【ポイントまとめました】「北海道知的障害女性0歳児遺棄事件から考える-私たちの『性と生殖の権利』-」(DPI全国集会「障害女性分科会」報告・感想)
DPI全国集会「障害女性分科会」について、報告を村田惠子(DPI常任委員)が、感想を田中恵美子さん(東京家政大学、知的障害のある方の自立生活を考える会)が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
1.佐々木 貞子(DPI常任委員・DPI女性障害者ネットワークメンバー)
- 障害女性は障害者差別と女性差別を重複して受けるため、その困難は掛け算的に増える
- 複合差別は可視化されにくく、施策の谷間に置かれ放置されてきた
- 障害女性は性のない存在とみなされる一方、性的存在として搾取されると言わざるを得ない
2.長沖 暁子(SOSHIREN女(わたし)のからだから)
- 日本には世界と異なるリプロダクティブ・ライツの在り方と課題がある
- 日本はジェンダーギャップ指数が156ヵ国中120位と低く男性中心社会が根強く存在している現状
- それぞれが自分の意思で人生・性と生殖について決め、そのための情報と手段が持てる社会への変革が必要
3.藤原 久美子(DPI常任委員・DPI女性障害者ネットワーク代表)
- 厚労省の障害者、障害のある女性への施策対応への具体的な姿勢が見えないことに対する緊急的な課題がある
- 厚労省に、①障害女性のリプロに関わる福祉施設等職員への研修、②障害者が性教育を受ける権利、③相談できる環境の整備、④0歳児遺棄事件等についての調査、⑤再発防止に障害女性を参画させて取り組むことを要望した
詳細は下記報告をご覧ください。
分科会開催の経緯
北海道の就労支援施設で知的障害のある女性がトイレで出産し、窒息死させた罪で有罪となりました。事件は何故起きたのでしょうか。障害女性の実態調査と困難に取り組んできた当事者から報告を受けるとともに、社会的背景にある障害者の性と生殖の権利について理解を深めて、障害者への優生思想について参加者と一緒に考えました。
分科会で議論したこと
障害女性複合差別実態調査から(佐々木貞子)
障害女性は障害者差別と女性差別を重複して受けるため、その困難は掛け算的に増えて行きます。可視化されにくく、施策の谷間に置かれ放置されて来ました。
DPI女性障害者ネットワークが2011年調査を行い、翌年発行した障害女性複合差別実態調査報告書では、性的被害が多い・性と生殖の権利が否定されがちである・異性介助が強いられる・家庭内のケア役割を過度に負ってしまう・画一的な女性像に縛られ自己肯定感が低い、など障害女性の様々な困難が浮き彫りになりました。
いわば障害女性は性のない存在とみなされる一方、性的存在として搾取されると言わざるを得ません。
性と生殖の権利について(長沖暁子)
日本では性と生殖の権利がどのように形成されてきたのか、国の人口政策、女性の健康運動からの変遷、日本にあるリプロダクティブ・ライツの捉え方、その背景にある性教育の実態、世界と異なるリプロダクティブ・ライツの在り方と課題が報告されました。
日本では性と生殖の権利において女性の自己決定権が未だ認められていないこととその評価となる、ジェンダーギャップ指数が156ヵ国中120位と低く男性中心社会が根強く存在している現状プラス障害者への差別が加わることでの障害女性への複合的な障壁が生まれること、障害の有無にかかわらず、それぞれが自分の意思で人生・性と生殖について決め、そのための情報と手段が持てる社会への変革を解説いただきました。
北海道知的障害女性0歳児遺棄事件にある社会的背景と私たちの活動(藤原久美子)
北海道0歳児遺棄事件に対して要望書を提出した経緯、社会的背景にある刑法等法的課題、知的障害のある女性の生活環境の脆弱性、厚労省が公表するDV相談の集計や障害者虐待事例への対応状況調査の紹介から見える厚労省の障害者、障害のある女性への施策対応への具体的な姿勢が見えないことに対する緊急的な課題があります。
障害女性のリプロに関わる福祉施設等職員への研修や、障害者が性教育を受ける権利、相談できる環境の整備、0歳児遺棄事件等についての調査と再発防止に障害女性を参画させて取り組むことの5項目を要望したことに対する厚労省からの回答とその問題点についての報告がありました。
【指定発言】知的障害のある人への性教育の実態(小森淳子)
知的障害者への性教育の背景にある、性と生殖の権利が認められていない課題に対して、七生養護学校事件を通して各地で新たな性教育につながっている現状への発言がありました。
【3名の知的障害のある女性の体験談】
知的障害のある女性から、北海道0歳児遺棄事件への思いや性教育への考え、日常生活での体験として人格や性のない存在として扱われていた状況、経済的自立の困難さを紹介しました。
今後に向けて
複合差別やリプロダクティブ・ヘルス・ライツへの理解不足、優生思想が生み出した社会的な障壁は、未だに社会に根強く残っているため、特に障害女性は複合的な差別を受けて、生きづらさや困難を受けやすい環境に置かれています。
しかし、障害女性の課題は表に現れにくいためメインストリーム化し、障害者全体の課題としての認識を広げ深めて市民社会全体の課題とする必要があります。
今年度は、国連権利委員会による日本政府への審査が行われます。障害女性に関する国の取り組みへの国連権利委員会からの勧告を受けて、各地でのシンポジウムや学習会の開催を企画、障害女性への具体的施策の必要性、障害女性の複合差別やリプロダクティブ・ヘルス・ライツへの理解、優生保護法問題の早期解決に向けて取り組みます。
参加者感想
5月29日(日)に行われた分科会では、司会の平野氏から事件の概要が説明された後、佐々木氏から複合差別について実態調査をもとにした報告、続いて長沖氏がSOSHIRENの立場から性と生殖の権利についての報告、藤原氏からは今回の事件に関してのDPI女性ネットワークを含む各団体の動きとそれに対する厚労省の回答に関する報告、そして小森氏からは知的障害のある人への性教育の実態に対する報告がありました。最後に、この事件に対する知的障害当事者からの声も披露されました。
報告を聞いて改めて思うことは、今日までの女性の性と生殖の権利が認められていない状況に加えて、障害のある女性が障害ゆえに性の意欲も能力もない者と捉えられていること、まさに複合差別ゆえの事件であったということです。
とかくこうした事件が起こると、知的障害女性への性教育の実施に対策が矮小化されますが、それはもちろんのこと、むしろ性教育は男性にも職員にも(にこそ)実施されるべきだし、その際、性を危険性を孕んだ防衛するものとするのではなく、人権尊重の機会としてどうとらえるのかという視点で取り組んでほしいと願います。すでに指摘されていたように、この事件には相談体制など、様々な課題があります。必要な対応を今後も行政や法人に求めていかなければなりません。
田中恵美子(東京家政大学、知的障害のある方の自立生活を考える会)
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