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「障害のある女性に係わる0歳児遺棄事件」に関する要望書を提出しました

2022年03月24日 要望・声明権利擁護障害女性

要望を手渡す写真

知的障害のある女性が就労支援施設のトイレで一人で出産し子どもを死なせてしまった事件で、この女性は昨年2021年に執行猶予付きの有罪判決を受けました。

同様の事件は、昨年12月に千葉県四街道市で、また2019年滋賀県武雄市でも起きており、再発防止のために事件の背後にある課題を検討し、対策を行うことが求められます。

そのため、国や自治体に対して5項目の要望を挙げた要望書をDPI女性障害者ネットワーク、DPI日本会議、特定非営利活動法人しあわせなみだ、地元団体であるDPI北海道ブロック会議の連名で2022年3月12日に厚生労働省大臣、北海道知事、北海道檜山振興局長、江差町長宛に郵送で提出しました。

また、3月23日(水)に、藤原久美子 DPI日本会議常任(DPI女性障害者ネットワーク代表)、中野宏美(しあわせなみだ理事長)、白井誠一朗(DPI日本会議 事務局次長(同常任))が衆議院及び参議院議員事務所を訪問し、地元北海道選出の道下大樹 衆議院議員(立憲民主党)、木村英子 参議院議員(れいわ新選組)、福島みずほ 参議院議員(社民党)、大河原まさこ 衆議院議員(立憲民主党)と面談(訪問時間順)。

障害女性の複合差別の課題について説明すると共に、この事件に現れる問題点について話し合い、今後どのような取り組みができるのかを共に考えていただきました。

北海道選出の道下大樹衆議院議員(立憲民主党)(右から2人目)に要望書を渡す藤原さん(左から2人目)・中野さん(右)・白井事務局次長(左)
写真1:北海道選出の道下大樹衆議院議員(立憲民主党)(右から2人目)に要望書を渡す藤原さん(左から2人目)・中野さん(右)・白井事務局次長(左)

写真2:木村英子参議院議員(れいわ新選組)に要望書を渡す藤原さん(右)・瀬山さん(中央)
写真2:木村英子参議院議員(れいわ新選組)に要望書を渡す藤原さん(右)・瀬山さん(中央)

写真3:福島みずほ参議院議員(社民党)(右)に要望書を渡す藤原さん(中央)・瀬山さん(左)(手に「上告するな」と書いた紙を持っている。この日は12時ー13時まで、厚生労働省前で「優生保護法裁判東京高裁判決に上告するな!」街頭宣伝活動があった。福島さんの背後に飾ってある造花は東京優生原告の北三郎さんの手作りのもの。)
写真3:福島みずほ参議院議員(社民党)(右)に要望書を渡す藤原さん(中央)・瀬山さん(左)(手に「上告するな」と書いた紙を持っている。この日は12時ー13時まで、厚生労働省前で「優生保護法裁判東京高裁判決に上告するな!」街頭宣伝活動があった。福島さんの背後に飾ってある造花は東京優生原告の北三郎さんの手作りのもの。)

[写真04]大河原まさこ衆議院議員(立憲民主党)(右)に要望書を渡す藤原さん(中央)・瀬山さん(左)
写真4:大河原まさこ衆議院議員(立憲民主党)(右)に要望書を渡す藤原さん(中央)・瀬山さん(左)

以下は、要望書の全文です。また下記ウェブサイトからPDF及びword版テキストをダウンロードできます。

▽DPI女性障害者ネットワーク(外部リンク)


2022年3月12日

厚生労働省大臣 後藤茂之 様
北海道知事 鈴木直道 様
北海道檜山振興局長 槙信彦 様
江差町長 照井誉之介 様

DPI女性障害者ネットワーク 代表 藤原久美子
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議 議長 平野みどり
特定非営利活動法人しあわせなみだ 理事長 中野宏美
DPI北海道ブロック会議 議長 我妻武

障害のある女性に係わる0歳児遺棄事件に関する要望

私たちは、2020年3月3日に、北海道江差町にある障害者就労支援施設で、知的障害がある女性が、一人、トイレで出産し、その後、子どもを死なせてしまう事件が起きていたことを報道で知りました。女性は、2021年1月、函館地裁で「殺人罪」に問われ、懲役3年の実刑判決を受けたということでしたが、その後、6月の札幌高裁で、保護観察付き執行猶予5年がつき、いまも、事件の起きた施設で生活していると言います。

私たちは、彼女が子どもを死なせてしまったのは事実だとしても、同時に、彼女は被害者でもあると考えます。妊娠は片方の性だけでは成り立ちません。報道によると、彼女を妊娠させた相手は、施設の元職員であり、相手にとっては、彼女は「性のはけ口」だったことが裁判で明らかにされたと言います。しかし、相手は、現行法では、一切罪に問われることがないのです。私たちは、このことに、まず、強い憤りを感じます。

日本には、1996年まで、優生保護法が存在していました。この法律は、障害者を、不良な子孫と位置づけ、障害者のリプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康・権利=リプロ)を否定するものでした。障害者は性的存在であることを否定されてきたのです。しかし、その一方で、障害があることによる弱みに付け込まれた性被害も起きてきました。民間団体の調査で、障害のある被害者の性被害は、起訴に至るまでの多くの障壁があることで、その一部しか表面化していないことも明らかにされています。(※1)

今回の事件でも、一部の職員は、元男性職員と女性が交際していることを知っていたと言います。職員たちは、女性と共に入浴する機会がありながら、彼女が妊娠していたことに気づけなかったとされています。このことは、障害のある女性が、性や生殖に関する意欲や能力がないものとみなされていることを意味しているのではないでしょうか。その結果、彼女は、性と生殖に関する大切な意思決定のための適切なサポートを受けることができず、孤立したまま、事件を起こしてしまったのだと考えられます。

また、今回、事件を起こしてしまった女性は、十分な性教育を受けられずにきたことから、身体の異変に気付きながらも妊娠に気づかなかった可能性もあります。また、妊娠に気づいていたとしても、それを周囲に知られる恐怖から、他の職員や家族に相談することができなかったとも考えられます。

私たちは、障害者施設の職員に、障害のある人、特に女性のリプロに関わる研修を必須とすべきと考えます。また、障害のある人には、性別や年齢に適した性に関する情報と、性教育が提供されることが必要です。さらに、本人の決定に即した、安全で配慮ある手段が、提供されることも必要です。

残念なことに、この施設を運営する法人は、以前から障害者虐待が日常的に行われていたとして、2021年12月に行政処分を受けています。こうしたことからも、この施設が障害のある人たちにとって安全な場ではなかったことは明らかです。

障害のある人にとって、このような、就労の場であり、生活の場でもある施設から出ることは簡単ではありません。だからこそ、そこで問題が起きても、当事者は声を上げることができないのです。
こうした施設で暮らす人たちが、相談できる場、特に、性やからだの健康について安心して相談できる場をつくることが必要です。それは、虐待防止の観点からも必須だと言えます。

加えて言えば、私たちは、今回のような事件を防ぐために、施設が、障害者の不妊手術を促すようなことが起きないかという強い懸念を持っていることも書き添えます。
そのようなことは決してあってはなりません。本人や家族が望んでいるかのように不妊手術の同意に誘導することも、あってはなりません。障害がある人の人権であるリプロについて、施設職員は理解し、それを尊重しなければなりません。そして、入所者、利用者に対して立場上の優位性があることを、一人一人の職員が自覚することが重要です。

現在、国は、全国に、保健所等を拠点とした「女性健康支援センター」を設置しています。センターは、本来、女性の性やからだの健康に関わる相談を受ける場所だと思います。ただ、残念ながら、それらセンターが、女性たちの性やからだについての相談支援機関として機能しているとは思えず、まして事件を起こしてしまったような、本来、相談支援を必要としている障害女性たちからのSOSを受けとめる場として機能しているとは到底思えません。

今回のような事件をなくすためにも、こうしたセンターが、本来の目的を発揮し、障害女性を含む、全ての女性の性やからだに関するSOSを受けとめていく場となっていくことを望みます。そして、そのための人員配置等を含む機能強化を求めます。また、こうした事件の再発防止に向けた議論をする場には、特に女性であり障害者であることによる複合差別の視点をもった障害女性当事者を参画させることが重要です。

報道をみる限りでも、直近で、2021年12月には千葉県四街道市で、2019年には佐賀県武雄市で、類似の事件が起こっています。(※2)武雄市の事件については、2021年10月に、佐賀県社会福祉審議会児童処遇部会が、再発防止に向けた検証と提言を盛り込んだ報告書をまとめ、県に提出したと言います。(※3)各自治体、施設等で、障害女性当事者の参画のもと、早急に、調査が実施され、環境改善が図られることを望みます。

こうした事件の背景には、障害のある人たちが、教育や就労、そして生活の場においても、障害のない人たちと分けられ、限られた場所や人間関係の中でしか生きていく選択肢がないことがあげられると思います。国連障害者権利条約は、障害がある人が、障害のない人と同じ権利を持ち、あたり前に暮らしていくことができるインクルーシブ社会の実現を締約国に求めています。また、第6条には、障害のある女性の権利とエンパワーメントの必要性が明記されています。日本も批准している障害者権利条約の真の実現が図られる必要があります。

私たちは、以上のことを踏まえ、このような事件が二度と起こることのないよう、国、地方自治体に以下のことを要望します。

  1. 施設での職員研修に、障害のある女性の性と生殖に関する健康と権利についての項目を必ず入れるよう促すこと。
  2. 障害のある人が、性別や年齢に適した性に関する情報と、性教育を受ける機会を保障すること。また、本人の決定に即した安全で配慮ある手段の提供を保障すること。
  3. 障害のある人、特に女性たちが、性やからだのことに関わる健康や権利について相談できる場所を設け、相談しやすい環境を整えること。
  4. 国及び地方自治体において、障害のある女性が関わる0歳児遺棄事件等についての調査や、それに対する取り組みの検証を行い、再発防止に向けた検討を行うこと。
  5. 国や地方自治体に設けられる、再発防止や支援体制づくりに関わる話し合いの場に、障害女性当事者を参画させること。

以上

※1:障がい児者への性暴力に関するアドボカシー事業報告書―NPO法人しあわせなみだ
※2:12月15日 千葉日報 2階から乳児投げ落とし殺害疑い 23歳母親を逮捕四街道の施設(47NEWS 記事)
※3:佐賀新聞(ネット記事より抜粋)
佐賀県内の集合住宅で、軽度の知的障害を抱えた20代母親がくみ取り式トイレに新生児を産み落として放置した事件を巡り、有識者らで構成する佐賀県社会福祉審議会の児童処遇部会(部会長・松山郁夫佐賀大教育学部教授)が検証会議を開き、報告書を佐賀県に提出した。知的障害者への性教育の在り方などを課題に挙げ、相談しやすい環境整備の必要性などを強調した。(以下略)


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