「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」に関するDPI日本会議意見
2025年01月07日 要望・声明インクルーシブ教育障害女性障害者権利条約の完全実施
本日、2024年12月27日に政府が策定した「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」について、障害当事者の声を十分に反映し、優生思想に基づく差別や偏見の根絶を確実にするための見直しと補充を求める意見書を公表しました。共生社会の実現に向け、より実効性のある施策が講じられるよう、政府に早急な対応を求めます。
2025年1月7日
「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画」に関するDPI日本会議意見
特定非営利活動法人DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり
DPI(障害者インターナショナル)日本会議は全国90の障害当事者団体から構成され、障害の種別を越えて障害のある人もない人も共に生きるインクルーシブな社会(共生社会)の実現に向けて運動を行っている。
さて、「障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた対策推進本部」は、2024年12月27日に「旧優生保護法に係る対応状況及び障害者に対する偏見や差別のない共生社会の実現に向けた行動計画(以下 行動計画)を決定し、公表した。
この行動計画は7月17日の旧優生保護法国家賠償請求訴訟原告団との面会の際に、岸田総理が「優⽣思想及び障害者に対する偏⾒差別の根絶に向けては、これまでの取組を点検し、教育・啓発等を含めて取組を強化するため、全府省庁による新たな体制を構築してまいりたい」と表明し、原告や障害者団体等のヒアリングを実施してまとめたものである。
公務員の意識改革に向けた取り組みとして障害当事者を講師とする研修を実施すること、旧優生保護法等の検証を踏まえた人権教育の教材の作成、学校教育や人権啓発活動での活用等これまでにない取り組みが盛り込まれているが、優生思想に基づく障害者への差別や偏見をなくすためには、十分な施策とは言い難い。
1.当事者ヒアリングで示された点の重要性
第2回幹事会以降の当事者ヒアリングや個別ヒアリングでは、以下の問題の改善が指摘された。
- 「人権侵害に迅速・確実に対応する体制を構築すること」
- 「障害のある人とない人が共に学び共に育つ教育を推進すること」(環境整備一般ではなく、共に学び育つ教育の推進)
- 「障害のある人が結婚・出産・子育てをする上で、何でも相談できる窓口や第三者の支援が必要であること」
- 「障害のある女性への複合差別の課題を踏まえ、性被害の防止や就労支援など、障害のある人のジェンダーを意識した施策の展開が重要であること」
- 「優生手術等に係る歴史的事実やその背景を後世に伝承し、記憶の風化を防ぐこと」
当事者からのヒアリングを実施し重要な指摘がなされたことは評価したいが、一方で、行動計画として示された取り組みの中には、ヒアリングでの指摘事項に応えていないものがある。
2.今後の見直しの必要性
行動計画では、「ヒアリングでの障害当事者等の意見を受け止め、記憶を風化させないようにするための方策、人権侵害に迅速に対応する実効性のある体制の構築など、Ⅱに掲げた問題意識について引き続き検討する」「その際、今後予定されている国会による旧優生保護法に係る調査・検証の内容・結果も踏まえるとともに…法制度の在り方を含め、教育・啓発等の諸施策を検討し、実施するものとする」と記されている。
また、「障害者施策については、「障害当事者抜きに障害当事者のことを決めない」ことが最も重要な原則である。この計画の内容については、必要な施策について速やかに実行に移しつつ、進捗状況について定期的に評価し、障害者基本法に基づき多くの障害のある方が委員として参加する障害者政策委員会における報告や意見聴取を経て、次期障害者基本計画などにも反映させていく」とある。
これらの点を踏まえて、早急に障害者政策委員会を開催し、報告と意見聴取を行い、見直し・補充を行うことが必要である。特に見直しや補充が必要な点は、以下の通りである。
(1)優生思想に基づく差別や偏見をなくすことを法律に明記する
旧優生保護法によって日本社会には優生思想に基づく障害者差別が広まり、社会全体に根付いている。2022年10月に国連障害者権利委員会から出された総括所見では、「20(a) 策定、実施及び定期的な評価に障害者の緊密な参加を確保しつつ、障害者に対する否定的な定型化された観念、偏見及び有害な慣習を排除するための国家戦略を採用すること」と勧告されている。
行動計画には法改正や新たな法律の策定について触れられていないが、優生思想に基づく障害者に対する差別や偏見を無くすためには、法律に明記することが不可欠である。障害者関連法のベースとなる障害者基本法を改正し、優生思想に基づく障害者への差別や偏見をなくすことを明記していただきたい。
(2)障害者権利条約が求めるインクルーシブ教育への転換
同じ場で共に育ち学ぶインクルーシブ教育は、障害者権利条約では締約国に求めてられており、今や世界のスタンダートとなっている。日本は「インクルーシブ教育システム」という独特の解釈で、実質的な分離教育を続けている。優生思想に基づく差別や偏見を無くすためには、子どもの頃から同じ場で共に学び育つインクルーシブ教育への転換が不可欠である。
(3)障害女性の複合差別
昨年、国連女性差別撤廃委員会が出した第9回日本政府報告書に対する総括所見では、障害のある女性の複合差別に関わることが以下勧告された。
- 政治および公的生活への平等な参加:障害のある女性など、マイノリティ女性が、自分たちの生活に影響をあたえる意思決定システムに十分代表されていない(パラ35(e))。
- そのため、マイノリティ女性が意思決定システムに代表を送れるよう、一時的な特別措置を含む具体的措置をとること(パラ36(e))
- 障害のある女性の雇用、健康、社会生活への参加のための平等なアクセスを勧告する(パラ48)。さらに、障害者差別解消法を改正し、交差的な差別を明確に取り上げ、交差的差別を禁止し、適切な罰則を規定するよう勧告する(同(b))。
- 知的障害を含む障害のある女性を、性と生殖に関する保健サービスへのアクセス、差別からの保護、ケアを拒否した医療機関の責任の追及をすること(同(c))。
2024年10月30日CEDAW勧告抜粋(DWNJ仮訳)
上記の勧告も踏まえ、性被害の防止や就労支援など、障害のある人のジェンダーを意識した施策の展開を進めることが不可欠である。そのために、政策決定過程への障害女性の参画を進めること等が必要である。
(4)子育て等の希望する生活の実現に向けた支援に関する具体的取り組み
事例集や解説動画などの周知が中心になっているが、具体的な人的支援の拡充や人的確保を含めた施策が必要であり、そのため当事者を交えた検討が不可欠である。
(5)パリ原則に基づいた政府から独立した国内人権機関の設置
パリ原則に基づいた国内人権機関は、国家人権機関世界連盟(GANHRI)等によると約120カ国に設置され、先進国でないのは日本くらいである。差別を受けたときに相談でき、差別的取り扱いを改めさせることができる国内人権機関が日本になかったことは、旧優生保護法被害者が長年に渡って救済されなかった一因でもある。人権侵害からの救済を図り、障害者差別解消法や障害者雇用促進法の運用状況をモニタリングし、人権教育を推進するためにも、パリ原則に基づいた政府から独立した国内人権機関の設置が急務である。
(6)その他の取り組み
上記の他にも、希望する生活の実現のためには、地域生活基盤の整備、地域移行のための居住支援、住宅や小規模店舗のバリアフリーの推進、共に働く雇用労働の場、複合差別の解消、障害文化芸術の推進、障害を理由とした公立高校の定員内不合格の禁止、インクルーシブ保育の推進、内閣府障害者政策委員会の機能強化、当事者参画による施策の策定、優生思想をなくす拠点としての資料館の創設等も必要である。
政府におかれては、優生思想に基づく差別や偏見を無くし、共に学び育つ共生社会の実現のために、是非とも早急な見直しと補充を求めたい。
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