【DPI政策論「地域生活&権利擁護分科会」報告】「権利侵害にNO!誰もが地域で生きるために~精神病棟・筋ジス病棟の現状と地域移行について語り、考える~」
11月22日(日)第9回DPI障害者政策討論集会で開催しました「地域生活&権利擁護分科会報告」を下林慶史(DPI日本会議常任委員/日本自立生活センター)が、参加した感想を尾上裕亮さん(障害者の生活保障を要求する連絡会議)が書いてくれましたので、ご紹介します!
プログラム
日本では、多くの障害者が望まない長期入院・入所を余儀なくされ、地域社会から隔離された生活を送っている。国連障害者権利条約の国内完全履行に向け、どうすれば脱施設・長期入院解消されるかを考えたい。
本セッションでは、精神病棟および旧国立療養所の筋ジストロフィー病棟について取り上げる。精神病棟では、以前から身体拘束や虐待など深刻な人権侵害が課題となっている。コロナ禍で長期にわたる面会禁止・外出制限が続き、外部からの監視の目がなくなる中、より深刻な人権侵害が懸念される。コロナ禍における精神病棟の現状・地域移行の課題について報告する。
精神病棟と同様、長期入院からの地域移行が課題となっている筋ジス病棟に関し、最近地域移行をした女性2名・支援者から話を聴き、障害女性の視点も交え、現場での課題や今後に生かせる取り組みを学ぶ。その後、全体討論では、より多くの仲間が地域移行するために必要となる制度政策・取り組み等について考えたい。
■シンポジウム「コロナ禍における精神病棟の現状・地域移行の課題」
吉田明彦(兵庫県精神医療人権センター)
松本葉子(埼玉県精神医療人権センター)
加藤真規子(精神障害者ピアサポートセンターこらーる・たいとう代表、DPI日本会議常任委員)
■報告「筋ジス病棟からの地域移行報告」
吉成 亜実(北海道で約15 年の入院生活を経て、2020 年6 月より自立生活)
筋ジス病棟長期入院の当事者(千葉で約15 年の入院生活を経て、2019 年10 月より自立生活)
秋元 妙美(CIL ちょうふ)、
岡山 祐美(日本自立生活センター)
大藪 光俊(日本自立生活センター)
「全体討論」、まとめ
○コーディネーター
今村 登(DPI日本会議事務局次長)
分科会報告
今回の政策討論集会は地域生活部会と権利擁護部会の合同で分科会が行われました。
冒頭では地域生活部会の部会長である今村よりDPI日本会議が2030年まで掲げている活動目標である「2030ビジョン」の説明や分科会の趣旨について報告されました。「2030ビジョン」では特に脱施設や長期入院の解消について、より受電的に取り組んでいくことが語られました。
こうしたビジョンを受け、今回の分科会では、精神障害者の長期入院の問題と筋ジス病棟からの地域移行の現状などについて報告やディスカッションが行われました。
シンポジウム「コロナ禍における精神病棟の現状・地域移行の課題」
最初は兵庫県精神医療人権センターの吉田明彦さんより兵庫県神戸市にある神出病院で起きた暴力事件について報告がなされました。
吉田さんによれば、神出病院は、患者数に対して医師や看護師の人数が少なく、認知症患者の入院が多く、また長期入院の患者の割合が非常に高いこと、運営実態として触法ギリギリであったことなどが挙げられ、そんな状況の中、凄惨な虐待・暴力の実態があったことが語られ、それが常態化していたとし、患者の救済や地域移行が置き去りになっている点、実行した職員が罰せられていない点、法改正が急務である点を指摘しました。
続いて、埼玉県精神医療人権センターの松本葉子さんより、精神科の人権センターの活動から見える実態について報告がされました。主な内容としては医療保護入院についての問題点についてでした。
医療保護入院は、「その必要がある」と認められると本人の同意がなくても強制的に入院させることができること、インフォームドコンセントの必要がないこと、これらのことについて医療保護入院をはじめ強制医療は日本が批准した障害者権利条約とも矛盾するといわれていると述べられました。
しかし、埼玉ではこの「医療保護入院」で入院している人が全体の半数にものぼることやコロナ禍でのご友人の強制入院の体験について語られました。その実態は何の保障もない中で突如隔離され当事者の声が聞こえづらい状況にあるというものでした。
報告「筋ジス病棟からの地域移行報告」
次に、筋ジス病棟の地域移行の実践についての報告がなされました。このパートでは、日本自立生活センターおよび「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」の岡山祐美さんによるコーディネートのもと、吉成亜実さんとAさん(筋ジス病棟長期入院の当事者)、Aさんの支援者の秋元妙子さん(CILちょうふ)から障害女性の立場からの報告がなされました。
吉成さんについては、中学校から筋ジス病棟に入院し、高校卒業後は進学のため、退院を希望していたが、病院側の反対にあい断念した。さらにその後、2017年に再度退院を希望したが、またしても病院側から反対され、病院スタッフからは「税金も払っていない障害者が地域で暮らしたいというのは贅沢だ」と心ない言葉をかけられたとのことでした。
それ以降は絶望の中、諦めを感じていたが、2019年にピアの支援者や友人に出会ったことから今年の6月に地域での自立生活を達成し、現在は介助を得て暮らしているとのことです。自己決定の大変さと孤独感を痛感したと語られ、その上で後悔はしていないことなどが述べられました。なお、吉村さんは病院の体制については閉鎖的であり、人との出会いが少ない問題点を指摘されました。
続いて、Aさん(筋ジス病棟長期入院の当事者)と支援者の秋元さんから報告がなされました。支援者の秋元さんによれば、Aさんの自立について相談があり、その後面会した際にはご家族や関係者、総出でのカンファレンスが行われたとのことです。それから、粘り強く相談を重ね、病院内での実習や長時間外出、医療的ケアなど実績を重ね、地域移行の準備を整えたことが振り返られました。途中、担当ワーカーの変更というアクシデントはあったものの、ご本人の強い要望により自立生活を実現されたプロセスが語られました。
地域での自立生活を始められる際、訪問入浴の制度を利用しようとしたところ、「この時間は男性スタッフが一人入らないと利用できない」と言われて異性介助を行われそうになるが、それはあり得ないことであることを伝え、同性介助を保障する体制を組むに至ったことについても述べられました。
お三方の報告から、筋ジス病棟は閉鎖的な側面があり、場合によっては病院側のサポートを受けにくい現状があること、そんな状況の中で地域移行への意欲が削がれ断念してしまいかねない人が多くいること、外部の支援者との出会いが大きな役割を果たすこと、「女性」あることにより被っている複合差別に激しく憤りを感じておられることが明らかになりました。
加えて、日本自立生活センターおよび「筋ジス病棟の未来を考えるプロジェクト」の大藪光俊さんからは筋ジス病棟で実施されているアンケート調査について中間報告がなされました。今回の報告では地域移行に関する設問についてでしたが、地域移行を望んでいる当事者は多く、制度についても一定知っておられるが、「退院したい」という思いを表に出しづらい現状があるのではないかということが読み取れる結果でした。そして、登壇者の報告が一巡した後、ディスカッションが行われました。
精神障害者の地域移行についても筋ジス病棟患者の退院支援についても、支援者が積極的に関わっていくこと、当事者の「地域で暮らしたい」という強い思いを粘り強くサポートすること、また、世間一般に広く現状を知ってもらうこと、医療優先の概念を打破することが報告全体での共通する課題・認識であることを痛感しました。
最後にDPI日本会議副議長の尾上より分科会のまとめがなされ、「脱施設」や「脱病院」は1970年代から障害者運動が求め続けてきたことであり、2000年代初頭に制度的な地域移行への動きが見られるかに思えたこともあったが、実際は現在においても、多くの障害者が施設や病院に取り残されていることが述べられ、だからこそ、インクルーシブ教育と並んで脱施設・脱病院が今後取り組むべき最重要課題であるという「DPIビジョン2030」の根幹を参加者全体と共有し、分科会は締めくくられました。
(報告:日本自立生活センター 下林慶史)
参加者感想
「入所施設の外の人たちが施設内部を知り、地域生活・脱施設化に向けてはたらきかけなければ、何も進まない」。退院支援を行う松本さんは、医療保護入院の増加問題に触れ、こう述べました。施設の閉鎖性は、吉田さんの報告でも語られました。兵庫県神戸市にある神出病院の、性的虐待を含む虐待は、常習化していたのにもかかわらず、看護師が別のことで逮捕され携帯電話のデータを警察が見るまで発覚しませんでした。私たちは、施設の問題性を常に社会に告発する必要があります。
分科会では、施設を出て自立生活を始めた人も報告しました。札幌に住む吉成さんは今年6月、中学生から入っていた施設から自ら支援先を探して自立。「施設にいると“退院する=崖から飛び落ちる”という感覚になってしまう」、「自立準備をしているときは施設に応援してくれる人が少なく孤独だった」と述べました。
自分の選ぶ場所で支援を受けながら一人暮らし(または結婚生活)をすることは、1970年代の運動から主張され続け、全国各地で実践されてはいます。しかし、現在も施設生活をせざるを得ない仲間も多いです。この分科会に参加して、施設の人のことを考え、その人が思い描く生活を強力に応援する重要性を改めて感じました。
(障害連(障害者の生活保障を要求する連絡会議) 尾上裕亮)
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