精神保健福祉法改正案に対するDPI日本会議意見
2017年3月15日
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり
私たちDPI(障害者インターナショナル)日本会議は全国93の障害当事者団体から構成され、精神障害の当事者団体も会員に含まれる、障害の種別を越え障害のある人もない人と共に生きられる社会に向けて運動を行っている団体である。
2017年2月28日に「精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律案(以下 精神保健福祉法改正案)」が閣議決定され、国会に上程された。この法案には、この間不祥事が相次いだ精神保健指定医制度の見直しなども含まれてはいるが、医療を治安維持のために使う重大な問題点が多数を占める。以下、DPI日本会議としてこの法案の問題点を指摘し、発信したい。
1. 相模原障害者殺傷事件を精神障害に結びつけることの誤り~立法事実の不在
法律案の概要では、改正の趣旨として「相模原市の障害者支援施設の事件では、犯罪予告どおり実施され、多くの被害者を出す惨事となった。二度と同様な事件が発生しないよう法整備を行う」とされている。
・ しかし、5ヶ月間に及ぶ鑑定の結果、本年2月20日に容疑者は刑事責任能力があるとの精神鑑定結果がでた。にも関わらず、「相模原障害者殺傷事件は精神障害によって引き起こされた」との決めつけに基づく法改正を進めることは全く道理がない。立法事実がないのである。
2. 「措置入院者の退院支援」~「支援」に名を借りた監視体制
改正の概要で「措置入院者が退院後に社会復帰の促進及びその自立と社会経済活動への参加の促進のために必要な医療その他の援助を適切かつ円滑に受けることができるよう退院後支援の仕組みを整備する」とあり、一見すると手厚い退院後支援のように読めるが、内容は退院後の監視体制づくりである。
措置入院者は、措置入院中に「退院後支援計画」を作らなければならず、退院後は帰住先の保健所設置自治体、移転した場合は移転先の自治体が相談指導を行う。
・ 原則入院中に作成しなければならないので、これによって入院が必要以上に長引く恐れがある。
・ 支援計画の期間が明示されていない。
・ 本人が望む場合はこのような仕組みがあってもいいが、望まない人にまでなぜ義務付けられなければならないのか。誰でも地域で自由に生活して良いのである。この仕組は支援という名の監視である。
3. 「精神障害者支援地域協議会の設置」~当事者不在・警察行政化
・ 退院後支援計画は「精神障害者支援地域協議会」が作るが、この代表者会議の参加者は、市町村、医療関係者、サービス事業者、障害者団体、家族会等とともに、警察も入っている。なぜ、医療と退院後の支援に警察が必要なのか。
・ 精神障害者支援地域協議会の調整会議の参加者は「必要に応じて本人」とされており、本人がいなくても作成できることになっている。本人抜きでその人の生活を決めて良いはずはなく、重大な問題である。
4. 「医療保護入院における市町村長同意の拡大」~障害者制度改革に対する逆行
改正の概要で「患者の家族等がいない場合に加え、家族等が同意・不同意の意思表示を行わない場合にも、市町村長の同意により医療保護入院を行うことを可能とする」とされている。
・ 障害者権利条約の国内法整備の一環として2013年改正もあり、この間、市町村長同意による医療保護入院の件数が減っている。にもかかわらず、市町村長同意を拡大し医療保護入院をしやすくすることは、障害者制度改革で問題とされた非自発的入院を拡大させるものである。
医療は本来、患者の健康の維持、回復、促進のために行うものであることから、精神医療を治安の道具にする今回の法改正に抗議する。昨年6月には障害者権利条約の第1回日本政府報告が国連に提出され、今後、その審査プロセスが本格化する。あらためて、障害の有無によって分け隔てられないインクルーシブな社会を目指して、精神科病院からの地域移行と地域生活基盤整備の飛躍的拡充を求めるものである。