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「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト病棟実態調査」、記者会見の報告

2021年11月02日 地域生活権利擁護

病院
「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクトの病棟実態調査記者会見」の報告を、DPI常任委員であり、加盟団体の日本自立生活センターの下林慶史さんが書いてくれましたので、ご紹介します。

▽筋ジス病棟実態調査報告書はこちら(外部リンク、142ぺージ)


去る2021年10月15日に京都テルサで行われた、筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクトの病棟実態調査記者報告会について、ZOOM視聴にて当日参加したので以下に報告をします。

筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクトには私の所属している日本自立生活センターからも沢山のメンバーが中心となって活動しており、3年ほど前からプロジェクトを立ち上げ、全国的な病棟訪問や病棟の実態調査アンケート、脱施設の運動の流れをどのように広めていくかなど、粘り強く活動を継続しており今回の報告会はアンケート調査等の報告も含まれていました。

報告会の構成としては、前半にプロジェクトや活動の趣旨説明、制度の成り立ち、動向の経過の解説をした後に、聞き取り・アンケート調査等の報告と、活動中に地域移行を果たし、地域生活をスタートさせた当事者や支援者からの報告、後半は記者や参加者からの質疑応答という形でした。

報告会の内容

活動の趣旨と制度の成り立ち、動向の解説からは、筋ジス当事者だけでなく、研究者・報道関係者・記者・医療機関者など、様々な立場の人が脱施設に向けて動いてきたこと、その動き・運動をさらに大きくするために現在、メンバーが多方面からアプローチしている様子が語られ、この運動自体の重要性を改めて強く感じました。

続いて、日本自立生活センターの油田氏、大藪氏、岡山氏から2年に渡り実施された実態調査報告が行われました。油田氏からは調査の概要が述べられました。今回のアンケート調査では、全国の筋ジス病棟から、対面とオンライン合計で58件(うち男性40件、女性10件)があったそうです。

アンケートの特徴としては当事者が設問作成から関わり、インターネットによる回答もあるが、基本的には病棟のご本人のベットサイドまで行って直接聞き取りを行うことができたことが最大の意義と特徴であることが語られ、各章がどのようにまとめられているかの解説がありました。

次いで、大藪氏からは調査や活動の目的である病棟の処遇改善と地域移行のスムーズ化のための制度設計の観点から虐待や人権侵害、地域移行のハードルについて述べられました。大藪氏によれば、この実態調査を読み解くと、虐待や人権侵害と思えるような事例が見受けられるが、それらを引き起こしているのは、ドクターや看護師個人の問題ではなく、上記のようなことが常態化しかねない構造こそが問題であると語っていました。

また、地域移行について、病棟は閉鎖的な側面があり、当事者の方も病院関係者も情報が入りづらい、もし知っていたとしても、次の一歩が踏み出しづらい環境にあるだろうとのことでした。加えて大藪は自身の体験についても語り、自分も入院しなければならない可能性があったが、地域生活を選択し、今も継続している。これを「運が良かった」ということで終わらせないために運動をさらに広めていきたいと力強く述べていました。

次いで、岡山氏からは病棟におられる女性当事者の置かれている実態について報告がありました。岡山氏によれば、筋ジス病棟では人員不足などから女性入所者に対して望まない異性介助が行われている場合があり尚且つそのことに対して声があげにくい現状があり、声を顕在化するためには積極的な聞き取りなどが必要との報告がありました。

続いては、今年の8月に筋ジス病棟を退院された自立支援センターおおいたの芦刈氏より報告がありました。芦刈氏によればご自身は周囲の環境もありコロナ以前は一定、自由に外出や外泊、面会等されていたようですが、コロナ禍により状況が一変し、面会や外出、外泊が全面禁止になったそうです。

そのことをきっかけに自立について考え始めたそうですが、親や医療関係者から猛反発を受けたそうです。それでも粘り強く支援者とともに説得をつづけてようやく自立にこぎつけたとし、今後は元入所者として病棟にる仲間たちを支援していきたいと語られました。

同じく元病棟入所者の吉成氏からも外部の支援者等との繋がりにくさが実体験を交えて語られ、今後は筋ジス病棟がより開かれたものになり入所者に寄り添う体制になってほしいと述べられました。

質疑応答

後半については記者や参加者の方との質疑応答で、記者の方からは「筋ジス病棟ならではの地域移行の難しさがあるのか否か」「調査をしていて驚かれたことはありますか」「脱施設に地域格差はあるか」や「今後、女性入所者に対してどういったアプローチをする予定か」「まだアンケートに答えていない方、まだ繋がっていない方に対してどうかんかえているか」「病気・障害の男女差、地域移行の男女差について」など沢山の質問が投げかけられました。

回答として、筋ジス病棟ならではの地域移行の難しさについては、病棟には医療施設と入所施設の二面性があり特に医療の結びつきが強いため、ドクターストップという理由で地域移行が難航する場合があるという特徴が挙げられ、調査中に驚いたことについては、病棟での環境に慣れすぎているために本人ですら困難を抱えていることに気づきづらい現状があることが述べられていました。

脱施設における地域格差については、支援団体の有無など地域格差があり、尚且つ主治医の意向によっても左右されるとのことでした。

女性入所者へのアプローチやまだ繋がっていない人とどのようにしていくかについてはオンラインを活用した交流会の実施、継続をしていくことと同時に病棟のオンライン環境を整えていくよう要望していくことが挙げられていました。

男女差については、病棟でも男性が多く、女性が少ない実態があり地域移行についても複合差別により女性が声をあげにくい現状があるのではないかと述べていました。他にも沢山の方から質問が寄せられ、幅広い方々の関心の高さを実感しました。

そして報告会の最後には、メインストリーム協会の藤原氏より「今回、まとめた報告を元に地域生活のモデルをつくって各所への要望に繋げていきたい。そのためには、みなさんの協力が必要です。今後ともよろしくお願いします。」との言葉で締めくくられました。

私はこの報告会に参加したり、活動を目の当たりにしたりする中で、運動の動き(流れ)をつくっていくことと、それを継続していくことの両面を同時進行で目の当たりにして、改めてこの運動が急務であるともに継続していく持久力が必要であると強く感じました。

報告:下林慶史(DPI常任委員・日本自立生活センター)


▽筋ジス病棟で「虐待」3割超 ナースコール無視、入浴で異性介助 障害当事者ら全国調査(外部リンク、京都新聞)

▽筋ジス病棟実態調査報告書はこちら(外部リンク、142ぺージ)

■報告書目次

はじめに 藤原勝也
この報告書について 井上武史

第一部 論考編
第1章 「筋ジス病棟」の統計上の壁~医療と福祉の谷間で 岡本晃明
第2章 回答者の基本属性 石島健太郎
第3章 筋ジス病棟での生活状況について

第4章 ドクターストップ・当事者と医療者のパワーバランスについて 前田拓也
第5章 虐待と思われる処遇について 松波めぐみ
第6章 虐待や人権侵害につながる状況を生み出す構造的な背景について 大藪光俊・油田優衣
第7章 女性ならではの困難・差別について 岡山祐美
第8章 地域移行の現状・課題について 深田耕一郎
補章 コロナによる面会の制限状況 筋ジスブロジェクトオンライン交流会チーム、そのまま、+2 立岩真也

第二部 資料編


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