【ポイントまとめました】「総括所見を活用し、条約の国内実施を進めよう~まずは障害者基本法の改正を!」(DPI政策論「全体会」報告・感想)
2023年12月21日 イベント障害者権利条約の完全実施
12月2日(土)DPI政策論「全体会」について、報告を佐藤聡(事務局長)が、感想を生井祐介さん(つくば自立生活センター・ほにゃら)が書いてくれましたので、ご紹介します!
こんなことが報告されました(ポイントまとめ)
(敬称略)
1.佐々木桃子(全国手をつなぐ育成会連合会)
- 成年後見制度については、代理代行決定ではなく、本人の意志が限りなく尊重され望む暮らしが実現できる仕組みになってほしい
- 地域生活の場の確保について、緊急時の受け入れ、医療的ケアなど専門的支援をどのように地域で作るか検証し、実現することが必要
- 地域の学校で同世代の子どもたちと共に学び、遊び、育つことが大切。そのために、教員や児童・生徒、保護者の障害への理解、通常学級で個々の学びの保障、合理的配慮の提供が必要
- 本人の意見を聞いて必要な仕組みができるように政策提言をしていきたい
2.田中伸明(日本視覚障害者団体連合)
- 社会モデルでは、機能障害のある人の相当な制限の根拠は社会的障壁。社会に足りないものを発見する役割を果たしてきた
- 人権モデルは、足りないことによって人権が保障されないので改善してくれと国に要望する時に、理論的基盤を与える考え方
- 障害者権利委員会が人権モデルという考えを発信しており、私たちは理解しなければならない
- 憲法をもう一度振り返り、基本的人権として何が保障されているのか、そういう視点で総括所見を受け止めていく必要がある
3.臼井久実子(バリアフリー映画研究会)
- 道路交通法とその政省令に、障害を理由とする欠格条項があることが根本問題。差別偏見を土台にした法律を改めない限り、問題は解決しない
- 障害を理由とした欠格条項は増大している
- 地方条例に残されている差別は25都道府県に差別的な条項がある。議会傍聴制限が多く、用語の7割が「精神異常」
- 複合差別に向き合い解消する取組みが必要
- 順序としては、障害者差別解消法よりも前にできた障害者基本法の見直し・改正が必要
4.熊谷晋一郎(東京大学 先端科学技術研究センター)
- 障害者権利条約12条の解釈を巡って世界中の研究者が懸念を示している
- 意思決定支援とは、社会参加できるように周囲が手助けすること
- 人権モデルは不利益解消方針の規範的なモデルであり、社会モデルは社会の有り様が障害のない人に有利なようにデザインされていることを発見するモデル
- 人権モデルには従来型の人権モデルとCRPDが採用している独自の人権モデルがある
- 従来型の人権モデルでは精神障害者に抑圧的に作用しうる
- 意思決定と意思形成も含めてプロセスが健常者向けにできているせいで、普遍主義的な意思決定が全うされていない
- 社会モデルに基づいた意思形成・意思決定の条件は、情報保障、選択肢の確保(依存先が広がること)、選択経験の保障、歴史の共同編集、身体反応を拾う、の5つ
5.尾上浩二(DPI日本会議副議長)
- 施設収容をやめる、分離教育をやめることが総括所見に明確に書かれている。登るべき山を間違えていますよという指摘。脱施設とインクルーシブは繋がっている
- 入所施設や家族依存に頼らない地域をどう作っていくか。地域の学校全体をインクルーシブに変えていくことが勧告に書かれている
- 日本の状態は人権モデルではない、医療モデル+パターナリズム(保護主義、周りで決める)が日本の特徴
- 分けることに慣れ親しんだ日本のやり方に対する根本的な問いかけが総括所見の特徴
- 制度政策や社会の慣習や意識まで含めた変革を役所任せにせず、総括所見を受け止め、改善の方向課題を明らかにすることが必要
詳細は下記「報告全文」をご覧ください。
報告全文
第12回障害者政策討論集会全体会では、「総括所見を活用し、条約の国内実施を進めよう~まずは障害者基本法の改正を!」をテーマに、内閣府障害者政策委員会の委員をお招きし、総括所見を受けて日本が取り組むべき課題と障害者基本法の改正について議論しました。ここでは総括所見を受けて日本が取り組むべき課題について、ご発言の概要を報告します。
●佐々木桃子さん
総括所見の方向性は賛成です。
12条 育成会のアンケートでは、成年後見制度を利用している人で、親なきあとの不安がなくなったという人は4割のみでした。身上保護をしてもらえない、後見報酬が高い、途中でやめられない、本人のお金なのに本人のために使わせてもらえない。代理代行決定ではなく、本人の意志が限りなく尊重され望む暮らしが実現できる仕組みになってほしいです。
19条 生活の場の確保について。現在も入所施設を作って欲しいという要望はあります。重度障害者を受け入れているグループホームが圧倒的に少ないです。重度も受け入れてくれる暮らしの場が地域に増えないと地域移行は進みません。人材の育成と確保も必要です。緊急時の受け入れ、医療的ケアなど専門的支援をどのように地域で作るか検証し、実現することが必要です。
24条 特別支援学校・特別支援学校の児童・生徒は増えています。イクルーシブを否定しているわけではありません。地域の学校で同世代の子どもたちと共に学び、遊び、育つことが大切です。そのために、教員や児童・生徒、保護者の障害への理解、通常学級で個々の学びの保障、合理的配慮の提供が必要です。
総括所見で私たちのやるべきことが見えてきました。子どもが心配であるがゆえ、親の安心を求めがちで、子にとってよかれと思い決めてきましたが、子も一人の人間なのだから、本人の気持ちを大事にしていかなければなりません。本人の意見を聞いて必要な仕組みができるように政策提言をしていきたいです。
●田中伸明さん
総括所見は法的拘束力がないというコメントもありますが、締約国として内容を重く受け止め真摯に対応する姿勢が求められます。
総括所見では人権モデルが7ヶ所出てきます。社会モデルでは、機能障害のある人の相当な制限の根拠は社会的障壁です。社会に足りないものを発見する役割を果たしてきました。
障害者全体としての連帯を育むことに寄与しました。人権モデルは、足りないことによって人権が保障されないので改善してくれと国に要望する時に、理論的基盤を与える考え方です。
障害者権利委員会が人権モデルという考えを発信しており、私たちは理解しなければなりません。憲法をもう一度振り返り、基本的人権として何が保障されているのか、そういう視点で総括所見を受け止めていく必要があります。
表現の自由(情報受領権を含む)、教育を受ける権利、居住移転の自由。これらの基本的人権を再確認し、障害当事者の視点からこの人権を考えていきます。
特に重要な人権については国に改善を求めていくことが必要です。条約の国内実施には、現在の制度を基本的人権が十分に障害者に保障されているのか見直すことが必要です。
●臼井久実子さん
法制度の障壁の典型的なものが欠格条項です。寄せられた相談では、運転免許更新でお薬手帳のコピーを求められたというものがありました。欠格条項をも上回る対応で、道路交通法とその政省令に、障害を理由とする欠格条項があることが根本問題です。差別偏見を土台にした法律を改めない限り、問題は解決しません。
障害を理由とした欠格条項は増大しています。699法令(法律386+政省令313)に存在しています(2016年は505法令)。699法令のうち、「心身の故障」379本、「精神の機能の障害」276本、「心身の障害」(視覚や聴覚等の障害)57本(2023調査)です。
地方条例に残されている差別は25都道府県に差別的な条項があります。議会傍聴制限が多く、用語の7割が「精神異常」。公民館、博物館、警察署の庁舎、公園などに「退去命令」「立ち入り禁止」があります(静岡の「心の旅の会」2022年調べ)。
複合差別に向き合い解消する取組みが必要です。障害のある女性が暴力を受けて女性の窓口に相談しても、障害者だから福祉の窓口に行ってくださいという対応がされがちです。逆に福祉の窓口からのたらいまわしもあります。
相談する以前に、情報を手にできていない、どこにも相談できていない人も多いです。複合差別を禁止するよう障害者差別解消法の見直しが求められています。順序としては、障害者差別解消法よりも前にできた障害者基本法の見直し・改正が必要です。
●熊谷晋一郎さん
意思決定に関して述べます。最善の利益を禁止することが定められましたが、精神医学系の雑誌で「国連障害者権利条約を自分自身から救う」というタイトルで、CRPDは国際人権法の問題児、12条は当事者の人権を傷つけることになりかねない、大うつ病の結果生命を絶とうとしている人を本人の意思に反して入院させることができない、といった特集があり、12条の解釈を巡って世界中の研究者が懸念を示しています。
意思決定支援とは、社会参加できるように周囲が手助けすることです。健常者も意思決定支援をすでに受けています。就職、住む場所などを色んな人に相談し、試しにやって、サポートを受けています。
人権モデルは不利益解消方針の規範的なモデルであり、社会モデルは社会の有り様が障害のない人に有利なようにデザインされていることを発見するモデルです。
人権モデルには従来型の人権モデルとCRPDが採用している独自の人権モデルがあります(川島聡2023)。従来型の人権モデルでは精神障害者に抑圧的に作用しうるのです。意思決定と意思形成も含めてプロセスが健常者向けにできているせいで、普遍主義的な意思決定が全うされていないです。
社会モデルに基づいた意思形成・意思決定の条件は、情報保障(聴覚障害だけでなく、自閉症、発達障害、知的障害、精神障害にも行き届いてない)、選択肢の確保(依存先が広がること)、選択経験の保障、歴史の共同編集(早い段階からインクルーシブな社会の中で歴史を共有しておくことも意思決定支援の重要な条件になる)、身体反応を拾う、の5つが必要です。
●尾上浩二
建設的対話では、ロバート・マーティンさんが津久井やまゆり園事件を経てもいまだに入居施設に多くの人が暮らされているのをどう考えているのかと質問されました。
施設収容をやめる、分離教育をやめることが総括所見に明確に書かれています。登るべき山を間違えていますよという指摘です。脱施設とインクルーシブは繋がっているのです。
日本の審査を担当されたラスカスさんが、子ども時代に分離されると地域での生活は難しくなる、インクルーシブ教育はインクルーシブ社会の礎だと仰っていました。
入所施設や家族依存に頼らない地域をどう作っていくか。地域の学校全体をインクルーシブに変えていくことが勧告に書かれています。10月にロバート・マーティンさんやカナダやスウェーデンで地域移行を進めている知的障害当事者リーダーたちが来日しました。
スウェーデンのゲストが「入所施設をいつまでも残すということは、障害者権利条約にいつまでも違反しているということ。日本は障害者権利条約に従うつもりはないのですか?次に来日するときまでに宿題を解決するように取り組んでほしい」と言っていました。カナダでは、脱施設のガイドラインを育成会とピープルファーストで作成しました。
総括所見では、日本の状態は人権モデルではない、医療モデル+パターナリズム(保護主義、周りで決める)が日本の特徴です。障害者と障害のない人とを分けた上で対応するのです。
その方が障害者にも社会にも良いとみなし、分けることに慣れ親しんだ日本のやり方に対する根本的な問いかけが総括所見の特徴です。制度政策や社会の慣習や意識まで含めた変革を求めるものです。
高いハードルですが、役所任せにせず、総括所見を受け止め、改善の方向課題を明らかにすることが必要です。障害者権利条約のモニタリング機関として内閣府に障害者政策委員会があります。
いまだに障害者政策委員会では総括所見を取り上げていませんが、どういう指摘と勧告をおこなっているのか、条約の国内実施の課題について活発な議論を進めてほしいです。
佐藤 聡(DPI日本会議事務局長)
参加者感想
登壇者、それぞれの立場から総括所見を受けての発言があり、その上で、尾上さんからのコメントや白井さんからの障害者基本法改正のポイントを聞くと、なるほど確かに、総括所見の内容を盛り込んだ改正障害者基本法が必要だと思いました。
また、尾上さんのお話の中で、日本政府は権利条約の内容を掛け違えているとの発言もありました。内閣府障害者政策委員会では、総括所見が出されてから、1度も、総括所見について議論がされていないそうです。
今回の登壇者からは、政策委員会での総括所見の議論、障害者基本法の改正、知的障害や精神障害のある方の委員としての参加など、様々な発言がありました。なので、今後の政策委員会の議論に注目していこうと思います。
最後に、茨城での取り組みを紹介させていただきます。総括所見を受けて地元で何ができるかを仲間たちと一緒に考え、施設やグループホームの他に、自立生活という選択肢もあることを知ってもらうために映画『道草』の上映会と岡部耕典先生の講演会をセットにして県内4箇所で開催しました。
また、まずは社会モデルの考え方を知ってもらうために誰でも参加できる障害平等研修も開催しています。尾上さんが仰っていたように、地域からも政策委員会の議論を盛り上げて、障害者基本法の改正を実現させたいと思います。
生井祐介(つくば自立生活センター・ほにゃら)
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