【ポイントまとめました】カナダの脱施設化プロセスから学ぶ日本の地域移行・脱施設化に向けた今後の取り組み(DPI全国集会「特別分科会」報告・感想)
DPI全国集会「特別分科会」について、報告を下林慶史(日本自立生活センター)が、感想を茨木尚子さん(明治学院大学)が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
1.伊藤洋平(厚生労働省障害保健福祉部障害福祉課課長)
- 今年度は、診療・介護・障害福祉の報酬が同時改定される年
- 現場職員の処遇の賃金や処遇改善を図ろうとしており、地域移行支援拠点の拠点コーディネーターの人件費を報酬で措置する
- 地域移行支援拠点は今年度から設置が市町村の努力義務となっている
- 地域移行の中核を担う拠点コーディネーターの人件費を措置にすることで、拠点設置を後押ししたい
- 施設のあり方と地域移行支援のあり方を併せて議論する必要がある
2.鈴木 良(同志社大学)
- カナダは連邦制のため州ごとに障害者福祉施策が異なる
- 特にブリティッシュコロンビア州にある「親の会」が大きな役割を果たした
- 「親の会」は1977年には「パーソナルアシスタンス」を要求して「グループホームはミニ施設だ」という指摘をした
- 知的障害当事者の会と共に協力して運動を展開している
- 親の会と当事者の会が協力することによって、本人中心の地域生活の仕組みづくりや施設閉鎖の動きが広まった
- カナダでも「コーディネーター」を担う第三者が重要な役割である
- 地域生活について「個別化給付」という形で本人が使えるお金を確保し、「グループホーム」をどう捉えるかが課題
3.山田 浩(ピープルファーストジャパン)
- 「パンジー」では活動の一環で映画を制作し、津久井やまゆり園などの入所施設や様々な団体へインタビューしてきた。その中で、親御さんの苦悩や入所施設の制度・構造の問題点、地域生活の支援者の悩みなどが非常に伝わってきた
4.小川道幸(映画「大空へはばたこう」監督)
- 社会の多くの人が「知的障害者は理解力が弱い、健常者のようにできない」と思い込んでいるのではないか
- そういった思い込みがなくなって支援するシステムがあれば、どんな障害があっても地域で暮らせる
5.佐々木桃子(全国手をつなぐ育成会連合会会長)
- 現在、障害者の生活の移行先はグループホーム利用者数が入所施設利用者数を上回った
- 各地域や親の会から新たな施設を作ってほしいとの声が根強くある
- 暮らしの場と日中活動の場がパッケージになっている「施設」に安心感を覚える人が多い。ただし、この「安心」とはあくまで親にとっての安心である
- 親の意識改革と本人への意向調査・グループホームから地域生活への支援についての法制化が必要
詳細は下記報告をご覧ください。
分科会で議論したこと
6月2日(日)の特別分科会では、大人になって以降の生活が施設や家族に頼らず自分の住みたい地域で生活し続けるにはどうすればよいか、ということがテーマとして取り上げられました。
冒頭に部会長の今村氏から直近の制度の動向やカナダなど諸外国の脱施設化の実践から学びを深め、DPIやJIL、ピープルファーストなどで、ロードマップづくりや政策提言のための活動をスタートさせている旨が述べられました。
一人目の登壇者は、厚生労働省の伊藤洋平氏でした。伊藤氏からは令和6年度の報酬改定や地域移行支援拠点と拠点コーディネーターについて説明がありました。
伊藤氏によれば今年度は、診療・介護・障害福祉の報酬が同時改定される年で、現場職員の処遇の賃金や処遇改善を図ろうとしており、地域移行支援拠点の拠点コーディネーターの人件費を報酬で措置する、とのことでした。
なお、地域移行支援拠点は今年度から設置が市町村の努力義務となっており、地域移行の中核を担う拠点コーディネーターの人件費を措置にすることで、拠点設置を後押ししたいとのことでした。
また、それと同時に施設へも地域移行の取り組みを促すことにより、施設を小規模化しやすくすることも考えられており、施設のあり方と地域移行支援のあり方を併せて議論する必要があるとのことでした。
二人目の登壇者は、同志社大学の鈴木良氏で「カナダにおける知的障害者の脱施設化」について報告していただきましました。
鈴木氏によれば、カナダは連邦制のため州ごとに障害者福祉施策が異なるそうで、特にブリティッシュコロンビア州にある「親の会」が大きな役割を果たしたとのことでした。
この「親の会」の特徴は1977年と早い段階で「パーソナルアシスタンス」を要求していたり、「グループホームはミニ施設だ」という指摘をしたり、なによりも知的障害当事者の会と共に協力して運動を展開している点で、「脱施設ガイドライン」作成やピープルファースト立ち上げに繋がっていったそうです。
親の会と当事者の会が協力することによって、本人中心の地域生活の仕組みづくりや施設閉鎖の動きが広まったとのことでした。
また、カナダにおいても「コーディネーター」を担う第三者が重要な役割であること、地域生活について「個別化給付」という形で本人が使えるお金を確保すること、「グループホーム」をどう捉えるかが課題であると指摘されました。
三人目の登壇者は、ピープルファーストジャパン代表の山田氏と支援者の小川氏でした。
山田氏が普段所属している「パンジー」では、活動の一環で映画を制作され、津久井やまゆり園などの入所施設や様々な団体へインタビューしたそうです。
その中で、親御さんの苦悩や入所施設の制度・構造の問題点、地域生活の支援者の悩みなどが非常に伝わってきたそうです。
小川氏は、取材を通して社会の多くの人の中に「知的障害者は理解力が弱い、健常者のようにできない」という思い込みや偏見があるのではないか、と強く感じられ、そういった思い込みがなくなって支援するシステムがあれば、どんな障害があっても地域で暮らせるのではないか、と述べられました。
加えて山田氏からは、障害者権利条約の権利委員で唯一の知的障害当事者であるサー・ロバート・マーティン氏の来日に同行したときのことを話され、「入所施設をなくしていかなあかん」と力強く述べられたのが印象的でした。
四人目の登壇者は、全国手をつなぐ育成会の佐々木桃子氏でした。
佐々木氏は、現在障害者の生活の移行先について、グループホーム利用者数が入所施設利用者数を上回ったと述べた上で、各地域や親の会から新たな施設を作ってほしいとの声が根強くあるとし、暮らしの場と日中活動の場がパッケージになっている「施設」に安心感を覚える人が多いと複雑な思いを語られました。
その一方で、この「安心」はあくまで親にとっての安心で本人にとっての安心ではないため、親の意識改革と本人への意向調査・グループホームから地域生活への支援の法制化が必要である、と述べられました。
パネルディスカッション
後半のパネルディスカッションでは、今後の課題や必要な取り組みについて意見が交わされ、地域移行の際に選択肢をグループホームだけで考えないことや、重度訪問介護の更なる積極的利用、障害者福祉分野の予算引き上げ・支援者の人材確保、障害当事者がメディアで発信することの重要性などについて議論が交わされました。
今回の特別分科会は様々な立場・視点から脱施設化・地域移行に向けての提言があり、親の意識改革が必要なことやグループホームをどう捉えるか、ピアサポートの重要性、支援者の人材確保など、今後の運動の手がかりとなる内容が非常に多かったです。
下林慶史(日本自立生活センター)
参加者感想
権利条約所見で強い要請を受けた「脱施設」政策について、先行しているカナダBC州の知的障害の脱施設政策の報告から、当事者、家族、行政がその方向性を確認し、一致して取り組んでいくことが鍵になることがよく理解できました。
ただしBC州でも重度障害、医療的ケアの必要な人の中には、高齢者ナーシングホームなどに入所せざるを得ない状況もみられることは、施設・GH、または家族同居の選択肢が中心となっている日本にとっては見過ごせない点であると思われます。より深くその実情や要因を知りたいと思いました。
時間の制約もあり、日本の脱施設について、今後どう考えていくのか、それぞれの立場からの要望や危惧などについて、より深く議論することができなかったのは残念でした。
特に、グループホームでの暮らしではなく、支援を受けながらの地域での多様な暮らしの選択肢をどう増やしていけるのかについて、具体的に示しながらその可能性が見いだせる議論がしたかったです。
最後に、知的障害当事者の山田さんの「厚労省に行って意見を言いたい!」という力強い発言はとても良かったです。
その際、厚労省が計画している施設のあり方検討会に、知的障害当事者委員が入るべきであることをこの会の総括として示されなかったのは残念に思えました。
茨木尚子(明治学院大学)
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