「重度障害者の雇用に必要な通勤及び勤務中の支援制度を考える」(5月30日(日)DPI全国集会in東京 地域生活、雇用労働合同分科会報告)
5月30日(日)第36回DPI全国集会in東京で開催した地域生活、雇用労働合同分科会についてDPI常任委員でCILふちゅうの岡本直樹からの報告と、参加者である日本自立生活センターの岡山祐美さんに感想を書いて頂きました。
是非ご覧ください。
■地域生活、雇用労働合同分科会報告プログラム「重度障害者の雇用に必要な通勤及び勤務中の支援制度を考える」
・パネリスト
香取 徹(厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課課長補佐)
日髙 幸哉(厚生労働省 社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課 課長補佐)
平 知久(厚生労働省 職業安定局障害者雇用対策課 課長補佐)
小島 秀人(調布市 福祉健康部 障害福祉課 サービス支援係)
上野美佐穂(イルカ保険サービス合同会社)
・指定発言
薄田玲奈(OKIワークウェル/特例子会社)
・司会&コーディネーター
今村 登(自立生活センターSTEPえどがわ理事長、DPI日本会議事務局次長)
開催経緯、分科会報告、今後に向けて
■分科会開催の経緯
令和2年10月から開始されている、通勤や職場等における支援に取り組む意欲的な企業や自治体を支援するため、雇用施策と福祉施策が連携し、「雇用施策において障害者雇用納付金制度に基づく助成金」及び福祉施策において、「地域生活支援事業」この2つの合わせ技の制度が始まりました。
しかし、制度がスタートしたものの、地域生活支援事業という不安定な財源のためか、実施する自治体は、13市町村(11市1町1村)となっておりますが、DPIに聞こえてくる情報は、東京都多摩市、新宿区。埼玉県さいたま市、京都府など片手で数えるだけで、しかも実施していないという情報もありました。
そんな中、令和3年の報酬改定により、地域生活支援促進事業と格上げし、自治体での重い腰が立ち上がり始めました。今回は、その制度を学ぶとともに積み残し課題に取り組むきっかけにしたいという思いから雇用労働部会と地域生活部会と共同で企画しました。
■分科会で報告、議論したこと
日高さんから、10月開始のサービスについて具体的な内容に触れ、意欲的な企業や自治体を支援する制度であること。今まで支援してきた職場介助、通勤援助の助成金を活用した制度の他、新たに企業・自営業者を支援するために作られたものでした。実際に事業を開始した場合にどのようなスキームで、連携するのか図を活用し、詳しく説明していただいた。改めて、非常に複雑な制度であることを痛感しました。
上野さんからは、実際に雇用施策との連携による重度障害者等就労支援特別事業(以降「重度障害者等就労支援特別事業」とする)を活用している数少ない利用者のお一人でさいたま市では、この制度の先駆けのような独自事業を2003年に開始しており、その取り組みに尽力されました。今回の制度により、パソコンのセッティングや休憩時の体位調整、電話の準備などで支援を受けられているそうです。当初、さいたま市の独自事業では、認められていなかった短時間雇用が認められたというメリットがありました。
一方で厚労省の説明とは異なり、通勤等助成金の活用をしていないことで、すべて市が負担しているという実情を知ることになった。課題としては、さいたま市では、在宅就労にのみ活用しているという話でしたが、最新の動向は確認されておらず、今後確認が必要だと感じました。
小島さんからは、「調布市で実施に向けた課題は何か」について分かりやすくお話を頂きました。特に最大の課題は、地域生活支援事業であることで障害福祉サービスとは異なり、国庫補助にあたり、費用の半分以内というあいまいな予算配分が課題だと指摘されました。またその支援額が年々減少していることで厳しい市の実情を感じました。具体的実務については、企業・役所との連携や事務手続きが煩雑なものの、やればできるという前向きな意見もありました。
一方、多くの障害者の暮らしを変える画期的な事業であることで、将来的に予算規模が大きくなる可能性を含め、長期的・安定的な財源確保が課題とのことで、障害福祉サービスを活用した方が検討しやすいと自治体からの率直な意見を頂きました。
後半には、コーディネーターの今村から個別に質疑を行った後、さいたま市で上野さんと共に重度障害者等就労支援特別事業を利用されている薄田さんから指定発言をしていただきました。
薄田さんからは、就労をきっかけに脱施設されたという体験談を話していただきました。彼女は、ウルリッヒ症という筋ジストロフィー系の障害で、人工呼吸器のユーザーでもあります。2019年1月にOKIワークウェルの採用試験に挑み、4月に見事内定、就職には、1年待ってもらったというエピソードを話されました。同年10月に地域移行もされ、翌年4月から正式に採用されました。
実際に働き始めて気づいたことは、急に具合が悪くなっても介助者がいるため、安心して働けるというとてもシンプルなものでした。また自分で稼ぐ事により、お金の大切さや働く大変さなどを学ぶと同時に、今まで思い描いたものの諦めていた事ができるようになり、「働く楽しさ」を知れたと働く喜びについて語られました。
時間の関係で、パネラー全員からコメントを頂けなかったものの、上野さんから改めて重度障害者が働ける概念というものは、今も変わっていないということや腑に落ちないこととして、24時間、重度訪問介護を利用している人の予算がすでに決まっているはずなのに、なぜスムーズに使えないのか、と疑問を投げかけました。
最後に今村さんから、それぞれ率直に「働くこと」は、尊厳を守ることにつながること、日本は、障害者権利条約の締約国であることから社会的障壁の制限を取り除き、インクルーシブな社会に向け、就労の問題、重度訪問介護の積み残し課題をそれぞれ解消していくためにDPIとして全国の加盟団体等と連携し、引き続き取り組むことを宣言しました。
この続きは、秋頃、実施予定の労働フォーラムで、取り扱いますが、この事業がさらに各地で実施され、その効果を踏まえ、より踏み込んだ議論につながれば良いと感じました。ぜひお楽しみに。
(CILふちゅう 岡本直樹)
参加者感想
この分科会では、さいたま市で実際に制度を利用して働いておられる上野美佐穂さんと薄田玲奈さんのお話を聞くことができました。お二人とも、24時間介助で、呼吸器や姿勢の調整なども必要な重度障害者で、業務介助だけでなく、生きるために必須の介助があるから就労を継続できるのだということを改めて確認しました。こう書いてみると、必要な介助が得られたから働けるという、至極当然のことを言っているだけのように見えます。
しかし一方で、上野さんらは10年もの間ずっと要望されてきたというお話から、先人の長年の取り組みがあっての実現であり、働くために当然必要な介助を求めても簡単には得られなかったのだとしみじみ実感しました。JCILで長年運動をしてきた先輩からも、「薄田さんのような障害者が退院後こんなすぐ就職できるなんて、時代は変わった」と、感慨深げな感想を聞きました。
京都市では、今夏くらいからこの制度を実施すると聞いています。その前にJCILでは、市の担当課と意見交換の場を持ち、実際に障害者が働くのに必要な介助をちゃんと得られる制度にしてほしいと要望しました。
例えば、介助者の人数やヘルパー派遣事業所数を限定しないでほしい、必要性が認められる場合は2名介助も可にしてほしいといったことを伝えました。
また、制度の周知において、ハローワークや大人の障害者に向けてだけでなく、学生に向けても周知してほしい、学校卒業後の就職をあきらめていた重度障害のある学生が、早い時期から将来の選択肢を増やして行動できるということも伝えました。今後も、皆が利用しやすく、地域格差なども出ない制度になるよう、当事者の声を届けて働きかけていかなければならないと思います。
(JCIL 岡山祐美)
以上
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