「邪魔だと思う人は手を挙げて」事件に対する抗議並びに要望
10月5日付で、沖縄県教育委員会宛に『貴県小学校教員による「邪魔だと思う人は手を挙げて」事件に対する抗議並びに要望』を作成しました。
この事件の説明を作成した文書より抜粋して掲載します。
2020年9月8日付沖縄タイムス、及び同月9日付琉球新報の新聞報道によると、小学校のクラス担任を務める女性教員が、6月の授業で普通学級と一緒に授業を受けていた特別支援学級の児童が騒いだ際「うるさいと思う人、邪魔だと思う人は手を挙げてください」と普通学級の児童に挙手を求め、しかも、手を挙げない児童に「あなたも支援学級に行きなさい」と発言しました。
さらに、教員の言動を受け、普通学級の児童一人が4日間、学校を休んだ、とも報道されています。児童から話を聞いた保護者が学校に連絡し、地元自治体の教育委員会が事実を確認し、教員に不適切な言動があったとして口頭注意を行ったが、教員の言動を処分の対象としていない、とも報じられています。
この事件は決してその教員個人のみの責任ではありません。事件が起きた背景など様々な面で重大な問題をはらんでおり、DPIとして貴委員会に対し強い怒りをもって抗議し要望いたします。そして、将来の世代に与えた影響を深く憂慮します。
私たちの加盟団体である沖縄県のNPO法人沖縄県自立生活センター・イルカが、県教育委員会に対しこの事件に関する意見交換の日程を調整しており、今回作成した私たちの意見も一緒に提出する予定です。
2020年10月5日
沖縄県教育委員会 教育長
金城 弘昌 様
認定NPO法人DPI日本会議
議長 平野みどり
(公印省略)
貴県小学校教員による「邪魔だと思う人は手を挙げて」事件に対する
抗議並びに要望
貴委員会に置かれましては、日頃より障害のある児童生徒もない児童生徒も共に学び育つインクルーシブ教育の推進にご尽力頂いていることに厚くお礼申し上げます。
私たちDPI(障害者インターナショナル)日本会議は、全国94の障害当事者団体から構成され、教育をはじめとする社会のあらゆる場面において、障害の種別や程度に関わりなく障害のある人もない人も平等に、共に生きることができるインクルーシブ社会の実現に向けて活動しています。また、国際連合経済社会理事会の特別諮問資格(Special consultative status)を有し、国連等においても活動している国際団体です。
さて、2020年9月8日付沖縄タイムス、及び同月9日付琉球新報の新聞報道によると、小学校のクラス担任を務める女性教員が、6月の授業で普通学級と一緒に授業を受けていた特別支援学級の児童が騒いだ際「うるさいと思う人、邪魔だと思う人は手を挙げてください」と普通学級の児童に挙手を求め、しかも、手を挙げない児童に「あなたも支援学級に行きなさい」と発言しました。
さらに、教員の言動を受け、普通学級の児童一人が4日間、学校を休んだ、とも報道されています。児童から話を聞いた保護者が学校に連絡し、地元自治体の教育委員会が事実を確認し、教員に不適切な言動があったとして口頭注意を行ったが、教員の言動を処分の対象としていない、とも報じられています。
この事件は決してその教員個人のみの責任ではありません。事件が起きた背景など様々な面で重大な問題をはらんでおり、DPIとして貴委員会に対し強い怒りをもって抗議し要望いたします。そして、将来の世代に与えた影響を深く憂慮します。
第1に、みんながいる普通の場(この場合は通常学級)にいてはいけない子どもというメッセージを教員が送ったことで、当該支援籍児童だけでなく、通常級在籍の子どもにも深い傷を負わせました。心理的な虐待にあたります。
そして、この加害教員の言動は、この子どもたちすべてが、障害のある人とない人は違う場にいるべき人であるという間違った認識を持たせ、いじめや差別、虐待に繋がっていくもので、大変重大な問題を抱えています。しかしながら、貴委員会は、傷を負った子どもたち、保護者にどのように対処するのか全く示していません。
第2に、この事件の背景について、我が国においては障害の有無によって分離された環境での教育が進んでいる中、重大な権利侵害、差別であるという認識の欠如の問題があげられます。障害者の権利に関する条約とその監視機関である障害者権利委員会がめざすインクルーシブ教育への理解が、貴委員会、市町村教育委員会、学校、教員の中でなされていないことが改めて明らかになりました。
義務教育課程に就学すべき児童生徒の全体の数が減少している中で、特別支援学校・特別支援学級籍の児童生徒の数が増加しています。これは、権利条約がめざすインクルーシブ教育にまったく逆行している現象です。
原則通常学級の就学が可能な制度となっていないこと(学校教育法施行令)、支援校、支援級、通常級の各学校学級において、教員の定数の差や配慮の格差があること、学習到達度を最重点にかかげる学習指導要領の問題など様々な要素があると思われますが、この根本には、「障害による学習上又は生活上の困難を克服するための教育を行うものとする」(学校教育法第81条など)という特別支援教育の目的に問題があると思われます。社会参加のためには社会の側の環境を変えるという近年の社会モデル、人権モデルではなく、個人の機能的な障害の克服に置くという前時代的な医学モデルの規定になっているからです。
当該加害教員の発言と、不適切とは認めつつも不処分とした教育委員会の姿勢からは、上述した様々な問題点への認識が全く欠けていると言わざるを得ません。
2021年には、障害者権利条約の実施状況について、障害者権利委員会における日本政府に対する建設的対話(審査)が行われる予定です。この事件の処理と再発防止の措置がきちんと取られない場合には、障害者権利委員会に対して報告せざるを得ない重大案件であることは明白です。こうした認識に基づいて、以下要望します。
要 望
1.起きてしまった事件について、傷ついた子どもやその保護者にたいする反省などの真摯な気持ちの表明
2.同様の事件の再発防止のために以下の点を含めた実効的な改善措置をとること。
①ほかに同様の事案があったのかどうか、障害者団体、関係団体と協力しながら、現状の把握をし、原因の分析を行うこと
②教職員に対して、国連がめざすインクルーシブ教育について研修。これは国際動向をきちんと踏まえた障害当事者、関係者から研修を受けることが含まれる。
研修については、文部科学省の「新しい時代の特別支援教育の在り方に関する有識者会議」の中間とりまとめにおいて、「1.全ての教師に求められる特別支援教育に関する専門性」の(求められる資質・専門性)として、【全ての教師には、障害の特性等に関する理解や、個別の教育支援計画・個別の指導計画などの特別支援教育に関する基礎的な知識が必要である。
加えて、障害のある人や子どもとの触れ合いを通して、障害者が日常生活又は社会生活において受ける制限は、障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生ずるものとのいわゆる「社会モデル」の視点を踏まえ、障害及び社会的障壁による学習上又は生活上の困難について本人の立場に立って捉え、それに対する必要な支援の内容を一緒に考えていくような経験や態度が求められる。また、こうした経験や態度を、多様な教育的ニーズのある子どもがいることを前提とした学級経営・授業づくりに生かしていくことが必要である。】との指摘をふまえて進めること。
③障害のある児童生徒と障害のない児童生徒がどのようにすれば同じ学級で一緒に学ぶことができるようになるのか、障害児童生徒の個別支援計画に盛り込み、家族や関係者も入れて定期的なレビューをすること。ここには、教材や指導方法の工夫などの合理的配慮の提供について、学校、本人保護者、支援者が共通理解を持つようにすることが当然含まれる。
④教員並びに障害のない児童生徒に対する障害特性の理解のための取り組み
以上
▽抗議文並びに要望書はこちらからダウンロードできます(ワード)