【ポイントまとめました】韓国の障害者施策への当事者参画について~韓国DPIからの報告~(DPI全国集会「全体会」報告・感想)
2024年07月02日 イベント障害者権利条約の完全実施
6月1日(土)DPI全国集会「全体会」のイ・ヨンソク(韓国DPI会長)の「韓国での障害者施策の取り組みの現状や当事者参画」について、報告を佐藤聡(DPI事務局長)が、感想を入谷忠宏さん(愛知県重度障害者団体連絡協議会 事務局長)が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
■基調報告:イ・ヨンソク(韓国DPI会長)
- 韓国に対して2017年に国連障害者権利委員会から「第19条:自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見(5号)」2022年に「緊急時を含む脱施設ガイドライン」が発出された
- 締約国への脱施設・地域移行の取り組みの求めに応じて、2021年8月に脱施設ロードマップが発表された
- 2025年からの15年計画で、段階的に施設から自立生活をさせて、2041年には地域生活への転換を終える
- 障害者権利保障法では障害者の基本的権利や政策の基本理念が整理され、障害者の権利の主体性を明確に定義し、国家の財務を強化することが書かれている
- 2017年に韓国の国家人権委員会が行った調査では、家族のための望まない入所は47.5%だった
- ソウル市では2年前に脱施設支援条例ができたが、最近では保護者たちが脱施設支援条例の廃止運動をしている
- 現在の政権は「障害者自立生活の定着のための生活環境の整備」を国政課題に掲げている
- ロードマップの分野別重点課題は、①障害者が自分で住む場所を選ぶ権利の保障、②自立への道筋をしっかりと築き、不安を和らげること、③自立生活支援の拡充、④入所施設を地域の自立を促す施設に転換すること、⑤入居中は入所施設を安全で自由な住まいにすること、⑥官民の緊密な協力体制を構築することの6点
- 今国会では障害者権利保障法と脱施設支援法が審議される
- DPIでは今年度から、ピープルファーストジャパンや全国自立生活センター協議会とともに脱施設に向けたプロジェクトをスタートさせた
詳細は下記報告をご覧ください。
2019年の松山大会までは、日韓のDPIはお互いの総会に役員を招待し合ってきたのですが、コロナ禍で途切れておりました。今年は5年ぶりに韓国DPIのイ・ヨンソク会長を平野議長のお膝元の熊本にお招きすることができました。
全国集会の全体会では「韓国障害者政策と韓国DPI」と題して、韓国の障害者施策の動きについてご報告いただきました。
△画面下の右からイ・ヨンソク韓国DPI会長、平野みどりDPI日本会議議長
お話いただいたのは以下の7点です。
- 国連障害者権利条約選択議定書批准後 韓国DPI
- 韓国第2次及び第3次連結報告書に関する最終見解
- 国連障害者権利委員会「緊急事態を含む脱施設化ガイドライン」
- 障害者の地域自立支援ロードマップ
- 第6次障害者総合計画(23~27)
- 障害者政策調整委員会
- パラダイムシフトと韓国のDPI運動の方向性
このうち、特に興味深かったのは2021年に韓国政府が策定した「脱施設障害者地域社会自立支援ロードマップ」です。
国連障害者権利委員会では、2017年に「第19条:自立した生活及び地域社会への包容に関する一般的意見(5号)」を出し、さらに2022年には「緊急時を含む脱施設ガイドライン」を発出し、締約国に脱施設・地域移行の取り組みを求めています。
韓国ではこのような動きを踏まえて、2021年8月に脱施設ロードマップが発表されたそうです。主な内容をご紹介します。
- 2025年からの15年計画で、段階的に施設から自立生活をさせて、2041年には地域生活への転換を終える。5年単位で地域移行の数値目標を定めており、2025年からの5年間は740名。そこから610名、500名、2041年に540数名と、5年単位で毎年それぐらいの人数を出して支援する計画を出している。
- 先の国会で、障害者権利保障法と脱施設支援法が提案されたが、残念ながら廃案となってしまった。しかし、先日から始まった国会では、この2つの法案はまた提案される見込みである。障害者権利保障法には、条約を中心に、障害者の基本的権利や政策の基本理念を整理している。障害者の権利の主体性を明確に定義し、国家の財務を強化することも書かれている。
- 2017年に韓国の国家人権委員会が行った調査では、家族のための望まない入所は47.5%にものぼっている。
- 2014年のソウルを皮切りに、全国5大都市が脱施設化に向けた独自の自立支援計画を推進している。ソウル市では2年前に脱施設支援条例ができたが、最近は、保護者たちが脱施設支援条例の廃止運動をしている。今年の12月にソウル市議会が結論を出す。
- 現在の政権は、「障害者自立生活の定着のための生活環境の整備」を国政課題に掲げている。具体的には、①障害等級制度の廃止とサービス支援の総合調査の導入(‘19)、②重度障害者支援義務者基準の廃止(~‘22)、③障害年金の増額(‘20)、④発達障害者のライフサイクルごとの総合的施策の確立(‘18)、自立生活基盤の確立等に取り組んでいる。さらに、現政権の障害者政策課題の完成を促すため、「脱施設化に向けた自立支援ロードマップ」が発表された。
■ロードマップの分野別重点課題は次の6点
① 障害者が自分で住む場所を選ぶ権利を保障します
- 施設にいる障害者に毎年義務的に自立支援の調査を実施し、定期的に支援の対象を発掘していくことを去年から始めた。
- 「こういうところに住みたい」と言いづらい障害者(表現をするのが難しい障害者)の場合も、地域での居住を優先的に支援していく。
- 障害児は施設での集団生活ではなく家庭型の介助者の支援をする。成人の障害者には脱施設地域社会の自立を優先的に支援する。
- 人権侵害をした施設は優先的に入所者を地域に転換していかなければならない。大規模な施設も段階的に地域に転換していく計画を立てる。
- 現在、韓国には200人以上の施設が2つ、100人以上が23ヶ所ある。
② 自立への道筋をしっかりと築き、不安を和らげます
- 自立の意欲やエンパワーメント支援について。施設の中で自立支援専門の担当する組織を運営して、自立生活支援機関と入所障害者が直接マッチングしながら情報を共有していく。ピアサポート、相談もそこで行う。
- 2022年から脱施設障害者の自立支援モデル事業をやっていて、自立定着金の支給ガイドラインも策定している。施設から自立しても不安にならないようにサポートする体制をとっている。
③ 自立生活支援を拡充します
- 居住支援。バリアフリーな公共賃貸住宅を提供する。住居と福祉サービスを連携させたカスタマイズされた地域協力事業を推進している。
- 2022年から統合公共賃貸住宅は1年に7,000戸、障害者に優先的に提供している。
④ 入所施設を地域の自立を促す施設に転換します
- 2021年に法令を改正し、医療が必要なものは別として、入所施設の新たな設置建設を禁止し、既存施設の転換していくモデルを提示している。
- 入所施設は住居サービス提供機関と名称を変更し、24時間支援が必要な障害者を中心に専門的な支援を提供する機関として機能を転換させている。
- 既存施設がサービス提供型の新しい形に転換した場合は、そこを優先的に施設から退去させて障害者の住居維持サービス支援機関として転換させていく。
⑤ 入居中は入所施設を安全で自由な住まいにします
- 財産管理は施設職員がやっていたが、自分で管理する。一般の人と同じように生計費も本人が受領する。
- 一般のアパートなどの形に変換し、一人一部屋とする。
- 地域社会の自立支援機関と交流のプログラムを行う。
- サービスについても障害の程度、種別を考慮したサービス提供に変えていく。
- 障害者の虐待などの犯罪が発生したら、施設は一発レッドカードで解体となる。現在は、障害者福祉法の施行規則に、暴行や虐待があれば1回目は改善命令、2回目な施設長交代、3回目施設廃止となっているが、これを変えて1回で解体となる。
⑥ 官民の緊密な協力体制を構築します
- 重要な法律を変える作業。障害者権利保障法の制定、障害者福祉法の全面改正を準備している。2022年から2024年まで制度インフラの整備として、様々なモデル事業に取り組んでいる。
- 脱施設障害者の自立支援のモデル事業を2022年からやっているが、自立支援士という資格を作り、配置して、住居環境の改善、支援を行う連携をとっている。住居、介助サービスの統合のモデル事業を行っている。
ご講演を聴いて、韓国は政府がロードマップを策定し、脱施設に向けて大きく動き出していることがわかりました。さらに、今国会では障害者権利保障法と脱施設支援法が審議されるそうです。日本よりも数段先を行っています。
DPIでは今年度からピープルファーストジャパンや全国自立生活センター協議会とともに脱施設に向けたプロジェクトをスタートさせました。
「障害者が、他の者との平等を基礎として、居住地を選択し、及びどこで誰と生活するかを選択する機会を有すること並びに特定の生活施設で生活する義務を負わないこと(条約19条(a))」を日本でも実現するために、加盟団体と連携して取り組んでいきたいと思います。
佐藤 聡(DPI事務局長)
参加者感想
国連障害者権利委員会から日本への総括所見が作成・公表されてから2年が過ぎようとしています。
「脱施設・地域移行の推進」「インクルーシブ教育の実現」など、障害者施策を障害当事者がきちんと参画しながら進めていくことが大きな課題となっています。
韓国では、障害者権利委員会より2014年に最初の総括所見が公表、2022年に第2回3回の併合審査を受けた2回目の総括所見が公表されています。
韓国には国務総理傘下に「障害者政策調整委員会」(委員長が国務総理)が設置され、30名以内の委員によって障害者政策の基本となる「障害者政策総合計画」を作成し、実施する仕組みがあります。
今回の全体会では、韓国の障害者の現状と障害者政策に障害当事者団体がどのようにかかわっているのかなど、韓国DPI会長イ・ヨンソク氏からの報告を受けて、今後の日本の障害者運動に反映できるきっかけの場になったと思います。
日本も、「障害者自立生活の定着のための生活環境の整備」をしていくために、脱施設障害者地域社会自立支援ロードマップの作成など、委員会の強化及び計画作成が必要と感じました。
入谷忠宏(愛知県重度障害者団体連絡協議会 事務局長)
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