「リプロと障害者ージェンダー視点から捉えるー」
(5月30日(日)DPI全国集会in東京 障害女性分科会報告)
2021年06月28日 障害女性
5月30日(日)第36回DPI全国集会in東京で開催した障害女性会についてDPI常任委員でDPI女性障害者ネットワークの村田惠子からの報告と、参加者であるCIL星空の高橋愛実さんに感想を書いて頂きました。
是非ご覧ください。
■障害女性分科会プログラム「リプロと障害者ージェンダー視点から捉えるー」
・開催挨拶と分科会テーマの説明
平野みどり(DPI日本会議議長)
・生殖補助医療に関する法律など性と生殖をめぐるいくつかの動き
米津知子(DPI女性障害者ネットワーク)
・着床前診断から見えるジェンダー問題
須賀ナオ(DPI女性障害者ネットワーク)
・優生保護法にある優生思想について
藤原久美子(DPI日本会議常任委員、自立生活センター神戸Beすけっと)
・コロナ禍での障害女性の事例報告
佐々木貞子(DPI日本会議常任委員・DPI女性障害者ネットワーク)
・閉会挨拶
平野みどり(DPI日本会議議長)
開催経緯、分科会報告、今後に向けて
■分科会開催の経緯
生殖補助医療に関する法律や着床前診断など、医療における「子供をもつ・もたない」ことの在り方の変化とその背景にある優生思想について、リプロダクティブ・ヘルス・ライツやジェンダーの視点から捉えて、障害のある人の性と生殖について、問題意識を共有する機会とし、またコロナ禍もすでに1年、最近の事例を紹介しながら障害女性の生きづらさの背景について考えます。
■分科会で報告、議論したこと
①生殖補助医療に関する法律など性と生殖をめぐるいくつかの動き 米津知子さん
・コロナ禍で女性への性暴力、望まない妊娠が増えるおそれと緊急避妊薬のオンライン化
コロナ禍の性暴力、望まない妊娠に、緊急避妊薬のオンライン処方が可能になりました。性交後72時間以内の服用で妊娠を防ぐものです。これは女性本人の意志で使うものです。優生保護法下のような強要があってはなりません。
・母体血を用いた非侵襲的出生前検査(NIPT)施設認証、情報提供のあり方に厚労省も関与
「NIPT等の出生前検査に関する専門委員会」の報告書で、母体血を用いた非侵襲的出生前検査のあり方が変わります。今後、日産婦学会、検査対象疾患の当事者団体、厚労省が関与します。妊婦への検査の情報提供も「積極的に知らせる必要はない」から、「妊娠・出産・育児の一環として提供する」に変わります。検査の推奨にならぬよう働きかけを。
・「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」
「生殖補助医療の提供等及びこれにより出生した子の親子関係に関する民法の特例に関する法律」が昨年12月に成立。不妊のカップルが第三者の精子、卵子で出産した場合、民法上、産んだ女性を母、承諾した夫を父とします。生まれた子が出自を知る権利の保障がなく、障害に否定的な「心身ともに健やかに生まれ…」の条文など多くの問題があります。
・「性と生殖に関する健康と権利」がすべての人に保障されるには
障害者の「性と生殖に関する健康と権利」に、子どもをもつ・もたない、どちらも他者から強いられず本人が選択でき、情報と手段があること。障害の有無に関わらず出産、出生が歓迎される社会が必要です。
②着床前診断から見えるジェンダー問題 須賀ナオさん
着床前診断(着床前遺伝学的検査)の中のPGT-M(遺伝性疾患の原因となるDNAの変化を検査)について、まず遺伝性疾患とは遺伝子や染色体の変異から起きる疾患で、私達は誰でも数十個の遺伝子変異を持っており、すべての人に関わる問題である。
PGT-Mは次世代(胎児)の生命をコントロールするものであり、日本産科婦人科学会は科学的には障害児が生まれるのは自然なのに、障害児を産み育てる方向の権利をいわないのは女性の権利を真に保障しているとはいえません。PGT-Mがもつ差別性や患者同士、女性と障害者が対立する構造をつくり苦しめていることに無自覚ではないでしょうか。
”よい子”を産み育てるのがよい妻・母、女性の幸福というプレッシャーをなくすことも必要です。医療側は商業主義を排除するためにも負の情報を含めて情報を出すべきです。 PGT-Mは憲法13条個人の幸福追求権とされていますが、障害者の権利条約との整合性について検討することが必要です。
③優生保護法にある優生思想について 藤原久美子さん
優生保護法にある優生思想と、もう一つの目的であった母性の生命と健康を保護することに優生思想はないのかということに着目して考えます。
優生保護法も母性保護法も「母体の保護を目的として人工妊娠中絶を認める」という条件が定められており、この条件を満たせば人工妊娠中絶ができるという規定がありますが、これは刑法に堕胎罪があることで、闇中絶、そのことで命を落とす女性が多くいたため、刑法を改正せず、そのまま残して、保護するためつくられた法律です。
背景には家父長制度、男尊女卑はなくなりましたが、戸籍法は現存し、女性差別撤廃条 約からも勧告されている夫婦別姓は実現していません。
「背景には明治民法で定められた家父長制度があり、そこでは妻は「無能」とされ、妻にのみ貞操義務が課せられていた。戦後改正され、男尊女卑の条文はなくなったが戸籍制度は現存し、国連女性差別撤廃委員会から勧告の出ている夫婦別性は実現していない。」女性達が分断されてしまう社会構造や母体保護法ではなく、女性の産む産まない権利を認めた女性の身体を包括的に守る法律が必要です。
女性は自分の身体に関する自己決定権がない、このことは障害児を排除する方向に動く危険性があります。お互いの状況を理解し合って優生保護法問題、着床前診断など課題に取り組むべきではないでしょうか。
④コロナ禍での障害女性の事例報告 佐々木貞子さん
DPI女性障害者ネットワークは昨年4月、政府に提出した要望書をきっかけに、コロナ禍での障害女性の困難について経験を集めてきました。コロナ禍の非常時は平時の問題や矛盾が拡大、増幅、凝縮したものです。
今年3月にオンラインで聴き取りを行った二名の経験を紹介し考察しました。ライフスタイルは異なるものの、どちらも社会資源の不足による利用者の立場の弱さがコロナ禍で露呈したものでした。4月に内閣府から「コロナ下の女性への影響と課題に関する研究会 報告書」が公表されました。「誰一人取り残さないポストコロナの社会へ」というサブタイトルが付いていましたが、そこに「障害」の文字はありませんでした。
真のインクルーシブ社会を目指して、さらに私たちの活動を活発化させていこう!
村田惠子(DPI常任委員、DPI女性障害者ネットワーク)
参加者感想
今回の障害女性分科会では、リプロダクティブ・ヘルス/ライツとジェンダーの視点から見られる課題について、大きく4つの報告を取り上げていました。望まない妊娠に対する対応策の現状、性や出生に関する法律の最新情報、そして、優生思想も踏まえ見えてくる課題など、考えさせられることが多くあったと感じています。
また、女性と障害者が抱えている課題は同等のものが多いことも学びました。未だ障害に対して否定的なイメージが多く残ることから、障害者を安心して出産することができる社会ではないということ。女性が自分の意見を言いづらい環境にあることは、昔から障害者も同じ課題を抱えています。
女性であるから、障害があるからという理由で生きにくさを感じる原因は、社会が作り出してきたイメージが大きく影響しているからです。今もなお存在しているそのイメージを変えることができない限り、障害女性の生きにくさを無くすことはできません。それを打破するためには、私たち自身の声を伝えていくことこそ一番の近道です。その思いを常日頃から持ち、私自身も社会のイメージに負けることなく伝え続けていく、そんな活動を今後も続けていきたいと思います。
高橋愛実(CIL星空)
以上
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