【報告】インクルーシブな子ども時代づくりプロジェクト 2019年度第1回勉強会
2019年07月30日 インクルーシブ教育
障害のある子どもの幼稚園・保育園・放課後の過ごし方について、実態調査を進めている「インクルーシブな子ども時代づくりプロジェクト」(キリン福祉財団助成事業)について、2019年度第1回目の勉強会を行いました。
第1回は、ダウン症のお子さんを持つ家族の会であるNPO法人アクセプションズから4名の講師をお迎えして、6月26日(水)に勉強会を開催しました。
アクセプションについて
アクセプションズはダウン症のお子さんと家族の関わり、社会とのかかわりを変えるために、勉強会やダウン症のお子さんと家族、その他だれもが参加するパレードなどを開催しています。
「アクセプションズ」は「受容する」「社会モデル」「インクルージョン」を掛け合わせた造語です。
ともすればどれか一つの言葉で語ってしまいがちですが、この三つをしっかり織り込んだところにアクセプションズの方々の信念が伝わってきます。
「『ダウン症に理解を』ではだめ。みんなが楽しい社会をでなければ。」
代表の古市理代さんのこの言葉に、アクセプションズの理念が込められています。
講師のお話から
4名の講師のお話から、保育園から高校、特別支援学級、普通級在籍まで多様なお子さんたちと彼・彼女たちを取り巻くみなさんのお話を聞くことができました。
「保育園では、最初こそ障害のあるクラスメートを怖がっていた友達が、だんだん慣れていった」
「母親が学校に付き添うと周りの子どもから『お母さんがいると甘えちゃうから帰って』と言われた」
「特別支援学校を勧める親に対して息子が『特別支援学校は女の子がいないからつまらない』と言ったり 笑」
というエピソードなど、一人ひとりの個性溢れる生の声を聞くことができました。
このように、「豊かさ」を大切にできるインクルーシブな制度は、一人ひとりのストーリーから作られるべきだと感じました。
制度としての課題
この学習会では、制度ベースで考えるべき課題も明らかになりました。
特別支援教育支援員の運用
幼稚園、小中高等学校に日常生活の補助を目的に配置される特別支援教育支援員ですが、お一人の講師の方の区では知的障害の子どもは対象ではなかったり、学習支援は認められないという運用実態があったようです。
いずれも交渉の末に実現されたとのことですが、制度の縛りではなく、実際にいかにして共に学ぶ環境を作るか、という視点で「現場に即した柔軟な運用ができる仕組み」を早急に検討しなければならないでしょう。
移動支援、通学支援、放課後などの居場所
講師のおひとりが関わっている文京区の特別支援学級連絡協議会は、特別支援学級の保護者の連絡会です。
この会で文京区が区民に実施した「子育て実態調査」と同じ内容のアンケートを障害児を持つ世帯に限定して実施したところ、「子育てを負担に感じる」という回答が6割近くあり、区全体の回答よりも2倍近く高かったそうです。
その原因は社会からの孤立、子どもを預ける先がないために働けない、といったことが要因でした。
学校までの通学支援や移動支援、放課後に友達と過ごせる場をどのように制度として作るかが大きな課題です。
評価と高等教育進学
もう一つ明らかになった課題は、知的障害のある子どもたちの評価や進学にあたっての合理的配慮をどのように考え、実現していくかです。
障害のない子どもたちと同じ基準を適応して成績をつけられるのは「間接差別」と考えられます。
その子に合った伸ばし方と評価をどのようにするかが今後の課題です。
評価の問題が特に明確に表れるのが、高校進学です。
定員割れの高校を目指して受けるというお話を聞きましたが、果たして本当にそれは公平であるといえるのか。これは、教育制度自体から考えるべき課題です。
親の交渉力
最後に取り上げる課題は、親の交渉力で障害児の教育が決まってしまうというところです。
講師の方々は行政や学校と交渉しつつ、普通学級への在籍、特別支援員による学習サポート等を実現してきましたが、親の交渉力次第で子どもの教育環境が決まってしまうため、基礎的環境整備が大切だ、とのお話がありました。
公的な制度を考えるとき、やはり交渉できる状況にない親、子どもを最初から想定しなければ、真のインクルーシブな制度は実現できないのです。
最後に
講師の方々は、「先生とのお話、特にコミュニケーションが重要」と皆さん口をそろえていました。
「インクルーシブな子ども時代」を実現するには、目指すところをしっかり持って、誰もがが共に子どもの成長を喜びあえるコミュニケーションが不可欠だということを、勉強会とその後の懇親会で教えていただきました。
DPI日本会議のインクルーシブ子ども時代プロジェクトは、このような最前線でインクルーシブな子ども時代を切り拓く方々と今後も継続的に連携し、インクルーシブな子ども時代づくりのために何ができるかを追求するため、今年度もまい進していきます。
(プロジェクト委員 福地健太郎)