【ポイントまとめました】「滝山病院事件から見えた日本における精神医療の現在地点」(DPI全国集会「権利擁護分科会」報告・感想)
DPI全国集会「権利擁護分科会」について、報告を伊藤秀樹さん(AJU自立の家)が、感想を福嶋哲平さん(CILひかり(旧・自立生活センターてくてく))が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
1.持丸 彰子(NHK大阪放送局ディレクター)
- 精神科病棟は、精神科特例により他の科に比べ少ない人員配置が認められており、さらに滝山病院は全体のスタッフの9割が非常勤であった
- 番組で映し出された虐待の場面は、決して酷いところだけを抜き取ったわけではなかった
- 病院のスタッフも虐待や著しい人権侵害を目撃していた
- しかし、上司が虐待に加担し黙認していたため、通報した看護師も不利益を被る不安があった
- 「必要悪」として医療機関、家族、行政など様々な立場の人たちが滝山病院を温存させてきた
2.渡邉 英貴(精神障害当事者)
- 入院したアルコール病棟の看護師は、患者と人間的な付き合いをしてくれた
- 自由な発言が許される「自治会」があり、患者同士が快適に過ごせ、問題があれば話し合いをして解決していくことが出来た
- 外出も許可されておりAA(アルコホーリクス・アノニマス)に通うことや床屋へ行くなど、外に出ることが非常に楽しみだった
3.たにぐちまゆ(DPI常任委員、大阪精神障害者連絡会)
- ある病院では昭和時代から40年以上も入院している人がおり、ものすごくショックを受けた
- 高圧的な医師がおり、声を上げれば不利益を被るのではないかと思い、怖くて声を上げることが出来なかった
- 悪い病院は潰し良い病院を残す、それだけでは医療は変わらない
- 国や病院が抜本的な改革に取り組み、患者たちが声を出していく努力も必要
詳細は下記報告をご覧ください。
分科会開催の経緯
今年、東京都八王子市にある滝山病院での虐待事件が明るみになり、多くの人たちに衝撃を与えました。特にNHKによるドキュメンタリー番組『ルポ 死亡退院~精神医療・闇の実態~』の内容は凄惨であり、どの病院でも起こる可能性があることから氷山の一角と言うべき状態です。
そこで今回は、この番組を制作した一人である持丸氏に滝山病院の実情を語っていただくとともに、他の病院での入院体験を持つ当事者からも実態を語っていただきました。その中から、権利条約総括所見でも厳しく指摘された、今の日本の精神科医療がどういった位置に置かれているのかを考える場としました。
分科会で議論したこと
持丸氏から滝山病院事件の概要や取材に至ったきっかけ、精神医療の問題などが話されました。滝山病院のような精神科病棟は、精神科特例により他の科に比べ少ない人員配置が認められており、さらに滝山病院は全体のスタッフの9割が非常勤でした。
番組で映し出された虐待の場面は酷いところだけを抜き取ったのではなく、長年に渡り虐待が蔓延しており、外部との連絡手段も限られていたことから、虐待の事実が外に出にくい状態でした。
患者が助けを求めたとしても不利益を被る不安があり、外から能動的に入らない限りは虐待の把握は不可能でした。
病院のスタッフも虐待や著しい人権侵害を目撃しているのですが、上司が虐待に加担し黙認していたため、通報した看護師も不利益を被る不安があったそうです。ですが、良心の呵責に苛まれ告発したとのことです。
滝山病院はこれまで「必要悪」として精神医療の一部を担い温存されてきましたが、地域に戻せない患者の受け皿になっていたことから、医療機関、家族、行政など様々な立場の人たちが滝山病院を温存させてきたということです。
医療と福祉の構造自体が弱者をより見えない場所に押し込め、それが全く見えない状況になっていることの恐ろしさを痛感しました。
渡邉氏とたにぐち氏からは自身の入院経験が語られました。
渡邉氏は入院前、かなりの躁状態でしたが、ある出来事により極度の被害妄想を呈するようになり入院に至りました。
入院したアルコール病棟の看護師は、患者と人間的な付き合いをしてくれました。また、自由な発言が許される自治会があり、患者同士が快適に過ごせ、問題があれば話し合いをして解決していくことが出来ました。
また、外出も許可されておりAA(アルコホーリクス・アノニマス)に通うことや床屋へ行くなど、外に出ることが非常に楽しみでした。
二回の外泊を経験して無事半年ぶりに退院し、その後は病院に通って社会復帰を目指し、数年経ったあと奮起して今の仕事に就くことになりました。
たにぐち氏は一回ずつの入院は長くないのですが12回入院した経験があります。ある病院では昭和時代から40年以上も入院している人がおり、ものすごくショックを受けたとのことです。また、別の病院でも高圧的な医師がおり、たにぐち氏も声を上げれば不利益を被るのではないかと思い、怖くて声を上げることは出来ませんでした。
たにぐち氏は「悪い病院は潰し、良い病院を残すだけでは医療は変わらないと思います。国や病院が抜本的な改革に取り組み、患者たちが声を出していく努力も必要だと感じました。このような事件は滝山を最後にして欲しいと願っています。」と想いを語られました。
今後に向けて
持丸氏:人としての尊厳が損なわれている状況をこれ以上起こさないためには、中を可視化できる仕組みを強化することが大前提だと思います。また、地域と医療を密着させ条件を整えれば地域で支えることが出来る人はいると思うので、病院が外に開かれ患者が望む場所で暮らすことが出来るように、医療も福祉も向かっていく必要があると思います。
辻氏:地域における医療や福祉が絶対的に不足しており、社会の中での生きづらさがあったことで滝山病院の事件が起きてしまったと思います。DPI日本会議がするべきことは障害者権利条約の統括所見を活かして、障害のある人もない人も全ての人が住みやすい社会になるよう取り組んでいく必要があります。
(AJU自立の家 伊藤秀樹)
参加者感想
私は、本年2月にEテレにて放映された「ルポ 死亡退院 〜精神医療・闇の実態〜」自体はたまたま観たのですが、観たときの衝撃はすさまじかったので、たまたまでも視聴できて本当に良かったと思ったのを鮮明に覚えています。
それがあっての今回の本プログラムには、とても主体的に参加できました。感想として言えるのは、本事件の根底には「人権意識の欠如」という、この国のあらゆる(といっていい)問題に通じる原因があることをあらためて確認できた、ということです。
しかも、それは、滝山病院のスタッフや当事者の家族のみならず、監督官庁である東京都や、精神科病院を人里離れたところに設置して精神障害者を“社会”から分離する政策を執り続けている政府、そして、直接的には関係していない人(ここには、当然、私自身も含まれる)にも共通して存在していて、そのことが本事件の原因として大きな部分を占めているのは間違いないでしょう。
精神障害者であっても、そうではない人と同程度の人権を有しており、そのことを私たちが認識してそれを尊重できていれば本事件のような虐待事件は起こらなかったはずだと思わずにはいられませんでした。
そして、自分は、一人の障害者として、「人権」を生涯のテーマとして活動していきたいと改めて思いました。
(CILひかり(旧・自立生活センターてくてく) 福嶋哲平)
こんな記事も読まれています
現在位置:ホーム > 新着情報 > 【ポイントまとめました】「滝山病院事件から見えた日本における精神医療の現在地点」(DPI全国集会「権利擁護分科会」報告・感想)