2020年度の活動方針
0.DPIビジョンとタウンミーティング
(1)DPIビジョン
(2)DPIビジョンタウンミーティング
1.障害者権利条約の完全実施
2.地域生活
(1)条約に根ざした障害福祉サービス関連法の動きへの働きかけ
(2)脱施設・社会的入院の解消に向けた機運づくり
3.交通・まちづくり
(1)バリアフリー法関係
(2)東京2020オリンピック・パラリンピック
(3)アクセシビリティ部会への改変
4. 権利擁護
(1)施設入所・社会的入院を解消する
(2)差別解消法改正に向けて
(3)障害者基本法および障害者虐待防止法改正に向けて
(4)精神障害者の人権と地域生活の確立
(5)DPI障害者差別解消ピアサポートとの連携
5. 教育
(1)法令の改善等に向けた取り組み
(2)障害者権利条約と連動した取り組み
(3)地域での取り組みと関係団体との連携
6. 雇用・労働・所得保障
7. 障害女性
8. 国際協力
(1)国際レベルでのDPI発展による誰一人取り残さない体制の構築
(2)アフリカ地域の自立生活運推進の強化
9. 尊厳生
10. 優生保護法と優生思想
11. 欠格条項をなくす
12. 防災
13. 文化芸術
14. 次世代育成
各事業、組織について
◯広報・啓発
◯普及・参画
1. 加盟団体への支援、ネットワーク強化に向けて
2. 講師派遣、点字印刷
3. DPI 障害者政策討論集会
◯権利擁護に関する事業
1. DPI障害者差別解消ピアサポートの体制強化
2. 権利擁護部会との連携の強化
3. 差別や虐待実態の把握と新たな施策の基礎資料づくり
◯組織体制整備
1. 会員および支援者の増大にむけて
2. 事務局の体制整備について
3. 財政および予算執行について
◯部会とプロジェクト
2020年度活動方針全文
DPIビジョンとタウンミーティング
(1)DPI ビジョン
新型コロナウイルス感染症とその社会的影響(以下、新型コロナ禍)により日本の条約審査の時期は流動的ではあるが、遅くとも2021年には総括所見*(勧告)が出される見込みである。そのなかの勧告がもたらすインパクトを「条約の完全実施」への大きな前進につなげていく、そのための2020年代を通じた運動の展望と戦略的方針を打ち立てていくことが求められている。
そうしたことから、2020年度を、全国の仲間とともにDPIビションを練り上げていく一年としたい。ビジョン作成の過程では、以下の点を大切に進めていきたい。
第一に、私たちの運動の目標と、目標実現までの行程・行動計画を明確にし、内外に示しつつ、多くの人たちと共有していきたい。
第二に、「インクルーシブ教育への転換」、「脱施設・社会的入院の解消」といった、日本ではこれまで大きな進展をみることができなかった分野も含めた活動の強化を図っていきたい。それは、とりもなおさず、障害者運動の長年の懸案事項を引き継いでいくことでもある。
第三に、加盟団体をはじめとする関係団体と一緒にビジョンを練り上げていくことでネットワークを強化していきたい。
今から34年前(1986年)にDPIは、「われら自身の声」を基軸に、草の根の障害者運動が結集する形で発足した。以来、国際化の一方、地方分権が進むといった社会状況の中で、国際レベル、国レベル、地域レベルが相互に密接に影響し合う可能性が増大するとともに、国制度が変わっても地域では動きはないといったようなかい離も起きている。これまで以上に、地域から寄せられる「われら自身の声」を大切にしつつ、社会を変えていくために、全国と地域を結ぶ運動とネットワークを強めていく機会としたい。
また、ビションを実践的なものとするため、長期、中期、短期の期限を定めた目標と行動計画を含む形にすると同時に、権利条約の批准10周年を迎える2024年に、その検証と総括を行い、ビジョンの見直し・強化を進めていくようにしたい。
*国連の人権分野の条約の「条約体」(障害者権利条約の場合は障害者権利委員会)が、条約の実施状況について締約国の報告を審査した後に発行する文書のこと。内容は締約国に対する評価と懸念事項・勧告となっている。
(2)DPI ビジョンタウンミーティング
2020年度から新たにDPIビジョンタウンミーティングを実施する。2030年までのDPIビジョンをDPI加盟団体と討議し、一体となった運動を展開できるように関係強化を目指す取り組みである。全国11ヶ所でDPI加盟団体を対象に開催し、DPIからは最新の情勢を報告し、DPIビジョンについて参加者と討議し活動方針に反映させていく。さらに、地域の課題も中央での取り組みに反映させ、連携した運動に取り組む。全国各地でこのDPIビジョンタウンミーティングを実施することを通して、DPIの活動を全国で支えてもらう関係づくりも目指す。
Ⅰ.活動方針
1.障害者権利条約の完全実施
(1)国内法整備等
DPIとして三法と位置付けている「障害者基本法」、「差別解消法」、「障害者虐待防止法」の改正、インクルーシブ教育の実現のための法整備、脱施設・地域生活の確立のための総合支援法等の法制度の見直し、例えば重訪についての提言、バリアフリー法の改正への提言、成年後見制度の見直しなど障害者関連法制度全般について、権利条約にそくして継続的に行う。JDFで取りまとめた障害者権利委員会との総括所見用パラレルレポートを参考にしながら、権利条約を国内で完全実施するためのDPIビジョン2030にもとづく取り組みを進める。
三法については、2019年度に作成した三法テキストや法改正案をさらに補強し、改正への取り組みを継続する。差別解消法については、政策委員会が取りまとめる予定である「障害者差別解消法の施行3年後見直しに関する意見(案)」に、DPIの意見を最大限反映させたものとする。そして、次期通常国会における検討に向けた準備を行い、国会審議においてはロビー活動に全力を注ぐ。そして、差別解消法の改正を基本法の改正につなげていくことも大きな目標とする。
さらに、障害者権利委員会と日本政府との建設的対話に向けて、政策委員会から障害者権利委員会に対するレポート提出が予定されている。これが実現すれば、完全な形ではないとはいえ、国際人権条約の国内履行の枠組みとしては日本で最初となる画期的なものである。DPIとしてはこのレポート提出を実現させ、その内容に可能な限りDPIの意見を反映させるための取り組みを他の政策委員を輩出している団体等と協力しながら行っていく。
(2)権利条約の完全実施等
新型コロナウイルス禍が原因で国連の日程も大きな変更が求められている中、最新の情報を収集しながら粛々と対応していく。
今後予定されている障害者権利委員会による日本政府の最初の国家報告書に対する建設的対話(審査)の開催に向けた取り組みを継続して行っていく。具体的にはJDFでのパラレルレポートの決定版を今年度中に完成させ、JDF の他の団体と協力しながらパラレルレポートの内容が総括所見に反映させるための取り組みを継続的に行う。また、インクルーシブ教育や施設や病院からの地域移行などの課題については、JDF以外の団体とも協力して建設的対話にむけた取り組みを並行して行っていく。
また、2019年度に引き続き、障害者権利委員会の委員の招請なども他団体と協力しながら実現する。
2.地域生活
次の障害者総合支援法の改正に向けた動きについて、社保審障害者部会より先に議論が始まる報酬改定検討チームの議論及び地域共生社会法案の審議を注視しながら、通勤・就労中の介助に関する新制度の動向、運用実態を精査し、従来から求めている重訪等のシームレス化の実現に向けた働きかけを強化していく。また、自治体における支給決定ガイドラインに関する実態把握に努め、障害者の生活実態に即した支給決定が行われるよう、必要な働きかけをおこなう。今後、国連から出される勧告を踏まえて、権利条約の完全実施に向けて、総合支援法における障害者の範囲見直しを通じた制度の谷間の解消や、脱施設・社会的入院の解消に向けた法制化の機運を高めるなど必要な取り組みを進めていく。
(1)条約に根ざした障害福祉サービス関連法の動きへの働きかけ
① 通勤・就労中の介助に関する新制度
2019年、1日24時間の重度訪問介護サービスを利用する重度障害のある二人の国会議員が誕生したことで、にわかに重訪の告示による利用制限の問題がクローズアップされ、障害者雇用促進法の附帯決議による検討とも相まって、重訪による通勤・就労中の利用の解禁に舵が切られたかに見えたが、いまだ実効性のある制度設計は打ち出されていない。2020年10月より運用が開始される新制度について運用実態を調査し、その問題点を追求することで、重訪、行動援護、同行援護の告示の利用制限箇所の撤廃をより強く求めていく。
② 地域共生社会法案の動向
2015年の「新たな時代に対応した福祉の提供ビジョン」に端を発し、2016年に設置された「我が事・丸ごと地域共生社会推進本部」の議論は「地域共生社会に向けた包括的支援と多様な参加・協働の推進に関する検討会(地域共生社会推進検討会)」に引き継がれ、2019年12月に最終取りまとめが出され、それが「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律案(地域共生社会法案)」に反映され本年の国会で審議される。これは社会福祉法による新たな事業の創設の法制化であり、「属性や世代を問わない包括的な相談支援の体制づくり」という表現により主に相談の分野で高齢者、障害者、子供、生活困窮者の縦割りをなくしていく仕組みが市町村の任意事業として作られる。この動きが介護保険拡大(保険料徴収年齢の引き下げ)による障害者福祉サービスの統合に向かわないように注視していき、必要に応じて他団体とも連携して歯止めをかけられるようにする。
③ 2021年度報酬改定検討チームの動向
来年度の報酬改定に向けて検討チームでの議論が行われるが、この検討チームでの議論は報酬改定のみにとどまらず、法制度の見直しにも通じる議論もなされることが増えていることから、次の総合支援法の改正の動きが出てこないかを注意深く追いかけていくとともに、ヒアリングの機会などを通じて、制度の谷間解消などをはじめとした権利条約にそくした法律改正を求めていく。
④ 支給決定ガイドラインに関する実態把握
一部の自治体で、総合支援法の趣旨や厚労省の通知を逸脱するような支給決定ガイドラインを作成し、地域生活を送る上での社会的障壁となっている事例が出てきている。他の自治体の実態把握に努め、必要に応じて国に働きかけていく。
(2)脱施設・社会的入院の解消に向けた機運づくり
今後、国連から出される勧告では、社会的入院者・入所者数の多さと地域移行者の少なさを指摘されることは間違いないので、これを活用し、脱施設・社会的入院の解消を実現する法制化や、具体化に向けた構想を検討する。
3.交通まちづくり
(1)バリアフリー法関係
バリアフリー法改正には国会の参考人にDPI加盟団体からメンバーを送るなど、積極的に働きかけを行う。特に、学校のバリアフリー整備計画の策定、タクシー・バス・鉄道事業者のスロープ設置等ソフト基準の義務化には事業者による研修受講者数の定期報告を課す、店舗や共同住宅のバリアフリー化、空港アクセスバス・長距離バス・定期観光バスの基準適用除外認定という仕組みの段階的廃止等を働きかけ、改善の道筋を作る。また、2021年からの新たなバリアフリー整備目標を定める基本方針は、5年間の目標とすること、法改正で新たに盛り込まれたことも整備計画に策定することを働きかける。
新幹線のバリアフリー化は、既存の車両も含めた車椅子スペースの複数化、すべてのみどりの窓口での迅速なきっぷの予約発券、web予約を実現する。
店舗のバリアフリー化は、2020年1月から検討会が立ち上がりガイドライン策定を予定しているが、これまで整備基準のなかった特別特定建築物内店舗も含めて、規模に応じたバリアフリー整備基準の策定を目指す。
この他にも、鉄道やバスをはじめとする地方のバリアフリー整備の推進、航空機利用の改善、マスタープランの推進、移動等円滑化評価会議・地域分科会の活性化(新型コロナ禍ではインターネットを活用した会議の開催を含めた検討)、DPI加盟団体と協力して、バリアフリー法に基づいた委任条例の策定を全国で進める。
(2)東京2020オリンピック・パラリンピック
オリパラを契機として策定されたTokyo2020アクセシビリティ・ガイドラインの各種基準への反映、基本設計から多様な障害者の意見反映を行う当事者参画の仕組みの制度化を目指す。さらに、東京大会で高まったバリアフリー整備の機運を継続させ、2030札幌冬季オリパラなど日本全国のさらなる整備を推し進めるためにDPI加盟団体と連携して取り組む。
(3)アクセシビリティ部会への改変
権利条約第9条に基づいた部会に発展させるために、情報アクセシビリティも取り組むように組織改革を行う。
4.権利擁護
(1)施設入所・社会的入院を解消する
今後、国連から出される勧告を踏まえて、施設入所・社会的入院は重大な人権侵害であることを改めて認識し、地域移行を加速させる道筋を見出す機会としなければならない。地域生活部会、関係団体等との連携による院内集会を開催する。この集会は、長期入院・入所により虐げられた、もしくは虐げられ続けている障害当事者に登壇いただき、権利条約第19条「自立した生活及び地域社会への包容」と日本の障害者施策との大きな乖離を明らかにする。そして、障害当事者の声に基づいて、国会議員及び政府関係者に新たな立法および関係法律の大きな改正を求める。
(2)差別解消法改正に向けて
政府は一年もの時間をかけ議論を政策委員会で行ったにもかかわらず、抜本的な法改正もせず、運用のみで終わらせようとしている。このことに対し、DPIをはじめ多くの政策委員からも異論が出ていることから、情報共有および連携を密にし、「差別の定義」「障害女性の複合差別」「民間事業者における合理的配慮の義務化」「紛争解決の仕組みの創設」を法文に盛り込ませるため、2019年度作成したDPI障害者差別解消法改正テキストを活用し、院内集会の開催、議員へのロビーイング、全国各地でDPI障害者差別解消法改正プロジェクトチームメンバーによるタウンミーティングおよび学習会を引き続き開催し、改正に向けた機運を高めていく。
(3)障害者基本法および障害者虐待防止法改正に向けて
両法とも、3年後見直し規定より相当期間が過ぎている。解消法改正後に両法改正の見直しを進める。また、三法テキスト最後となるDPI障害者虐待防止法改正テキストを作成する。
(4)精神障害者の人権と地域生活の確立
今後の条約審査の中で社会的入院に代表される日本の精神医療の劣悪さ、精神障害者への著しい人権侵害が大きく問われることは明らかである。こうした問題を解決するために、精神医療を一般医療体系に組み込むこと、①身体拘束・隔離、②本人の同意のない入院、③電気ショックや抗精神病薬に頼る診療の三点を無くすこと、福祉サービス等地域基盤整備や所得保障の充実を求めること、他の診療科で受診を拒否される要因となっている法制度の改正を目指し、精神障害当事者の登壇による院内集会の開催や、DPI差別解消ピアサポートに寄せられる差別事例に丹念に取り組む。
(5)DPI障害者差別解消ピアサポートとの連携
今年度より、DPI障害者権利擁護センターはDPI障害者差別解消ピアサポートへリニューアルし、相談内容を障害者差別及び虐待・合理的配慮に関することに絞る。部会長が所長を兼務し、権利擁護部会と連携する。相談事例を共有し、事例の集積・分析を行い、障害者基本法、差別解消法等の関係法令の改正のための基礎データとして活用していく。
5.教育
障害のある子どももない子どもも地域の幼稚園・保育園・認定こども園、小・中学校の通常学級、高校で共に学び育つインクルーシブ教育の仕組みを創り、実践を推し進めるための活動を行う。引き続き、地域の学校を原則就学先とする就学決定の在り方、教育の場における差別解消法上の不当な差別的取り扱いの禁止や合理的配慮の獲得の推進、障害に基づくハラスメントの防止といった課題に対する、政府や国政レベルでの活動とともに、地域の活動についても積極的に支援を行う。
(1)法令の改善等に向けた取り組み
文科省の初等中等教育局関連については、いまだ分離別学を促進する特別支援教育の問題点を集約していくとともに、今後、国連から出される勧告を踏まえて、政策論・その他のイベントを通して、文科省に対して権利条約にそくしたインクルーシブ教育の推進を働きかけていく。
移行期間を経て2020年度から「学習指導要領等の改正」が行われる。「発達の支援」の名の下で、共に学ぶ教育への環境整備も行わないまま、「自立活動の強制」など、本人・保護者の意に沿わない、取り出しによる分離が進まないよう、引き続き声をあげていく。
また2018~19年度に小学校・中学校で道徳が特別教科化されたが、その教材の中での障害者の捉え方が「医学モデル」となっていないか、実態把握と改善に向けた取り組みを進めていく。
横浜地裁での不当判決を受け、神奈川高裁に控訴された就学にかかる裁判については、小学校への就学決定に向け、主体的な参加を進めていくとともに、就学にかかる法令改正への働きかけについても模索していく。
これらの取り組みについて、引き続き公教育計画学会・日本教職員組合等関係団体との連携を図るとともに、最終的にはすべての障害のある児童生徒が、原則として地域の学校・学級で学ぶことを実現する。
(2)障害者権利条約と連動した取り組み
権利条約第24条が求めるインクルーシブ教育については、建設的対話に向けた、JDFパラレルレポートへの意見提起を進め、その後出される勧告を含めて、政策論等で学習を深める。いずれの場合も法令整備と、現場の教育実態をどう変えていくかという視点のもとに取り組みを進める。
(3)地域での取り組みと関係団体との連携
各地の就学指導のあり方や学校における合理的配慮の実態、高校入学における定員内の不合格問題等、DPI加盟団体・教育合宿参加者等を通じて把握し、制度を変更する取り組みに結びつける。教職員への障害者の採用・人事配置については、「障害のある教職員ネットワーク」と引き続き連携をとりながら運動を展開していく。
2016年度から開始した「インクルーシブ推進教育フォーラム」を開催し定着を図る。また今年度も「インクルーシブまるごと実現プロジェクト」の中で、学齢期の教育場面だけでなく放課後・就学前を含めた生活全体の課題について、取りあげていく。
また、若い障害者がインクルーシブ教育への理解を深め、運動の主体となるための取り組みとして教育合宿を行う。これについては参加者が各地における教育課題に継続的な関わりを持ち、深められるようなものにもなるよう、内容を検討する。
6.雇用・労働・所得保障
(1)雇用・労働
DPIは、障害者雇用における権利条約に基づく平等性と労働者性を確保し、障害の有無や種別及び程度等に関わりなく共働できる職場・雇用及び労働環境を実現することを目的とする。
具体的には、募集、採用試験、採用後、退職および退職後等、障害者があらゆる場面において障害のない人と同等の機会、処遇を確保するとともに、障害に基づく差別の禁止と合理的配慮を確保するために取り組む。
一般就労分野では、全中央省庁が雇用率を達成したとされているが、採用された障害者からは、差別的な対応や合理的配慮の不提供等を指摘する声もあることから、障害者雇用の質の確保に併せて、2019年改正された障害者雇用促進法の附帯決議を実現するために取り組む。
福祉的就労分野については、法制度改正及び報酬改定の影響と一般就労への移行に関する検証と運動課題を整理する。
第三の働き方とされる社会的企業および社会的雇用など、障害者の新たな働く場とすることを求める。
以上を基本として、障害者団体及び労働組合(日本労働組合総連合会(連合)、全日本自治団体労働組合(自治労))等との連携を深めるとともに「超党派 障害者安定雇用・安心就労の促進をめざす議員連盟(略称:インクルーシブ雇用議連)」との関係を強化し以下の取り組みを進める。
① 障害者が働く職場及び労働環境の改善を求める。
② あらゆるハラスメントのない職場づくりを求める。
③ 改正障害者雇用促進法の附帯決議の実現を求める。
④ 除外率制度並びに除外職員制度の撤廃を求める。
⑤ 就労移行支援、就労継続支援A型・B型が抱える課題と問題点を整理し、一般就労への移行等を進める。
⑥ 社会的企業及び社会的雇用・就労等、多様な働き方のあり方と制度化に向けた議論を深める。
⑦ 障害者雇用・労働フォーラム等を継続的に開催する。
⑧ 必要に応じて国会議員、中央省庁及び地方自治体等への要請行動を行う。
(2)障害者の所得保障の確立
権利条約第19条の「自立した生活および地域社会への包容」に基づき、障害者の地域生活の保障や施設や病院での長期入所・入院を余儀なくされてきた障害者の地域移行を促進するために、以下の取り組みを関係団体と連携して継続的に進める。
① 「1型糖尿病 障害基礎年金訴訟」への支援行動を進める。併せて、年金制度の見直しを求める。
② 障害基礎年金を障害者の生活維持が可能な水準への引き上げを求める。
③ すべての無年金状態にある障害者の解消を年金制度改正により求める。また、当面は、「特定障害者特別給付金制度」の改善を求める。
④ 特別障害者手当の支給要件等の見直しと「(仮称)地域生活支援手当」の創設を求める。
⑤ 生活保護基準引き下げ訴訟(いのちのとりで裁判)の傍聴行動等を行う。
7.障害女性
障害女性の視点から、男女を始めとするジェンダー間の不平等をなくし、多様性が尊重され、複合差別のない社会を実現する。そのために、今年度もDPI女性ネットとともに、障害女性の複合差別の実態と課題を国内外に政策提言を行いながら啓発に取り組む。特に今後、国連から出される勧告を踏まえて、障害女性に関わる国内施策への反映に繋げるよう取り組む。また旧優生保護法下だけでなく母体保護法下においても行われている手術について「優生手術に対する謝罪を求める会」や「母体保護法下の不妊手術・中絶被害者とともに歩む会」と連携し活動する。引き続き障害女性のエンパワメントの推進と次世代リーダーとの交流を深め、育成に取り組む。
(1)国の施策および地方自治体の条例に障害女性の複合差別が項目として明記されるよう提言し実現するために取り組む。
(2)旧優生保護法および母体保護法における優生手術被害者の救済への働きかけを他団体と連携して謝罪と補償の実現に取り組む。
(3)アジアの障害女性との連帯に向けては韓国DPIと連携し、国際的な障害女性のネットワークを推進し、更に次世代リーダーとの交流を深め、育成に取り組み、運動を強化する。
8.国際協力
ようやく国内でSDGs(持続可能な開発計画)の名前も知られ、そのテーマである「誰一人取り残さない」も認識されるようになってきた。ともすれば取り残されそうになる立場から、権利条約中心で活動してきた障害分野でもSDGsの促進に力を入れていきたい。2030年のSDGs達成期限までにその戦略を権利条約の実施に取り入れ、国際協力活動を強化していく。
(1)国際レベルでのDPI発展による誰一人取り残さない体制の構築
世界レベルでは分かれていたDPIの体制が、再び一つの「われら自身の声」となるよう、DPIユナイテッドとしての体制づくりの推進役となる。運営形態やメンバー構成などの話し合いは時間がかかると思われるが、国連の場で正式なDPIの代表が取り残されている障害者の問題に焦点をあて意見を表明できるよう協力していきたい。
DPIアジア太平洋ブロック評議会は、世界レベルでのめどがつくまでDPI日本会議が業務委託したディーディー・コンサルティング社を通して事務局を代行し、事業を継続していく。そして、アジア太平洋の障害分野のフォーカルポイントであるESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)に協力し、SDGsや権利条約への関心がアジア太平洋障害者の十年(2013-2022)にも向くよう国内の啓発なども行う。
北東アジア小ブロックの枠組みは、韓国、中国、モンゴルとの3国間の枠組みを継続していく。懸案となっている北朝鮮の参加は、韓国の意向に沿ってすすめていきたい。
(2)アフリカ地域の自立生活運推進の強化
南アフリカでのJICA草の根事業「アクセシブルなまちづくりを通した障害者自立生活センターの能力構築」を継承し、第3フェーズとなる「自立生活センターのガバナンス・運営能力強化支援」を2020年4月から2024年3月まで実施予定だったが、新型コロナウィルス禍の状況を踏まえて適切な時期に実施する。今回は担当者が常駐せず、CILを拠点に自立生活センター設置・運営基準の作成、自立生活プログラムマニュアルや移送サービス・住宅改造ノウハウ事例集、介助者・介助コーディネーター育成テキストの作成、研修とマニュアル等の改訂などのいままでの成果をまとめた活動とする。ハウテン州の大臣を初めとする行政官の日本視察も予定されているので、互いの信頼を深めて最終のプロジェクトに臨みたい。
JICA課題別研修のフォローアップをいかに進めるか、JICAを交えて協議を行っていく。研修に参加した一国を選定しての研修の実施などの案がある。将来的にはSAFOD(南部アフリカ障害者連合)やSAFODより対象範囲が広いSADC(南部アフリカ開発共同体)との連携を視野に、自立生活運動を担っていく若手育成にあたりたい。今までの研修参加者も100名を越し要職への就任、結婚、団体設立、死亡などいろいろな情報が入ってくるが、今後はそれらをまとめて参加者リストの更新を行い、元研修生とともに今後の協力体制を考えていきたい。
9.尊厳生
2020年度の活動として、引き続き尊厳死法制化の動きを注視し、反対の意を表明すると共に、終末期医療におけるACP(事前ケア計画)を根拠とした「延命」治療の制限拡大に対して、生きるための患者の権利法の制定を求めていく。
また、世界の動きも注視し、諸外国の状況について学習会を重ねていく。さらに、相模原障害者殺傷事件裁判の判決後も引き続き優生思想反対の世論を喚起していく。
10. 優生保護法と優生思想
2020年は仙台高裁をはじめ、各地の優生保護法裁判が結審し、判決が出される予定である。津久井やまゆり園事件の裁判は、2020年1月に始まり3月に判決が下されたが、裁判では被告が凶行に及ぶまでの背景は明らかにならず、根底にある優生思想は判決文にも言及されなかった。これらの裁判が、優生思想を克服するきっかけを示せるか注目してきたが、そうなっていない。優生手術被害者がバッシングを受け、植松被告が支持される社会風潮が続いている。こうした考えに尊厳をかけて立ち向かっていくことを決意し、DPI女性ネットや他団体とも連携して取り組みを行う。
① 新型コロナ禍でのトリアージについては、障害や高齢等を理由とした命の選別がなされないように強く働きかける。
② 裁判傍聴活動や支援する会、及び各地の集会等に積極的に協力していく。
③ 一時金支給法に記述された国会による調査検証が行われるよう議員への働きかけを行う。
④ 一時金支給法の対象外となる母体保護法下での優生手術被害者に対する謝罪や賠償、調査検証が行われるよう、「母体保護法下の不妊手術・中絶被害者と共に歩む会」の事務局メンバーとして取り組む。
⑤ 出生前診断・着床前診断については、拡大の動きを注視し、必要に応じて対応する。
11.欠格条項をなくす
今後、国連から出される勧告を踏まえて、欠格条項をなくす運動の機運をさらに高めていく。締約国として、法制度の差別撤廃を求めている権利条約第4条にも照らした取り組みを進めるよう、求めていく。欠格条項をめぐる動きにより多くの市民が関心を持ち、また運動に参加できるような場の提供を行う。DPI内の事務局体制については、担当事務局員を増やすなどさらに人的側面も整備し、なくす会の活動と有機的に連携が取れるようにする。また、連携強化の為、なくす会のホームページとのリンク体制を強化できるような取り組みを検討し、DPIホームページで欠格条項に関する情報や取り組みなどの情報提供をする。また、ホームページ、メーリングリストなどの情報共有・交換のプラットフォームとしての役割も継続する。
12.防災
2018年度からはじまった「防災から始めるみんなの地域づくりプロジェクト」を引き続き実施する。2020年度は2019年度に当事者向け、事業形態別に作成をした調査票を活用し、障害者本人や事業者等を対象とした災害に関するアンケート調査を実施する。また、熊本、岡山、東京、東北(南相馬、仙台)など、被災経験のある障害当事者、当事者団体や支援組織、行政機関等へのインタビュー調査を行う(ただし、新型コロナウイルス感染症の収束状況による)。
また、これらのアンケートやインタビュー調査の集計、分析作業を行い、実態として被災した障害者がどういった状況に置かれるのか、様々な障害種別を通して明らかにした上で、当事者団体や関係団体が何をしたのか、今後の対策や被災時における必要な合理的配慮の在り方等についても検討する。
以上の取り組みをもとに2020年度中を目途に防災に関する書籍を出版するための編集会議等も行う。
13.文化芸術
公益財団法人キリン福祉財団より助成をいただいて、3カ年で取り組んできた「インクルーシブ丸ごと実現プロジェクト」も最終年度を迎え、2020年度は当初予定されていたオリパラを契機として振興に取り組んできた障害者文化芸術の分野においても節目の年である。
2020年は日本の美を体現する我が国の文化芸術の振興を図り、多様かつ普遍的な魅力を発信するために日本全国を舞台に「日本博」が行われる。DPIは実行委員のメンバーとして、当日の情報保障や会場内の合理的配慮などについて監修を務め、他の委員や団体と一緒に検討を行っている。
また、これまで同様、「真にインクルーシブな障害者文化芸術とは何か」を主たるテーマとした研究会を継続し、障害者の文化芸術に関する現状や課題、今後の展望などについて検討するイベントを開催する。
DPIでは上記のようなイベントや文化芸術活動そのものを通して、より多くの人にエンパワメントをもたらすことと、障害の有無に関わらず、文化芸術活動を享受することによって社会をインクルーシブな方向へ耕すことを目指している。
14.次世代育成
若手メンバーの実践の場として「差別解消法プロジェクト」を今年度も継続して取り組む。2020年度の差別解消法の見直しを目指し、2019年度に収集した差別事例を基に、各種資料の作成、ロビーイング、院内集会等の企画運営に取り組む。また、全国11ヶ所で実施する「DPIビジョンタウンミーティング」にも積極的に関わり、連携して差別解消法見直しの機運を高めていく。
若手メンバーのフォローアップとして、少人数での勉強会や意見交換なども実施する。
Ⅱ広報・啓発
広報・啓発事業全体として、ウェブ・紙媒体以外にも様々な広報活動を企画・検討・追求し、DPIの活動をより広め、支援者を一人でも多く増やす。
中長期的な取り組み・目標を示し、私たちの活動への共感・理解を促進することを目的に、DPI全体のDPI2030ビジョン(中長期計画)の作成を進める。
ウェブサイトについては、障害者に関する課題の周知、DPIの活動報告などに加え、障害者権利条約や国内の障害者関連法制を分かりやすく解説をしたコンテンツをまとめ、活動報告だけではなく、有益な資料を提供できるようにする。また既にあるコンテンツの定期的な見直しを進め、より分かりやすく見やすいウェブサイトにするよう努める。またバナー広告の新規獲得も引き続き目指す。メールマガジンについては、「ホームページにアクセスせずに情報を得たい」という声もいただいたことからホームページの更新にあわせて積極的に発行していく。
機関紙「われら自身の声」については、紙媒体としての付加価値(インターネットでは入手できない、より密度の高い情報)を得たいというニーズに応えるべく企画を洗練させていく。
書籍発行に関しては、解放出版社・大阪精神医療人権センターの協力のもと、2020年秋に「精神障害者の権利Q&A(仮)」を企画編集・出版する。権利条約時代にふさわしい、精神障害者・精神科ユーザーの他の者との平等に基づく権利にわかりやすく解説する、研修・教育等で活用され得る広範囲に配慮した内容の書籍とするべく準備する。
普及・参画
1. 加盟団体への支援、ネットワーク強化に向けて
2020年度は全国10ヶ所でDPI加盟団体向けにDPIビジョンタウンミーティングを実施する。最新の情勢を報告し、DPIのこれからの10年間のビジョンと取り組みについて討議する。このタウンミーティングを通じて、DPI加盟団体との関係をより一層強化し、一体となった運動展開を目指す。さらに、2020年度も障害者基本法、差別解消法、障害者虐待防止法の改正を目指し、DPI加盟団体と連携した運動を展開する。また、各地で取り組まれている条例づくりへの支援、各種講師の派遣も実施し、ネットワークを強化し、さらなる運動の展開を図る。
2. 講師派遣、点字印刷
引き続き、各地の障害者団体が主催する学習会や集会に対し、権利条約や障害者制度改革および差別解消法・差別禁止条例、総合支援法等をテーマとした講師派遣を積極的に行う。
また、点字印刷物の作成については、依頼に対し柔軟に応じ、視覚障害者への情報保障を担い、関係団体・個人への広報活動も積極的に行う。
3. DPI障害者政策討論集会
第9回政策論は、11月21日(土)、22 日(日)に戸山サンライズで開催する。本集会はDPIとしての政策方針と活動の検証を行う場として、重要な機会となっている。今後予定されている権利条約に基づく建設的対話を見据え、地域での自立生活、インクルーシブ教育、成年後見制度、精神医療のあり方など現状の問題を検証し、今後より一層の取り組みを進めていかなければならない。
権利擁護に関する事業
DPI障害者権利擁護センターは、個人の権利侵害に対応するべく、1995年から活動を続けてきた。障害種別を超えて関係者や制度が複雑に絡み合った相談は年々増え続け、解決方法を模索しながら長時間対応せざる得ないことから、2019年度より新規の相談に制限を設けていた。また、相談から見えてくる問題課題を政策提言に反映できない面もあった。
そこで、これまでの活動を省みると同時に、今後目指すべき「障害者権利条約の完全実施」に向けて、国内法の一つ、差別解消法の見直しに貢献できる体制でありたいと考えた。これらの状況から、2020年度の方針として下記の諸点をあげる。
(1)DPI障害者差別解消ピアサポートの体制強化
名称を「DPI障害者差別解消ピアサポート」と改め、障害者差別および虐待に関すること、及び、合理的配慮に関することに集中して対応する。相談員相互の情報共有を密に図るため、組織内研修を定期的に行う。相談体制の安定化を図るために、総務、労務管理を可視化する。
(2)権利擁護部会との連携の強化
権利擁護部会長の辻事務局次長を所長とし、常任委員への報告等を充実するとともに、全国各地の障害当事者が運営する各種センターや運動団体との連携を深める。
(3)差別や虐待実態の把握と新たな施策の基礎資料づくり
障害者差別や虐待に関わる内容の分析を、差別解消法プロジェクトチームと連携して行う。また、既存の福祉サービスでは対象にならず、社会的に排除されている障害者への相談強化に取り組み、構造的な差別を明らかにし、新たな制度・政策の資料を作成する。
組織体制整備
1.会員および支援者の増大にむけて
寄付や賛助会員会費の支払い方法について、これまでは銀行振込が主であったが、2020年度よりクレジットカード決済を導入する。継続寄付を可能とすることで、安定的な財源の確保に繋げ、各情報発信媒体(Facebook、メールマガジン等)と連携することで、会員および支援者だけでなく、これまでDPIを知らなかった方からの支援を得られるよう努める。
2020年度も引き続き、DPIの活動への理解と周知を得て、加盟団体のない地域における正会員、賛助会員、寄付や支援を獲得できるよう努める。
2.事務局の体制整備について
DPIの役割、ならびに求められる業務内容の複雑・多岐化に対応すべく、事務局内の体制を見直し、翻訳・点訳・事務局運営等におけるボランティアの確保など、引き続き事務局体制および環境整備等を行う。
3.財政および予算執行について
DPI加盟団体や関係団体を中心に財政支援の呼びかけ、会員の確保を積極的に行い、DPIの運動の周知および安定的な財源確保に努める。また、各部会・プロジェクト内での予算執行状況の管理など、担当部会及び担当者と事務局との共有を図ることで、スムーズな運営に繋げていく。
認定NPO法人として、より公正な組織運営をめざすため、法制度の改正や寄付税制拡充のための運動に参加し、認定NPO法人としての社会的信用の獲得をめざす。また、次回の認定NPO法人の更新に向けての準備に着手する。
4. 部会とプロジェクト
(1)部会について
2014年度からテーマ別に8つの部会(地域生活、バリアフリー、権利擁護、教育、雇用労働・所得保障・生活保護、障害女性、国際、尊厳生)を設けて取り組んできた。2019年度は、全国5ヶ所での差別解消法見直しのタウンミーティング、全国一斉行動!UDタクシー乗車運動、TICADのサイドイベント「障害とアフリカ開発:地域社会への包摂に向けて」、ともに生きる社会を考える神奈川集会、1型糖尿病障害年金集会報告集会等を開催するなど、部会の積極的な活動に繋がった。2020年度は部会メンバーを拡充し、部会単位でセミナー等を企画・開催するなど、さらなる活性化をめざす。
(2)プロジェクトについて
重点的な課題についてはプロジェクトを立ち上げて取り組む。
① 障害者差別解消法プロジェクト
2019年度に引き続き、差別解消法見直しに取り組む。事例に基づいた提案書をバージョンアップし、ロビー活動や院内集会等を行う。
② インクルーシブ丸ごと実現プロジェクト(公益財団法人キリン福祉財団助成事業)
2018年度から実施しているこのプロジェクトは、2020年度は研究会、実態調査、シンポジウム等を実施し、権利条約が求める子ども時代から一緒に育ち、学ぶ環境づくりの効果と必要性を訴えていきたい。