尊厳なきバリアフリー「心・やさしさ・思いやり」に異議あり!
川内美彦 著
出版社:現代書館
発行年:2021年
※テキストデータ請求券付き
「心のバリアフリー」という言葉が出始めた頃から、どことなく違和感はあった。しかしその違和感がどこにあるのか、何にひっかかりを感じているのか、うまく説明ができないでいた。それをこの本ではものの見事に明確かつ理論的に言語化して下さった。
私は元々鈍感な性格ではあるが、「尊厳を傷つけられている」ことに慣れてしまっていた自分に気づき、戒めるきっかけとなる言葉のオンパレード。
例1)
「心」「やさしさ」「思いやり」は、腫れ物に触るような緊張感と不器用さを伴っているように感じられる。それは善意をもとにしたものであろう、あるいは悪意のないものであろうから否定的には言いたくないが、そういった接し方によって、人としての尊厳を傷つけられている人がいるのである。
例2)
「あたりまえ」と「やさしい」の間にある差別
次々に登場するこれらの言葉の数々に、再び頸損になるくらいの勢いで頷いてしまうのだ。
著者も私も「心」「やさしさ」「思いやり」を否定してはいない。むしろ社会においてとても必要で重要なものだと認識している。しかし、「心のバリアフリー」と「心」「やさしさ」「思いやり」が結び付けられて使われ、実際に対応がなされると、なんとも言えない気持ち悪さが生じるのだ。
この感覚は、障害当事者でないとにわかには理解し難いものかもしれない。
なぜ社会に必要な「心」「やさしさ」「思いやり」が、障害のある人の尊厳を傷つけるのか。それは障害者権利条約の随所で繰り返し謳われている「他の者との平等」の実現のためには、関連する施策、法制度に「権利」「尊厳」といった視点や具体的文言により、「平等な社会参加」という基礎を作っていくことが先決だと思うが、まだまだ法制度への反映は不十分である。しかしそれを補うかのように「心」「やさしさ」「思いやり」に訴える「心のバリアフリー」を活用することで、人としての対等な関係を築くことの足枷となっているからだ。
この本が、障害当事者はもちろん、障害のない人たち、そして政治家、行政官、マスコミ、建築家、教育関係者、交通事業者、医療・福祉関係者、芸能関係者、スポーツ関係者、飲食業界等々、あらゆる業界の人の目にとまって欲しい。
そして、問題点に気づいた多くの人が、軌道修正し始めたら、この国はSDGsを一過性のブームに終わらせず、真のインクルーシブ社会に近づいていける。
そんな期待が抱ける名著である。
書評 今村 登(DPI事務局次長)