【第1-4条一般原則と義務】DPI日本会議 総括所見の分析と行動計画⑨
2023年04月17日 障害者権利条約の完全実施
DPIでは、昨年9月に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見を分析し、今後改正が必要な法制度についてまとめた「DPI日本会議総括所見の分析と行動計画」を策定しました。
今回からDPI各部会に横断的に関連する条文の①総括所見と②懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)、DPIとしての評価(コメント)、③DPIの行動計を掲載します。
本記事は「第1-4条 一般原則と義務」です。
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【第1-4条 一般原則と義務】
総括所見(外務省仮訳)
7.委員会は、以下を懸念する。
- 障害者への温情主義的アプローチの適用による障害に関連する国内法制及び政策と本条約に含まれる障害の人権モデルとの調和の欠如。
- より多くの支援を必要とする者及び知的障害者、精神障害者、感覚障害者の障害手当及び社会的包容形態からの排除を助長する法規制及び慣行に亘る障害の医学モデル(機能障害及び能力評価に基づく障害認定及び手帳制度を含む)の永続。
- 「mentally incompetent(心神喪失)」、「mental derangement(精神錯乱)」、「insanity(心神喪失)」等の侮蔑的な用語及び「physical or mental disorder(心身の故障)」に基づく欠格条項等の差別的な法規制。
- 特に、「inclusion」、「inclusive」、「communication」、「accessibility」、「access」、「particular living arrangement」、「personal assistance」、「habilitation」等条約上の用語の不正確な和訳。
- 移動支援、個別の支援【パーソナルアシスタンス】及び意思疎通支援を含む、地域社会における障害者への必要なサービス・支援の提供における地域及び地方自治体間の格差。
8.委員会は、締約国に対して以下を勧告する。
- 障害者、特に知的障害者及び精神障害者を代表する団体との緊密な協議の確保等を通じ、障害者が他者と対等であり人権の主体であると認識し、全ての障害者関連の国内法制及び政策を本条約と調和させること。
- 障害認定及び手帳制度を含め、障害の医学モデルの要素を排除するとともに、全ての障害者が、機能障害にかかわらず、社会における平等な機会及び社会に完全に包容され、参加するために必要となる支援を地域社会で享受できることを確保するため、法規制を見直すこと。
- 国及び地方自治体の法令において、「physical or mental disorder(心身の故障)」に基づく欠格条項等の侮蔑的文言及び法規制を廃止すること。
- 本条約の全ての用語が日本語に正確に訳されることを確保すること。
- 移動支援、個別の支援及び意思疎通支援を含め、地域社会において障害者が必要とするサービス・支援の提供における地域及び地方自治体間の格差を取り除くために、必要な立法上及び予算上の措置を講じること。
9.委員会は、更に以下を懸念する。
- 全国障害者協議会、地方自治体及び地方自治体間の委員会により実施された施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)に関する協議を含め、法律や公共政策に関する協議における障害者を代表する団体を通じた障害者の参加が不十分であること。
- 主に社会における優生思想及び非障害者優先主義により2016年に相模原市津久井やまゆり園で発生した殺傷事件に対して、包括的な対応がなされていないこと。
- 国や各地方自治体での司法及び裁判部門の専門家、政策決定者及び議員並びに教員、保健医療関係者、建築設計関係者、ソーシャルワーカー及びその他障害者に関わる専門家の間で、本条約において認められている権利の認識が限定的であること。
10.委員会は、本条約第4条3及び第33条3に関する一般的意見第7号(2018年)を想起しつつ、締約国に以下を勧告する。
- 持続可能な開発目標(SDGs)の履行、監視及び報告において、障害のある自己権利擁護者、諸団体(知的障害者、精神障害者、自閉症の人々、障害のある女性、障害のあるLGBTIQ+の人々、地方在住者の障害者の団体)及びより多くの支援が必要な障害者に留意しつつ、公的意思決定の過程における代替的な意思疎通、施設及びサービス等の利用の容易さ(アクセシビリティ)、合理的配慮等を通じ、国や各地方自治体における多様な障害者を代表する団体と積極的で、意義のある、効果的な協議を確保すること。
- 優生思想及び非障害者優先主義に基づく考え方に対処する観点から、津久井やまゆり園事件を見直し、社会におけるこうした考え方の助長に対する法的責任を確保すること。
- 障害者団体の緊密な関与により、司法及び裁判部門の専門家、政策決定者及び議員並びに教員、保健医療関係者、ソーシャルワーカー及びその他障害者に関わる専門家に対し、障害者の権利及び本条約上の締約国の義務に関する組織的な能力構築計画を提供すること。
11.委員会は、締約国が、本条約の選択議定書を未だ批准していないことに留意する。また、委員会は本条約第23条4に関する締約国の解釈宣言に懸念をもって留意する。
12.委員会は、締約国が本条約の選択議定書を批准し、本条約第23条4に関する解釈宣言を撤回するよう奨励する。
1.懸念・勧告で指摘していること(課題の抽出)、DPIとしての評価(コメント)
(1)懸念
- 障害者関連の国内法と政策が障害者の人権モデルと調和していない。(7a)
- 障害者資格・認定制度、法律、規則等の医学モデルの永続化。(7b)
- 「心神喪失」「精神錯乱」等の蔑称。(7c)
- 「心身の故障」を理由とする欠格条項等の差別的法制限。(7c)
- 条約の日本語訳が不正確(インクルージョン、インクルーシブ、コミュニケーション、アクセシビリティ、アクセス、生活の様式、パーソナルアシスタンス、ハビリテーション)(7d)
- サービスの市町村格差(7e)
- 国や自治体の審議会に障害者団体が十分に関与していない。(9a)
- 津久井やまゆり園事件は優生思想に起因している。(9b)
- 障害者に関わる専門職の間で条約が認める障害者の権利の認識が不十分。(9c)
(2)勧告
- 障害者団体との密接な協議を含め、条約との国内法制度の調和。(8a)
- 医学モデルを排除するために法・規制を見直すこと(8b)
- 法や条例で、軽蔑的な表現と「心身の故障」に基づく欠格条項等の法的制限の廃止(8c)
- 条約の用語の正確な日本語訳。(8d)
- サービスの自治体格差をなくすために立法措置と予算措置を講じる。(8e)
- 国・自治体との障害者団体との協議を確保する。その場合に障害女性を含む多様性の確保、アクセシビリティ、合理的配慮を行うこと。(10a)
- 優生思想と闘い、優生思想を広めた法的責任の追求を目指して津久井やまゆり園事件を検討する。(10b)
- 障害者団体が密接に関与して、障害者と関係のあるすべての専門職に、障害者の権利と締約国の義務を学ぶプログラムを提供する。(10c)
- 選択議定書を批准していない(11)
- 23条4に関する解釈宣言を撤回すること(12)
(3)DPIとしての評価
- JDFパラレルレポートを丁寧にとりあげた内容となっている。医学モデルが福祉サービスや手当などから排除される原因となっていることを明確に指摘しており、様々な給付法における対象規定の見直しに向けた足がかりになるのではないか。この人権モデルへの転換に加えて、優生思想との闘いなど、条約全体にかかわる本質的・根本的な課題が指摘されている。
- 欠格条項やサービスの自治体間格差の問題、国・自治体の政策決定における障害女性を含む多様な障害者団体の参画とアクセシビリティ、合理的配慮の確保、専門職に対する権利条約に関する研修プログラムの提供など、基本的、構造的な課題について適切な勧告となっている。
- 一方で手話言語については21条で取り上げられているが、手話が言語であることについて条約の原則を定めている1-4条でもとりあげる必要があるのではないか。また、多様性の確保についても、今後割り当て制(クォーター制)などの具体的な検討が必要。
2.法律・制度・施策の改善ポイント
(1)障害者基本法の改正
- 第1条(目的)に権利条約の規定を遵守する旨の記述を追加する(8a)
- 第2条1(定義)の「継続的」の中に周期的・断続的なものが含まれる旨を追加する。難病や高次脳機能障害など、個別の障害名の追加については要検討(8b)
- 第10条2(施策の基本方針)に多様な障害者の参画とその場合の意思決定支援、アクセシビリティや合理的配慮の確保する旨の記述を追加する(10a)
- 障害のある女性、女児、子ども、高齢者など複合的困難にある人の存在を明確化し、きめ細やかな支援や配慮の必要性を規定する(10a)
- 権利条約に関する関係者への研修プログラムづくりとその実施についての規定を設ける(10c)
(2)障害者差別解消法の改正
- 障害女性は、障害に加えて女性であることにより、さらに複合的な困難な状況に置かれている場合があること、障害児には成人の障害者とは異なる支援が必要であることを明記する(10a)
(3)障害者総合支援法、障害者雇用促進法、学校教育法、国民年金法等年金各法の改正
- 支援の利用資格、ニーズ判定の基準、手続きの改正
- 障害者総合支援法における障害の範囲、障害支援区分認定の見直し(8b)
- 雇用促進法における法定雇用率算定対象となる障害者の範囲見直し(8b)
- 障害年金の認定基準の見直し・・・など(8b)
(4)欠格条項の廃止(8c)
- 障害を理由とする相対的欠格条項の廃止
- 法令・例規
※2020年時点の調査による法令実数は、「心身の機能の障害」と「心身の故障」をあわせて413本。
- 「心身の機能の障害」欠格条項
※2001年以後残されている欠格条項。政省令で視聴覚言語や精神の機能の障害を指す。
・「心身の故障」欠格条項
※2019年に成年後見制度と連動した欠格条項削除と同時に新設された129本の「心身の故障」は、そのほとんどが政省令で「精神の機能の障害」を指している。
・議会傍聴規則などの例規
※現在も少なからずある、精神の異常、つえ携帯禁止など。 - 欠格条項に類するものの廃止
・受験資格や採用条件(身体検査を含む)
※「活字印刷文に対応できること」「身体検査の結果、採用されないことがある」など。
・除外率制度(法的には廃止されているが、なお存続しているため)
(5)選択議定書の批准(12)
- 外務省に対する選択議定書批准をもとめる要望書の提出
- 政府は批准を真剣に検討していると事前質問事項の中で回答していることから、総括所見の勧告事項への対応に関する政府との定期的な意見交換の場をもち、その進捗状況について報告を求める
短期、中期、長期計画
(1)短期 2022-24年
- 政策委員会で障害者基本法改正に向けた検討、改正(8a)
- 行政の各種委員会、研修などへ障害女性の積極的登用を求める(10a・10c)
(2)中期 2025-27年
- 雇用促進法の差別禁止指針等に合理的配慮の不提供が差別に当たる旨の見直し(5条)(8a)
- 総合支援法の障害の範囲、支援区分認定の見直し(骨格提言を踏まえて)(8b)
- 障害者差別解消法を改正し、複合差別とその対応を明記させ、実態調査や相談窓口への当事者参加を確保する。津久井やまゆり園事件の徹底した検証(10a・10b)
(3)長期 2028-30年まで
- 欠格条項廃止のための一括改正法案の国会提出(8c)
- 内閣府障害者政策委員会の障害当事者委員の5割を女性にする(10a)
- 国、都道府県、市町村の保健医療・防災及びジェンダー等に関する審議会における女性の参画のうち、複数の障害のある女性の参画を担保する(10a)
- 司法、立法、行政、教育、保健医療・福祉分野等の専門職及びその養成機関に対して、障害当事者、特に障害女性が講師となって能力開発プログラムを実施し、複合差別の理解促進を図る(10c)
- 選択議定書の批准(12)
以上