9月28日(土)公開研究会報告:韓国に学ぶ総括所見活用事例~障害者権利条約にもとづくインクルーシブ教育の実現に向けて~
2025年02月03日 イベントインクルーシブ教育国際協力/海外活動障害者権利条約の完全実施
2022年8月にスイスのジュネーブで、障害者権利条約批准後初となる日本の建設的対話(審査)が開かれ、同年9月には権利委員会から日本政府に対する総括所見(勧告)が公表されています。この総括所見(勧告)は、分離教育の中止や入所施設から地域での自立生活に予算配分を振り向け地域移行を進めること、精神科病院への強制入院を可能にしている法律の廃止等、日本の課題を的確に指摘した内容となっており、総括所見を踏まえた国内法の見直しが求められています。
しかし、国は総括所見の指摘事項に対する制度の見直しには消極的な姿勢を見せており、条約に則した政策を実現するためには総括所見を活用した障害者運動の取り組みがますます重要になっています。
昨年度(2023)開催した公開研究会では、日本よりも先に初回審査を終え、さらに2回、3回の併合審査まで終えている韓国の総括所見活用事例として、とりわけ差別禁止に焦点を当てて取り上げました。参加者の感想やリクエストを踏まえ、その第二弾として、2024年度はインクルーシブ教育に焦点を当て、韓国の障害児教育の現状、障害者等に対する特殊教育法などの法制度の見直しやインクルーシブ教育に関するモデル事業の進捗状況や課題、国家人権委員会などの国家機関の役割について学び、日本での取り組みに活かすべく、企画を行いました。
2024年度の「諸外国の実践例に関する公開研究会」は、当初8月31日(土)の予定が台風のため延期となり、9月28日(土)に開催されました。
冒頭、本事業に助成をいただいている、キリン福祉財団より常務理事・事務局長の大島宏之さまからご挨拶をいただきました。主催者挨拶はDPI日本会議教育部会部会長の西尾元秀(DPI日本会議常任委員)が務めました。
研究会では、DPI日本会議議長補佐の崔栄繁(さい たかのり)が講師を務め、韓国が障害者権利条約の総括所見を活用してどのように韓国のインクルーシブ教育の実現に向け取り組んできたかについて主に以下の内容での報告がありました。
韓国でのインクルーシブ教育原則
韓国では1980年代にアメリカからインクルーシブ教育の理念が導入されて以来、揺るぎない基本理念として定着し、国際的な動向と国内政策(人権政策を含む)が関連付けられていることが特徴です。法制度面では、差別禁止規定が差別禁止法や特殊教育法に明記されており、インクルーシブ教育の理念が明記されていることから、価値の共有や制度化が可能となっています。特殊教育関連サービスが特殊教育法に明記され、差別禁止法には教育分野における差別禁止規定や合理的配慮が明記されているため、様々な請求に対する法的根拠となっています。
日本の特別支援学級とは異なり、韓国での特殊学級は、同じ学校にいる子どもはすべて通常学級に学籍があり、統合への第一歩としてとても参考になる制度です。また、差別事例については国家人権委員会に申し立てができるという、人権ベースの救済の仕組みがある点が日本との大きな相違点です。
しかし、課題も存在します。場だけの統合にとどまっているという批判があり、高学年、中学、高校に上がるにつれて特殊学校に戻ってしまう(転校する)子どもが多いという問題があり、また特殊学校の数も増加しており、国連からも勧告を受けています。この原因として、特殊教師と一般教師の壁、能力主義政府のエリート養成主義、社会の学歴志向、熾烈な受験勉強などが挙げられます。
これらの課題に対して、「仲良し学校」やソウル市の「もっと共感教室」モデル事業など、統合学級を強調する取り組みが注目されています。これらの施策によるフルインクルージョンの推進と、発展する平等概念が今後の方向性として期待されています。
画期的な合理的配慮判決
また、インクルーシブな社会に向けた取り組みとして、交通バリアフリーに関連する重要な裁判判例が出ています。韓国の最高裁判所(大法院)は、2階建て都市間広域バスの車いす利用者用スペースに関して、車いすユーザーの席が進行方向の正面を向いていない配置は障害者差別禁止法違反であるとしました。
この裁判は、2015年に身体障害当事者が始めたもので、最高裁は韓国の障害者差別禁止法における正当な便宜(合理的配慮)提供義務違反があったと判断しました。
韓国の差別禁止法第4条②では、正当な便宜を「障害者が障害のない人と同等に、同じ活動に参画することができるようにするため」の措置と定義しています。最高裁は「同等に、同じ活動」という点を厳密に解釈し、乗客が進行方向に対して前向きに着席しているのに、車いすユーザーだけが壁を背にして横向きで乗車する配置は差別的であると判断しました。この判決は、公共交通機関におけるバリアフリー設計の重要性を強調し、障害者の平等な移動権を保障する上で重要な先例となりました。
コメンテーターの弁護士の黒岩海映(くろいわ みはえ)さんから、「韓国の法制度を知り、日本と近いと思っていただけに、進んでいるところが多々あることに、ショックを受けた。例えば日本なら絶対特別支援学校に設置する、特殊教育支援センターが、地域の学校に設置されている。地域住民に便利なところに設置しなければならないと法に位置付けているのは、さすがだなと思う」とコメントを頂きました。
韓国の法制度は、参考にすべき内容である、具体的に伝えて頂けたと思います。
最後の挨拶は再びDPI日本会議教育部会長の西尾元秀が行いました。
台風による開催日の急な変更もあり、30名ほどの参加者でしたが、皆さん、ご参加ありがとうございました。
報告:西尾元秀(DPI日本会議教育部会長)
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