するならば、前様式の診断書と同様に独立した項目とする。
 そして、差別解消法等の合理的配慮概念をふまえて、本人からの聴取に基づいて医師が記入する際に参照する記述(例:差別解消法の対応指針の記述引用)や記入例を掲載する。
3 厚生労働省管轄の免許について、2001年の欠格条項見直し以降、相対的欠格条項が残されている部分、及び欠格条項が削除された部分(薬剤師免許における聴覚言語障害者など)について、受験者数、受験における各種の配慮の実施件数、免許申請件数および免許付与件数を公表する。
4 特に上記1については、どのような書面、様式であれば容易に記入することができ、以降の活用につながるか、障害のある医療従事者等の意見を聞く機会を設ける。

(3)解説
1.欠格条項の見直しと診断書様式の変遷
 2001年にかけての見直しの結果、根拠法に障害にかかわる相対的欠格条項が残された免許については、全ての免許申請者が提出する診断書の記入欄に、それまでの障害等に関する記入項目に加えて、補助的・代替的手段を記入する欄が新たに設けられました(添付文書1)。
 こうした改善は、現在の用語で言えば「合理的配慮」と事実上重なるものであり、「補助者、福祉用具等の補助的な手段の活用、一定の条件の付与等により、業務遂行が可能となる場合があることも考慮されるべき」と明記された欠格条項見直しにかかわる政府方針文書(註1)および法律(註2)に基づいています。
 ところが、2014年にこの診断書様式が変更されました(添付文書2)。大きな相違点は、障害等の状況および「業務への支障の程度」を専門医が記入するものと新たに明記されたことです。専門医とは、本人の障害等にかかわる診療科の医師とされていて、この点では従前との相違は実質的には大きなものではないとも言えますが、「業務への支障の程度」は、前様式にはなかった語句です。さらに、補助的・代替的手段については「症状の安定性」の下に括られる形となっているので、独立した項目として「補助的・代替的手段」を設けていた前様式とは、注意喚起を促す点や重点の置き方において、大きく異なっています。なお、専門医用の診断書様式の定めはなく、それぞれの医師に委ねられています。

2.課題について
2−1 医師の定義および診断書のありかた
 障害や病のある人が用いている補助的・代替的手段やそれらの可能的手段、合理的配慮は、個別性が高いものです。ふだんから診察しているかかりつけ医(主治医)でなければ、障害のある本人のふだんの暮らしぶりやその活動を行うにあたっての具体的な調整の方法や内容を知ることが困難であり、それらを診断書に記載することを求めることには無理があります。
 それはたとえ専門医であっても同様です。当該本人の障害等による困難の実態はきわめて多様であり、個別性・独自性が高いため、専門医といえども、具体的な調整の内容や方法を記載することは至難と言えます。それは初対面の当該本人が医師にその場で説明して、簡単に伝えられるものではありません。その結果、「基本的な考え方」で記述した体験事例のように「空欄」で提出されてしまうことになったり、適切でない内容が記載される懸念があります。
 こうしたことを踏まえ、医師の診断書は、あくまでも医学的所見を記載するものと規定すべきであり、「業務への支障の程度」を医師が判断することはそもそも無理があるため、その項目は削除が適切だと考えます。
 他方、「補助的・代替的手段」について診断書にも記載するならば、「その人の能力をどう補うか」という観点から、本人の話に基づいて記載する項目を設けることが、本来の姿と考えられます。

2−2 合理的配慮についての本人申請
 前様式の当時から、免許申請にあたって本人が、就業にかかわる補助的・代替的手段を含む合理的配慮について申請できる書類はないという問題が含まれてきました。
 他方、国家試験の受験申請については、必要な配慮について本人が提出する共通の申請書類が2005年度から設けられています(添付文書3)。
 上述の2−1および経過と併せて見ると、現在の課題は、免許申請にあたって本人が合理的配慮についての申請書を出す形にして、それが審査や協議の基礎資料として役立てられるようにすることだと思われます。

2−3 量的・質的な変化の把握と公表
 「欠格条項の見直し」は政府自体が相当に注力した取り組みであり、2001年の欠格条項一括見直し法の国会審議では、この法によって障害者の生き方や社会全体が変わることが重要という趣旨の答弁を、坂口厚生労働大臣(当時)が行いました(註3)。しかしその後の推移については、明らかにされていることはまだ一部に留まっています。厚生労働省医政局管轄分の、2014年・15年・16年(7月時点)の免許申請件数および免許付与件数については、集計表が公開可とされたものの、受験者数や、受験における各種の配慮(註4 関連:添付文書3)の実施件数等を含めて、2001年以降の推移と現況を集約し、公表することが、取り組みの成果を確認し現状の課題の明確化をはかる上でも欠かせないことだと考えます。

註釈

註1「障害者に係る欠格条項の見直しについて」障害者施策推進本部決定 1999(H11)年8月9日
http://www8.cao.go.jp/shougai/honbu/jyoukou.html

註2(医師法施行規則の場合)
第1条の2(障害を補う手段等の考慮) 厚生労働大臣は、医師免許の申請を行つた者が前条に規定する者に該当すると認める場合において、当該者に免許を与えるかどうかを決定するときは、当該者が現に利用している障害を補う手段又は当該者が現に受けている治療等により障害が補われ、又は障害の程度が軽減している状況を考慮しなければならない。

註3 第151回国会 衆議院厚生労働委員会議事録 2011(H13)年6月20日から部分引用
坂口厚生労働大臣 やはり、この法律をつくります以上、この法律ができたので大変世の中が変わった、障害者の皆さん方の生き方が変わった、障害者の皆さん方の生き方だけではなくて社会全体の行き方がそれで変わった、そういうふうに言われるようにしなければならないという風に思います。

註4 資格取得試験等における障害の態様に応じた共通的な配慮について
障害者施策推進課長会議決定 2005(H17)年11月9日
http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/sikaku.html



添付文書一覧

添付文書1 前様式診断書(医師の場合)
関連通知:医政発第754号 医薬発第765号 平成13年7月13日 厚生労働省医政局長・同医薬局長通知「障害者等に係る欠格事由の適正化等を図るための医師法等の一部を改正する法律の施行について」

添付文書2 現様式診断書(医師の場合)
関連通知:医政発0205第8号 平成26年2月5日 医政局長通知「『医師、歯科医師、保健婦、助産婦及び看護婦の免許等の申請について』の一部改正について

添付文書3 国家試験受験申請書
掲載元 厚生労働省ホームページ > 厚生労働省について > 資格・試験情報 > 医師国家試験の施行について 頁上、「7 受験に伴う配慮」に文書掲載 (2016年8月21日アクセス)


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