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【DPI政策論「全体会」基調講演・シンポジウム報告】
「障害者権利条約がめざす差別のない社会へ~いのちと尊厳が守られる社会をつくる~」

2020年12月25日 イベント障害者権利条約の完全実施

11月21日(土)第9回DPI障害者政策討論集会で開催しました「全体会」の基調講演とシンポジウムについて崔栄繁(DPI日本会議議長補佐)が、参加した感想を福地健太郎さん(JICA)が書いてくれましたので、ご紹介します!


 2020年11月21日、第9回DPI障害者政策討論集会の全体会は、初のオンライン開催となり、300名以上の方に参加をしていただきました。全体のテーマは「障害者権利条約がめざす差別のない社会へ~いのちと尊厳が守られる社会をつくる~」。全体会の進行は議長の平野みどりが行いました。大島宏之キリン福祉財団事務局長、立憲民主党の道下衆議院議員から来賓のご挨拶があり、立憲民主党の枝野代表からもメッセージが寄せられました。

基調講演「障害者権利条約の動向~日本に求められるもの~」

石川准さん

 国連障害者権利委員会の副委員長であり、内閣府の障害者政策委員会委員長である石川准さんによる基調講演が行われました。テーマは「障害者権利条約の動向~日本に求められるもの~」。

 石川さんはこの12月で障害者権利委員の任期を終える。とても残念ですが、様々な理由があり、今期で最後となったのです。その副委員長の立場から、最近の権利委員会の活動と、今直面している課題、審査に関わることをお話しいただきました。

 まず、今までの権利委員会の活動についてです。障害者権利委員会は2009年に活動を始め、今年までに23回開催しました。1年に2回、12年活動してきたため本来であれば24回だが、今まで23回の会議を開催し、次の会期のための準備ワーキングを14回行ってきました。最初の審査を90カ国に対して行い、7つの一般的意見をだしてきたということ、会期の長期化など、この間の報告がされました。

 次に、コロナ禍に関連して、やはり委員のみなさんは大変な思いをしているようでした。今年初めて行なったリモートでのセッションについては、ジュネーブに滞在しないので滞在費の支給はされていない。各委員が必要としているパーソナル・アシスタントに対して、これまでは滞在費という名目でパーソナル・アシスタンスへのなにがしらの支払いをしていたが、それができなくなったとのことです。

 リモートの会議でも支援は必要ですが、それがすべて自己負担になるということは大きな問題です。また、委員の国のネットワーク環境の整備の状格差が出てしまうということもあるようです。さらに大きな問題として審査が進まないことを挙げていました。

 日本も2016年に第1回の政府報告を出しましたが、4年たっても、まだ審査は行われておらず、条約体のモニタリングシステムの危機である、非常にまずいことであると、危機感を述べていました。

 3点目は建設的対話の改善についてでした。条約体のシステムの改革について議論が国連の中で行なわれている中、審査待ちの国が多数あることや個人通報の審査も時間がかかるなかで、報告義務を遵守していない国も少なからずあり、対応に苦慮しているとのことです。

 具体的に権利委員会から質問を送る手法で、方向になかなか着手できない国をプッシュするということも議論されているとのことです。また、委員が発展途上国の締約国に出向いて審査するフォーカスド・レビューという方法もあり、子どもの権利条約では行っているようです。障害者権利委員会ではアクセシビリティの確保などの課題があり、検討はされてないようです。

 日本政府の審査については2021年の夏の会期になるかまだ決まってはいないとの報告もされた。コロナ禍の影響で最後の会期がこうした形で終わってしまったことについて、残念な印象でした。とにかく、大変な激務、本当にお疲れさまでした。

シンポジウム「障害者権利委員会へのJDFのパラレルレポートと課題」

 石川さんの基調講演の後はシンポジウムが開かれました。主旨は日本障害フォーラム(JDF)や日本弁護士連合会の来年夏の障害者権利委員会の会期に予定さえている日本政府の審査に向けた建設的対話用のパラレルレポートの紹介と今後の課題です。

 基調講演をされた石川さんはコメンテーターとして残っていただき、DPI副議長でJDFパラレルレポート特別委員会の委員である尾上浩二がコーディネーターを務めました。パネリストは日本社会事業大学の名誉教授で、JD理事、JDFパラレポ特別委員会委員の佐藤久夫さん、立命館大学の教授で同じくJDFパラレルレポート特別委員会の委員の長瀬修さん、日弁連の障害者権利条約パラレルレポート作成プロジェクトチームの事務局長の黒岩海映さん、DPI日本会議常任委員、DPI女性障害者ネットワーク代表の藤原久美子、そして尾上です。

佐藤久夫さん

 まず、佐藤久夫さんからJDFのパラレルレポートの1~4条までの総論的な部分の欠格条項問題、選択議定書、障害当事者の参画という点について報告をしていただきました。欠格条項問題については、成年後見に係る欠格条項は亡くなったが、新たな欠格条項が作られてしまった問題について、パラレルレポートにも書いたが障害者権利委員会からの反応が今一つでもう少し権利委員会のアンテナに響くような工夫が必要との課題が提起されました。

 また、障害当事者の、政策決定の参加の問題について、様々な障害種別の当事者の参画などを勧告で求めていますが、最近人権高等弁務官事務所が中心になって人権指標、障害者権利条約の指標が発表され、その中で当事者参加に関してかなり詳しい規定が書かれている、という情報を提供していただきました。

藤原久美子

 次に、藤原からの報告で、6条の障害女性と16条の暴力・虐待についての取り組みでした。今回のパラレルレポートでは新たに3~5項目目に性被害に関する刑法改正の項目を新設したことが紹介されました。

 続いて尾上から特に障害者差別解消法の改正関連で第5条、地域移行に関して第19条、インクルーシブ教育について第24条に関するパラレルレポートの報告がされました。

 第5条については合理的配慮の民間事業所への配慮義務化などで、第19条については、地域で暮らす権利・地域移行に関する法律をこれをしっかり明記するべきというレポートの内容が紹介されました。第24条ではインクルーシブ教育の実現のため小・中学校制度にかかわる立法及び政策上の措置として、教育基本法、障害者基本法、学校教育法72条、81条等に医学モデルをそのモデルをちゃんと社会モデルに変えるべきだという内容が紹介されました。

黒岩海映さん

 続いて黒岩海映さんからは日弁連のパラレルレポートの中の第5条、第13条,第19条,第24条について報告をしていただきました。障害者差別解消法については、差別の定義規定を設け、間接差別、関連差別、複合差別、交差差別の禁止が明確化、障がいのある女子に対する複合差別及び交差差別の解消に向けた調査と施策の検討を行うこと、民間事業者の合理的配慮の提供の義務化、相談窓口の明確化、簡易迅速な救済が可能な紛争解決の仕組みの充実などの内容が紹介されました。

 第13条(司法手続)では障害者権利条約では、第13条では合理的配慮とは概念とは別に手続上の配慮という言葉を使っており、過剰な負担を制限されることのないよう完全な配慮をすべきということが述べられました。

長瀬修さん

 最後のシンポジストとして長瀬修さんからは、障害者権利委員会がどのように、コロナ流行下で、どういったところに着目したかご報告いただきました。

 1つ目はコロナの情報でアクセシブルなものにどのようにするか、医療への平等なアクセスが脅かされていること、3つ目が社会保障へのアクセスと支援と地域支援サービスへのアクセスの4点について、委員会は重点事項として、今年の4月以降、事前質問の中で取り上げているとの報告がされました。

 特に年齢、特に高齢者の問題が重要で、国連でも障害者運動は、機能障害をもつ高齢者の問題を受け止めてきませんでした。一方、高齢者運動は、権利ベースの運動の理解が足りませんでした。結果、高齢者・障害者問題が置き去りにされたという貴重な指摘がされていることを紹介し、これだけ死者をだしている高齢者、そして多くの高齢障害者の問題は、これからも多くの人権を考える上で取り上げていく問題であると指摘されました。

 これらの報告について石川准さんから、欠格条項については、障害の人権モデル、社会モデルの中には、心身の故障を理由としてなんらかの制限をすることを、そもそも禁止している、少なくともその点において、これは条約との整合性をとるべく、施策、改正を促すことが、権利委員会の役割としてあると指摘し、さらに人権指標については、内閣府の障害者政策委員会等における、基本計画の実施の監視、達成の評価、基本計画の策定において活用していくことができればいいと思うと述べました。

 また、国内の監視の枠組みの強化も、ブリーフィング等で強調してほしい、国内人権機関という民主主義の基本的ツールが、なぜ日本ではできないのかは不思議な話なので、この点についても、ぜひロビー等やっていただきたい、という意見が出されました。

 質問やコメントもチャットなどを通じてかなり寄せられた。たとえば、社会モデルと人権モデルの違いについての質問が石川さんに寄せられています。石川さんからは「人権モデルという概念を前に押していく方が、障害者に対しての人道的な見地での配慮を求めるのではなく、人権ベースの合理的調整や変更を求めているとした方が、はっきり伝わるということがあったかと思う」「つねに障害者をめぐるさまざまな施策は個人(医学)モデルに直ぐ戻ってしまったり、人権ではなく思いやりや優しさという話に変質していったり、従来型の固定観念が根強いので、だから、社会モデルと言ってもまだ人権ベースの話だとは考えずに理解されてしまうことが終わらないということで、人権モデルではないかと」という回答がされています。この後、お一人ずつ、まとめの意見をうかがってシンポジウムは終了しました。

 欠格条項などパラレルレポートの内容の再確認もさることながら、障害者権利委委員へのブリーフィングのやり方など、改めてたくさんの課題を確認しました。また、豪華なメンバ―にご登壇いただきましたが、お一人に十分な時間も確保できず反省点は今後の運営に生かしたいと思います。ご登壇された皆様に心より感謝を申し上げます。特に4年間の激務を終えた石川准さんには大きな拍手を送りたいです。

(DPI日本会議 崔 栄繁)

【第4回オンラインミニ講座】『よくわかる!障害者権利条約の国連審査(建設的対話)』

参加者感想

 盛りだくさんだった第9回政策討論集会の全体会、感じた点を4つ記したいと思います。

①  権利と尊厳はセット
京都の嘱託殺人やそれに先立つNHKの安楽死を肯定するような番組に対して、JCILのみなさんから報告がありました。尊厳をもって生きられる社会ではなく、死ぬことを出発点に議論してしまう日本の状況に危機感を感じました。
障害者権利条約は障害者の平等な権利の実現と固有の尊厳の保証を目標としています。
基本的自由、生命、教育、保健といったそれぞれの権利の実現とセットで、生命の尊厳の重要性を忘れずに主張し続ける必要があると思いました。それが“死ぬ権利?”といった議論に流されないために必要と考えます。

②  高齢者と障碍者の交差性
新型コロナウイルスを通して見えてきた課題として、高齢者と障害者の交差性が見過ごされてきたのではとの指摘があり、どこか別の問題のように感じていた私自身にはっとしました。
教育や障害のある子ども、就労といった課題に加えて、高齢者と障害の交差性についても今後考えていく必要があると思います。

③  日本審査に向けて
欠格条項、教育、刑法改正にあたっての女性障害者の参画、司法での手続き的配慮、障害者差別解消法改正に当たっての差別の定義の明確化、民間事業者の合理的配慮の明確化、国内監視機関の創設等、重要な点について報告があり、理解を深めることができました。

④ 日本と国際的な人権保障への貢献
最後に心に残ったのは、日本での権利と尊厳の確保に向けた取り組みが、障害者権利条約の審査と実施の過程を通じて、国際的な人権保障に貢献しているという視点でした。

 全体を振り返り、日本でも新型コロナウイルスが再拡大している今だからこそ、延期されている対日審査で何を訴え、日本での権利と尊厳の保障という条約の実施と、国際的な人権保障にどのような貢献ができるか考えて、来年以降の対日審査に向けて引き続き取り組みたいと思います。

(JICA 福地健太郎)

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