5月31日(金)DPI全国集会in松山 教育分科会報告
「障害者の高校進学について」
5月31日(金)第35回DPI全国集会in松山で開催した教育分科会について、DPI教育部会から報告と、参加者であるメインストリーム協会の鍛治克哉さんに感想を書いて頂きました。是非ご覧ください。
教育分科会プログラム「障害者の高校進学について」
■各地からのレポート報告(敬称略)
・沖縄 長位 鈴子(DPI常任委員、沖縄県自立生活センター・イルカ代表)
・北海道 山崎 恵(DPI常任委員、インクルネットほっかいどう)
・兵庫 凪 裕之(障害者問題を考える兵庫県連絡会議 事務局次長)
■パネルディスカッション
アドバイザー:崔 栄繁(DPI日本会議議長補佐)
開催経緯、分科会報告、今後に向けて
■分科会開催の経緯
96%の中学生が高校に進学するにも関わらず、障害者権利条約批准後も、障害のある子どもが一般の高校に進学するには未だに大きな壁があります。
障害のある生徒が、受験者数が定員数より少ないにも関わらず不合格になるという事態が起きています。
今回の教育分科会では、沖縄、兵庫、北海道からのレポートをもとに、各地の障害者の一般高校への進学に関する現状や課題を共有し、障害者権利条約や権利条約のパラレルレポートを軸にしながら、障害者差別解消法等をどう活用し、障害者の高校進学をすすめていくかという議論を深めるために分科会を設定しました。
■分科会で報告、議論したこと
沖縄の長位さんからは、小学校の入学時から10年以上の関わりのある仲村伊織さんのことについて報告されました。彼には、重度の知的障害があります。小中学校は地域の普通学級で過ごしてきました。
本人は、高校も一般高校へ行きたいと思い、さまざまなITを使いながら受験勉強をしてきました。受験にあたって学校側は、合理的配慮を行いました。しかし、定員に対して受験者が下回っているにもかかわらず、不合格とされ、2年間、浪人生活を送っています。
受験後、何度も教育委員会と話し合いましたが、障害を持つ子が高校に来たら、普通の子どもが勉強できないと言った言葉には怒りしか感じませんでした。障害のある子どもは、悪いのでしょうか。行きもしないのに決めつけるのでしょうか。今まで地域で生きてきた仲村伊織さんが地域から排除され、学校へ行けないのはおかしくないですか。誰か、答えを教えてほしいと会場に問いかけられました。
この問いかけに、日教組の佐伯さんからは、日教組全体としても。定員内不合格をどうにかしたい、とても重い課題であると捉えているという発言や、障害のある子どもが高校で学んで、どんな意味があるのかといったような学校現場の教師の意識がやはり課題だと思いますと発言がありました。また、合理的配慮と入試の合否について、日本は障害者権利条約に批准し、障害を理由に高校受験を拒否することはできない。しかし、合否は別の話というところが今日的な課題であるという問題提起がなされました。
続いて、兵庫の凪さんから、権田祐也さんの高校受験について報告がありました。
権田さんは、今年の4月から、兵庫県立湊川高校に通っています。コミュニケーションが難しく、「イエス、ノー」でしか、自分の思いを伝えることができません。また、胃ろうの手術も受けていて、医療ケアも必要です。このため看護師が必要ですが、入学当初はなかなか体制が整わず、母親が授業中も介護しながら学習している状況でした。しかし、少しずつ学校側も変化し、看護師や、教科書のページをめくったり代筆をしたりする支援員を学校が探しました。
現在は、軌道に乗りましたが、送迎はまだ少し時間がかかる問題で、母親の負担は減らない状況にあります。
このような高校生活を送っている権田さんですが、一番の志望校は、不合格になった神戸市立楠高校でした。入試では、時間延長を行い、YES、NOによる選択式の問題で解答し、点数もある程度は取れました。しかし、不合格になりました。
校長は、点数の問題ではなく、「この1年で劇的に成長するとか」と言いました。障害者として生きる私たちを含めて否定する言葉であり、この発言を巡り、様々なやり取りをしてきました。
楠高校に入学するために、私たちとともに、存在を知ってもらおうと週に2回楠高校に通ったり、議会でも取り上げてもらったり、やれることはすべてやりました。しかし、入学できませんでした。この差は一体なんなのでしょうか。今後も神戸市教育委員会に問うていきたいと話されました。
北海道の山崎さんからは、同じ札幌市立の3部制の定時制高校に障害のある2名が受験した報告がありました。一人は、重度の脳性まひで、発語がまったくできず、直筆で文字を書けず、日常の身辺介助が全介助の方。もう一人は、正式に手帳の交付はされていないのですが、軽度学習発達障害と言われている2名です。2人とも小学校、中学校は地域の普通学級で過ごしてきました。
2人はともに、最初作文と面接などによる自己推薦により受験し、作文の題にルビをふることや作文用紙の拡大、一緒に字が書ける介助者の同席、面接時における単語帳の持ち込みなどの合理的配慮を申し出て、受験をすることができました。
そして、発達障害のある子どもは合格することができましたが、脳性まひのある子どもは、時間内に作文用紙をうめることができず、不合格になりました。このため再度、5教科による一般入試を受験しました。受験に際し、選択式による出題を求めましたが、実際には、記述式でした。
結果として、2人とも合格しましたが、合理的配慮の内容については、いろいろ課題が残りましたと話されました。
会場からは、3つの高校(現在は10校)と小・中学校をセットで、インクルーシブ実践校とし、1つの学校に別枠入試の形で受け入れる神奈川の高校のインクルーシブ教育の情報提供がありました。
その一つ茅ヶ崎高校では、小中も含め、普通学級に障害児が当たり前にいるという状況があります。
また、目の前の生徒を見て、理解できるような授業に変え、難しい話ではなく、視覚教材や分かりやすく話すなどの工夫をしました。そうすることで、外国につながる生徒もわかりやすく、中退者が減ると言っていました。これは、みんなが求めているものではないかと話されました。
また、広島の方からは、最近では、呼吸器ユーザーの子どもたちの高校入試への挑戦が増えているという報告や定員内不合格者を出すことは差別であるとして定員内不合格を出していなかった時代もあったけれど、1998年度以降、3桁の定員内不合格を出している状況に、暗澹たる気持ちになったという報告がありました。
■今後に向けて
権利条約を批准し、いろいろな障害関係団体が加盟するJDFでパラレルレポートをまとめるまでに数年かかりました。教育に関しては原則「インクルーシブ」ということでまとまりました。インクルージョンは、今ある学校教育に障害のある子どもを入れることではありません。周りを変える過程も含めていることを伝えないと、周りは理解できないと思います。
また、障害者権利条約12条では、法的能力について触れていますが、個人の意思や選択、好みをきちんと考えて、自己決定を手伝ってと条約は言っています。周りが勝手にコミュニケーションできないと決めてはいけません。インクルーシブ教育の根幹はいろいろなことに影響を及ぼしています。
パラレルレポートが出た今、具体的にどうなるかをしっかり関心をもって追いかけ、国際社会がインクルーシブ教育の背中を押していることに自信を持ち、小中学校でともに学ぶ取り組みをベースにしながら、高校へとつなげること。その取り組みがやがて高校をどうするかという課題につながります。
高校の問題はもちろん、地域の小中学校でのともに学ぶ取り組みをさらにすすめ、そして高校へと繋げていく視点を持ち続けていくことが何よりも重要です。
DPI教育部会 杉田 宏(ピアサポートみえ、DPI特別常任委員)
参加者感想
私は今回、DPI松山集会にて教育分科会に参加しました。
教育分科会においては高校における「定員内不合格」の問題が議論されていました。率直な感想を言うと、「沖縄県」、「兵庫県」、「北海道」と三都市の方々にお話をお伺いしましたが、「やはり地域格差が大きい」と改めて実感しました。そもそも地域格差が起きていること自体が問題だと私は思います。
今年度の例で言うと、兵庫県の方は高校に合格して、沖縄県の方は残念ながら不合格になった点一つをとっても各市町村によって対応や仕組みが異なっている点がまさにこのことを表しています。
これらの背景にはやはり、まだまだ各地の障害者団体が教育という事柄に対して取り組んでいる団体が少ないことが挙げられると思います。
私が活動しているメインストリーム協会では2018年4月からインクルーシブ教育部を設立しました。
私自身もインクルーシブ教育部の一員として活動しています。私の地元、兵庫県西宮市では高校どころか小学校入学の際してもまだまだ問題があると言わざるを得ません。私が一緒に活動をしている子どもたちはまだまだ小学生ですが近い将来、高校受験やその先の地域生活が待っているわけです。
今後も「最初の分離は一生分離の始まり」ということを強く胸に刻み活動をしていきたいです。今回の教育分科会でより一層この思いを強くしました。
ありがとうございました。
鍛治 克哉(メインストリーム協会)
以上