「安楽死・尊厳死・嘱託殺人・医療中止・トリアージ」について考える本の紹介+12月12日(日)オンラインイベントご案内
2020年以降、新型コロナ感染症の蔓延により医療情報などが常に変化する中で、緊急時の治療の優先順位を決めるトリアージについて、国内外の動きが報告されました。
過去には「安楽死」や「尊厳死」に関する法案を導入しようとする動きが何度もあり、それに反対し、医療ケアや介助・介護が必要な人たちが生きていくための資源が十分にない中で命の線引をする法律をつくる危険性をDPI日本会議など市民・障害者運動が訴えてきました。
コロナ禍で逼迫した医療現場の状況が伝えられるなか、これまでの議論の蓄積が省みられることのないまま、命をめぐる優先順位がなしくずしに現実化されつつあるという懸念のなか、二冊の本が相次いで出版されました。
どちらも複数の著者によるもので、一冊目は緊急セミナーでの話をまとめたもの、二冊目は論考集です。
ぜひご一読ください。
1冊目『見捨てられる〈いのち〉を語る』
著者:安藤泰至、島薗進 編著、川口有美子、大谷いづみ、児玉真美 著
出版社:晶文社
定価:1,980円(本体1,800円+税)
発行年:2021年10月
本書は2020年8月にゲノム問題検討会議主催で行われた3回の緊急セミナーでの話し合いを元に編まれました。
安楽死(積極的安楽死と医師幇助自殺)、「尊厳死」(日本では「延命医療の手控えと中止」を指す)(33頁)をめぐって、多くの国で議論が行われ、実際に法律が作られていること、いったん法律が作られた国でさまざまな問題が起こっていることがそれぞれの話から伝わってきます。
2019年11月に起きた、ALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の女性がSNSを通じて知り合った医師に嘱託殺人を依頼した事件について、NHKのドキュメンタリー番組(2019年6月2日NHKスペシャル「彼女は安楽死を選んだ」、自殺を誘発する恐れがあるなどの批判があった)をこの女性が見ていたとの証言があったとの内容が衝撃的でした(51頁他)。
また、「第1部 京都ALS嘱託殺人と人工呼吸器トリアージ」の「ALS 患者の「死ぬ権利」?」(44ー68頁)川口有美子氏(ALS/MNDサポートセンターさくら会、DPI日本会議の加盟団体)が、2000年代以降、日本では尊厳死を法制化しようとする動きが何度かあったが、反対運動によって阻止されたことを報告しています。
並行して、終末期医療の意思決定プロセスに関するガイドラインが厚生労働省で作成され、さらに合意形成による共同意思決定のツールとしてACP(アドバンス・ケア・プランニング)がガイドラインに盛り込まれた経緯が解説されており、ここ20年程の歴史の一端を知ることができます。
★こちらの書籍の刊行記念イベント「著者たちと語る夕べ』が行われます。以下をご覧のうえ、ぜひご参加ください。
12月12日(日)オンラインイベント
「『見捨てられる〈いのち〉を語る』著者たちと語る夕べ:押し進められる状況に警鐘をならす」
■日時:2021年12月12日(日)19:00~21:00
■プログラム
一部:19:00~20:00 著者たちとゲストとの座談会
著者:安藤泰至、島薗進、大谷いづみ、川口有美子、児玉真美
ゲスト:美馬 達哉 立命館大学先端総合学術研究科教授
二部:20:00~21:00
■参加費:無料(ご寄付をお願いします。寄付口座 横浜銀行鶴見支店 店番号 361 普通口座 1550312 神野玲子)
■お申し込み、連絡先 ゲノム問題検討会議 神野玲子 メール yr2305080#gmail.com →#を@に置き換えて下さい。
■主催:ゲノム問題検討会議主催
2冊目『〈反延命〉主義の時代:安楽死・透析中止・トリアージ』
著者:小松美彦、市野川容孝 他
出版社:解放出版社
定価:2,420円(本体2200円+税)
発行年:2021年7月
※テキストデータ請求券付き
2018年8月、東京の公立福生病院で腎臓病の女性が腎臓透析を継続するために必要な手術を受けず、透析中止の結果死亡した事件が起こりました。
その女性が苦しんで亡くなった様子や残された家族が納得できない思いを持っていることが報道され、「尊厳死」(日本では医療の手控え・中止により死期が早まることを指す)の内実を示す事件だったのではないでしょうか。
一般に「安楽死」や「尊厳死」という言葉には良いイメージが、「延命治療」という言葉には悪いイメージが一般に伴っていると考えられますが、実態を知る医師・患者・家族らの声を道案内に実際にそれらの言葉が差す行為はどのようなものかを知ることができました。それぞれの著者の著作や他の資料の文献も含め、ぜひご一読をおすすめします。
DPI日本会議尊厳生部会のページにも尊厳死・安楽死の問題を考える文献案内を載せています。ぜひ併せてご覧ください。
報告:浜島(事務局)
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