臓器移植法第2条「臓器提供の意思の尊重」の運用に関する指針の見直しに反対する声明
本日、私たちは臓器移植法第2条に基づく「臓器提供の意思の尊重」の運用指針の見直しに強く反対する本声明を出しました。
障害者への差別や偏見のない、誰もが地域で共に生きるインクルーシブな社会づくりに向け、2022年に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見を踏まえた法制度の点検と改善に取り組み、障害者権利条約の国内実施をさらに進めることを求める立場から、臓器移植法第2条における「臓器提供の意思の尊重」の運用に関する指針の見直しに強く反対します。
詳細は以下をご覧ください。
2024年12月16日
特定非営利活動法人 DPI(障害者インターナショナル)日本会議
議長 平野みどり
臓器移植法第2条「臓器提供の意思の尊重」の運用に関する指針の見直しに反対する声明
私たち、DPI(障害者インターナショナル)日本会議は全国90の障害当事者団体から構成され、障害の種別を越えて障害のある人もない人も共に生きるインクルーシブな社会(共生社会)の実現に向けて運動を行っています。
私たちは臓器移植法第2条における「臓器提供の意思の尊重」の運用に関する指針の見直しに強く反対します。
この法の下では、障害者を含むすべての人々が平等に臓器提供の意思を示す権利を持っているとされていますが、その裏には重大な倫理的懸念が存在します。私たちは、常時医療や介護・介助を必要とする人々―その中には身体障害、知的障害、精神障害や難病を持つ人々も含まれます― にとって必要な医療や介護・介助が十分に保障されることのないまま、「社会貢献としての臓器提供」が推奨されるような事態を強く懸念します。
まず、「旧優生保護法は憲法違反」として、国に賠償を命じる判決を言い渡した、2024年7月3日の優生保護法による強制不妊手術に対する最高裁判決の意味を確認する必要があります。優生保護法は、障害者らを「不良な子孫」とみなし、障害者が妊娠・出産・育児する自己決定権を奪い、優生思想を社会に根付かせました。
2016年7月の津久井やまゆり園での障害者殺傷事件、2022年12月に発覚した北海道・江差町の施設利用者への「不妊措置」問題、相次ぐ障害者施設での虐待事件や、災害や医療の緊急事態で多くの障害者が犠牲になっていることなどは、優生思想がいまだ人々の心に根強く残っていることを象徴しています。
このような背景を踏まえると、障害者の生命や身体が他者のための資源として扱われることは、過去の優生思想の延長に他ならず、臓器提供に関して、障害者や精神障害者、知的障害者が「社会に貢献するため」に臓器を提供することを期待されるような社会的プレッシャーは、決して許されるべきではありません。私たちは、同最高裁判決を真摯に受け止め、同じ過ちを繰り返さないためにも、臓器提供における自己決定が本当に自由かつ平等であるかを厳しく問い直す必要があります。
また、2022年に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見は、第10条( 生命に対する権利)で「(a)障害者の生存権を明確に認識し、個別の保護措置を確保すること。保護措置の確保には、治療(緩和ケアを含む)に関する本人の意思および希望の表明、および、その表明に必要なあらゆる支援が含まれる」と勧告しています。
また、同第12条(法律の前にひとしく認められる権利)で、「(b)すべての障害者の自律と意思と希望を、必要とされる支援の水準や形態にかかわらず尊重する、支援付き決定の仕組みを確立すること」と勧告しています。
障害者の意思決定を代行する現行制度を廃止し、支援付き決定を保障する仕組みを確保する措置を行うよう求められているなか、命の瀬戸際を含め治療における障害者の意思決定確認の在り方について、単独で、臓器移植法第2条における「臓器提供の意思の尊重」の運用に関する指針を見直すことには反対せざるを得ません。
以上、私たちは、障害者への差別や偏見のない、誰もが地域で共に生きるインクルーシブな社会づくりに向け、2022年に国連障害者権利委員会から日本政府に出された総括所見を踏まえた法制度の点検と改善に取り組み、障害者権利条約の国内実施をさらに進めることを求める立場から、臓器移植法第2条における「臓器提供の意思の尊重」の運用に関する指針の見直しに強く反対します。