【DPI政策論「障害女性&国際協力分科会」報告】
「新型コロナウイルス禍の中、SDGsをどう達成するのか」
11月22日(日)第9回DPI障害者政策討論集会で開催しました「障害女性&国際協力分科会報告」を平野みどり(DPI日本会議議長)が、参加した感想を長谷川唯さん(立命館大学生存学研究所客員研究員)が書いてくれましたので、ご紹介します!
プログラム
生活と仕事に影響をあたえた世界的危機で、障害者の健康状態や、情報やサービスを含むアクセシビリティの制限がみられた。女性を中心に障害者の根本的な不平等に目を向け、悪化するリスクの中で「誰一人取り残さず」COVID-19と共存していくか考える。
開会挨拶 中西由起子(DPI日本会議副議長)
〇基調講演「COVID-19とSDGs ― 障害女性など最も影響を受けやすい人の立場から」
国連はCOVID-19の危機にCRPDとSDGsに沿った障害者の権利確保のため行動を起こし、8月にはフォーラム「COVID-19危機と障害者:すべての人のための包括的でアクセス可能で持続可能な世界に向けてより良い構築」を開催した。
報告者:伊東亜紀子(国連経済社会局障害者権利条約事務所チーフ)
〇報告:「コロナ禍での障害女性の声」
DPI女性障害者ネットワークでは、新型コロナウイルスの影響を受けた障害女性の声を集めて、4月に首相や男女共同参画担当に宛て要望書を提出した。要望書の内容と合わせて、いくつかの事例を報告する。
報告者:佐々木貞子(DPI日本会議常任委員/DPI女性障害者ネットワーク・メンバー)
〇閉会/まとめ 平野みどり(DPI日本会議議長)
〇司会 藤原久美子(DPI日本会議常任委員)
基調講演:COVID-19とSDGs―障害女性など最も影響を受けやすい人の立場から
今分科会は障害女性部会と国際部会の共催とし、国連経済社会局障害者権利条約事務所チーフの伊東亜紀子さんに、ニューヨークからリモートでご参加いただき、基調講演「COVID-19とSDGs 障害女性など最も影響を受けやすい人の立場から」と題してお話しいただきました。
伊東さんは国連内で、「CRPD(障害者権利条約)の目指す社会はSDGsの中でも全ての社会が目指すべき重要な目標であり、このような社会をどう創るか、SDGsの中で障害者の経験を活かし、障害者のリーダーシップをどう実現していくか」に取り組んでおられます。
生活と仕事に影響を与えたコロナ禍が、障害者の健康状態や、情報やサービスを含むアクセシビリティを大きく制限する中、女性を中心に障害者の根本的な不平等に目を向け、悪化するリスクの中で「誰一人取り残さず」COVID-19とどう共存していくかを、国連も重要課題としています。
国連が8月に開催したフォーラム「COVID-19危機と障害者: すべての人のための包括的でアクセス可能で持続可能な世界に向けてより良い構築」では、グローバルな枠組みとして、CRPDとSDGsの実施を考えていくことで合意しました。
インクルーシブな開発、障害者とともにあゆむ、そうしたタイトルで、国連総会の決議も採択されました。コロナ禍で、障害を持つ人の中でも不平等に苦しむグループに更に不平等がのしかかっている構造が顕在化したため、今までよりさらにインクルーシブな差別のない社会を築いていこうという国連決議です。
SDGsの障害の観点からいうと、どのように不平等をうけ、構造的問題は何か、という障害女性の視点から、具体的な推奨事項を挙げます。まずは、障害者と代表の組織、特に障害のある女性の組織は、ジェンダーの独自の観点から、コロナ危機に関する政策について提言をしていくべきということです。
次に、障害のある人の死亡率や健康問題の悪化、などの問題が進んでおり、それを最小限におさえるために、特に障害女性が、差別のない医療を確保するために構造的な差別を明確化していくことです。特に、メンタルヘルスへのアクセスについては、コロナ禍で大きな問題でした。
意思決定やワクチン接種などのアクセスにおいて差別がない、倫理的な医療ガイドラインを確立することが重要です。 また、民間機関を含むサービス機関にも、ジェンダーや障害のことを両方取り入れながら「センシティビティー・トレーニング」が必要です。
更に、障害を持つ女性が、合理的配慮を受ける時、障害を持つ男性とどれほど違うかなどのデータを集めないと障害女性の立場などが掴みにくいです。仕事、教育分野へのいろんなソリューション、テクノロジーへのアクセスなど具体的な方策を考えるためにも、データが必要です。
ジェンダーの分析を考えるとき、年齢、性別、障害、障害女性、人種など、女性もいろいろな背景があるわけで、多層的に考える必要もあります。現在、国連のデータでは障害を持つ男性との比較で大きなギャップがあることがわかっています。医療へアクセスできない可能性が3倍、識字率は1/3、障害女性は健常の女性と比較して性的暴力にも苦しむといったデータもありますが、はっきりと分析を利用するためには更なるデータ集積の必要です。
世界的には「障害女性のリーダーシップによってコロナ危機を乗り越えていく中で培ってきた力強さ、データ、分析における知的なリーダーシップ、運動的なリーダーシップ、文化的なレベルで意識改革をするリーダーシップ」の重要性が認識されてきています。
コロナ危機の状況で、SDGsの実施に戻っていくため、障害を持つ女性の観点が必要です。障害女性がSDGsの先端でリーダーシップを持てる状況を作れれば、他の不平等に影響されるマイノリティーグループの人たちももっと、楽に追従していけると、国連は考えているとのことです。
2030年のSDGsのアジェンダと、障害者の権利条約を実現するために全てのステークホルダー、加盟国、専門家、国連組織も、グローバルジェンダーの中に障害者、障害女性の観点を含めることも奨励しなくてはいけません。
コロナウイルスの感染の危機に際して、人々の健康が失われ、孤立することを防ぐためにも、国内、国際社会のネットワークを最大限に活用することが重要です。これからのSDGs推進は、社会的に弱い立場の人たちのインクルージョン、障害者の完全参加を機動力として、レジリエンスや経済社会的に耐性が高いシステムをつくることが世界的に必要です。その中での日本の活躍が求められているのです。
報告:コロナ禍での障害女性の声
分科会後半はDPI女性障害者ネットワークのメンバーで、DPI日本会議の常任委員の佐々木貞子から、「コロナ禍での障害女性の困りごと」についての調査の報告がありました。 新型コロナウイルス感染拡大にともない、今年4月、女性ネットのメンバーや周囲の障害女性から心配や不安を寄せられました。
社会的な危機のときには、皆が大変だからという声で、障害者や女性の声は軽んじられがちです。それまでに寄せられた困難を事例と、これから起こるであろう、起こっているかもしれない困難を想定して、要望書を作成し4月30日政府に提出しました。
一旦緊急事態は終わりましたが、withコロナという状況に入り、今後もコロナ禍での障害女性の声を集めようと、4月末、コロナ禍障害女性というメールフォームと専用アドレスを開設しました。現在、21通の障害女性の声が全国から寄せられています。
コロナ禍での困難で、1番目立ったのは、介助サービスの一時停止・利用時間の制限です。肢体不自由、視覚障害、知的障害など、多くの女性が感染防止を理由に必要な支援を受けられなかった現状が起きてしまった点です。介助の現場は混乱、当惑し、状況は理解できますが、同じ状況であっても、事業所毎の対応は一様ではありませんでした。
- ステイホームが求められ病院や施設では面会禁止となった。閉じこもる場が安全とは限らない。外からの視線が届かないことにより環境が悪化し、人権侵害がおこるような密室のゾーンが日本の中にどれだけあるかと心配をしている。一般のデータでは、コロナ禍になって性暴力やDVが増えている。ステイホームにより、DVの加害者もそばにいる。相談にもたどり着けない、相談できない現状があるようだ。
- パートナーに支配されている家庭内では障害女性が思うような感染対策もできないようだ。普段から女性相談の現場は、施設や情報のバリアによってなかなか相談にたどり着けない。たどり着いたとしても障害福祉にたらい回しにされる。
- 医療への不安不信もある。万が一、感染したら病院や宿泊療養所には入れるのだろうか。障害を十分理解した医療や看護、介助が受けられるのか非常に心配。また、コロナ禍で重度の肢体不自由女性が誤嚥で入院してしまったが、慣れた付き添いの介助者が認められなかった。
- これまでも否定されがちだった、性と生殖に関するサービスは、ないがしろにされないか。複合差別実態報告書の中には、医療者の無理解という声がいくつも寄せられている。
- 人間関係のコロナ禍での問題について。コロナ禍で孤独をひしひしと感じるという障害女性は少なくない。また、ヘルパー活用するまでもなく、身近な人の手助けで賄えていた生活がなかなかうまくいかなくなった声もある。宅配を受け取る際、家のなかまで運んでもらって、すごく助かっていたのに置き配でできなくなったという肢体不自由の女性の声があった。
- 町で「お手伝いしましょうか?」と声を掛けてくれることが少なくなったという視覚障害女性の声もあった。ソーシャルディスタンスで、みんな敏感になっているのだろうが、私たちの暮らしを少しずつ圧迫することに思える。
また、街の中で嫌な態度や言葉に出会ってしまうことが増えたという声もありました。電動車いす女性が、雨の日レインコートを着て歩いていたら「自分たちだけ防護服を着ている」と言われ、「お前などコロナにかかってしまえ」と言われたそうです。
コロナ禍でニューノーマルが叫ばれているが、社会が必要だと思い、自分たちも必要だと自覚したとき、今まで大変だと思っていた常識はひっくり返され、さまざまな工夫やそれを乗り越えるために社会は進んでいくようだとも実感しています。
(DPI日本会議 平野みどり)
参加者感想
「 障害女性はそれだけで“Good job!”な存在 」
誰ひとり取り残さない。
SDGsの理念は、障害女性たちの、障害と女性の狭間で経験する困難を一つひとつ丁寧に拾い上げてきた取り組みと重なります。障害女性は障害に基づく差別とジェンダーに基づく差別のどちらも経験します。しかし、そこでの経験は、簡単に言葉にすることも、言葉で表すこと自体が難しいように思います。それだけ繊細で脆く、無頓着な言葉や態度で傷つられているのです。障害女性たちはネットワークを作って差別と向き合ってきました。そうやって「障害女性」の視点を様々な場面に描き加えてきました。だけどそれは、障害女性が常に「女性であること」「障害であること」を突きつけられながら生きている現実でもあり、社会がそうしたアイデンティティに縛りつけていることでもあるように思います。
だからこそ、障害女性たちからのサイン、障害女性に向けられている差別に、敏感にならなければならなりません。差別は誰しもに内在します。その差別に敏感になることが私たちの武器になることを、障害女性たちの活動や経験が教えてくれています。
障害女性の視点が障害をめぐる問題の核心をあぶりだすことにつながること、女性であることが勇気の源になります。障害女性はそれだけで“Good job!”な存在なのです。
(立命館大学生存学研究所客員研究員 長谷川 唯)
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