新型エアロエース エレベーター付きバスの視察報告
2018年08月29日 バリアフリー
2018年8月27日(月)、東京シティエアターミナル(以下T-CAT)にて、三菱ふそうトラック・バス株式会社の新型エアロエース エレベーター付きバスの視察に参加してきました。
現在、国内外で導入されているリフト付きバスは、リフトが車両の外側に飛び出すタイプです。このタイプのデメリットは、乗降場所が広くないと乗れない、乗降場所の屋根が低い場合開いたドアが当たって乗降できない、雨天時に濡れる、といった問題があります。今回の新型バスは、車両の室内にエレベーターがついているため、乗降場所が狭くても対応できる、乗降場所に屋根があっても上はドアがないので当たらない、雨が降っても濡れない(スロープに乗降している間は濡れてしまいますが)というメリットがあります。このタイプの車両は国産では初ということです。私は海外でも見たことがないので、おそらく世界で初めてではないかと思いました。
乗車方法は、ノンステップバスと同じようにスロープで車両に乗り込み、左に90度回転し(前方を向く)、リフトを上げます。そのままリフトのスペースが車いすの乗車場所となります。2台以上乗る場合は、一般の座席をスライドさせて車いすスペースをつくります(2列4席潰して車いすスペースが1つできる)。
ポイントは、乗車口の高さと、乗ってから左に90度回転できるかです。乗降口の高さは1,350mmでしたので、概ね乗車可能だと思いますが、大型の電動車いすの人は乗降口に頭があたってしまうかもしれません。リフトのスペースは、縦1,400mm☓横800mmとあまり広くなく、ここで左に90度回転しないといけないのでちょっと窮屈です。ただ、ここに工夫がありました。このスペースだけでは多くの車いすは回転できませんが、乗車したときに奥のスペースが空洞(トランク)なので、足台をそこに入れて回転できるようになっているのです。これなら、回転スペースは1,4000☓1,000 mmくらいに広がるので、大きな電動でも回転して前向きになれました。試乗した4台の車いす全員が乗車できました。
さらに工夫しているポイントは、リフトが上がった後のリフトの下のスペースはトランクになるのです。従来のリフトバスは、リフトをトランクに設置するので、どうしてもトランクスペースを減らしてしまうのですが、これはほとんど減りません。リフトは上の階(座席エリア)の車いすスペースの後ろにコンパクトに設置されていました。
なお、このリフトは従来のバスのリフトメーカー製ではなく、家庭用のリフトを作っているメーカーと開発したそうです。油圧式ではなく、棒でネジ巻き式に乗降するものです。油圧式だと油圧が切れたら落ちてしまいますが、このネジ巻き式は落ちることがなく安全なんだそうです。トラブル時は手動で回せるということでした。
写真1:乗り込む様子。スロープで乗り込んだ後に車いすの向きを90度回転させる。
写真2:ここがポイント。奥に黒いスペース見えますね。いまリフトは上に上がっていますが、リフトを下げると床面と奥の黒いスペースがフラットにつながります。そのため、あそこまで足台を入れて回転することが出来るのです。大きな車いすも回転できるように工夫してあるのです。
写真3:車いすの乗客がリフトで上がった後は通常の貨物室として使用できる。
車内の座席数は、通常は椅子席39+車いすスペース(リフト部分)1席の計40席ですが、椅子席(2人掛け×2列)をスライドさせることで新たに車いすスペースを1つ確保でき、車いす使用者は最高5台(+椅子席23)まで同時に乗ることが出来るそうです。
写真4:椅子をスライドさせる前の足元の様子。
写真5:椅子をスライドさせた後の足元の様子。
今回の視察で気になった点は、リフトが上に上がったときに車いすの横にある壁です。車いす固定装置をつけるときや、介助が必要な人はこの壁が邪魔になると思うのです。これは、乗客の転落防止のための安全策とのことでした。介助が必要な人は、リフトの上ではなく、椅子席をスライドしてつくった車いすスペースに乗車したほうがい良いと思いました。あとは、リフトの乗降は上りきるのに約1分と結構遅いです。しかし、それでも乗降にかかる時間は5分程度ということでした。
写真6:車内の様子。この車いすの後ろのスペース(十字に黄色のテープが貼られたところ)がリフトです。1台だけならここがそのまま車いす乗車スペースになります。ただ、横に取り外せない壁があり(写真左の青い壁)、介助が必要な人はこの壁がじゃま邪魔になるので、写真のように前のスペースで乗車した方が良いようです(前の座席を2列スライドさせて1台分のスペースをつくる)。
私たちからは、スロープの幅を最大にしてほしい(安全に乗降できるし、回転しやすくなる)、鏡を設置してほしい、ライトをつけてほしいといった提案をしましたが、開発担当の方は親身に聞いてくださり、今後の開発に活かしたいとおっしゃっていました。視察に同席されていた東京空港交通株式会社の増井健人社長も、今後の導入について前向きに検討しているとのことでした。
今回の視察に参加して、日々進化していく高速バスと、開発者、バス会社の皆様の並々ならぬ努力と熱意を肌で感じる事ができ、一車いすユーザーとしてとても嬉しく感じました。今後は地方にもリフト付きバスが普及し、どこにでも自由に移動できるようになって欲しいと願っています。
写真7:バス前方からの外観。
写真8:バス後方からの外観。
写真9:バスの乗降階段。
DPI日本会議バリアフリー部会 工藤登志子