合理的配慮提供の義務化は不可欠だと意見を出しました
(障害者差別解消法の見直しの検討に関する障害者団体合同ヒアリング報告)
2020年11月04日 権利擁護障害者権利条約の完全実施
10月26日、内閣府で行われた障害者差別解消法の見直しの検討に関する障害者団体合同ヒアリングに出席しました。
本ヒアリングでは、2020年6月に障害者政策委員会がとりまとめた「障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する障害者政策委員会意見」(以下、「政策委員会意見」)にもとに、主に「事業者による合理的配慮の提供の義務化」、「合理的配慮の提供を促す環境整備の在り方」などに関する意見聴取が行われました。
DPIからは尾上副議長が出席し、障害者権利条約との整合性や来年以降に控えている条約の日本審査への対応が必要なことに加え、合理的配慮の提供やそのための建設的対話も不十分な現行法の実態を改善するためにも合理的配慮の提供義務化は不可欠であると述べました。
また、合理的配慮の提供を促す環境整備の在り方については、合理的配慮を必要とする障害者だけでなく、事業者が適切に合理的配慮の提供をできるようにするためにも、国レベルでのワンストップ相談窓口の設置をはじめとする相談体制の充実が必要であると提起しました。
合同ヒアリングに出席した他の団体からも相談体制充実の必要性や合理的配慮提供の義務化が必要だとする意見が出されていました。
質疑応答後、内閣府からも挨拶の中で「合理的配慮の義務化の方向での検討と相談体制の充実もセットで共生社会に向けて進めていきたい」という前向きな発言がありました。
障害者団体から約20団体、業界団体から約30団体にヒアリングを行い検討が進められていますが、最終的にどのような形の見直しがされるのか、合理的配慮の義務づけを含んだ差別解消法見直し法案が国会に上程されるのか、これからが大切な時期となります。DPIとしても議員への働きかけをはじめ、様々な取り組みを進めて行きたいと思います。
障害者差別解消法の見直し検討におけるDPI意見
1.事業者による合理的配慮の提供の義務化について
①障害者権利条約との整合性、来年以降に控えている障害者権利委員会による日本審査への対応、
②現行の障害者差別解消法の趣旨や基本方針、対応指針などすら十分に守られているとは言えない実態を改善し、建設的対話がきちんと行われるようにするためにも合理的配慮提供の義務化は不可欠です。
障害者権利条約では、第五条平等及び無差別において、下記のように明記しています。
1 締約国は、全ての者が、法律の前に又は法律に基づいて平等であり、並びにいかなる差別もなしに法律による平等の保護及び利益を受ける権利を有することを認める。
2 締約国は、障害に基づくあらゆる差別を禁止するものとし、いかなる理由による差別に対しても平等かつ効果的な法的保護を障害者に保障する。
3 締約国は、平等を促進し、及び差別を撤廃することを目的として、合理的配慮が提供されることを確保するための全ての適当な措置をとる。
上記の第2項、第3項との整合性を図るために、事業者に対しても合理的配慮の提供の義務化が不可欠と考えます。障害者権利委員会から日本政府に対して出された第1回政府報告に関する事前質問においても、「障害者差別解消法が(中略)合理的配慮の否定を私的及び公共の場所における障害に基づく差別の形態として認めているかにつき、明確に説明願いたい。」という厳しい質問がされています。
こうした状況の中、第52回障害者政策委員会では、「条約との整合性を確保し、条約の国内実施を進めていくというのが非常に重要で、その観点からも、合理的配慮の義務化は避けて通れないことで、そのためのいろいろな条件整備を行いながら進めていくという以外の道は考えられない。また、政策委員会としての見直しの意見書としてもそれ以外のことは考えられない」との石川委員長の発言を持ってとりまとめられた、「障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する意見(以下、政策委員会意見)を最大限尊重すべきです。
DPI 日本会議が2019年6月に全国に呼びかけて収集した差別事例の多くは合理的配慮の不提供に関する事例でした。寄せられた事例からは、求めた合理的配慮の内容が過重な負担であるかどうか、という検討が行われず、また、代替措置の選択も含めた建設的対話すらも行われずに一方的に合理的配慮の提供が拒否されている実態が明らかになっています。
事例
セルフガソリンスタンドで今まで店員が給油を手伝っていた。ところが、店長が変わり手伝いの結果何かあれば責任が取れないと拒否されるようになった。差別解消法の合理的配慮のことや経産省の対応指針に合理的配慮の具体例として「セルフサービスのガソリンスタンドにおいて、要望があった場合には、安全に配慮しつつ給油に協力する。」と書かれていることを伝えても「それは努力義務だ。だからしなくていい」と言われてしまった。
産婦人科に受診しようと事前に車椅子ユーザーである旨も含めて予約を入れた際に「出入口に段差があるが、スタッフは手伝うことはできない。」「診察台に乗り移るに際して、例え介助者がいたとしても自力で乗り移れる人しか受け入れることはできない。」と門前払いをされた。
2.合理的配慮の提供を促す環境整備の在り方と相談体制の充実について
合理的配慮提供の義務化とともに、実質的に必要とする合理的配慮がきちんと提供されるよう促すためにも相談体制の充実が必要であり、国においては適切な省庁の相談窓口へのアクセス確保のためにワンストップ相談窓口が必要です。
たらい回しにあったが、担当窓口にたどり着いて解決した事例
① 差別事例の概要
全国チェーンのエステ店で施術を受けたいと電話し、車いすだと伝えると「車椅子の人は施術をすることができない」と言われた。杖歩行が可能だと伝えたが、車いすの人は全員断らせてもらっていると言われた。設備、スタッフのスキルともに受け入れ体制が整っていないとのこと。
② 事例の経過
相談者本人が相談したところ、厚労省➡内閣府➡法務局と回されて法務局で止まっていたが、DPIに相談があり対応。DPIから厚労省に問い合わせると「美容は所轄だが、エステは違うので経産省に連絡して」と言われ、経産省のヘルスケア産業課に相談。
経産省からエステ店に事実確認をしたところ、内容通りであると認めた。解消法への対応として指針をつくっているが、車いすの人に対しては付添や対応に慣れたスタッフがいるかなどによって施術を受けてもらっていることもあり、一律に拒否しているように伝わり、不快な思いをさせて申し訳なく思っている。マニュアルを見直し、今後同じようなことがないように徹底するということになった。
③ この事例のポイント
本人は、エステは厚労省が所轄だと思って連絡したが違った。その後たらい回しにあって途中で止まってしまった。どの省庁が所轄なのか一般の人はわからない分野も多い。
経産省は適切に対応してくださった。所轄の窓口にたどり着ければ、このように解決できる。
このように差別を受けた時にどこに相談していいかわからなかったり、相談窓口にかけあってもきちんと対応してもらえずたらい回しにされたりする事例も多く寄せられています。合理的配慮を提供する事業者にとっても、どのような対応をすればいいのかわからない、といった場合の相談体制が整っていることで、合理的配慮をきちんと提供できるようになると考えます。
3.その他の重要課題について
(1)差別の定義・概念について:
関連差別と間接差別、障害のある女性や子ども等に対する複合的差別を含む差別の定義・概念の明確化について、今回の改正で少なくとも基本方針等での対応をきちんとすべきです
(2)対象範囲の拡大:
「政策委委員会意見」と同様、今改正において、家族など関係者に対する差別についても障害者本人と同様に不当な差別的取り扱いとすべきです。
(3)障害者基本法改正に向けた検討:
障害者差別解消法の改正について政策委員会意見に基づく対応を行った上で、障害者基本法改正に向けた検討を早急に進めてください。
▽ヒアリング提出意見はこちらからダウンロードできます(ワード)
報告:白井 誠一朗(DPI事務局次長)
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