1/20(日)観て知ろう!バリアフリー映画上映in静岡を開催しました
1月20日(日)、静岡市清水区の「清水テルサ」にて、「観て知ろう!バリアフリー映画上映in静岡」を開催しました。
この企画は、2018年度にキリン福祉財団から助成をいただき展開している「インクルーシブまるごと実現プロジェクト」の一つの柱である「ソーシャルインクルージョンの視点に基づく障害者文化芸術」の一環です。
当日は、映画「もうろうをいきる」の上映と、トークセッションの2部構成で行われました。
参加者は関係者含めて100名ほどで、盲ろうの方、視覚障害の方、聴覚障害の方、知的障害の方、車いすユーザーの方、精神障害の方など多様な障害を持つ方々にご参加いただきました。
■プログラム
①映画上映「もうろうをいきる」(1時間31分)
②トークセッション
登壇者:斉藤 正比己氏(静岡盲ろう者友の会 会長)
小出 隆司氏(NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長)
大河内 直之氏(NPO法人バリアフリー映画研究会理事長)
映画上映後のトークセッション
映画上映の後のトークセッションでは、静岡盲ろう者友の会の会長である齊藤正比己さん、NPO法人オールしずおかベストコミュニティ理事長の小出隆司さん、NPO法人バリアフリー映画研究会理事長の大河内直之さんが登壇されました。
通訳介助者の重要性
齊藤さんからは、盲ろう者は、一人一人障害の状態が異なり、支援の方法も個別性が高いということ、コミュニケーションをとることも、とても困難があること。
これらの困難をバリアフリーにするためにも、盲ろう者向け通訳介助の存在を広く社会に知ってもらい、養成していくことが盲ろう者の社会参加にかかせない。
情報、コミュニケーション、移動に大きなバリアを抱えているということは、人とのつながりをつくり、生活を豊かにしていくうえで大きな困難があるということを話されました。
私たちのまわりには、あふれるほどの情報が飛び交かっています。
それにもかかわらず、視覚と聴覚に障害を併せ持った場合、それらの情報を、盲ろう者は一人ではとらえることができません。
真のバリアフリーには、「通訳介助者」という存在が大きなカギとなるのです。
障害者文化芸術活動推進法ができて
2018年6月に障害者による文化芸術活動の推進に関する法律(以下、障害者文化芸術活動推進法)が施行され、障害者が主体的に芸術活動に携わるための施策を国や自治体が講ずることとなりましたが、この法律について、齊藤さんから「私には、これらの言葉がまぶしく思えました」との発言がありました。
耳が聞こえなくなってから、映画や演劇などを楽しむことができなかったからです。
盲ろう者となり、文化芸術活動というのは、ますます遠のいてしまいまったとのこと。
障害者基本法には、社会経済、文化スポーツなどに参加することは、権利であると明記されているものの、具体的な環境整備を規定する法律がありませんでした。
障害者文化芸術活動推進法には、国や自治体が取り組むべき11の項目が列記されています。例えば第9条には、文化芸術を鑑賞する機会の拡大のために字幕や音声ガイドまたは、手話による説明を行うこと。
また、文化施設のバリアフリーも明記されています。
第11条には発表の機会の確保など。そして、情報提供や人材育成など、これまで障害者には遠い存在であった文化芸術が、より身近な物になることを期待している、と話されました。
さらに、盲ろう者の立場から望むこととして、文化芸術に触れるために必要な情報アクセスや、コミュニケーションの配慮が、この法律単一では十分でないため、別の手立てを講ずる必要があることが指摘されました。
静岡県では、2018年3月に成立した手話言語条例により、手話が言語であると認められました。
その上で、盲ろう者が利用する触手話や、手のひらにかいてもらう通訳、さらには指点字など、一人一人の盲ろう者に対応できる情報アクセスやコミュニケーションについて、法律的な手立てをしっかりと講じていただきたいとも話されました。
関連する法律が連携することで、障害者文化芸術活動促進法も、その目的を達成することができると。
そうした意味でも、障害の違いを超えてスクラムを組んでいくことの大切さを感じている、とメッセージを発信されました。
「仕事人間」から障害児の「父親」へ
小出さんからは、かつて自分が「仕事人間」だったこと、娘さんが知的障害をもって生まれてきて、それでも家族を省みなかったエピソードや、娘さんの障害を受けいれるきっかけにもなった、ご自身が受けた網膜はく離の手術の経験を自己紹介として話していただきました。
仕事を辞め、活動を始めて20年になるそうです。障害者と出会ってこなかった人生の中で、知的障害のある子どもを授かったことで、世の中にはいろいろな障害者がいて、それぞれの人生を生きているということに改めて気づけた、ということを話されました。
娘さんが自閉症と診断されたとき、医師が「娘さんが自閉症です。ですが、希望はありますよ」と言ったそうです。
その希望とは、小出さん自身がいわゆる「パーフェクトベイビー」を望んでいたこと、確かにその期待は裏切られたけれど、28歳になる娘さんが、表現活動を通して豊かな生活を送っていることを意味します。
それを見て、周囲にいる自分たちも気持ちが、生活が、豊かになる、そういうことが希望に繋がるのだということを話されました。
加えて、現在展開している、オールしずおかベストコミュニティの文化芸術センター「みらーと」 の紹介がありました。
「みらーと」とは「未来」と「アート」(芸術)をくっつけた名称です。
小出さんは実際に障害者が製作した作品を持ってきてくださり、会場のみなさんにも回して実際に手にとって見ていただきました。
障害者文化芸術活動推進法ができたことで、障害者の文化芸術活動に予算立てがされる点に言及されていました。これは画期的なことで、「他の者との平等」や機会の均等と保障という観点でも重要なことです。
誰かの代わりになる人などいない
映画「もうろうをいきる」には8名の盲ろうの方が出てきます。
この作品で伝えたかったことは、「頑張っている障害者の感動物語」ではなく(盲ろう者の日常を映し出すことによって)「どんな命にも優劣はない」ということだと、大河内さんは話されました。
映画製作中に起こった相模原障害者殺傷事件の犯人に対して、「誰かの代わりになる人などいない」という強烈な反論となるメッセージを発信していた方も作中には出てきており、改めて命の尊さと、「生きることに意味づけをする」のではなく、「生きていること自体が意味にあふれている」ことを肌で感じて、涙があふれてきました。
『奇跡の人』
会場との質疑応答では、「重複障害をもったヘレンケラーを『奇跡の人』というが、それは失礼ではと僕は思います。パネラーのみなさんは、どう思いますか」という質問がありました。
それに対して、齊藤さんから「ヘレンケラーは原題を『Miracle Worker』といいまして、これはヘレンではなく、ヘレンを教育したサリバン先生のことを指して『奇跡的な仕事をした』と表現しています」という説明がありました。
多くの人がこの点を誤解しているのかなと思いました。
小出さんからは、「痛みや傷を知っているからこそ、共感できる部分がある。サリバン先生もヘレンケラーも、尊敬する人です」という発言がありました。ちなみに、アニー・サリバン自身も弱視の当事者であったという記録が残されています。
奇跡という種に、希望の水を注ぐ
会場の7割の方がバリアフリー映画上映に触れたことがなかったということで、有意義な会となりました。
最後に、小出さんからは文化芸術活動も含めてインクルーシブな社会づくりのためには、インクルーシブ教育が重要であることが話されました。
齊藤さんからは、奇跡の種は、あちこちに存在すること。
それは希望という水を注いだら必ず芽を出すこと。
小さな幸せを持ち寄って希望に変えていく、そんなことがこれからも皆さんとできたらいい、という発言がありました。
とても胸が熱くなりました。共に生きるためのヒントや示唆にとんだ話が聞けたトークセッションでした。
バリアフリー映画上映会を通じて、人と人とのつながり、ネットワークが新たに生まれました。このつながりを大切にして、これからも活動を続けていきたいと思いました。
最後に、映画上映会開催にあたって尽力くださった地元静岡のみなさんに、改めて感謝申し上げます。
ありがとうございました。
(事務局 鷺原由佳)
参加者アンケート(一部ご紹介)
Q 映画「もうろうをいきる」の感想をお書きください。
・8名のろう者の日常風景、そして苦労が非常にわかりやすかった
・ドキュメンタリーで複数の盲ろう者の生活、仕事、家庭での様子を追っていて、盲ろう者の考え方、家族の「盲ろう」という障害についての考え方を少し知ることができた。
・楽しいというより、心に響いたと思います。こういう映画をまた地元でやってほしい。
・日本中に盲ろう者が生活していて、又、それを支える人々もいる現実を改めて知ることができました。私は健聴者でまだまだ盲ろう者への理解ができていないことを感じました。又、手助けできるようになるためには、自分は足りないものがまだたくさんあるのだと感じました。
・夫婦仲良く生活している様子。家族も一緒に成長していける。今を大事に生きることを教わりました。
・観れたのは2度目だったが、すぐ近くで盲ろうの当事者の方が、触手話で説明を受けているのを見て、より実感が湧きました。映画の中で、「手話を使ってくれてありがとう」とすごく嬉しそうな表情で話をされていたことに心が動きました。私も触手話で話してみたいと思いました。
・「言葉が命をつなぐ、心を救う」「コミュニケションが生きる世界を広げる」。障害があってもなくても、生きていくことで必要なことは一緒なんだと痛感しました。
Q トークセッションの感想をお書きください。
・お医者様の一言「希望」。それによって家族救われたと思い、言葉の大切さを知った。
・3人の「パネラーの話が非常にわかりやすく、各当事者の立場で話されていた。
・齊藤さんの来場者からの質問への回答が素晴らしかったです。ヘレン・ケラーの「キセキ」、小出さんの「希望」。2つが「希望の種」になって社会が良くなると嬉しいです。自分もその実現に向けて、社会で活躍していきたいと思いました。
・当事者の言葉が良かったです。
・大河内さんの生のお話が障害者の文化芸術を推進する法律を知れたので良かったです。
・齊藤さんのユーモアのある、正直な言葉にハッとしたり、思わず笑ったり、大河内さんの緩やかな声や話し方にお人柄が伝わり、映画の内容にも納得しました。
・伝える場所を作って頂けたこと、良かったと思います。
・ヘレン・ケラーの話、言われて改めて思い出しました。バリアフリーに対しての意識。みんなで共に生きるという基本を大事にしたい。
・お互いに、他の障害について、理解することは大切だと思いました。手をつなぐ育成会の小出さんの話を伺って、色々な場面で手を取り合っていくことを、今後実現すると良いと思います。
・これからの自分に役立てていきたい、役立てると思います。
・文化芸術促進法の施行と内容を今回初めて知った。法の制定は一歩前進だと感じる。まだまだ補っていかねばならない問題は沢山あることを知ることができた。だから、そこも含めて、皆が手を携えて改善・生きやすい社会にしていきたいと感じた。
Q その他
・子供が学校を選ぶとき、養護学校を強く勧められ困った。私は皆一緒が良いと思い、地元の小中学校に行かせ、介助した。小さな時から分け隔て作らず、一緒にいる時間が多ければ、少しはお互いの理解が進むと思う。
・障害を超えて、皆、差別なく生きていく社会を望みます。私も少しながら協力できていけたらと思います。