【インクルーシブ教育】DPI日本会議 総括所見の分析と行動計画④
2023年04月07日 インクルーシブ教育障害者権利条約の完全実施
DPIでは、昨年9月に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見を分析し、今後改正が必要な法制度についてまとめた「DPI日本会議総括所見の分析と行動計画」を策定しました。
今回はインクルーシブ教育に関する「第24条 教育」「第7条 障害のある子ども」の①総括所見と②懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)、DPIとしての評価(コメント)、③DPIの行動計画になります。
次回の建設的対話は2028年を予定しています。それまでに、総括所見で指摘された課題を1つでも多く改善できるように、取り組んで行きたいと思います。
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是非ご覧ください。
【第24条 教育】
総括所見(外務省仮訳)
51.委員会は、以下を懸念する。
- 医療に基づく評価を通じて、障害のある児童への分離された特別教育が永続していること。障害のある児童、特に知的障害、精神障害、又はより多くの支援を必要とする児童を、通常環境での教育を利用しにくくしていること。また、通常の学校に特別支援学級があること。
- 障害のある児童を受け入れるには準備不足であるとの認識や実際に準備不足であることを理由に、障害のある児童が通常の学校への入学を拒否されること。また、特別学級の児童が授業時間の半分以上を通常の学級で過ごしてはならないとした、2022年に発出された政府の通知。
- 障害のある生徒に対する合理的配慮の提供が不十分であること。
- 通常教育の教員の障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する技術の欠如及び否定的な態度。
- 聾(ろう)児童に対する手話教育、盲聾(ろう)児童に対する障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を含め、通常の学校における、代替的及び補助的な意思疎通の様式及び手段の欠如。
- 大学入学試験及び学習過程を含めた、高等教育における障害のある学生の障壁を扱った、国の包括的政策の欠如。
52.障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に対する権利に関する一般的意見第4号(2016年)及び持続可能な開発目標のターゲット4.5及び4(a)を想起して、委員会は以下を締約国に要請する。
- 国の教育政策、法律及び行政上の取り決めの中で、分離特別教育を終わらせることを目的として、障害のある児童が障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を受ける権利があることを認識すること。また、特定の目標、期間及び十分な予算を伴い、全ての障害のある生徒にあらゆる教育段階において必要とされる合理的配慮及び個別の支援が提供されることを確保するために、質の高い障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する国家の行動計画を採択すること。
- 全ての障害のある児童に対して通常の学校を利用する機会を確保すること。また、通常の学校が障害のある生徒に対しての通学拒否が認められないことを確保するための「非拒否」条項及び政策を策定すること、及び特別学級に関する政府の通知を撤回すること。
- 全ての障害のある児童に対して、個別の教育要件を満たし、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)を確保するために合理的配慮を保障すること。
- 通常教育の教員及び教員以外の教職員に、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)に関する研修を確保し、障害の人権モデルに関する意識を向上させること。
- 点字、「イージーリード」、聾(ろう)児童のための手話教育等、通常の教育環境における補助的及び代替的な意思疎通様式及び手段の利用を保障し、障害者を包容する教育(インクルーシブ教育)環境における聾(ろう)文化を推進し、盲聾(ろう)児童が、かかる教育を利用する機会を確保すること。
- 大学入学試験及び学習過程を含め、高等教育における障害のある学生の障壁を扱った国の包括的政策を策定すること。
1.懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)、DPIとしての評価(コメント)
(1)懸念
- 医学モデルに基づく、特別支援学校への隔離がいまだに継続していること。(51a)
- 知的・精神、重度の障害者にとって、地域の学校の利用が難しい状況にあること。(51a)
- 地域の学校に通っていても、学籍が違う特別支援学級があり、学校内での隔離が行われていること。(51a)
- 地域の学校が、物理的・人的な環境整備が不十分なことを理由に、就学ができていないこと。(51b)
- 27文科省通知で、特別支援学級籍の場合、半分以上の授業時間を特別支援学級で行わなければならないと示されていること。(51b)
- インクルーシブ教育を進めていくための、合理的配慮が不十分であること。(51c)
- インクルーシブ教育、障害の人権モデル/社会モデルの考えが教員に理解されておらず、そのスキルがないこと。また医学モデルを基本とした教育が長く続いており、それが標準的と考える教員が多いこと。(51d)
- 通常の学校で、手話教育や点字等の準備が十分に保障されていない。また盲ろう者に対する理解含めて、地域の学校での学びが保障されていない。(51e)
- 大学入試、また入学後の学びにおける合理的配慮について、国レベルの政策が策定されていない。(51f)
(2)勧告
- 分離教育(現在の特別支援学校を含む多様な学びの場の整備)を止めるために、障害者が地域で学ぶことを権利として認め、すべての教育段階において、障害のない者と同じ場で学べるよう、教育制度そのものを大きく変更し、合理的配慮と個々への支援を保障すること。そのための予算の計上を伴った、国としての計画をつくること。(52a)
- すべての障害児が、地域の学校に入れるよう、受け入れ拒否を禁止することを明文化すること。(高校入学を含める)(52b)
- 特別支援学級籍の、隔離時間数についての撤回。(52b)
- インクルーシブ教育を進めていくための、合理的配慮を保障すること。(52c)
- 管理職を含むすべての教職員、学校に関わるすべての職員に対するインクルーシブ教育の研修を行い、人権モデル/社会モデルの啓発を進めること。(52d)
- 点字や、わかりやすい版などの教材の作成。幼少期からの手話教育などろう文化の促進を進めること。盲ろうの児童が地域の学校で学べるよう、さまざまなコミュニケーション手段の使用を保障すること。(52e)
- 大学入試および大学等入学後の、環境整備・合理的配慮の提供について、計画を作ること。(52f)
(3)DPIとしての評価
以下に見られるよう、適切な勧告と評価できる。
- 19条と同様に勧告よりも強い表現である「強い要請」という文言が使用されており、フォローアップ事項でも「取るべき緊急の措置」として取り上げられている。
- 特別支援学校を含む多様な学びの場を整備する「インクルーシブ教育システム」の欺瞞性を見抜き、分離教育を止めることを明確に示している。
- 本人保護者の意向があっても、地域の学校へ就学ができない場合がある状況を把握し、就学拒否を禁じる方策を策定することを示している。関連して2022年4月の文科省通知の撤回を示している。
- 地域の学校で学ぶための環境整備や合理的配慮の提供を、充分に行うよう示している。
【第7条 障害のある子ども】
総括所見(外務省仮訳)
17.委員会は、以下を懸念をもって注目する。
- 母子保健法で規定される早期発見及びリハビリテーションの制度が、(医学的検査に基づく)障害のある児童を社会的隔離へと導き、障害者を地域社会から疎遠にさせ、障害者を包容する生活の展望を妨げていること。
- 児童福祉法を含む全ての関連法において、障害のある児童が聴取され、自己に影響を及ぼす全ての事項について、自由に自己の意見を表明する権利についての明確な認識が欠如していること。
- 家庭、代替的ケア及びデイケア環境において、障害のある児童を含む児童への体罰が完全に禁止されておらず、障害のある児童に対する虐待及び暴力を予防し保護するための対策が不十分であること。
18.児童の権利委員会及び障害者権利委員会による障害のある児童に関する共同声明(2022年)に関連し、委員会は締約国に以下を勧告する。
- 全ての障害のある児童の完全な社会包容の権利を認識するために既存の法律を見直し、他の児童と対等に、障害のある児童が幼少期から一般の保育制度を完全に享受することを確保するため、ユニバーサルデザイン及び合理的配慮(特に、代替的及び補助的な意思疎通の手段)を含む、全ての必要な措置を実施すること。
- 司法及び行政手続をはじめとする手続において、障害のある児童が他の児童との平等を基礎として、自己に影響を及ぼす全ての事項について自由に自己の意見を聴取され、表明する権利と、自己の権利を実現するために障害及び年齢に適した支援と意思疎通を、利用しやすい形態で提供される権利を認識すること。
- あらゆる環境における、障害のある児童を含めた児童の体罰を完全にかつ明示的に禁止し、障害のある児童に対する虐待及び暴力の防止及び虐待及び暴力からの保護に係る措置を強化すること。
1.懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)
(1)懸念
- 早期発見・早期療育システムは、幼少期から障害の軽減克服をめざす訓練を中心とするなど、社会的隔離の原因となっており、地域社会で生活することを前提にした、人生の見通しを立てることを妨げている。(7a)
- 児童福祉法を含む関連法で、障害のある子どもたちの意見を聞く仕組み、自由に意見を表明する権利について、その必要性への認識が欠如している。(7b)
- 家庭や代替施設、福祉サービス等において、体罰が禁止されていないこと。虐待や暴力からの予防・保護の仕組みが不充分であること。(7c)
(2)勧告
- 地域の学校への就学など、地域社会で生活することを前提にした、インクルーシブな幼少期を過ごすため、現在の社会的隔離をなくすよう法律を見直すこと。他の子どもと平等に、一般の保育制度を利用できるような措置を講じること。(8a)
- 司法・行政手続きを含め、他の児童と平等に、自分に関することについて、意見聴取されることや、自由に意見表明ができる権利を認め、障害・年齢に応じた支援を受けられる権利があること。(8b)
- 障害のある子どもを含むすべての子どもへの体罰を、完全かつ明確に禁止し、虐待や暴力の予防と保護の対策を強化すること。(8c)
(3)DPIとしての評価
現在の療育が医学モデルで行われていることの問題性、障害のある子ども本人の意見表明の仕組みがないこと、体罰の禁止や虐待防止の対策の強化などを、明確に示していることから、適切な勧告と評価できる。
2.法律・制度・施策の改善ポイント
(1)障害者基本法の改正
- 教育(16条)
・分離教育を見直しインクルーシブ教育が進むような内容にする必要がある。「障害者である児童及び生徒が障害者でない児童及び生徒と共に教育を受けられることを原則とする」こと、また「合理的配慮の提供」を明記することが必要である。
・人権モデル/社会モデルを基本的考えとすることを明らかにするため「年齢および能力に応じ」「可能な限り」等、制限を加えるような文言は削除する必要がある。
・第2項においては、可能な限り意向を尊重ではなく、意向を尊重しなければならい、とすべき。 - 療育(17条)
・項目として、「療育」ではなく「就学前の支援」等にし、身近な地域で人権モデル/社会モデルの考え方に即した、支援を受けられるような施策を講じるようにする必要がある。
(2)教育基本法の改正
- 教育基本法第4条第1項(教育の機会均等)で教育上差別されない例示に「障害」を明記すること。
(3)学校教育法、学校教育法施行令の改正
- 障害の人権モデル/社会モデルの導入
・学校教育法第72条・第81条にある「障害による学習上又は生活上の困難を克服するため」という医学モデルの文言を撤廃し、人権モデル/社会モデルを位置付けていくこと。あわせて学習指導要領を改定し、インクルーシブ教育や合理的配慮を明記すること。 - 学校教育法施行令5条
・就学の仕組みにおいて、その決定権を教育委員会ではなく、本人保護者とすること。
・当面の取り組みとして、地域の学校(通常学級)への就学通知の発出を各自治体で行わせること。
・就学において意向が尊重されない場合のため、救済の仕組みを創設すること。 - 学校教育法施行令22条3項(障害の程度)を撤廃すること。
(4) 障害者虐待防止法の改正
- 学校における教職員による虐待行為を通報義務の対象とすること。
(5) 障害者差別解消法の改正
- 各則規定を設け、地域の学校への就学拒否を差別事案として明記すること。
- 合理的配慮の過重な負担について、教育分野について適用除外すること。
(6) 学校バリアフリーの推進
- 将来的に目指す姿と示される「障害等の有無にかかわらず、誰もが支障なく学校生活を送ることができる環境が整備されていること」を実現させること。
- 当面2025年度末までの緊急かつ集中的に整備を行う目標を達成するよう、国・自治体へ働きかけを続ける。
(7) 合理的配慮の提供
- 学びの場によって教員配置をするのではなく、そのニーズに応じた合理的な教員配置制度を実現すること。
- すべての障害のある児童生徒が、同じ教室で学ぶことができるよう教材の改良・開発を行うことや、学習支援員や看護師などの配置を行うこと。
- 合理的配慮の過重な負担について、教育分野について適用除外すること。(再掲)
(8) 4.27文科省通知の撤回
- 通常学級籍・特別支援学級籍のどちらかを選択すること自体がインクルーシブ教育ではなく、通知そのものの撤回を求める。
- 当面、現在の通常学級での学びが継続されるよう、今までと同じ人的・物的体制を保障するよう、文科省・自治体教育委員会への要望を強めていく。
(9) すべての障害のある生徒の普通高校入学
- 特別支援学校高等部ではなく、障害があるすべての生徒が高校に入学できるようにすること。
- 当面、受検者が定員に満たない場合は、不合格者を出さない取り組みを各地で進める。
(10) 就学奨励費の格差是正
- 特別支援学校に在籍する場合と、特別支援学級・通常学級に在籍する場合の格差を是正すること。
(11) 教員配置の変更、普通学級定員数の縮小
- 現行の学級設置による教員配置ではなく、支援の必要性に則した合理的な教員配置制度に改変すること。
- 普通学級が過度な競争にさらされ、障害児を含む社会的弱者の居場所がなくなっていることの改善が必要であり、普通学級定員を25名以下にすること。
(12) 大学
- 大学入試および大学等入学後の、環境整備・合理的配慮の提供について、計画を作ること。(52f)
- 大学についても、希望するすべての生徒を受け入れ、人員の配置や教材の改良・開発を行い、障害に関わらず学べるようにしていくこと。
(13) 保育
- 1歳半・3歳などの法定検診や各自治体で行われる任意の検診を医学モデルによる分離を前提としたアプローチに変えて、人権モデル/社会モデルをベースにし、インクルーシブな社会に幼少期から参加できるための、早期検診や療育の仕組みをつくること。
- 障害のある子どもとない子どもが分けられずに同じ場で保育を受けることができるインクルーシブ保育制度の創設。
- 意思決定支援の具体的方策の確立
(14) その他
- 計画を策定し、特別支援学校・特別支援学級の人数を少なくしていくこと。
- 管理職を含むすべての教職員、学校に関わるすべての職員に対するインクルーシブ教育の研修を行い、人権モデル/社会モデルの啓発を進めること。
総括所見を受けての短期、中期行動計画
(1)短期 2022‐24年
- 障害者基本法の改正
- 4.27文科省通知の撤回
(2)中期 2025-27年
- 学校バリアフリーの推進
- 就学奨励費の格差是正
- 学校教育法施行令の改正
- 障害者虐待防止法の改正
- 障害者差別解消法の改正
(3)長期 2028‐30年
- すべての障害のある生徒の高校入学
- 教員配置の変更
- 学校教育法の改正
- 教育基本法の改正
以上