【訪問報告】南アフリカ共和国での草の根協力プロジェクト
2024年04月03日 国際協力/海外活動
南アフリカ共和国ハウテン州でのJICA草の根協力事業のフェーズ3「南アフリカ共和国 障害者自立生活センターの拡大と持続的発展」(草の根パートナー型)が、2月1日(木)から始まりました。
当初このフェーズ3は2020年開始を予定していましたが、新型コロナのため、そこから4年たってようやくのスタートとなりました。
フェーズ3では、これまでハウテン州のヨハネスブルグ市とエクルレニ市だけであったプロジェクトの対象地域を州の全域に広め、フェーズ1、2で育成した障害者リーダーが中心となって自立生活の理念を伝えていくとともに、自立生活支援を行う基盤を作っていくことを目的とします。
具体的には、対象地域に暮らす障害当事者、支援者およびソーシャルワーカー等の行政関係者に向けた障害と自立生活に関する研修を行い、その地域で自立生活支援を行っていけるように人材を育成します。
またこのプロジェクトのフェーズ1、2で培ってきた自立生活支援サービスや住宅改装等のノウハウをマニュアル化し、新たな地域での支援に役立ててもらうようにします。
また自立生活支援の制度化に向けて、州の政策に自立生活支援が盛り込まれるように働きかけを行います。
州の政策への働きかけについては、2024年度にフェーズ1、2の達成を評価するベースライン調査を行って自立生活支援の有効性を示すとともに、調査に基づく政策改善に向けた議論につなげていきたいと考えています。
今回の訪問
フェーズ3が始まって初めてとなる今回の訪問は3月2日(土)から17日(日)の日程で、プロジェクト・マネージャーの私、降幡と宮本専門家(ディーディーコンサルティング社代表)の2人で実施しました。
この訪問の中ではプロジェクトのカウンターパート団体であるであるレメロスおよびハウテン州政府の社会開発局および知事室の担当者を中心に、フェーズ3の開始を対面で報告、フェーズ3の目的と活動内容についての確認、さらにプロジェクトを進めて行く上での協力体制の在り方の確認を行っています。
また2024年度に行うベースライン調査のスケジュールと調査方法についての話し合いも行いました。
レメロス
エクルレニ市のジャーミストン地区にある障害当事者団体のレメロスとは、本プロジェクトのフェーズ1が始まった2013年からカウンターパート団体として、協力を続けています。
訪問時は理事長のコルネ・ジョベルト氏と自立生活支援チームのメンバー5人が集まり、2年ぶりの再開とフェーズ3の開始を喜び合いました。
フェーズ3の活動内容についてはフェーズ3の起案時からレメロス側と話をしていましたが、フェーズ1、2実施時に理事長であったピート・デ・ウィット氏が2022年4月に亡くなられたこと、また新型コロナでチームのメンバーと対面で会うことができなかったことから、この訪問の機会に活動の内容と役割分担を議論も交えながら時間をかけて確認しています。
休憩や昼食時の雑談もコミュニケーションの機会となったことで、オンラインのミーティングでは難しい詳細な協議を行うことができました。
今回のミーティングで見えてきたのは、レメロスの自立生活支援チームの強化の必要性です。
ハウテン州他地域に自立生活の理念を広めていくためには、このチームによる活動が不可欠ですが、フェーズ2からフェーズ3の間に、理事長のデ・ウィット氏を含む3人の当事者人材が亡くなっています。そのためチームとともに活動に加わる人材の育成が急務になります。
また今回の協議の中で興味深いと感じたのは、自立生活支援チームがレメロス本体から自律性を持って活動を進めていきたいと考え始めていたことでした。
レメロスは居住する障害者本人たちが管理者となって運営するグループホームの形をとっているため、そのための資金確保と運営がどうしても組織全体の優先事項になります。
チームとしてはこのグループホーム運営に制約されることなく、地域の自立生活支援に力を注ぎたい、そのために本体から独立して活動をできるようになりたいということでした。
レメロス以外の団体からも同様の声が聞かれたことから、自立生活支援は独立した団体を作ろうとする誘引力になっているようです。
ハウテン州政府
フェーズ3では、レメロスがハウテン州におけるプロジェクトのカウンターパートとなっていますが、プロジェクトの実施を監督する現地政府機関としての役割をハウテン州の社会開発局が担うことになっています。
今回の訪問では、社会開発局の障害に関する担当課長および障害等の課題に関する政府部局間の調整を担う州知事室の担当課長らと面談し、フェーズ3実施に関する協議を行っています。
協議の中で政府担当者から特に強く示されたのは、2024年度に行うベースライン調査への期待でした。ハウテン州では2020年から2030年の戦略的枠組みに基づく州の開発計画を実施していますが、2024年はその中間年に当たります。
その中で自立生活支援に関する取り組みの調査を行うことで、開発計画の後半に向けた効果的な働きかけにつながることを意識しているとのことです。
持続的に自立生活支援を行うためには支援の制度化が欠かせないことから、この機会を逃さずにベースライン調査を通じて政策に影響を与えていきたいと思います。
また今回の面談で話題になったのは、今年の5月29日(水)に行われる総選挙でした。与野党の支持率の差が縮まっていることから選挙結果の予想は流動的で、政権がどのような形になるのか見通せませんが、行政としてはあらゆる選択肢に対してオープンでいるように心がけているとのことでした。
その他団体の訪問
今回はレメロス、ハウテン州政府以外にも、フェーズ3で関係する団体をいくつか訪問しています。
ソウェト自立生活センターはフェーズ1からこのプロジェクトで協力し、ソウェト地域での自立生活支援サービスの提供を行っています。
フェーズ2の後半から事務局長、理事長らが相次いで亡くなるということがあったことで、一時期は組織が不安定な状態になりましたが、現在は理事会と事務局が協力して安定した運営に取り組んでいます。
シャングリラはレメロスと同じ居住者の自主管理型グループホームの団体ですが、地域での障害者支援活動にも取り組んでいます。代表のアモール・マラン氏とはフェーズ1から州の政策関連で話をしています。
またシャングリラはフェーズ3で新たに自立生活の理念を伝えるセディベン郡にあることから、ベースライン調査後の活動も踏まえた話し合いをしています。
ホイールズ・オブ・チェンジは、2023年11月に行われたJICA課題別研修の帰国研修員であるタミー・マンケンケザ氏が代表を務める当事者団体です。
配食サービス、縫製、車いす修理、農業、自動車教習所など、いくつもの職業訓練プログラムを束ね、地域に根差した活動を行っています。
またマンケンケザ氏は、2022年に結成されたUDS(持続性のための障害同盟)というハウテン州の各種障害者団体による連合体の議長も務めています。UDSには、障害者の声を集め州政府に向けて発信していくことが期待されます。
その他、雑感
今回は2年ぶりの南アフリカ訪問だったのですが、新型コロナへの警戒期間が終わって間もないころの前回の訪問時に比べて、街の雰囲気が落ち着いているように感じました。
社会の立て直しに向けて、力強く動き始めている様子です。その一方で経済ですが、インフレが進み、あらゆるものが値上がりしていました。
食事代や交通費が30~40パーセントほど値上がりして、人々の生活を直撃しているようです。5月29日(水)には総選挙がありますが、このインフレ問題は選挙結果にも影響を与えそうです。
次の訪問は総選挙後の7月上旬を予定していますが、その時にどのような状況になっているのか、注意して見ていきたいと思います。
報告:降幡博亮(常任委員(国際担当))