【ポイントまとめました】「差別解消法見直しの状況、コロナ禍で障害者が置かれている状況」(DPI政策論「全体会」報告・感想)
2021年12月15日 イベント障害者権利条約の完全実施
11月27日(土)、28日(日)第10回DPI障害者政策討論集会をオンラインで開催しました。
全国から約250名の方にご参加いただきました。ありがとうございました!
1日目「全体会」の報告について佐藤聡(DPI日本会議事務局長)、参加した感想を高橋愛実さん(CIL星空)が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
〇差別解消法見直しの状況 佐藤聡(DPI日本会議事務局長)
- 障害者差別解消法は本年5月に改正され、長年の課題だった事業者による合理的な配慮の提供の義務化(8条)が盛り込まれた
- ワンストップ相談窓口の設置が求められている
- 施行期日は2024年4月ごろを見込んでいるが、1日も早い施行を求めていく
〇コロナ禍で障害者が置かれている状況
1.長位 鈴子(沖縄県自立生活センター・イルカ代表)
- 沖縄では、知的障害の入所施設や精神科病院でクラスターが発生。うるま記念病院では、270床のうち、70名以上が亡くなった
- 10月に知事あてに要望書を提出。回答はほぼ黒塗りだった
- イルカと他団体とで沖縄障害者人権センターを立ち上げ、相談対応に取り組みを始めた
2.地村 貴士(自立支援センターぱあとなぁ代表)
- 8月に知的障害のあるDさんがコロナ感染した(療育手帳A、区分6)
- マスク着用が難しい重度障害者の感染、どのように感染予防をしながら支援するか悩んだ
- 今回の経験で見えた課題は、意思疎通の難しい行動障害のある知的障害が感染した場合は、病院への入院調整は非常に難しい場合がある
3.「国連の障害者権利委員会 脱施設ワーキンググループの取り組みについて」長瀬 修(立命館大学衣笠総合研究機構教授)
- 2020年8月の第23会期の障害者権利委員会において、コロナの施設入所者をはじめとする障害者への深刻な影響について報告があった
- 9月に権利委員会は「脱施設化に関するガイドライン(注釈付きアウトライン)」を採択した
- 障害者権利条約では、地域での自立生活は非常に重視されている
- 日本の法制度で考えると、障害者基本法、第4次障害者基本計画の地域移行などに繋がる
- 第5次計画を通じて、どのようにガイドラインや19条の一般的意見による解釈を実施していくか。グループホームをどう位置付けるか。津久井やまゆり園の新施設とも密接に関連する
- まだまだ日本の現状は、権利条約19条が求める所には到達していない
詳細は下記「報告全文」をご覧ください。
報告全文
【第一部】「障害者差別解消法見直しの状況」
佐藤 聡(DPI日本会議事務局長)
障害者差別解消法は本年5月に改正され、長年の課題だった事業者による合理的な配慮の提供の義務化(8条)が盛り込まれた。他にも、3条に国及び地方公共団体の連携協力の責務が追加され、6条には差別解消の支援措置の強化、14条には相談体制等〕の拡充、16条に、地方公共団体の事例の収集・整理及び提供に努めることが加えられています。
9月からは内閣府障害者政策委員会で基本方針の見直しが始まり、障害者団体、地方公共団体、事業者団体からのヒアリングが行われており、多くの障害者団体からはワンストップ相談窓口の設置を求める意見が出された。他にも差別の定義、法の対象範囲、障害女性の複合差別等の重要課題を盛り込めるかが焦点となります。
今後は2022年夏頃までに基本方針の改定を行い、その後は各省庁で対応指針の見直し、事業者への周知啓発へと移っていきます。施行期日は「公布の日(令和3年6月4日)から起算して3年を超えない範囲内において政令で定める日」とされており、現在も確定されていないですが、2024年4月頃を見込んでいるものと思われます。一日も早い施行を求めていきたいです。
【第2部】 「コロナ禍で障害者が置かれている状況」
長位鈴子(沖縄県自立生活センター・イルカ代表)
沖縄では、知的障害の入所施設や精神科病院でクラスターが発生。うるま記念病院では、270床のうち、70名以上が亡くなりました。職員不足、ゾーニングが出来ず、陽性者と陰性者が病棟内で混在し、クラスターが発生しました。この事実を確認するために10月に知事あてに要望書を提出。
患者の中で他の病院に移れた人と移れなかった人の違いはなにか、なぜゾーニングが出来なかったのか。沖縄県新型コロナウイルス感染症対策本部と2回意見交換し、県からは回答もあったが、ほとんど黒塗され何もわからないものでした。
また、今回どこに電話したら良いかわからないという多くの声があり、イルカと沖縄県精神保健福祉会連合会(沖福連)とでおきなわ障害者人権センターを立ち上げ、相談対応に取り組みを始めました。
⚫地村貴士(自立支援センターぱあとなぁ代表)
8月に知的障害のあるDさんが感染しました(療育手帳A、区分6)。東大阪で初めて重度訪問介護604時間が支給決定され、地域で生活を始めていました。ワクチンは7月に2回接種済みでした。生活介護の職員の感染から始まり、介助者、障害者を含め5名まで感染が広がりました。
保健所と連絡をとり、職員はすぐにホテル療養へ。Dさんは保健所に入院調整を頼んでいましたが、調整してもらえない日が続き、体験室をゾーニングして、濃厚接触者の介助者2名が12時間交代で介助。保健所はなかなか連絡がつながらず、結局、病院が見つかったのは陽性確定から8日目。
隔離期間があと数日で終わりという時期でしたが、介助者2名の体力も消耗しており、今後他の障害者が感染した時に重度知的障害者の入院対応をしてもらえるかも考えて、入院しました。
今回困ったことは、マスク着用が難しい行動障害のある重度知的障害者が感染し、保健所に入院調整を希望したが全然進まず、コロナ感染後もマスクが着用できず、大きな声を出し、どうしても動き回ってしまうDさんを、誰がどの場所で、入院できるまでの期間、もしくは入院できなかった場合の発症後10日間を、どのように感染予防しながら支援するか、とても悩みました。
今回の経験で見えた課題は、重度障害者が感染した場合、特に意思疎通の難しい行動障害のある知的障害が感染した場合は、病院への入院調整は非常に難しいということ。入院できるという連絡が来たのは8日目で、その間、保健所や行政は罹患した当事者の直接介助には関わってくれるわけではありません。
あくまでも、支援するのは家族、もしくは自立生活センターなど支援の関わりの比重の大きい事業所。民間のヘルパー派遣事業所の多くは、ヘルパーやヘルパーの家族の安全を守るため、早々に派遣から撤退します。
24時間の見守り支援も含め、その方が関わる日中系サービスの事業所やグループホームなどの居住系支援を行っている団体、重度訪問介護の派遣による自立生活支援をしている自立生活センターなどが最終的には覚悟を決めて感染した当事者の命を守ることになります。
風評被害、コロナ差別もありました。5名の感染者や4名の濃厚接触者を出してしまったことにより、他の健康な状態の当事者にも影響がありました。感染リスクの不安を理由に、関わる他事業所が支援を打ち切ったり、ぱあとなぁ全体の職員や当事者にPCR検査を要求されたり、濃厚接触や感染となったしまった職員の職務復帰に対しても、本当に大丈夫なのかの不安や心配の声がありました。
今後は、せめてマスクができない当事者や、余裕があれば他の利用者に対しても、2週間に一度くらいは自主的に簡易キット等を活用して検査し、自覚症状が無い場合も早期発見できたほうが良いのではないかということです。
しかし、法人独自の大人数への定期的な簡易検査実施は、費用、いつまでやるのかなどの課題もあり、判断に悩みます。障害者が地域で生き辛くならないように、できる感染対策を行い、周りに対しても理解に努めて頂けるよう、働きかけていきたいです。
⚫長瀬 修(立命館大学衣笠総合研究機構教授)
2020年8月の第23会期の障害者権利委員会において、コロナの施設入所者をはじめとする障害者への深刻な影響について報告がありました。脱施設のワーキンググループが設置され、障害者組織を対象として参加型の地域協議を7回開催しました(アフリカ、アジア・太平洋、中南米、カリブ海、北米、東ヨーロッパ、欧州)。
そして、今年9月に権利委員会は「脱施設化に関するガイドライン(注釈付きアウトライン)」(以下脱施設化ガイドライン)を採択した。さらにブラッシュアップした意見募集が予定されており、2022年中には、障害者権利委員会によって採択される予定です。
障害者権利条約では、地域での自立生活は非常に重視されています(19条)。これを具体化するために2017年に一般的意見5を出し、地域での自立生活をどう実現するか方向性を明らかにしました。この脱施設化ガイドラインは、一般的意見をさらに具体化するものです。
主なポイントは、
- 「施設」とは、その中で障害者に提供されるサービスの規模や種類に関わらず、障害のある人たちが生活様式に関して自身で選択を行うことができず、障害者が日常生活に関するコントロールと自由[自律性]を失っている環境であるということを認識する。
- 施設には様々な形態があること、精神科病院、リハビリテーションセンター、その他集合生活の場が含まれること、小規模な施設も含まれることを認識し識別する。ろう学校、盲学校も含まれ、それらを国として認識しないといけない。国によって異なる形態の「施設」が存在し得る。
非常に広く施設の概念をとっている。障害者の尊厳を回復するため、施設収容は差別で自由の剥奪であり、地域生活をする障害者の権利を侵害していると述べている。特に日本では精神科病院への収容、入院の長期化とも関連する。 - さまざまな支援、サービスを提供し、障害者一人一人が選べることを確保する。
- どこで誰と暮らすかという「選択」が、施設で暮らすことにまで選択肢を広げるものではないことを明確にする。また国が施設を新設・維持する義務を負うことにまで選択肢を拡大しないことを明確にする。
一般的意見第5号は、100人を超える入居者を抱えた大規模施設も、入居者が5~8人のより小規模なグループホームも、個人の自宅でさえ、施設を特徴付ける別の要素として施設収容が挙げられる場合は自立生活施設と呼ぶことはできないと述べています。コントロール、様々な選択がない状況は、すべて施設であると言っています。
19条が求める自立生活を求めることは非常に大切です。しかし、現実的な政策の展開を考えると、本質的な部分の自立生活を考えると政策面で使いづらくなるのではないでしょうか。何人だったら、ということを超えた自立生活の実現を19条の一般的意見とこのガイドラインが求めているためです。
日本の法制度で考えると、障害者基本法、第4次障害者基本計画の地域移行などにつながります。第5次計画を通じて、どのようにガイドラインや19条の一般的意見による解釈を実施していくか。グループホームをどう位置付けるか。津久井やまゆり園の新施設とも密接に関連します。
当初のものより、この新施設の方があきらかに沿っていますが、19条が求めているところには到達していないとも言えます。私たちはさまざまな積み上げの中で少しずつ地域移行をしていきます。そのために新たなガイドラインをどう活かせるのかがこれからの課題となります。
(DPI日本会議事務局長 佐藤 聡)
参加者感想
全体会の話から、『脱施設化』の重要性について改めて考えるきっかけを頂きました。
コロナ禍により、施設入所をしている方々との接点が今の世の中では希薄になっていると感じます。以前であれば、施設訪問を繰り返し、地域生活をする醍醐味を伝えることができました。しかし、それが今では中々できない世の中になってきていると感じます。だからこそ、インクルーシブな世の中を目指しているのにも関わらず、地域と閉ざされた環境に置かれた施設の現状把握が難しくなってきているのではないでしょうか。
今回、登壇者の方々から『仲間を誰一人見捨てないことへの大切さ』を学ぶことができました。どんな状況であっても、必ず仲間を助けるという思いを強く持つことが、社会を変える一歩に繋がるということを学ぶことができたのです。
『脱施設化』に関する取り組みは、コロナ禍では難しい部分が多くあると思います。しかし、そんな世の中でも地域に出たいと思える方が増えるために、そして、一人でも多くのその声や想いを拾えるように今後も活動を続けていきたいと思います。
(CIL星空 高橋愛実)
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