聴覚障害を持つ人の情報格差・情報保障に関する学習会報告
2018年12月26日 権利擁護
12月15日(土)DPI常任委員会で聴覚障害を持つ人への情報保障に関する学習会を、加盟団体である「NPO法人インフォメーションギャップバスター」の伊藤芳浩さんと藤木和子さんをお招きして行いました。
インフォメーションギャップバスターでは「コミュニケーションにおけるバリアフリー化」を推し進めることで、誰もが暮らしやすい豊かなコミュニケーション社会の実現を目指しています。
コミュニケーションバリアについて
伊藤さんは団体の理事長を務められていて、聴覚障害をお持ちです。
まず伊藤さんからは、「コミュニケーションバリア」について、立場の逆転、格差、見えない壁という3つのケーススタディ交えながら、わかりやすくその現状や課題について教えていただきました。
まず、立場の逆転では、手話を言語として用いる人たちと音声言語を言語として用いる人たちとの割合が逆転した社会の動画を見ながら、コミュニケーションは、その社会の多数派の人たちが用いる言語によってなされることや少数派になることで不自由さが生まれるのではないかという意見が出されました。
また、そうした意見を受けて、伊藤さんから、コミュニケーションのバリアは、社会と個人の両方に存在し、立場や環境が変われば誰にでも起こり得る問題であること。そして、そのバリアによって、「情報格差」と「メンバーの孤立化」という2つの問題が生じることを教えていただきました。
情報格差とは、受け取る情報量に差が生じること、メンバーの孤立化とは、メンバーの間で、何を話しているかわからず、ガラスの壁はないが、ガラスの扉があるようなイメージで、話の輪に入っていけない状況です。
情報格差は、経済格差や健康格差にもつながり、例えば、1か月にもらえる給料は、健常者が27万円であるのに対して、聴障者は20万円と74%の金額しかないことや、昇進の経験も肢体障害者は32%であるのに対し、聴障者は16%と半分程度しかない事を知ることができました。
さらに、仕事の打合せをする時間も聴者の場合なら電話で10分程度で済むのに対して、聾者の場合は、何度もメールでやり取りを繰り返し、3日間ほど必要となり、500分の1の格差が生じる。
こうした小さな積み重ねが最後には大きな差になると教えていただきました。
見えない壁というケーススタディでは、耳が聞こえない者は、いつも穴埋めクイズのようなもので、わからないところをいつも想像し、でも何がわかっていないかを知ること自体が大変で難しいし、非常に疲れるのだそうです。
耳が聞こえない人の場合、後ろから話しかけられても気づくことはできず、話しかけた女性は、無視をされたと思い、失礼に思われてしまう機会が多いこと。
視野に入るように情報を届けてほしいと話されました。
また、補聴器についても、音を拡大することはできても、その内容を理解することはできないので、話がちゃんと聞こえているわけでないこと。
黙って話を聞いているのは、話をする気持ちがないとか意見がないわけではなく、単に話し出すタイミングがつかめないだけで、話をしている時に聞こえない人が話し手をちゃんと見ているか気を配ってくださいとお伝えいただきました。
また、会議などでも終了後にその内容を伝えるのではなくて、聞こえない人たちも主体的にリアルタイムに会話に参加したい。だからこそ、発言する機会をぜひ与えてほしいとおっしゃいました。
聴覚障害のご兄弟を持つ藤木さんのお話
続いて、理事兼伊藤さんの手話通訳をしていただいた藤木さんお話を伺いました。
藤木さんは、伊藤さんと同じ団体の理事であると同時に、「聴覚障害のきょうだいをもつSODAソーダの会」の代表としても活動され、日頃は、障害のある人の「きょうだい」であることを出発点に弁護士としても活躍されています。
藤木さんは、聴覚・視覚障害学生のための国立大学である筑波技術大学で週に1度法律学の講義を担当されています。
その中で思うことは、裁判員制度について、手話通訳や要約筆記通訳を付ければ裁判員となれることや、50年以上前までは聴覚障害者が運転免許を取得できなかったという歴史を学生たちが知らない、情報が届いていないと感じるとともに、障害のある人たちを取り巻く様々な最先端の情報を広く伝えていきたいと述べられました。
その次に、各地で催される講演会に講師として招かれた際、手話通訳や要約筆記が付いた場合の情報保障の際の留意点などについて詳しく教えていただきました。
まず、情報保障の種類には、大きく手話通訳と要約筆記がある。要約筆記も現在はパソコンが主流だが、サングラスをかけて透明なセロハンに下から光を当てて文字を映す「OHP」、そしてサングラスをせず白い紙に書く「OHC」、パソコンというように技術が進化していることが紹介されました。
藤木さんのお話を伊藤さんは、「UDトーク」というアプリを使って聞いて頂きました。これは、音声を認識し、スマートフォンの画面などに文字として映し出すアプリで、伊藤さんも70%は文字が正しく認識されていると話されました。
今年6月に行われたDPI日本会議の全国集会でも情報保障を担当していただいた際にも使用されたUDトークは、要約ではなく、全文が通訳されるので、全ての情報を知りたいという方に対するニーズに対応できる一方で、文字を読むことに慣れているかどうかによっても情報に差が出てしまうという問題点も教えていただきました。
また、学術的な話や法律の話は要約筆記ではなく、すべての情報が表示されるUDトークがいいという要望が多く、要約筆記も過渡期の段階にあると教えていただきました。
また、情報保障の種類として、「電話リレーサービス」も紹介していただきました。
このサービスは、聴覚障害者と聴者を電話リレーサービスセンターにいる通訳オペレーターが「手話」や「文字」と「音声」を通訳することにより、電話で即時双方向につなぐサービスです。
このサービスによって、聞こえない両親に代わって、聞こえる子どもが銀行や仕事の相手先に電話をかけたりすることも少なくなるとおっしゃっていました。
ぜひ、このサービスの周知と、公的なサービスとして法制化され、24時間、365日対応されていくように、私たちもともに声を上げていきたいと思いました。
こうした様々な情報保障の種類を上手く使い、出来るだけ自分の話を伝えるためのポイントとして、
①会議などでは用意されているマイクを忘れずに使って話をすること、
②資料は事前に全部出すこと、
③固有名詞は資料に入れたり、当日リストにして担当者に伝えること、
④話す時には、スライドが変わる時や句読点で間を入れる工夫をする、
⑤ダラダラと話さず、最初に趣旨やテーマを明確に簡素に伝えることが大切だとのアドバイスをいただきました。
最後に、伊藤さんから、DPIのみなさまとともに歩んでいきたいという思いが語られました。
参加者一人ひとりに、コミュニケーションにおけるバリアフリー社会をつくるために必要な様々な気づきを与えていただいた充実の学習会となりました。ありがとうございました。
杉田 宏(特定非営利活動法人ピアサポートみえ 特別常任委員)