国交省バリアフリー関係の検討会報告①「建物関係の取りまとめ 〜サイトラインの確保、当事者参画ガイドライン、建築設計標準の見直し〜」
2025年03月11日 バリアフリー
年度末となり、国交省の検討会では取りまとめ(案)が出され、新しい基準がいくつか決まっています。建物関係では、1月28日に第4回サイトラインの確保等に係る検討WG(最終)が開かれ、3月7日には第8回高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準に関するフォローアップ会議が開催されました。いくつか重要な見直しがありましたのでご報告します。
1. サイトラインの確保
劇場やスタジアム等の車椅子席の基準がまとまりました。DPIとしては、コンサート等で前の人が立ち上がっても視界を遮られることがないようにサイトラインの確保の義務付けを求めてきましたが、残念ながら義務化はなりませんでした。「建築確認申請でサイトラインが確保できているか判断できない」という理由で義務化は難しいということですが、今回新たに、省令を改正して建築確認申請書類にサイトライン等の確保を検討したか記載する欄を設けることになりました。これを含めて以下の5つの取り組みを実施して、実効性を確保するということです。
- C値等の設計手法の位置付け(建築設計標準への記載)
* C値とはサイトラインが確保できているか計算する手法です。 - 施設種別毎の詳細設計手法の策定(業界団体によるガイドライン等の策定)
- サイトライン等検証の原則化(省令を改正し、確認申請書類において、サイトライン等の設計の考え方(1、2等)の記載を要求)
- 当事者参画の推進(当事者参画ガイドラインの策定)
- 公共建築物における率先的取り組みの推進(各省営繕部局への協力依頼、各自治体への助言発出)
2. 当事者参画ガイドラインの策定
新たに「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」が策定されます。建物関係のバリアフリー整備基準は「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」というものがありますが、それの別冊となります。2020東京オリパラから当事者参画の機運が高まり、国立競技場や各地の大規模施設で多様な障害当事者の意見反映が進んできました。この取り組みをさらに推進するために今回ガイドラインが作成されることになりました。目次は以下の通りです。近々、パブリックコメントも実施される見込みです。
- はじめに:ガイドラインの目的、ガイドラインの対象となる建築物、当事者参画とは、当事者参画により期待される効果
- 基本原則:総論、当事者参画における「公平性」、当事者参画における「透明性」、当事者参画
における「効果検証」 - 当事者参画の企画:実施方針の作成等、当事者参画の方法の検討、参加者の人選、必要な工
期・予算の確保 - 当事者参画の留意事項:事業者等が留意すべき事項、当事者が留意すべき事項
- 各段階における実施内容:総論、基本構想・基本計画段階、基本設計段階、実施設計段階、施
工(初期・中期)段階、施工(最終)段階、維持管理・運営段階 - 普及促進:取組内容の共有・公表、知見の蓄積、人材育成
3. 建築設計標準の見直し
本年6月から、客席の基準(総席数の0.5%以上)、バリアフリートイレの基準(概ね各階に1以上)、駐車場の基準(1%+2台以上)の3つの義務基準が改正されます。これを受けて、建物関係のバリアフリー整備基準である「高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準」も改正されることになりました。改正のポイントは以下の通りです。
1.構成・内容の抜本的な⾒直し
○ 「標準的な整備内容」の明記
⇒従前は、推奨される整備内容について「〜することが望ましい。」と記述していたが、今回の改正において、原則として、標準的な整備内容として整理し、「〜する。」との記述に強化。
○ 設計事例や改修・改善事例のポイントの別冊化
⇒建築設計標準の改正タイミングにとらわれずに、好事例をPRしやすくするため、国⼟交通省HPに随時アップロードする。
○ 建築プロジェクトの当事者参画ガイドラインの策定
⇒建築プロジェクトにおける当事者参画を促進するため、「建築プロジェクトの当事者参画ガイドライン」を新たに策定。
○ 建築設計標準の構成のシンプル化・電子化対応の準備
⇒必要な情報に容易にたどり着けるよう、義務基準・誘導基準に相当する整備内容と標準的な整備内容が⼀目でわかる構成に変更。PDFしおりの追加。
2.バリアフリー基準の⾒直しを踏まえた内容の変更等
○ トイレ
⇒⾞椅⼦使⽤者⽤便房の複数化により、設計の考え⽅を⼤幅に変更。便房の種類を明確化した上で、⼀つの便所における機能分散・施設全体における機能分散の考え⽅を明記。⾞椅⼦使⽤者⽤便房の設置数に関する基準の記述の変更。
○客席
⇒⾞椅⼦使⽤者⽤客席の設置数に関する基準の記述の変更。サイトライン確保に係るチェック・検証⽅法に関する記述の⼤幅な充実。同伴者席について固定席ではなくスペースとして設けることを明記。
○駐⾞場
⇒⾞椅⼦使⽤者⽤駐⾞施設の設置数に関する基準の記述の変更。⾞椅⼦使⽤者⽤駐⾞施設の後部スペースの確保に関する記述の強化。
改正の内容は上記のトイレ、客室、駐車場がメインですが、それ以外にも細かいところが改正されています。DPIからはいくつか意見を出しておりますが、こちらも近日中にパブリックコメントが実施されるようです。
4. 公共建築工事における当事者参画の実施割合の目標設定
国は5年ごとにバリアフリー整備目標を設定して、整備を推進しています。これを基本方針というのですが、2026年から2030年までの第4次基本方針の議論をしています。本年5月に取りまとめられる予定ですが、建築分野で新たに「公共建築工事における当事者参画の実施割合」が目標項目に加えられることになりました。以下の記載が加わります。
当該年度に着工した2,000㎡以上の国等の公共特別特定建築物の建築工事のうち、着工前の段階(基本構想〜実施設計)で当事者参画を実施した工事の割合を目標として設定。
当事者参画の実施割合について、第4次整備目標(令和12年度時点)を原則100%とする。
これは公共建築物において、当事者参画を推進するもので、上述の1の⑤にも関係するものです。当事者参画で当事者の意見反映を目指したもので、歓迎する取り組みだと思います。
▽高齢者、障害者等の円滑な移動等に配慮した建築設計標準に関するフォローアップ会議(外部リンク)
報告:佐藤聡(事務局長)
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