意見書 |
2003年12月26日 | |
国家公安委員会委員長 小野 清子 殿 警察庁長官 佐藤 英彦 殿 | |
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運転免許の聴力基準に関する意見書 |
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はじめに 「障害者欠格条項をなくす会」は、障害の違いや立場の違いをこえて法制度のバリアをなくす趣旨で、1999年に発足した民間非営利活動団体です。道路交通法の欠格条項見直しの時期にも、当会は、聴力基準の見直し−撤廃を求めて意見を述べてきましたが、2002年度から二年間の計画で実施されている、委託調査研究において、その一年目の成果報告書に、聞こえなければ運転は危険という方向が色濃くみられるため、この意見書を提出します。 「道路交通取締令」は、1954年に「つんぼ、おし」を免許取消・停止の対象に加えました。さらに1960年、新「道路交通法」は成立と同時に、「耳が聞こえない者又は口がきけない者」を免許交付拒否の対象としました。聴覚障害者は、1950年代から自動車運転を求めて全国的な運動を起こしました。また、なぜ聞こえなくては免許を与えられないのか、裁判の原告として問いました。 こうした経過があって、普通免許の試験の適性検査は、1973年から補聴器をつけることが認められ、「補聴器をつけて10メートル離れて90デシベルの音が聞こえるならば」という条件つきながらも、免許を交付されてきました。当時から、この基準に対しても疑問が表明されていますが、「補聴器をつけて」という条件で免許交付を受けている人は、2002年の統計では、3万4千人をこえています。 しかし本来、聴覚からの情報がなくても、視覚からの情報があれば、安全運転はじゅうぶん可能です。補聴器は一般に、近くの人と会話する上では補助機器となりえますが、運転時には騒音、雑音のために頭痛を招くなど、有害無益という人が少なくありません。完全に失聴している人を含めて、聴覚障害者がバイクや普通車を運転することは、国際的にも当然のことになっています。 |
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視点の転換を 「聴覚に障害があれば、安全運転に何らかの支障があるにちがいない」という観点から調査研究を進めて、聴覚障害者が運転するのはやはり危険であるという結論を導くのは、容易なことです。また、このような見かたには、根本的な誤りがあります。 なぜならば、本当に道路交通環境・自動車の安全化をめざそうとするのであれば、必要なことは、聴覚障害者や高齢者が、安心して運転できる環境に近づけることです。それによって、誰にとっても安全かつ安心な道路交通環境、自動車にしていくことができます。従って、この観点から調査や政策制度の検討を進めることが必要です。 |
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普通免許の聴力基準削除を 聴覚障害者の運転実績があることは、上述したとおりです。警察庁の委託調査研究で報告されている各国の制度をみても、聴力の程度によって普通免許を与えないという国は、日本のほかはスペインのみです。韓国やタイでも削除されました。日本で、普通免許交付に聴力による制限を設け続けるという根拠は、どこにあるのでしょうか。普通免許について聴力基準の削除を求めます。 |
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近づく救急車の情報など、目でみてわかるシステムを 聴覚障害があるドライバーは、運転中、接近しているがまだ視野には入っていない緊急車両の動きに、神経を使っています。緊急車両の接近を、ドライバーが目でみてわかるようにするシステム、機器の導入は、技術的には、幾通りかの方法によって、十分可能なものとなっています。問題とされる導入コストは、これを聴覚障害者だけのものとするのではなく標準装備とすることで、解決できます。聴覚障害があるドライバーが、必要以上に神経を使わなくてすむだけでなく、あらゆるドライバーにとって、注意確認の手段を増やし、交通の安全性を高めます。 |
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政策制度検討に、聴覚障害者自身の参画を 本来、聴覚障害者と運転に関する調査研究や政策検討は、実際に運転してきている聴覚障害者を中心に据え、その経験を元に検討するべきものです。調査の立案、実施、結果をどう見るか、どのような課題・方向で進めるのかのまとめに、聴覚障害者が参画していない調査は、リアルな実態、ニーズからかけ離れたものとなります。ヒアリングについても、質問項目づくりから聴覚障害者自身が参画し、最新の状況と課題を反映できる質量のヒアリングが必要です。 教習所の受入れや情報保障をどのように進めるかという課題も、さまざまな体験、実態把握をもとにした調査研究が求められます。「聴力障害を有する者のための自動車安全運転用の補装具の開発」についても、現在どのような可能性があるか技術面と法制度面の両面から、実際に運転している聴覚障害当事者、技術者等を委員として、実際の日常的な走行において検討することが欠かせません。 上記をふまえて、当事者の参画を欠く調査研究の結果は政策制度に反映しないこと、当事者が計画段階からまとめまできちんと参画した調査検討を今後は実施するように、要請します。当然ながら、これは、聴覚障害者についてだけではなく、あらゆる障害者について必要なことです。 当面のこととしては、委託調査研究の中間報告を聴覚障害者団体および当会に示し、最終報告には、その意見を十分に反映することを求めます。 |
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以上 |
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