【開催報告】公開研究会 韓国に学ぶ総括所見活用事例~障害者権利条約に則した国内法整備に向けて~(キリン福祉財団助成事業)
2024年01月05日 権利擁護障害者権利条約の完全実施
2023年9月20日(水)に「韓国に学ぶ総括所見活用事例~障害者権利条約に則した国内法整備に向けて~」を開催しました。この研究会は、総括所見を活用した諸外国の取り組みを事例として取り上げ、条約に則した国内法制度の立案、改正の実現に向けて、私たちがどのように総括所見を活かして取り組んでいったらよいのか考えていくために企画しました。
今回は地理的にも制度政策的にも日本と類似性の高い韓国を取り上げ、韓国政府や障害者団体がどのように建設的対話を経て国内法制度の見直しを含めた条約実施に取り組んでいるのか、についてDPI日本会議議長補佐の崔栄繁がお話ししました。
韓国の障害者の状況について
はじめに、韓国の障害者の状況についてお話しいただきました。韓国では日本の手帳制度と似た制度として障害者登録制度というものがあり、その中で障害の種類を日本よりも細かく分けていて15の種別に分類しているそうです。
障害者の人数は2021年時点で264万人と日本の人口比と比べても少ない人数になっています。それは登録している人数で、福祉サービスの必要性や偏見などから登録しない人もいるためで、実際にはもっと多くの障害のある人がいて、そのことは韓国政府も認識しているということでした。
精神障害者については、登録している人数は約10万4千人であるものの、登録していない人も含めた重度判定を受けている人数は約27万4千人で、そのうち6万2千人が精神科病院に入院しているということで、ここも日本とよく似た状況にあるようです。
条約批准とプロセス
続いて、韓国が条約を批准してから現在に至るまでの条約審査のプロセスについてお話いただきました。韓国が条約に批准したのは2008年12月で最初の建設的対話が行われたのが2014年9月。そして最初の総括所見が出されたのが10月。
さらに第2回と3回の併合審査が行われたのが日本と同じ2022年8月の27会期ということで、日本よりも1周早く条約審査のプロセスを経ていることがわかります。
なお、第2回、3回の併合審査では条約審査のプロセスが簡略化されたこと、司法・立法・行政の三権から独立した人権救済機関である国家人権委員会の果たした役割が大きかったことなども紹介されていました。
お話の中では韓国の最初の条約審査の様子をJDFとして傍聴してきたというエピソードも紹介されていましたが、実際にどのように条約の審査が行われるのか、NGOがどのような取り組みをしているのか見られたことが日本の取り組みの大きな参考になったことが窺い知れるエピソードでした。
条約の国内実施や監視の枠組み
韓国の条約監視の仕組みについては、行政機関による計画策定や条約の政府報告を策定する枠組みと、国家人権委員会があることが紹介されました。日本で言うところの障害者基本計画やそれを策定する委員会の存在など、日本と似たような枠組みがありますが、障害当事者の意見反映のプロセスやその度合いなど、いずれも日本よりもしっかりとした枠組みが作られているように感じました。
そして、国の機関から独立した国家人権委員会があるということが日本との決定的な違いとして挙げられていました。
韓国の国家人家委員会は人権に関する法制度や政策などに対する勧告、人権侵害や差別行為に対する調査と救済、国際人権条約へ参加して、その履行に関する研究と勧告などを行う機関です。この国家人権委員会が行っていることから、条約監視の上で非常に重要な機関であることがわかります。
実施状況と総括所見との関係(差別禁止)
こうした条約の国内監視の仕組みを通じて韓国では2014年以降、さまざまな法制度の改正等が行われたそうです。個人通報を可能とする選択議定書の批准や障害等級制度の見直し、障害者差別禁止法の改正、インクルーシブ教育など、総括所見を経て多くの法制度の見直しが行われたことが紹介されましたが、今回の研究会ではとりわけ権利条約5条関連の差別禁止に焦点をあてて条約実施がどのように行われているのかお話いただきました。
まず、韓国における障害者に対する差別や人権侵害に対する権利救済の仕組みについて、差別禁止法の日韓比較を交えながら説明されました。韓国では裁判等による司法救済、一般的な紛争解決の仕組みによる救済の他に、包括的な救済の仕組みとして国家人権委員会による救済の仕組み、さらに障害分野に特化した障害者差別禁止法という形で重層的な救済の仕組みがあるということでした。
また、障害者差別禁止法に関しては法体系が韓国と日本では異なっていて、韓国には例えば訴訟に関する規定や罰則規定があること、法律の本体に差別の定義や個別分野の各則、救済に関する規定などが細かく書かれていることなど、もともとの土台から日本の障害者差別解消法とは大きな違いがあることも示されました。
その上で、韓国の障害者差別禁止法は2014年の総括所見を受けて多くの改正が行われているということでした。例えば、これまでにはなかった観光に関する差別禁止の規定が新設されたことや、日本の厚労大臣に当たる人が国家人権委員会とは別に行政機関として障害者差別に関する実態調査を実施できる規定が追加されたこと、法務大臣が出せる是正命令の要件を緩和する改正がされるなど、2014年に出された総括所見の勧告に基づいた対応がされていることが示されました。
ただし、いずれも総括所見が出たからただちにそれに基づいた改正がされているわけではなく、もともと韓国の活発な市民運動があり、それと条約や総括所見との相乗効果によって制度の改善が図られているということも強調されていました。
その一例として総括所見を経て改正された法務大臣の是正命令の要件緩和についての経緯が紹介されていました。もともと障害者差別禁止法を作る時には国家人権委員会に是正命令権を与えるように障害者団体は主張していましたが、どうしてもそれは入らず、法務大臣にその権限が付与される形となったそうです。
その結果、2020年の改正前までに是正命令が出されたのはたった2件で、障害者団体などから実効性の確保が求められていたという経緯があり、それが2014年の総括所見に反映され、国家人家委員会からの政策勧告も行われ、2020年の要件緩和の改正に結び付いたということです。
そして、改正後はすでに4件の是正命令が行われているということで、障害者運動と総括所見の両輪による制度改正の事例としてとても参考になるお話でした。
今回の研究会を通じて、障害者権利委員会の総括所見が国内法制度の見直しにいい影響を与えるものであることが確認されたと思います。
一方で実際に総括所見に沿った法制度の立案や改正などを実現するには障害当事者を中心とした市民社会の運動の力や司法・立法・行政から独立した人権救済機関である国内人権機関の必要性も強く感じました。
今回の研究会では脱施設やインクルーシブ教育については時間の関係で概要まででしたが、この2つのテーマについては、2024年度も研究会を開催する予定ですので、ぜひ次回もご参加ください。
相模原市人権尊重のまちづくり条例制定へパブリックコメントを!
なお、国内人権機関については、相模原市で人権尊重のまちづくり条例制定の動きがあり、救済の仕組みをもつ独立した第三者機関の設置など画期的な答申が出され、その条例制定が期待されていましたが、何度かHPでも報告記事で紹介しているように画期的な部分がほとんど削除された骨子案が示されています。
1月9日(火)までの期限で今も相模原市人権尊重のまちづくり条例(案)のパブリックコメントが実施されています。
津久井やまゆり園事件が起きた相模原市に、津久井やまゆり園事件をヘイトクライムと位置づけること、不当な差別的言動(悪質なヘイトスピーチ等)の禁止対象に障害を理由とした差別的言動も含めること、独立した第三者機関を設けること等を要望しています。全国初の画期的な条例を作るために、ぜひ、みなさんご意見をお送りください。
報告:白井誠一朗(事務局次長)
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