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3月16日(木)「障害者権利条約の審査・総括所見を活用した国内法制度整備事業」成果報告集会報告

2023年03月31日 イベント障害者権利条約の完全実施

会場の様子

障害者権利条約の完全実施に向けた取り組みとして、建設的対話以前の2016年度にDPIとしての課題を洗い出した「DPIレコメンデーション(PDF)(ワード)」作成に取り組み、キリン福祉財団に助成いただきました。

今年度、2022年9月に国連障害者権利委員会から日本に向けて発表された総括所見で、17の法制度の評価、90以上の勧告が出され、多くの問題提起が委員会より行われたことを踏まえ、総括所見を分析し、条約の完全実施に向けた国内法制度の整備に関する政策提言を行うべくDPIとしての課題を明確にするため、本事業を再びキリン福祉財団に申請しました。

一年間の活動の締めくくりとして、2023年3月16日(木)、衆議院第一議員会館にて、2022年度キリン福祉財団助成事業「障害者権利条約の審査・総括所見を活用した国内法制度整備事業」の成果報告集会を開催しました。対面およびオンラインでのハイブリッド開催で計約150名が参加されました。

来賓挨拶・助成団体挨拶

議員会館での開催ということもあり、国会審議の合間という慌ただしい時間帯のなか国会議員・秘書が駆けつけてくれました。自民党の宮路拓馬議員、盛山正仁議員、公明党の山本博司議員にご挨拶いただきました。さらに公益財団法人キリン福祉財団の常務理事事務局長、大島宏之さんからご挨拶いただきました。

写真:自民党の盛山正仁議員
写真:自民党の盛山正仁議員

写真:公明党の山本博司議員
写真:公明党の山本博司議員

写真:自民党の宮路拓馬議員
写真:自民党の宮路拓馬議員

行政報告

外務省総合外交政策局人権人道課長の髙澤令則さん

障害者権利条約の実施に関し、行政報告を外務省総合外交政策局人権人道課長の髙澤令則さんより行政報告を行っていただきました。

2022年8月22日、23日に日本に対する第1回政府報告審査がスイスのジュネーブにおいて行われた際、外務省と市民社会とで事前の意見交換が行われ、DPIをはじめ、多くの市民の高い関心があったこと、また日本審査では、権利委員会から、非常に多くの指摘、質問があり、当日は高澤さんも壇上で司会をしていたが、質問の内容・量とも他国の審査に比べて、非常に多かったとの印象を述べられて、また政府にとっても有益なものだと思っているとの発言がありました。

高澤さんは「委員会審査は、日本の障害者施策を前進させる上で、非常に重要なプロセスだと認識しています」と述べ、現在外務省のホームページで総括所見の原文(英語)と日本語仮訳のPDFおよびテキストを公表していること、またその内容について関係省庁ともに、内容を十分に検討し、誰もが住みやすい社会を実現するために、障害者権利条約の周知と趣旨反映はますます重要であり、今後関係者と協力し、施策を推進していくとの報告がありました。

事業報告

事務局長補佐の岡部

今回の障害者権利条約の総括所見をどう生かしていくかを各地の課題とともに検討する「タウンミーティング」は本事業の重要な部分で、2022年度は、沖縄県、大阪府、愛知県、東京都、群馬県の5か所で開催されました。各ミーティングの現地の主催、プログラム概要とポイントを事務局長補佐の岡部が報告しました。

▽各タウンミーティングの報告はこちら

シンポジウム「総括所見を踏まえた今後の取り組み-法制度の見直しに向けて-」

長瀬修さん

■報告「総括所見の概要と締約国として求められること」

まず長瀬修さんの発表がありました。

中華民国(台湾)の2017年と2022年に2回の審査において審査委員長の役割に携わった経験を踏まえ、今回の日本の審査の根拠と概括についてお話いただきました。

国際連合(国連)に未加盟の台湾では、独自に障害者権利条約に基づく自国の施策を審査するための枠組みを設け、2017年の総括所見に基づく行動計画(英文で340ページ)を作成し、その中で各勧告、報告の指標を設け、どの機関・役所がいつまでに何をするかを明記し、真剣に取り組んでいるそうです。

日本に特徴的なこととして、国内人権機関がないという、大きな仕組み上の欠陥があるなか、内閣府障害者政策委員会という障害者基本法に基づく機関が、政府の審議会ではあるものの、かろうじて独自の意見を出すという貴重な存在であること。

また、政策委員会の石川委員長(障害者権利委員会[CRPD]の前副委員長)が法的能力、精神医療、インクルーシブ教育という3点に重点を置いて報告したことは大きな存在感があったこと、また障害者権利委員会の国別報告者が日本のために頑張ってくれた結果、長文の総括所見が出されたことなどを話されました。

田門浩さん

なお、長瀬さんの報告の前には、会場から、田門浩さん(聴覚障害当事者、弁護士)の発言がありました。来年2024年の6月に選挙が行われる国連障害者権利委員会の委員に日本から立候補していることのお知らせ、また普段からの応援に対する感謝の言葉が述べられ、これを受けて長瀬さんらから石川准さんに続いて日本から2人目の権利委員に、田門さんが必ずなるよう応援しましょうと激励の言葉が交わされました。

小国喜弘さん

■報告「総括所見をどう活かすか―インクルーシブ教育の実現に向けて―」

続いて小国喜弘さんの報告がありました。前提として、特別支援教育の対象児童も不登校の子どももこの10年間で倍増し、暴力やいじめの認知件数も増え、教師の精神疾患による休職も高い割合であるなど、誰にとっても暮らしにくい学校づくりが進んできてしまっていることなど、これらの現象をどうとらえ、総括所見の勧告をどういかすかを根底に考えていきたいと話されました。

地方自治体の課題については、好事例を共有し、総括所見で撤回を求められ問題になっている文部科学省の4.27通達についても学校教育は自治事務であり遵守義務はないこと、全就学予定者に対して地域の学校への就学通知を出している自治体がいくつもあり、これらの取り組みに多くの自治体が続くことが重要であることなど、地方自治体でできることについての課題が示されました。

さらに国の課題として、日本ではインクルーシブ教育の問題が普通学級の問題でなく、特別支援学級・特別支援学校の問題もしくは障害を持つ子どもへの合理的配慮問題に矮小化されてしまっていることを指摘し、従来の特別支援学級教員・支援員などを、普通学級において友達と友達とをつなぐ役割であると再定義し、人格の完成、自立的な基礎、社会の形成者として必要とされる基本的資質を前提とした全面的なインクルージョン実現を明確に視野に入れなければならず、社会の仕組み・制度・文化を変えるため、教育基本法、学校教育法・教職員定数の標準法を見直し、インクルーシブな教育を明確に規定する必要があることが示されました。

黒岩海映さん

■報告「障害者権利条約 総括所見を受けて~日弁連の活動~」

次に黒岩海映さんから、地域移行・脱施設をテーマに精神障害者の人権を切り口に、日本弁護士連合会(日弁連)のパラレルレポーで精神医療の問題について訴えたこと、総括所見でたくさんの条文にまたがり勧告が出たこと、特に、いかなる形態でも非自発的入院(強制入院)及び治療は防止し、地域社会に根差したサービスを提供することとの力強い勧告を得たことについて報告がありました。

現状では、精神科病院の密室の中で不祥事・事故・事件の報道が続いており、今般の精神保健福祉法改正で精神科病院の通報義務規定ができたものの、これが機能するようスタートから相当しっかり監視しないといけないとのことでした。

また日弁連の活動報告として、2021年10月の人権大会のテーマに精神医療を取り上げ、シンポジウムを行ったこと、その準備の中で重視したのが当事者の声を集める実態調査で1000人以上からアンケートに回答いただき、200人近くに弁護士が実際にインタビューしたこと、強制入院廃止を最終段階の目標と位置づけ、段階的に、具体的な短期・中期目的を示し、実現可能なロードマップを作成していることが報告されました。

またインクルーシブ教育実現に向けても段階的なロードマップを示せないかと思っているとのことでした。精神医療とインクルーシブ教育の問題はつながっており、分離教育は子ども時代から分けることを肌で覚えさせ、みんなと一緒に同じことができない子や変わった子は分けられていいんだと周囲の大人の態度から子どもたちが学んでしまう、分離教育が入口で、結果として精神科病院の長期強制入院を許容する社会になっている、「社会を変えるためにはまず教育だ」との指摘が印象に残りました。

最後に、「総括所見を国内法制度のバージョンアップに生かそう!」と題し、今村登事務局次長より総括所見の19条・20条の懸念・勧告に基づき、DPIとして今後国内法がどのように変わっていくべきだと考えているか、タイムスケジュールも盛り込んだ脱施設・地域移行の構想を主に以下の内容で話しました。

パネリストの方々

19条勧告は強い言葉で、施設収容を廃止するために入所施設から地域での自立生活に予算配分を振り向けること、いつかできたらいいではなく、いつまでにやるのか国として戦略を作って、都道府県に義務づけしなさいと要請していること。

また20条では、通勤・通学に訪問系サービス(重度訪問、行動援護、同行援護)が利用できないこと、移動支援では支給量が足りず長時間利用が困難であること、補装具や車いすについても、地方格差があることなどが懸念され、改善が勧告されています。

障害者の地域自立生活のための住宅の確保、パーソナル・アシスタンスの利用のしやすさについては、住まいが確保できない問題は非常に大きいので、リーズナブルな状況で入居できるように、パーソナル・アシスタンスも充実させなさいと指摘しています。

障害支援区分の認定をはじめとする支給決定の仕組みについても、人権モデルに基いて設計すべきと言われています。入所施設の廃止や入所施設から地域への予算配分の転換など、踏み込んだ勧告内容となっており、脱施設・地域移行を進めるために行うべきことが具体的に書かれており、DPIの政策提言の根拠として活用できる内容です。

DPIの目指す「脱施設」では、日本の施策では、そもそも緊急対応や看取りも含めて家族介護に依存し過ぎてきたため、地域の中で受け止められず地域社会から排除されてきた結果、入所施設が必要とされてきたものである—という視点から、家族介護に頼らないで地域移行・地域生活ができるよう、作っていきます。

今回の総括所見を障害者基本法の改正で反映していけるよう、また総合支援法の見直しについては、今年度改正した際の積み残しの課題を次の改正に向け、障害支援区分の抜本的な見直しやパーソナル・アシスタンスの充実、重度訪問介護の外出制限をなくしていくこと、重度訪問介護の利用対象者拡大、移動支援を市町村事業から個別給付に戻すこと、車いす等の補装具の支給ガイドラインの見直しなどを求めていきます。

特に、脱施設、地域移行を進めるための立法措置が必要です。附帯決議に挙げられたように検討会を設置し、検討することとなっていますが、中心となる地域移行コーディネーターの設置に関し、一番懸念しているのは、報酬改定の中で相談員へ少しの加算で終わってしまうのではないかということです。具体的な役割や報酬の議論が今後始まることになりますが、財源や地域基盤をどうするかについての議論にDPIとしても戦略をもって入っていくことが必要です。

地域移行コーディネートについては、地域だけでなく施設や病院側にも地域移行を促進する役割を明確にし、そこにもお金を付けていく。施設側の人も、地域に働く場所をもっていくという移行策が必要だと思っています。総括所見、脱施設化ガイドラインを活かし、インクルーシブな社会を創っていきたいと思います。それに向けたDPIの行動計画(短期、中期、長期)を作っているところです。

各発表の後、質疑応答が行われ、シンポジウムは締めくくられました。

最後に

最後に、佐藤聡事務局長が閉会挨拶を以下の内容で述べました。

障害者権利条約の総括所見は、権利委員会という国際的なモニタリング機関から出た日本政府への指摘で、日本で法律を作るのは国会議員です。

与野党を含め、議員の皆さんに障害のことに関心を持ってもらい、こういったことを条約が言っている、だから日本もこの方向へ進んでいこうと、一緒に問題意識を持って取り組んでいってくれる議員を増やすことがとても大事と考えています。

私たちは、どの政党でも障害に関心を持ってくれる議員を見つけて、そういう方と関係を築きロビーイングをしていき、いろんなところに障害のことを理解する人を増やすことが大切です。

キリン福祉財団に助成をいただき、来年以降、2020年につくったDPIビジョンを総括所見を踏まえバージョンアップし、テーマ別の行動計画を作り、各地でタウンミーティングを行い、加盟団体・地域と一緒に運動に取り組める形にしていくという3年間の事業として展開することができます。

素晴らしい総括所見が出たので、これを活用し、次の審査が2028年の予定ですが、そのときはこんなに変わったと皆さんに示せるようがんばっていきたいです。

以上のように成果報告集会を開催することができました。年度末の忙しい中、ご参加くださった皆さま、助成くださっているキリン福祉財団の皆さまに、改めて御礼申し上げます。

報告:DPI事務局


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