7月12日(日)新幹線車椅子用フリースペース実証実験 参加報告
2020年07月17日 バリアフリー
7月12日に新幹線の実証実験を行いました。昨年末から国交省の呼びかけで、新幹線を運用しているJR5社と障害者団体で新幹線のバリアフリー化のワーキンググループ(WG)を実施しております。
このWGはこれまでに5回開催され、車いす用フリースペースのレイアウトや車内設備、切符購入・予約方法などソフトとハードの改善について話し合いを続けております。
今回はJR東海のご協力を得て、N700Sの車両を用いて車いす用のフリースペースを4席分設け、通路幅やスペース、移動の導線等について検証が行われました。
新型コロナウィルスの感染予防の観点から感染防止策を施して、人数を絞っての開催となりましたが、DPI日本会議をはじめとする障害者団体から、手動車いす、電動車いす、ハンドル型電動車いすの使用者が参加しました。
今回実証を行った配置のパターン
実証実験の様子
写真1:
今回の実証実験用に、7月から運用開始したN700Sの11号車の座席を取り外して、車椅子スペースabcdと4つ作っています。DPIは車いす席6席を提案しておりますが、今回は車両の問題で4席レイアウトでのテストとなりました。
床の白いテープ枠は1300mm×750mm。縦に2つ分のスペースを取れば2600mm確保されて、ストレッチャー型車いすも乗車できるようになっています。なお、黄色のテープはE5系のスペースで、縦がちょっと短いです。
写真右の12列AB席と13列AB席は、N700Aよりも窓に近く配置され、車椅子スペースの確保に配慮されています。このエリアの前後幅も、N700Aより広く取られています。
特筆すべきは、写真中央のデッキへ行く自動ドアです。センサーが改善されており、bやdに大きな車いすがいて動いてもドアは開きません。dで電動車いすがチルトで背もたれを倒してみたのですが、ドアは開きませんでした。
センサーの反応範囲をドア前の狭い範囲にしぼっているそうです。これはとても良く出来ており、他の新幹線でも導入してほしいなと思いました。
写真2:
手動車いす2台(aとd)、6輪の電動車いす2台(bとc)という組み合わせです。この組み合わせでは広さは十分でした。ワゴン車(幅約350mm)も余裕で通れました。
写真3:
電動車いす4の組み合わせです。この組み合わせでも通路幅は確保され、ワゴンが通れました。
ただ、aの今村さんがチルトで車いすを後ろに傾けると前後幅が足らずちょっときつい、d席が大きな車いすだと、車いすがデッキに行くのはちょっと当たるかなという感じでした。
写真4:
写真ではわからないですが、ハンドル型電動車いすの方にもご参加いただきました(c)。いろんな車いすのタイプが場所を入れ替えてテストしました。
当事者とJR各社で意見交換
実証実験の後は当事者とJR各社で意見交換を行い、主に以下の意見が出ていました。
〇良かった点
- ドアセンサーが改良され、車いすスペースで動いてもドアが反応しなかったのは素晴らしい。今後他の鉄道会社も取り入れて欲しい。
- 手動車いす同士であれば、縦に2台並んでも無理のない広さであった。
- 小型のハンドル型電動車いすも特に問題なく乗車できた。
〇さらなる議論が必要な点
- 座席に乗り移る場合、縦に電動車いすが並んでいると移乗しやすい角度に車いすを停車できず、移乗しづらい。
- 電動車いす2台が縦に並ぶと狭い。実際に前の人の背中にある荷物が後ろの人の足に当たっていた。
- E5系の寸法ではかなりきつい。足が当たったり、リクライニングを倒せない。
- 電動車いすの高さだと窓が低く、景色が見えない。
- D,E列の場合、介助者が座る座席を検討する必要あり。
- 通路の左右に車いす使用者がいた場合、出入り口付近の通路がやや狭い。声を掛け合ってずれてもらう等が想定されるが、短い停車時間の間にスムーズに出入りできるか不安。
- グリーン車にも車いす用スペースを設けて欲しい。
- 一目で車いすスペースとわかるような表示が欲しい。
〇JR各社からの回答
- 窓の大きさはこれ以上大きくすると強度が落ちて安全を確保できないため、変えられない。高さを変える場合も、電動車いすの高さに合わせると手動車いすの高さに合わない等の問題が出てくるため現状では変えられない。
- 停車時間中にスムーズに出入りできるよう、到着前のアナウンスを行う等の工夫していく。
- グリーン車に車いすスペースを作る場合、入り口幅や可動柵、車いす用トイレを作らなければならず、すぐには対応が困難。将来的な課題として検討していきたい。
- 車いすスペースとわかるような表示は今後検討していきたい。
〇感想
今回のように、障害当事者を交えた議論の場や、実際の車両を用いた実証実験はこれまでになく、非常に素晴らしい取り組みだと思いました。実証実験では図面だけでは見えてこなかった課題もあり、より具体的な検討ができました。
今後は、人工呼吸器ユーザーの車いすやストレッチャー型車いすを使った実証実験も行えるように検討していただいております。また、フリースペースを車いす何台分確保するべきかという議論も継続中です。
検討会が掲げる「世界最高水準のバリアフリー環境を有する高速鉄道の実現」を目指し、さらなる働きかけを行って参ります。
報告:工藤、佐藤(バリアフリー部会)