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旧優生保護法裁判(東京地裁第五回期日)報告、報告集会報告

2023年08月04日 権利擁護

横断幕を掲げる入庁行動の人々

ある自立生活センターの機関誌を読んでいると、6月1日の仙台高裁の報告が掲載されていました。

その報告では、傍聴をした方が「自分も優生手術の被害者になる可能性があったが、手術を受けずにここまで生きてきた。そのことが、とても申し訳なく感じる」といった内容を記しておられました。

読んでいて胸が痛くなった瞬間でした。ご自身が被害を免れたことで、被害を受けた人に申し訳なさを感じるというのです。

こんな風に感じてしまう人がいてはならない、という気持ちをもつとともに、一人でも多くの人に、この訴訟を応援してほしく、本報告を作成しているところであります。

2023年7月25日(火)に、東京地裁において優生保護法裁判の第五回期日がありましたので、以下に報告します。

第五回期日

当日は非常に気温が高く、立っているだけで汗が滴り落ちるような熱気でした。開廷前には、原告の西スミ子さんと弁護団、そして支援者のみなさまと、横断幕をもって入庁行動をしました。

14:00の東京地裁103号法廷の傍聴者は40人、記者数は9人と、傍聴席はほとんど満席に近い状態でした。

この日は、被告による書面の説明と今後の期日の確認で終了しました。後述する報告集会で解説された、被告による書面の内容としては、以下二点が主なものだそうです。

  1. 母体保護法の変遷(歴史的変遷を追った資料とのこと)
  2. 除斥期間の適用に関する法理についての書面(これまでの判例の確認)

また、先だって公開された、「旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律第21条に基づく調査報告書」に関して、今後の期日では主張を展開していく予定となるようです。

報告集会

裁判が終了したら、15:00より日比谷図書文化館で報告集会が行われました。報告集会会場にはたくさん参加者がおり、立ち見の人まででるほどでした。

集会参加者の様子

報告集会では、優生連共同代表の利光恵子さんから、優生保護法調査報告書の解説が行われましたので、本報告でも少し触れます。

この調査報告は、旧優生保護法の制定の経緯や、強制不妊手術の実施状況を調査することで、被害の実態を明らかにすることが目的とされていました。

病院などが管理する、守秘義務などで保護された情報の開示には、市民団体ではアクセスすることが難しく、国が立ち入って調査を行うことは大きな意味があったのですが、その調査実態は期待から大きく外れたものでした。

まず、調査対象は以下の通りです。

  1. 厚労省が2018年に実施した調査で、優生手術に関する記録が「ある」、「ある可能性がある」と回答した医療機関・福祉施設のうち、現存する184医療機関と185福祉施設
  2. 都道府県から提供された資料において、施設名が数回確認された50医療機関、2福祉施設
  3. 国立ハンセン病療養所と、2018年調査で「ある」、「ある可能性あり」と回答した国の15施設

(※2018年調査は「任意調査」であり、記録が「ある可能性がある」又は「ない又はない可能性が高い」の両方に該当する場合は、「ない又はない可能性が高い」を選択させるという、実態把握や被害の掘り起こしには全く不十分なものでした)

そして今回の調査も、やはり回答・提出は任意、となっており、実態把握に対して大変消極的である様が伺えます。ちなみに医療機関の場合、調査対象施設が234あったのに対し、回答施設は155(回答率66.2%)となっています。

その結果、医療機関における資料等の保有状況として、155施設中資料を「保有している」のは25施設で、このうち「資料のすべてを提供できる」としたのは12施設、「資料の一部を提供できる」としたのは8施設に止まりました。

結局、回答155施設のうち、21医療機関から約600枚の優生手術に関する資料が提供されました。

今回の調査が2018年厚労省調査の範囲に止まったため、新たな資料の探索など、更なる調査が望まれる内容となりました。特に上述の通り、医療機関や福祉施設への実質的調査が全く不十分であり、被害者の掘り起こしに繋がった調査が為されていません。

被害当事者、弁護団、支援者、研究者らを含めた、第三者機関による調査・検証が求められるところです。

利光さんの報告が終わり、弁護団から全国の裁判の状況について解説がありました。

現在、東京、大阪、札幌は国が上告、仙台は原告が上告をしています。最高裁判決は恐らく年をまたぐと考えられることから、判決を待たずに秋の国会で救済法案を通すための運動を展開していきたい、とのことでお話がありました。

また、これまで国は被害実態について「不知(知らない)」としてきたが、札幌で「優生手術を受けた事実を客観的に認めることができない」という判決が出たせいか、被害を立証する必要がでてきた、と解説がありました。

これは、①手術があったか、②優生保護法に基づいた手術だったのか、の二点を立証する必要があり、法定外手術の場合立証が難しくなるようです。このことからも、国調査による資料は非常に重要であるということがいえます。

報告集会では、原告の西さん、同じく東京原告の北三郎さんからのコメントがありました。

「(国は)私たちの顔をまっすぐ見られますか」と語った西さん、「高齢になっていて、後がないが、国に戦いを挑みます。国が上告を取り下げて欲しい」と語った北さん、お二人のお話しを聞いて、改めて、この裁判を長引かせることが、如何にひどいことなのか、感じざるを得ませんでした。

旧優生保護法被害の全面解決を目指し、情報を共有して参りますので、どうぞみなさまにおかれましても、ご確認くださいますようお願い申し上げます。

冨川功喬(全国自立生活センター協議会)


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