ジュネーブ訪問の報告を聞いて
~ノルウェー政府との建設的対話の瞬間~
2019年04月23日 障害者権利条約の完全実施
去る4月13日(土)に第6回DPI日本会議常任委員会が開催され、17時より学習会があり、ヒューマンケア協会の降幡さんが講師でした。テーマは、日本でも来年に迫っている国連障害者権利委員会による審査の最終プロセス、3月に行われたノルウェー政府との建設的対話の一連のやり取りを傍聴されてきたということでその報告でした。
私は、ジュネーブというと、自然豊かなスイスの風景と国連という厳かな所を想像するくらいで多少の憧れはあるものの、自分には縁遠い場所という印象でした。
今回、降幡さんは、JDF視察団の一員として訪問され、3月24日から2泊3日という強硬スケジュールでスイス・ジュネーブの欧州国連本部に訪れ、傍聴はもちろん特に審査を行う上で重要な要素としてノルウェー市民社会連帯(以降「CSO連帯」という。)といった日本で言うとJDFのような組織との交流、そして権利委員との情報交換が主な目的で、多少のプライベートはあったとおっしゃっていましたが、通訳も兼ねていたはずなので、とても大変だったのではないかと推察します。
さて、建設的対話と聞くと良く分からなかったのですが、降幡さんによると建設的対話は、国連審査の6番目(最後)に位置しています。日本は、現在2番目で、パラレルポートが間もなく完成予定とのことなので、いよいよ国連の審査がスタートしていきます。
建設的対話は、計2日間で行われ、前半3時間・後半3時間ずつという限られた時間で1条から33条を矢継ぎ早に質問と回答を繰り返し行われるとのことです。ノルウェーでは、この前後に審査に大きく左右するであろう取り組みがありました。建設的対話の間際に権利委員との90分に渡るブリーフィングの他、開催中のダイレクトメール、国別報告者にも直接聞き取りを行っていたこと、CSO連帯のメンバーの自立生活センターULOBAが中心に開催したサイドイベントでは、建設的対話での焦点をテーマとした講演会等があり、権利委員も参加し、質疑応答をするなど印象を強めていた。まさに限られた時間の中で国際障害同盟(以降「IDA」とする。)とCSO連帯とがしっかりとタッグを組み、政府の真の回答を上手に引き出そうとしていたという点が素晴らしいと感じました。
今回、ノルウェーでの建設的対話の大きな論点で印象に残ったのは、12条の「法律の前に等しく認められる権利」、14条「身体の自由および安全」、25条「健康」の3つにおいて共通している項目、「代理意思決定」、「拘束」、「強制治療を最後の手段として認めている」とする解釈宣言に対する批判でした。しかし、ノルウェー政府は、批判を受けても、頑なに撤回しないという姿勢で最後まで崩れなかったそうです。人権先進国であるノルウェーでこういった状況であることに大変驚きました。その理由について降幡さんは、ノルウェー政府は、国内の裁判で最終的手段として認められていた為で、最高裁と障害者権利条約(CRPD)がぶつかっているといった状況の様で、政府の関係者の中でもどう調整すれば良いかという状況だったと現地の様子から語られていました。
ノルウェーの現状と比べ、人権の発展途上国の我が国では、どのような状況になっていくのか非常に不安があります。仮に日本が同様の指摘をされたらどうなるのでしょうか。降幡さんの話を聞いて恐ろしくなりました。例えば、成年後見制度は、無くなるどころか政府が促進を促していたり、精神病院は、世界で類を見ない数が未だにあり、身体拘束も無くなっておりません。それから日本で改善すべき点は多々あり、DPIでは特に力を入れている19条「自立した生活及び地域社会への包容」と24条「教育」については、JDFの中でも意見が分かれる点であり、果たして効果的な共通項が見つかるのか非常に疑問を感じずにはいられません。
いよいよ2020年が近づいてきました。JDFで作成したパラレルポートが出され、のちに事前質問事項(LOI)が出てくる予定です。今回の報告を糧に、ノルウェーの運動に習い、日本でも権利委員への働きかけを強め、IDAとの連携や国別報告者に直接的にアプローチして、我が国を世界水準にしていかなければいけません。降幡さんからも実際に現地に行かないと得られなかった情報が沢山あるということでしたので、しっかり勉強し、みんなでジュネーブに行きましょう!
岡本 直樹 (DPI日本会議 特別常任委員、CILふちゅう 代表)