知的障害のあるカップルへの不妊手術の強要に関するDPI日本会議声明
北海道江差町の社会福祉法人あすなろ福祉会で、同棲や結婚を望む知的障害者のカップルに対し、不妊手術を条件とし、拒否した場合に支援の打ち切りを迫っていた問題で、DPI日本会議は声明を出しました。
2022年12月21日
知的障害のあるカップルへの不妊手術の強要に関するDPI日本会議声明
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり
DPI(障害者インターナショナル)日本会議は全国92の障害当事者団体から構成され、障害の種別を越えて障害のある人もない人も共に生きるインクルーシブな社会(共生社会)の実現に向けて運動を行っている。
私たちは障害当事者の立場から、「不良な子孫の出生防止」を目的とした旧優生保護法問題に対し「優生手術は障害者の生殖の権利に対する人権侵害であり、1996年以降の母体保護法改正の後にも障害者への偏見・差別を根付かせたことを国は反省し、再発防止策を講じるよう20年以上前から訴えてきた。
報道によると、北海道江差町にあるグループホームは、知的障害のあるカップルが結婚や同棲を希望する場合、男性はパイプカット手術、女性は避妊リングを装着する不妊処置を20年以上前から条件化していた。運営する「社会福祉法人あすなろ福祉会」の樋口英俊理事長は、共同通信の取材に対し、(子どもが)養育不全になった時に誰が責任を取るのか。生まれてくる命の保証はしかねる」と主張している。
重大な人権侵害を行いながら、自らを正当化する言葉には反省の色も見られない。また、福祉関係者は「別法人でも処置はあった」と証言している。障害者権利条約の理念を微塵も理解していないこのような福祉関係者の存在には、強い憤りとともに恐怖すら感じる。
障害者の多くは、教育の場を分けられ、今なお施設や病院等で隔離され、例え地域生活ができたとしても就労や生活の場において様々な制限と制約を受けている。障害者のこうした状況を知りながら、不妊手術か退所かを選択させ、同意を強要してきた。
更に、当該法人は虐待により過去2度行政処分を受けており、2020年3月には同法人が運営する就労支援施設のトイレで、知的障害のある女性が一人で子どもを出産、死なせてしまうという事件が起こっている。こうした事件の背景に、障害者を一人の人間として尊重せず、リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(性と生殖に関する健康と権利、以下「リプロダクティブ権」)を否定していることに対して、強く抗議するものである。
また、関係者の処分をはじめ、当該法人に対して厳しく指導を行うことを国、道、町に対して求める。
旧優生保護法裁判では、2019年6月仙台地裁の判決で、リプロダクティブ権は憲法11条に定める個人の基本的人権であると認めた。また、本年2月の大阪高裁、3月の東京高裁では、差別や偏見を助長した国の責任を明確に指摘して、原告勝訴の判決を出している。
そして、本年9月に国連障害者権利委員会から出された総括所見では、障害者に対する不妊手術や中絶の強要を明示的に禁止する措置をとるよう国に求めている。さらに、「優生思想や能力主義的な考え方と闘い、そのような考え方を社会に広めた法的責任の追及」についても勧告している。
国は、障害者が子を産み育てる権利について、明確に法文化せず、優生保護法で社会に根付かせた偏見・差別を助長させてきた重大な責任がある。
今こそ国は優生保護法裁判の最高裁上告を取り下げ、真の謝罪と補償を行い、障害者のリプロダクティブ権を保障して、一刻も早く優生思想のない社会にするための施策を講ずることに取り組むべきである。
DPI日本会議は2016年に起きた津久井やまゆり園・障害者殺傷事件及び今回報道された「社会福祉法人あすなろ福祉会」の犯罪的行為に至る、社会に広く存在する優生思想の払拭に向けて、今後も粘り強く取り組む決意である。