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【インクルーシブな子ども時代づくりPT報告】
3月20日(日)インクルーシブまるごと実現プロジェクト成果報告集会報告(前編)

2022年03月30日 イベントインクルーシブ教育

集会タイトル

3月20日(日)、(公財)キリン福祉財団助成事業の「インクルーシブまるごと実現プロジェクト」の成果報告集会が東京都文京区のシビックセンタースカイホールで開催されました。

当日は天候にも恵まれ、会場には40名ほどのご参加をいただきました。

この報告集会は4年間に渡って実施してきた「インクルーシブまるごと実現プロジェクト」の集大成と位置づけ、開かれたものです。会場には車いすユーザー、呼吸器ユーザー、ダウン症の人、視覚障害者、精神障害者といった様々な障害種別の方からベビーカーに乗った赤ちゃんまで、多様な方々が参加してくれました。

会場は席を固定せず、好きな場所を選べるように工夫しました。また、マットを敷いて横になれる場所を確保したり、他人の視線が気にならないパーテーションで区切った空間を設けたりといった配慮をしました。

区切り席 マットを敷く

開会あいさつと助成団体あいさつのあと、事業の二本柱である「インクルーシブな子ども時代づくりプロジェクト」と「ソーシャルインクルージョンの視点に基づく障害者文化芸術」の活動報告がされました。

本記事は「インクルーシブな子ども時代づくりプロジェクト」報告になります。長くなりますので「ソーシャルインクルージョンの視点に基づく障害者文化芸術」報告は後編で掲載します。

座談会「インクルーシブな放課後づくりの取り組み-現状と課題-」

登壇者:
・古市理代さん(NPO法人アクセプションズ)
・五本木愛さん(一般社団法人sukasuka-ippo、オンライン参加)
・谷口研二さん(原谷学童保育所、オンライン参加)
・崔栄繁(DPI日本会議議長補佐)

インクルーシブな放課後づくりの取り組み-現状と課題というテーマ」で座談会が持たれました。五本木さんと谷口さんはオンラインでご参加いただきました。

子ども時代づくり登壇者

▶五本木さんの事業紹介、インクルーシブ学童sukasuka-kids

はじめは、五本木さんからの事業紹介でした。神奈川県横須賀市で一般社団法人sukasuka-ippoを運営、その中にインクルーシブ学童sukasuka-kidsがあるということです。「わたしのまちでいきる」という言葉が法人の基本理念です。

sukasuka-ippoは障害児者の母たちで作った法人で、五本木さんのお子さんもアンジェルマン症候群という遺伝子疾患を持っています。幼稚園時代のお母さんたちと、法人を立ち上げ、活動しています。

「こういうものがあれば、子ども達ものびのび生活できるのではないかな」と、課題解決するために、法人化して事業運営になっています。私たちが障害のある子を育てている中で、我が子たちが学齢期にさしかかった子に、放課後の居場所をどういう形でつくるか考えて作りました。

学童を作ったとき保護者として、小学校入学後の障害児の放課後の居場所を考えたとき、放課後等デイサービスを使うのが一般化されていて、自分達も放課後サービスも視野に入れながらでしたが、そこにどうしても違和感というか、障害のある子は、ずっと障害のある子としか過ごせないってどうなんだろう、という疑問がありました。

障害児と小さいころから過ごすことによって、差別、偏見の気持ちを少しでも摘んでいけたらいいんじゃないかなと考え、障害のある子どもない子ども一緒に過ごせる学齢期に過ごせるような場所づくりが出来ればと思い、インクルーシブ学童sukasuka-kidsを作りました。

どうやったら学童という形で障害のある子ども、例えば、医療ケア児も含め、もっと受け入れられるか。まだ制度として完成されていない状況にあります。受け入れるには課題がたくさんある中、まだまだ法律改正も必要だったり、移動の問題だったり、受け入れるには子どもをみる支導員の量や質、また指導員確保の準備もあります。

障害児が地域で当たり前に楽しく生きていけるようにするために、今は中学生までの居場所づくりについては展開していますが、今後は働いたり住んだりすることも目指し、頑張っていかなければならないと思っています」と話されました。

▶谷口さんの事業所紹介、原谷学童保育所

続いて原谷学童保育所の谷口さんから報告がありました。谷口さんは施設内で障害児通所支援事業、いわゆる児童発達支援という多機能型の支援で、そこで児童支援員を兼任されています。

「原谷学童は金閣寺の近くに学校があり、そこから一山越えて徒歩40分くらいのところにある学童です。京都市の学童事業のメインですが、いわゆる一元化児童館とよばれるものです。0~18歳の施設の中に学童保育所が入っている。原谷地域には児童館がないので、補完事業として地域学童クラブを行っています。

運営自体は、法人運営は、社会福祉法人の民営です。それに乗っかる前には保護者会運営でした。京都市から補助金をいただいて保護者がどうやったら働けるか考えて、学童をつくりました。ですので保護者が指導員を雇っているような学童でした。

しかし、それでは保育料も値上げになったり、子どもも少なくなったりして、経営も難しくなり、閉めようとなったのですが、この地域に学童をなくしてはいけないとして、保育園が運営を引き受けてくれることとなりました。

地域学童クラブの課題として、半分の助成金が、登録児童の数によって計算される。児童館でいうと保育料から不足するところは市からお金がもらえて、雇用も安定する仕組みになっています。地域学童は子どもの数で補助金額が決まります。人数が減れば運営費が減るというものです。

ですから、常に人数確保が求められています。それに対して保育料や減っていくので常に死活問題です。2020年の10月に放課後等デイサービスなどを法人として障害児通所支援事業を学童に併設して運営を始めました。

25名くらいが通ってくるなか、療育手帳があったり移動支援を使ったりする児童がだいたい3分の1くらいいました。その中には学童では、本当に個別につかないといけない子もいました。学童が大事にしていることとして、個別支援とは、その子の要求に寄り添うことですから、もちろんみんなと遊びたいとなればそこに入れる。その子が楽しめることを考えることが大事です。

参加者の様子

原谷学童の特長として誤解を恐れず言えば、支援のいる子でも特別な配慮をしません。理由は誰しもが特別な配慮がいるからです。支援のいる子だけが特別ではないからです。その子に難しいと予想できる取り組みとか、これはまだ早いということも、仲間、集団でひっぱりあげる。

その子の頑張りをみんなに気が付いてもらい、集団で力を発揮できるように、そういう形で支援の必要な子を頑張らせてきた、という意識もありました。その子の発達や成長、達成度というと、やってよかったと思いますが、実際のところはだいぶ頑張っていたというところがあります。

集団のところでは、集団の力で支援のいる子を引き上げられたらということで、無理をさせていないかとか、その子が本当に楽しめているのか、リスク管理ができているかの不安もありました。学童には元気いっぱいな子がたくさん来るので賑やかです。

集団の場の学童保育所でも、支援計画に沿ってその子に寄り添ったことができるメリットがあります。
望む子は、山の上にただいまと帰ってきてから、すぐその上の階の学童に行く子もいる。みんなに見守って、そこでしんどくなったり、パニックや喧嘩になったりしたら、一度クールダウンしようと、専門職の専門スペースにというように、その子に寄り添えるということで、こういう形にしました。

もう1強かった点は、職員数です。学童の職員は常時2名ですが、放課後デイ職員が、常時児童指導員が3名ついています。10名定員で3~4名です。

児童指導員が3人そこにいてくれる。その子が集団でどういう遊び方、困りごとを抱えているか。定型発達の子と比較した際にどういったことが課題になるのか、ということがわかるのが、ものすごくよかったなと思っています」とのことでした。

▶古市さんの活動紹介、NPO法人アクセプションズ

アクセプションズ

続いて、NPO法人アクセプションズの古市さんからの報告でした。息子さんにはダウン症があり、今17歳で、高校2年生です。比較的重度な知的障害がありますが、地域の学校、フリースクールで過ごしています。

「親はダウン症児を生むと障害の病気の部分のみしか、医師から説明を受けません。そうすると絶望的になってしまう。しかし、一般人と同じ部分も多いです。ゆっくり育ちます。ダウン症=障害ではなく、違いはあるけれど、個性でもあるということを、団体の活動を通してみなさんに知っていただきたく、普及啓発活動をしています。

NPO法人アクセプションズは2012年に設立、ダウン症を持つ子どもの親が作りました。ダウン症に限らず、誰もがその人らしく暮らせるインクルーシブな社会を実現したいと発信しています」とのことでした。

▶崔からのプロジェクトの説明と経過報告

崔

「放課後等デイサービスは、障害児の行く事業所はすごく増えてきて、みんなそっちに行ったらどうなるの?」そういう問題意識からこのプロジェクトを立ち上げました。

「五本木さんの立ち上げたインクルーシブ学童、どうにかして放課後も分けないで一緒に過ごせるような一人ひとりのニーズに合わせ制度や仕組みは、どうやったらできるだろうと探っていくのがこのプロジェクトでした。本当はどこかの自治体にモデル事業をやってもらおうと思っていましたが、コロナでそれはアプローチが難しく、今後はそういう取り組みも教育分野の1つとして続けたいと思います。

義務教育の通常学級と、特別支援学級と特別支援学校の構造は、まったく同じ構造です。障害児の特別な何かをしたときには支援がつく、先生の加配もできる。通常学級と特別支援学級、同じじゃないかなと。

原谷学童保育所さんの話を聞くと、こちらの用語では、全面交流や部分交流など、2つの学級に属しながら支援も受ける、構造的に似ているなと思いました。

これをさらに深めて具体的に要望テーマを入れ込み、厚生労働省や文部科学省、議会に政策提言をしていきたい、というのがこのプロジェクトの最終目標です」、と発言がありました。

▶ユニバーサルデザインと、安心して「困った、助けて」といえる環境

五本木さんからは以下のような発言がありました。

「全国的にも、支援の必要なお子さん、発達障害も含め、すごく支援級のお子さんが増えています。そういうお子さんも学童であれば、保護者が仕事をするということで、放課後の居場所として必要な場所。学校を考えても、支援級の子が増え、そういうこの受け入れを学校できちんとしていかないといけない。やはり人数配置も含め、今の形は無理がきているかなと。現場も指導員もそうですが、ひっ迫している現状です。

教育の部分でいうと、ユニバーサルデザイン化を進めるということで、みんなが当然としてそこにいて、同じ環境で授業が受けられる。同じ環境で放課後も過ごせることが基本になっていないと、この先、マンパワーも不足しますし、そもそもそこの視点を根底から変えないと、ちょっと無理ではと日々感じるところです。

そういった子が当然、地域にたくさんいるし、放課後も一緒に過ごせるような環境がある。一緒に授業を受けて地域の学校で楽しく過ごせるようになど、全て含めて考えると、加配の部分であったり、個別対応の人数を増やしたりするのでなく、先生方や支導員のスキルも高くならないといけない。かかわる大人一人ひとりに知識や経験も必要になります。

当然として、基本的にはその場にいろんな子がいます。一人ひとりが特別であることには変わりありません。特別誰かに何かをすると意識してやっていない。それって、やっぱり、特別なものとして存在させるのではなく、定型の子たちからしたときに、ずるいと思われない。

片方だけをフォローするのでなく、それぞれに納得できる形を作ることが非常に大事と思い、支導員のみなさんにはそのように保育をしていただいています。地域の学校や教育の部分も整えていかないといけないことを感じています。」

谷口さんからは、以下のような発言がありました。

「学童の子らになんでもっとお金を使わないのか。その辺、制度的な改善はなかなか瞬発力に欠けるものがあります。『色んな子がいるから色んなことをする』のが、当たり前の環境を大事にしたい。その1つの結果として、答えがここにあるモデルケースになるのではないかと思います。

集団で育てるというか、いろいろな人がいて当たり前という中でやってきた。ここは肝になるところだと思います。学童に来ていた子どもたちですから、療育手帳までは出ないし、ボーダーラインのような状態の子たちです。静かにしているし、おとなしいのですが、でもその子は実は何かしら困っている。声を出したり要求を出したりするようになった。

それを慣れた集団の場、日々の集団でそれが表出できるようになった。一見わかりにくい、わかってもらえない子たち、その子たちが要求をだす。安心して困って、助けてと言える。そういう社会や集団作りがこの学童が支えになっていると思います。」

続いて、古市さんから発言がありました。

「子どもの問題は必ず、10年後、20年後の社会問題として出てくること。逆にいえば、今ある問題は私たちの子ども時代の結果でこうなっているのかもしれないと思っています。そうすると、日本はぜんぜん進化していないじゃないかと。変わったことはいっぱいあります。法律も整備されたし、だけど、まだまだ長期視点で立ってやらなければいけないことはたくさんあります。

でも、一番大事な子ども時代のことは、喉元過ぎれば……ではなく、経験者がずっとやっていかなければならないので、医療的ケア児の団体と協力しながら、どんな子どもでも公的な学びの場に一緒に入れるようにするには、五本木さんがおっしゃったユニバーサルデザインで教室を作ることもとても大事です。」

五本木さんからは、次のように発言がありました。

「最初にインクルージョンを基本にしていかないと、制度がもたないのではないか。原則をきちんと、方向性もきちんと持つ、ということについては、全く同じことだと思っています。」

最後に崔から、以下のようなまとめがありました。

「一人ひとりが特別な存在というのは、障害児だけを特別扱いすると、いろいろな意味でマイナスになることが多いのではないかということもありました。同様の趣旨で、私の中で、谷口さんのところで印象的だったのは、個人が安心できると、安心した集団になれる。まさに、放課後だけではなく、学校にも問われている。

最終的にインクルーシブな社会づくりに一番必要ということですよね。具体的な制度政策について少しプラスして、これをブラッシュアップして、またその五本木さんや谷口さん、古市さんにも色々お聞きしつつ政策提言、議会なり自治体、厚生労働省なり文科省なりにきちんとした提言策定をしていきたいと思います。」

▽インクルーシブ学童sukasuka-kidsホームぺージ(外部リンク)

▽原谷学童保育所ホームぺージ(外部リンク)

▽NPO法人アクセプションズ(外部リンク)

「ソーシャルインクルージョンの視点に基づく障害者文化芸術」報告は後編で掲載します。

報告:鷺原由佳(事務局員)


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