【雇用労働・所得保障】DPI日本会議 総括所見の分析と行動計画⑤
2023年04月10日 雇用労働、所得保障障害者権利条約の完全実施
DPIでは、昨年9月に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見を分析し、今後改正が必要な法制度についてまとめた「DPI日本会議総括所見の分析と行動計画」を策定しました。
今回は障害者の雇用・労働・所得保障に関する「第27条 労働及び雇用」「第28条 相当な生活水準及び社会的な保障」の①総括所見と②懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)、DPIとしての評価(コメント)、③DPIの行動計画になります。
次回の建設的対話は2028年を予定しています。それまでに、総括所見で指摘された課題を1つでも多く改善できるように、取り組んで行きたいと思います。
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是非ご覧ください。
【第27条 労働及び雇用】
総括所見(外務省仮訳)
57.委員会は、以下を懸念する。
- 低賃金で、開かれた労働市場への移行機会が限定的な作業所及び雇用に関連した福祉サービスにおける、障害者、特に知的障害者及び精神障害者の分離。
- 利用しにくい職場、公的及び民間の両部門における不十分な支援や個別の配慮、限定的な移動支援及び雇用者への障害者の能力に関する情報提供等、障害者が直面する雇用における障壁。
- 障害者の雇用の促進等に関する法律に規定される、障害者の雇用率制度に関する地方政府間及び民間部門間の格差、及び実施を確保するための透明性のある効果的な監視の仕組みの欠如。
- 職場でより多くの支援を必要とする者への個別の支援サービスの利用に関する制限。
58.委員会は、一般的意見第8号(2022年)を想起しつつ、持続可能な開発目標のターゲット8.5に沿って、以下を締約国に勧告する。
- 障害者を包容する労働環境で、同一価値の労働についての同一報酬を伴う形で、作業所及び雇用に関連した福祉サービスから、民間及び公的部門における開かれた労働市場への障害者の移行の迅速化のための努力を強化すること。
- 職場の建物環境が障害者に利用しやすくかつ調整されたものであることを確保し、個別の支援及び合理的配慮を尊重し適用することに関する訓練をあらゆる段階の雇用者に提供すること。
- 障害者、特に知的障害者、精神障害者及び障害のある女性の、公的及び民間部門において、雇用を奨励し確保するために、積極的差別是正措置及び奨励措置を強化すること、及び適当な実施を確保するために効果的な監視の仕組みを設置すること。
- 職場でより多くの支援を必要とする者に対する個別の支援の利用を制限する法規定を取り除くこと。
1.懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)、DPIとしての評価(コメント)
(1)懸念
- 就労移行、就労継続A・B型といった障害福祉サービスとして提供されている現状は、隔離、低賃金といった問題があり、一般就労への移行が制限されている。(57a)
- 障害者の一般就労を困難としている障壁としては、職場環境の問題、公民双方における障害者が必要とする個別の支援が不十分または確保されていないことや障害者の能力に関する雇用者の情報不足などである。(57b)
- 障害者雇用率制度に関する公民の格差と透明で効果的な監視体制の欠如(57c)
- 障害者が働くために必要とする個別支援【パーソナルアシスタント】に関する制限。(57d)
(2)勧告
- 障害福祉サービスとして提供されている就労の場から一般就労への移行を加速させる努力を強化する。(58a)
- 職場のバリアフリーを確認し、すべての雇用者に障害者が働くために必要な個別支援と合理的配慮を尊重し適合するための研修を実施する。(58b)
- 公民において障害者、特に知的、精神障害者及び女性の障害者の雇用が促進されるための積極的是正措置の実施と効果的な監視体制を確立する。(58c)
- 障害者が職場で必要とする個別支援【パーソナルアシスタント】の利用を制限している法的規定を撤廃する。(58d)
(3)DPIとしての評価
障害者権利条約及び一般的意見第8号に基づくインクルーシブな労働市場と労働環境を推進する視点からの勧告であると評価できるが、一方でこの勧告に基づき改善を実現するためのハードルは高く、当事者運動としての取組みと関係者との連携強化及び一般就労の場の変革も求められる。
- 一般就労の場で障害者が働くために必要な個別支援【パーソナルアシスタント】を制限する法的規定の撤廃及び運用の拡大に関する指摘は、極めて適切であり、改善に向けた取り組みを後押しする勧告である。
- 障害福祉サービスとされている障害者の働く場(就労移行支援、就労継続支援A型及びB型)については、インクルーシブな雇用及び労働環境から問題の指摘は理解できるが、勧告内容を実現するためには、極めて長期的な検討と制度改正や環境整備に向けた取り組みが必要である。
- 適切な障害者雇用を進めるための監視体制を求めることは重要な勧告である。
- 法定雇用率の算定対象となる障害者の範囲の拡大、除外率制度の廃止、賃金の減額措置制度や一般就労の場の働き方の見直し及びキャリアアップの積極的是正措置の導入が勧告に盛り込まれなかったのは残念である。
- 特に障害者の範囲は、障害者雇用率の算定範囲以外にも障害者手帳の交付や年金・手当の支給要件等、医学モデルを基本としているが、今回は、懸念事項としての指摘に留まっており、人権モデル、社会モデルとしての勧告が必要であった。
なお、勧告が出されていない課題については、各一般的意見及び他条文での関連する内容の勧告の解釈を根拠として国内施策を改善するために取り組む。
【第28条 相当な生活水準及び社会的な保障】
総括所見(外務省仮訳)
59.委員会は、以下を懸念する。
- 障害者及びその家族の相当な生活水準を利用する機会を確保するための、障害に関連する費用を負担するための規定を含む、社会的な保障形態が不十分であること。
- 市民の平均所得に比べて、障害年金が著しく低額であること。
- 民間及び公共住宅の利用の容易さ(アクセシビリティ)を確保する基準に関する限定的な進捗。
60.本条約第28条及び持続可能な開発目標のターゲット1.3の関連性を考慮し、委員会は以下を締約国に勧告する。
- 障害者、特により多くの支援を必要とする者に対して、相当な生活水準を保障し、障害に関連する追加費用を負担するために、社会保障制度を強化すること。
- 障害者団体と協議の上で、障害年金の額に関する規定を見直すこと。
- 民間及び公共住宅に適用される法的拘束力のある利用の容易さ(アクセシビリティ)基準を定めること、及びその実施を確保すること。
1.懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)
(1)懸念
- 障害者及びその家族に対する所得補償が不十分である。(59a)
- 障害年金は国民の平均所得と比較して著しく低い。(59b)
- 公民住宅に対する法的バリアフリー基準が限定的である。(59c)
(2)勧告
- 障害者に適切な生活水準と障害関連費用を保障できる所得補償を改善する。(60a)
- 障害者団体との協議に基づき障害年金を見直す。(60b)
(3)DPIとしての評価
- 支給金額の見直しと見直しにあたって障害者団体との協議を明記したことは評価できる。
- 所得保障の見直しは、極めてハードルが高いが、総括所見とこの間の雇用と福祉の連携に関する検討会で必要性が話題となったことから関係団体とも連携した取り組みを進めたい。
- 公営住宅の「自活可能な者」とする入居要件の撤廃、無年金障害者の救済、生活保護基準の引き下げへの個別課題として明確な勧告がないことは残念である。
2.法律・制度・施策の改善ポイント
(1)障害者基本法
- 障害者への雇用及び労働の場での差別や合理的配慮が提供されない場合の相談と指導を盛り込む。(58a)
- 調査は、法定雇用率の達成状況のみならず、募集、採用方法、労働・職場環境及び雇用形態や相談・支援体制の確保に関する状況も含める。(58a)
- 一般就労を目的とする労働施策である障害者職業能力開発校と福祉施策である就労移行支援と就労継続支援A・B型の格差を是正し、整合性を確保する。(58a)
- 国及び地方公共団体については、「障害者の優先雇用」以外に「障害の特性に応じた必要な合理的配慮と労働条件及び職場環境等の整備」も盛り込む。(58a)
- 事業主の責務とするとともに(「努める」の削除)、適正な雇用管理」の前文として「合理的配慮の確保」を盛り込む。(58a)
- 「障害者、特に知的、精神障害者及び女性の障害者の雇用が促進されるための積極的差別是正措置の実施と効果的な監視体制を確立する。」を条文として盛り込む。(58c)
- 国民の平均所得を考慮して障害基礎年金の支給額を拡充する。(60a)
- 手当については、障害者の地域移行や集中的な支援が必要な状況等を踏まえて、手当の趣旨及び支給額を見直す。(60a)
(2)障害者雇用促進法
- 障害者の範囲については、第2条「用語の意義」では限定的なため、障害者基本法第2条の「定義」で定める範囲とする。
· 総括所見パラ7(b)で「 より多くの支援を必要とする者及び知的障害者、精神障害者、感覚障害者の障害手当及び社会的包容形態からの排除を助長する法規制及び慣行に亘る障害の医学モデル(機能障害及び能力評価に基づく障害認定及び手帳制度を含む)の永続。」と記載されているため。 - 第2条「用語の意義」の第2項から第6項では、具体的に法対象とする障害を明記していることから、記載されていない発達障害及び第1項の「その他の心身の機能の障害」も明記する。(7b)
- 第2条第1項の「その他の心身の機能の障害」については、障害者基本法第2条第2項に基づき社会モデルとしての視点で定める。(7b)
- 対象とする障害者の範囲の拡大については、法定雇用率に反映する。
- 雇用の安定を事業主の努力義務から義務にするとともに職場のバリアフリーの確認と雇用者への研修の受講も条文とする。 (58b)
- 実施する研修については、障害者を雇用するにあたっての基本的な考え方と合理的配慮等として障害種別を超えた障害当事者を講師とする。なお、障害については、難治性疾患も含めることとする。(58b)
- 以下の通り障害者雇用に必要な個別支援の利用制限の法的規定の撤廃し支援メニュー等を改善及び充実する。 (総括所見58d)
・ 職場介助者等の人的支援メニューの適用上限(10年)を撤廃する。
・ 駐車場や住宅の借り上げなどの適用要件を、実態を踏まえた利用しやすいものに見直す。併せて上限についても見直す。
・ バリアフリーな職場環境の整備を進めるための施策を拡充する。
・ 中小企業向けの支援や環境を整備するための助成を拡充し、負担を軽減する措置を強化する。
・ 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構が発行している「職場定着推進マニュアル」は、視覚・聴覚・知的障害のみがあるが、他の障害(肢体・精神・発達・難治性疾患)も作成するとともに、女性の障害者の状況も踏まえる内容とする - 障害者雇用に関する監視体制の確立を条文として新設する。 なお、監視体制については、以下に留意して確保する。(総合所見58c)
・ 監視体制は、当面、障害者政策委員会が担い、将来的には、国内人権機関の地位に関する原則(パリ原則)に基づき設置する。
・ 監視は、障害者雇用促進と雇用率の達成のみならず、適切な採用試験の実施と労働及び職場環境の整備、インクルーシブな雇用形態と相談及び支援体制の確保等、障害者が安心・安全・安定して働き続けることができ状況も含める。
・ 差別を受けたときや合理的配慮が確保されない状況に対する実効性のある相談支援体制(調整機能を含め)の確保と救済機関を設置する。
(3)国民年金法
- 障害年金受給者に課せられている所得制限を廃止する。(60a)
- 国民の平均所得を考慮して障害基礎年金の支給額を拡充する。(60a)
- 特別障害給付金の支給を受けている障害者は、障害基礎年金の支給対象とする。(60a)
- 特別障害給付金支給法により救済できなかった無年金障害者も障害基礎年金の支給対象とする。(60a)
(4) 障害者総合支援法
- 就労移行支援、就労継続支援A/B型から一般就労への移行を加速するために以下の取組みを進める。(58a)
・ 障害種別(身体・知的・精神・発達、難治性疾患)に対応した「就労移行支援プログラム」と「一般就労支援体制」及び「職場・労働環境の整備」の標準化・普及を図る。
・ 重度訪問介護等の障害福祉サービスと職場介助者等による雇用施策による障害者への支援メニュー及び就労支援特別事業を検証し、一般就労における障害者支援を充実する。 - 重度訪問介護等の障害福祉サービスを通勤や職場における利用制限を撤廃して通勤や職場においても利用可能とする(58d)
- 助成・手当等の見直し(60a)
· 障害者が地域生活を実現するための支度金及び住宅確保と必要な改修等の経費とする。
· 地域生活を継続するための家賃補助とする。
· 転居等にあたっては、転居にかかる経費と住宅の現状回復にともなう経費とする。
· その他、障害に基づき必要な経費とする。
· 支給対象とする障害については、社会モデルの視点に基づき定める。
(5) 同等の価値の仕事に対して同等の報酬を受けられる。(総括所見58a)
- 生産性と能力主義に基づく労働市場の現状を踏まえて、当面は、低賃金の障害者に対する賃金補填制度を制定する。
- 特に格差を是認する賃金の減額措置制度が適用される場合は、当面は、賃金補填制度により必要な賃金レベルを確保する。
- 「同一労働、同一賃金(量と質において同じ価値をもつ労働)」については、能力及び生産性によらない人権モデルに基づくあり方を検討・発信する。
(6) 「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020-2025)
- 第2章 2.分野別行動計画 ⑴ 横断的事項 オ.法の下の平等(障害者,女性,性的指向・性自認等)・障害者雇用の促進の実施にあたってBHRC(ビジネスと人権市民社会プラットフォーム)と連携して意見を反映する。
総括所見を受けての短期、中期行動計画
(1)短期 2022‐24年
- 就労支援特別事業(以下、就労支援特別事業等)を検証する。
- 障害者総合支援法に基づく障害福祉サービスの利用制限を撤廃する。
- 厚生労働省に障害者雇用施策に関する改善を求める意見交換を実施する。
- インクルーシブ雇用議連市民側との認識の共有と市民側の取組みに反映する。
- 「ビジネスと人権」に関する行動計画(2020ー2025)の実施に関してBHRC(ビジネスと人権市民社会プラットフォーム)と連携して意見を反映する。
- 労働組合(連合、自治労)との意見交換の実施と連携した取組みを進める。
(2)中期 2025-27年
- 障害者雇用促進法を改正する。
- 厚生労働省が設置している労働政策審議会障害者雇用分科会及び社会保障審議会障害者分科会に加盟団体及び連携組織を通じて意見を反映する。
- 関係団体(インクルーシブ雇用議連市民側、BHRC、連合、自治労)との連携を強化した取組みを引き続き進める。
(3)長期 2028‐30年
- 2028年に実施予定の建設的対話へDPI日本会議としてのパラレルレポートを作成する。
- 一般就労は、障害者に何ができるのかという医学モデルではなくて、障害者が力を発揮するために必要な職場環境や労働条件等を確保するという社会モデルと人的支援等を確保する人権モデルの視点に基づく見直しに取組み、インクルーシブな雇用の実現をめざす。
以上